心筋梗塞 (慢性胸痛) とパーキンソン病

79歳・女性。
1月25日初診。

昨年秋まで観光地で寿司の製造・販売をしていたが、今は何もできない状態なので、休業している。

▶初診

▶現在の症状

  • 胸が痛い・苦しい。寝ていてもハアハアと息遣いが荒い。体を動かすのに相当な時間がかかる。こういう状態が昨年末から続いている。ここ一週間が特にひどい。もともと心筋梗塞で冠動脈にステントを入れている。
  • パーキンソン病。現在、腕・足を震わせ、歯をガタガタいわせている。3種類の錠剤を使用している。
  • 食欲がない。好物の甘いものも食べたくない。
  • 下肢の浮腫 (皮水) 。膝から下は水風船のようにパンパンで硬い。
  • 夜中の小便。PM11:30就寝~AM2時までの間に3回いく。眠れない。明け方にもいく。

▶治療

脈は細・無力。この状態では、ふつう瀉法はできない。

  • 右内関。平補平瀉。5分置鍼。
  • 右脾兪。瀉法。置鍼なし。

抜鍼直後、胸の痛み軽減。息遣いも安定。

それから10分休憩させ、20分ほど養生指導を行う。
その20分の間に2回トイレに行き、大量の尿がでる。 (治療直前に排泄済み)
帰りの受付時には胸痛は消失し、震えは目につかず、動いても息遣いは乱れなかった。

▶2診目

予約は3日後だったが、治療翌日に電話があって「今日も診てもらえませんか」とのことである。ニコニコしながら来院、「昨日はぐっすり寝ました」とのこと。いつもより2時間以上早く就寝した。

  • 夜間尿が減少した。9:00~6:30まで眠ったにもかかわらず、夜間尿は2回のみだった。
  • 息遣いは正常で、胸の痛み・苦しさなし。
  • 膝から下のむくみはフニャフニャになっていた。
  • 腕・足の震えも歯のガタガタも見受けられない。
  • 小便が透明だったのが、色のついた小便が出るようになった。

「先生、また仕事できますやろか。レジもぼーっとしてとしてできません。ぬくくなったらお客さんが来るから、それまでに治りますやろか。」
切実に訴えられる。

「幼稚園の子供がいて、お遊戯の練習を一生懸命やって、明日が運動会だとするでしょ? 前日に熱が出たとする。Aお母さんは、“何が何でも明日までに治そうね!”と言うとしますね。Bお母さんは “お遊戯は十分頑張ったんだから、明日は休むつもりでゆっくりお休み。もし熱が下がったら行けばいいだけのことだから。” と教えるとします。早く治って運動会に出れるのはどっちだと思いますか?」

「Bですね…。」

天地の道 をご参考に。

「人事を尽くして天命を待つ、って言いますね。ぼくは今日できることを精一杯やります。〇〇さんも頑張りましょう。やるだけやって、あとは天の神様にお任せです。ダメ元ですよ。そう考えていたら、ダメでもともとだし、できたらうれしいし、どっちでもつらくない。」

その後、週に5回、ほぼ毎日治療を続ける。

▶その後の経過

3月の連休から、初診時は休業していた仕事を再開する。治療は週に2回で続ける。

この観光地での名物、サバ・サケの押し寿司の製造・販売である。魚を切り身にする作業は当該患者しかできない技術であるため、それをもっぱらにしている。

  • 胸の苦しさ・足の震えは、たまに軽いのがある程度となった。
  • 歯のガタガタ・手の震えは見受けられない。
  • ウォーキングを毎日30分している。
  • 夜中のトイレは1〜2回
  • ぼーっとして話が通じていないこともあったが、今はしっかりしている。
  • 2月2日から、小便に色がつくようになった。もともと透明だった。
  • 2月中旬から、久しぶりに食事に味が戻ってきた。美味しい。

表情が生き生きしている。

この年からは難しいかな、と思われたが。

5月の大型連休は、治療が10日以上あいたが、店の切り盛りを問題なくこなせた。魚を漬けるための大きな漬物石を自分で上げ下ろししたりして、少し疲れは出ている。もう持ったらあかんよ、とは言ったが、元気な証拠だ。うれしい、ありがたい。

▶考察

実は上記の症例には、もうすこし種あかしがある。

実はこの患者さんには、表証 (カゼ) がある。

熱もない、クシャミも咳も出ていない。そんな状態でも、表証という診断をする場合がある。こういう隠れた表証は、何日も、何か月も、場合によっては何年も治らないことがある。

そういう状態のとき、一つ言えることは、散歩したり外出したりしていると改善しないということである。カゼはジッとして温かくしていないと治らない。じつは難病は、そういうものが非常に多い。だから難病なのだ。そこを見破ることができているかできていないかは、治療効果に大きく影響する。

・たとえ40℃の熱があっても治すことのできる学識と技術、
・そしてカゼ症状がなくても表証と診断できる学識と技術、

この2つを持っていることが重要である。こういうものに下手に触ると悪化する可能性が極めて高い。本症例はその典型例だと思う。心臓発作を起こしてもおかしくないのだ。特に内関は効果もリスクも高い。

表証を見破り取り去る。これが大きかったと言える。

鍼だけではない。食養生、早めの就寝。これも用いた。
脈診で本当に必要かどうかを確認しながら。

この患者さんは、ふだんから果物や甘いものが大好きで、のべつ幕無しに摂取していた。
就寝は11時30分ごろだった。今は9時に床に就いておられる。

・腹八分目に医者いらず。
・早寝早起き元気な子。

ぼくは声を大にしてこれを訴える。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました