東洋医学の「証」って何だろう

【質問】 質問させてください。 鼻炎と慢性胃腸炎は関係があるのでしょうか。また慢性炎症についての東洋医学の考え方をお尋ねしたいです。 よろしくお願い申し上げます。 

【回答】 「証」という東洋医学の診断方法で見ると、これらには密接な関係があります。

▶弁証とは

そもそも体は一つなので、その体から発せられる病変は、当然つながっています。 慢性炎症が鼻にあろうが胃にあろうが、炎症を抑える働きはもともと体にあって、でも炎症が抑えられないということは、鼻や胃という局所的な問題よりも、全体としての問題が大きいと考えるのが東洋医学です。科が違うかも知れませんが、別の病気だ、とは考えません。 

東洋医学は生命をひとまとまりのものとして捉え、分析します。 人それぞれでウイークポイントが違います。ですから、たとえばご質問の「炎症」であれば、どの部分に炎症が出るかは人によってマチマチなのでそれにはこだわりません。全体として炎症を抑える働きが弱い。「全体」というところにフォーカスします。 

鼻炎・胃炎というのは「病名」です。東洋医学は病名をあまり重視しません。 東洋医学が重視するのは「証」です。 

証とは、病名とは別次元の見方で、さまざまな病気の原因を体全体の体質と捉え、その悪い体質を多くのパターンに分類したものです。証を正しく立てる (診断する) ことを「弁証」といい、それに基づいて正しく治療することを「論治」と言います。 まとめて「弁証論治」と言います。 弁証論治は東洋医学を正しく行うための基本です。病名はあまり参考にしないのです。

▶病名と証はちがう

胃痛 (胃炎) についてまとめたものがあります。

胃痛…東洋医学から見た4つの原因と治療法
胃痛はなぜ起こるのでしょう。痛みの大原則は「不通則痛」です。通じなければ則ち痛む。東洋医学では、この「通じないもの」を気・血と呼びます。寒邪 (冷え) ・湿熱・肝気 (ストレス) ・脾胃の弱り…。これらが原因となって「不通」が起こります。

ここに出てくる、
・寒邪客胃
・脾胃湿熱
・肝気犯胃
・脾胃虚寒
などの「証」は、すべて鼻炎でもよく見られます。 言葉はややこしいかも知れませんが、言いたいことは単純です。

・寒邪は冷たい飲食や寒さ (邪気) によって起こります。
・脾胃湿熱は食べすぎ (邪気) によって起こります。
・肝気犯胃はストレス (邪気) によって起こります。
・脾胃虚寒は慢性化して回復力 (正気) が衰えることによって起こります。

 ( ) 内に邪気・正気という言葉を付け加えました。 

・どのような性質の邪気が、どのような性質と正気 と争うか。…寒熱
邪気…気滞・痰湿・瘀血・邪熱・寒邪・暑邪・湿邪・風邪など
正気…気・血・陰・陽
・邪気が強すぎるのか、正気が弱すぎるのか。…虚実
・邪気と正気は、生命のどの場所 で争うのか。…表裏・臓腑経絡 

これらを組み合わせ、多くのパターンに分類したものが証です。

▶病名が同じでも証はちがう

これらは皆、病気のもとになる原因です。 こういう原因は、胃だけに影響するものではなく、また鼻だけに影響するものでもありませんね。全身に影響するものです。

その全身に影響した姿 (パターン) は、原因によってまちまちです。同じ胃炎であっても、同じ鼻炎であっても、です。

 つまり、AさんとBさんが同じ胃炎と診断されたとしても、東洋医学では、AさんとBさんでは、それぞれ異なる診断を下す。もちろん偶然同じになることもあります。病名を度外視して考えるんですね。 これが「証」による診断です。

▶証が同じでも病名はちがう

では、なぜ胃炎とか鼻炎とか、場所が違ってくるのでしょうか。 

もともと胃に、あるいは鼻にウィークポイントがあるからです。全身の不調があると、そのウィークポイント (部分) につらさが現れます。 

例えばAさんとBさんが、同じ証として診断されたとします。しかし、Aさんは胃炎で苦しんでおり、Bさんは鼻炎で苦しんでいる。Aさんは胃にウィークポイントがあり、Bさんは鼻にウィークポイントがあった、それだけの違いです。 そういうことはいくらでもあります。もちろん、偶然AさんもBさんも同じ胃炎だと言うこともあります。

▶部分から全体を洞察する

胃なり鼻なり、そういう部分に異変を出すことによって、体は「生活の仕方がおかしいよ ! 」と、何が根本的な原因なのかを教えようとしてくれているのです。 

部分的な問題から、全身的な問題を洞察する。東洋医学の特徴です。

 部分は捉えやすい。全体は捉えにくい。 

人それぞれで、根本的な原因は異なりますが、その人の根本的な原因は、胃炎・鼻炎だけでなく、あるゆる症状と強くつながっています。これは東洋医学の基本的な考え方です。

▶臨床例…〇〇を治したら✕✕まで治った

例えば、 足の痛みをとると、ついでにホクロが取れた症例、

かかとの痛み…ホクロまで取れた?
74歳男性。 「半年前から右かかとが痛いんですわ。左かかとも痛いけど、右に比べると半分くらいです。両方痛いから、歩けないんです。ソファーに座っていても、かかとが地面につくので、かかとを浮かさないと痛いんです。」「それは相当、痛いんですね。」...

心筋梗塞の痛みをとると、ついでにパーキンソンの震えが取れた症例、

心筋梗塞 (慢性胸痛) とパーキンソン病
鍼灸治療において、心筋梗塞による慢性胸痛と、パーキンソン病の下肢の振戦を併発した症例に対する、弁証論治による症例の検討を行う。表証に注目した。

ホットフラッシュをとると、ついでに車酔いがなくなった症例、

更年期障害の症例
主訴 48才。女性。 ●3年前からめまい・動悸・ホットフラッシュ (カーッとくるのぼせ・顔のほてり) が続いている。年々強くなってきている。※4日前に強度のめまい。グルングルン回る。初めて経験する激しさ。●前額痛・背部痛 (第11胸骨周辺)...

不登校を治すと、ついでにアトピーが治った例

不登校+アトピー
13歳。女性。 病歴… 小学5年から、歩いたあと体がだるくなる。腹筋すると腰に力が入らなくなる。 小学6年生の春に引っ越し。転校いじめで不登校になる。このころからアトピー性皮膚炎が始まる。肘窩・膝窩・前胸部を特に夜かきむしる。ストレスで悪化...

など、まとめてあるものだけでも、いくつかあります。

▶弁証の目的

治療する側は、症状を取ろうという意識よりも、はるかに強く意識するものがあります。それは正気を増し、邪気を取り去ることです。

東洋医学を勉強しよう
東洋医学では、どのように人の体を、そして心を捉えているのでしょう。とっつきにくいこの学問ですが、それを理解できたならば、今までとはまったく違った病気の成り立ちに気づくことができるかもしれません。ご一緒に勉強しましょう!

正気を増して邪気を取り去る。これが証を立てる目的です。そうすることによって、科を越えて様々な病気が治っていく。それが東洋医学です。目に見えやすい表面的なものよりも、隠れて見えにくい根本的なものを捉えるのです。

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