6歳。女の子。定期的に診ている。2021年12月のある日の臨床。
いつものように、目視で診察する。子供の場合は望診で行うことが多い。たまに確認のために手で触れて診ることもある。
四診とは…望診・聞診・問診・切診 をご参考に。
上巨虚に邪が出ている。上巨虚は腑気が通じていない時に反応がでる。腑気とは、胃の下降作用、つまり口から肛門へと下る力のことである。便秘かな?
ツボの診察…正しい弁証のために切経を をご参考に。
食べたものが上がってくる
「変わったことないですか? 」
「食べたものが上がってくるみたいで…。」
「え? 食べたものが? 」
「はい、食後、何時間か経ってからでもあって、噛んでまた飲み込んでるみたいなんです。」
軽度の “胃食道逆流症” Gastro Esophageal Reflux Disease である。
「通じは? 」
「あ…どうやろ… そういえば毎日出てないような…」
「関係あるかもね。いつくらいから? 」
「1週間ほど前から…。あ、そういえば食べ物が上がってくるのもそれくらいからです!」
「やっぱり関係あるな。便が出るようになったら おさまると思います。」
おそらく、上巨虚の邪が消えれば治る。
中脘に金製古代鍼。
左少商に銀製古代鍼。
祈り…母親にも効いた小児鍼 をご参考に。
上巨虚の反応が消えるのを確認して治療を終える。
経過
2日後、診察。
まず望診で上巨虚に邪がないことを確認。
「食べ物が上がってくるやつ、どうですか? それから通じは? 」
「こないだ治療してもらって、すぐにウンチが出て、それでスッキリしたみたいで、一回も上がってきてないです。ありがとうございます!」
バケツがあふれる
実は最近、鼻水 (透明で粘る) がある。やけに眠たがるとも聞いている。
「鼻水は?」
「もうほとんど出ないですけど、まだ朝だけ少しあるかなって感じです。」
口から入った食べ物は、お腹の中にあるバケツみたいなものに入る。そのバケツに、八分目ならば “腹八分” で体に良い。しかし、満タンを超えて あふれてしまうことがある。これが食べ物が、口にあふれる症状として出たり、鼻水があふれたりすることとつながる。このあふれたものを、痰湿 (あるいは食積) という。
痰湿とは << 正気と邪気って何だろう をご参考に。
バケツに八分目なら、バケツを「移動」させて栄養の足りないところにジャーっとできる。しかし、満タンでこぼれてしまったものは、移動できないし、拭き取ってゴミ箱にまで「移動」するのに時間がかかるし、労力だけが費やされる。つまり、八分目は流通 (移動) するが、あふれたものは流通 (移動) しにくいのだ。そのうえ生命力も浪費する。
この流通しにくいもの、つまりはこれも痰湿である。痰湿は、夜の寝ている間、特に流通しないので増えてしまう。だから朝に鼻水が出やすいのである。
食べ過ぎはバケツをあふれさせ、間食はバケツを小さくする。バケツが小さいと、食べすぎていなくてもあふれる。
食べ過ぎであふれた?
ただし、この子の場合、食べ過ぎや間食によってバケツがあふれているのではないとみる。足三里などの反応がないからだ。だとすると、なんで あふれたんだろう?
「ん? かゆいの? 」
お腹をかいたり、背中をかいたりしている。
「そうなんです。寒いからか、時々かゆがるんです。」
痒いのは、気温の低い季節なら、まず血の不足による潤い不足を疑わなければならない。
血の不足があるならば、脾 (消化器) の弱り、夜更かし、これをまずは疑う。脾は飲食物から血を作る。夜の睡眠は陰 (血) の補充となる。
脾が弱ると血も弱る。血が弱ると皮膚を潤せない。だから痒くなる。食べたものが上がってくる…胃の下降作用が弱っているということは、それをバックアップする脾も弱っているということである。やはり病因は「食べ過ぎ」しかないのだろうか…。
バケツは血から作られる
「眠たがるのもそうなんですか? 最近、朝が起きれないんです。」
「何時に寝てる? 」
「9時ごろです。」
「朝、眠たいということは、もう少し早く寝ろって体が教えてくれてるんですね。」
冬至も近づき、だんだん日が短くなるにつれて、夜の睡眠による血の確保が、より必要になってきているのかもしれない。バケツを作る材料は血である。血が強くなれば、バケツも大きくなって あふれにくくなる。バケツがあふれた原因は、食べ過ぎではなく睡眠の方だ!
冬至と血熱 をご参考に。
朝の目覚めが大切
「30分でも、20分でもいいから早く寝かせましょうか。毎日のことだから、少しのことが、ほんのちょっとのことが大きいんです。」
「そういえば、眠たがるのも1週間前くらいからです。だから食べ物が上がってきてたのか…。わかりました! そうしてみます!」
会話の中で自然と病因が特定できた。就寝がやや遅かった。考えてみれば、冬至前後の今の時期は、夏場に比べて2時間は暮れるのがはやい。2時間はやく就寝しても不自然ではない。それを体は「食べ物が上に上がる」という症状で、なかなか気付けないでいる僕に、それとなく教えてくれたのである。
食べる・動く・寝るは、生命の基本である。食欲の有無だけでなく、朝の目覚めがスッキリしているかどうか。幼児の場合、それが基本的問診として重要であることを学んだ。この問診をしていれば、今回の症状は出なくて済んでいただろう。