あわや難病…原因はゲーム?

症状・所見

12歳。男性。2017年1月24日初診。

動悸。6か月前から。1日に15回前後で毎日。動いたとき。午後が多い。布団を敷くとき特にひどい。

足指の痛み。11月に左第4趾痛。年明けから右第1・2趾痛。左第2趾痛。とくに左第2趾は軽く触れるだけで激痛。発熱・発赤・腫脹。しもやけのように腫れている。骨折を疑わせるが、原因として思い当たるようなことがないらしい。歩くのも痛い。走るのはもっと痛い。スポーツは特に何もしていない。
じっとしていると痛まない。

舌の色が強度の白さ。舌の裏も血色がなく、表同様に白い。子供の舌でこんなに血の気の無い舌は見たことがない。

本人のことは1年ほど前から知っている。近所に引っ越してきた子だ。いたって活発な小学6年生であることは誰もが認めるところ。 にもかかわらず、動悸とは…。しかも足の指の痛みの原因は?である。

一つ言えること。動いたときの動悸、動いたときの足指の痛み。動くことを体が拒んでいる。
しかし、本人は良くしゃべり、よく笑う明るい少年。これをどうみるか。
気が勝ちすぎて、体がついてこない。これは中高年によく見られる病態の典型だ。それが少年に現れている。それと重なり合う舌の異常な白さ、これはただ事ではない。放っておくと危険だ。

気が勝って体がついてこない状態については、「脳梗塞…東洋医学から見た原因と予防法」の下段、「真の原因」で詳しくご説明した。

治療

初診 (1/24)

神道に治療。気と体 (血) のバランスを取りながら、気分の気滞と営血分の熱を同時に取る目的。

その後、整形でレントゲンを撮ってもらうよう指導。おそらく骨折ではないが、はっきりさせておきたい。もし、骨折でなければ、かなりややこしい関節炎だ。難病である膠原病が脳裏をかすめる。というのも、関節炎など、もしおこったとしても、体には炎症をしずめる働きがあり、子供ならすぐ治ってしまうものだ。なのに本症例では複数の指が関節炎を起こし、3カ月以上が経過している。

膠原病は、リウマチ・全身性エリテマトーデス・ベーチェット病などが知られるが、病理が恐ろしい。免疫が体を攻撃するのである。ほんらい免疫は体を守る役目。なのに攻撃するのである。狂った免疫…。もしこんな病気になると病院では、免疫を弱める薬やステロイドを出す。命の危険があるからだ。

もし、免疫が足の指や心臓を攻撃しているとすれば…。もし免疫がその他の内臓まで攻撃しようとしているとすれば…。何としてでも回避しなければ! 危険な波打ち際にいることだけは確か!

週に2回の治療を指導する。

2診目 (1/27)

動悸・足指痛とも、症状変わらず。レントゲンはまだ。
左外関に治療。表面の冷え・深部の熱・気滞を同時に取り、かつ血を補う。
体を休め、体力を養う必要があるとみて、脈診を行い、8:30に就寝するよう指導する。

3診目 (1/31)

症状変わらず。レントゲンはまだ。
左神門に治療。心神の治療。誤った意識の行き過ぎを食い止めながら血を補う目的。

4診目 (2/3)

症状変わらず。レントゲンはまだ。
治療は3診目と同じ。

5診目 (2/7)

昨日、歩けないほど足が痛くなり、レントゲンを撮りに整形に行った。骨折ではないとのこと。シップを手渡され、原因は分からないと言われた。

ケガ的原因がない、しかも指の関節、しかも指4本に痛みが常時ある。セオリーとして、関節リウマチや若年性特発性関節炎(JIA:小児リウマチ;指定難病107)を疑わなければならないと思うのだが…。

処方されたシップを今朝から貼った。
すると、今日は登校時や学校での足の指の痛みがほとんどなかった。
しかし、それと入れ替わるように、動悸が頻繁に起こった。
さらに、昼過ぎに突然、心臓が「爆発するみたいな」痛みが出た

「その場しのぎ」が分かれ道?… 〇〇と入れ替わるように✕✕が起こる
中医臨床からの視点。悪化とは何か。改善とは何か。病因を改善することの大切さを考える。

心臓の痛みは、学校の廊下を小走りに走っている時だったという。これはただ事ではない。このままだと、心不全を起こすリスクすらある。

シップをはがす。まもなく、「先生、足が少しズキズキしてきました」。
やはり、この痛み止めシップはかなり効いていたようだ。

もし、この足の痛みが、生命の暴走に歯止めをかけるブレーキとしての役割をしていたならば… ! ?
そのブレーキが機能しなくなったために、より強いブレーキが踏まれたとするならば… ! ?
その “より強いブレーキ” が心臓の爆発するような痛みだったとするならば… ! ?

お母さんを呼び出し、説明を行う。説明の内容はこうだ。

足の痛み・動悸は、ともに「これ以上動かないで!」という体が出している信号。しかし、この信号を人為的に操作して無効化した。これ以上動くな!と訴えていた体は、その口を封じられ、危急に迫ったことを心臓の痛みを出すことで知らせようとした。

常に患者さんに諭すことがある。心身を休めるためなら痛みを消してもいい。しかし心身を酷使するために痛みを消すならば本末転倒ですよ…と。そして、それが間違いなく重要事であることを今回も経験した。

「痛み」は「痛い」から治る?
痛みはなぜ存在するのか。痛みはどのようにすれば治るのか。 これを、模式的に考えてみましょう。 上図のように、手首に「切り傷」を負うとします。 時間がたてば傷口がくっついて、ふさがってきます。この時、手首を動かすと「痛い」と感じる方向 (姿勢...

このままでは、命の危険すらある!

生活を徹底的に見直すことにした。歩けないほど足が痛いなら、歩いてはならない。動いて動悸がするなら、動いてはならない。生命力が回復するまでは。

脈診であらゆる行動を判定する。
まず、登下校。徒歩でいっていい?脈診での判定はNO。
体育の授業は参加していい?脈診での判定はNO。
では、学校そのものは行っていい?脈診での判定はYES。
月に2回の習い事は続けていい?脈診での判定はNO。
宿題・勉強はやっていい?脈診での判定はYES。

ここまでやって、お母さん・本人、そして診者である僕自身も呆然。これでは、普通の生活すらできないレベルだ。

脈診で “体の声” を聞く
藤本蓮風先生の御尊父、藤本和風先生。その患者さんが、かつて近所におられた。その方いわく、「ピーナッツが好きでね、でも和風先生は脈を診て、” ピーナッツは一日〇〇個までやで ”っておっしゃるんです。」僕が鍼灸学校に通っていたころだった。

お母さんが聞いてきた。「ゲームはやっていいんですか?ずっとゲームしてるんですけど…。」
「ゲームは一番生命力 (血) を消耗します。診なくても分かりますが…。」
一応、脈を診る。当然NO。
すると、本人が、
「僕の唯一の楽しみが…。週に1回だったらどうですか?」
と聞いてくる。この期に及んで何を言う、と思った瞬間、ひらめいた。
この執着のきつさ…ゲームが病根だ!

 
血と “目の使いすぎ”
 

再度脈診しなおす。
今度は、「ゲームをしない」という条件を付けて、判定。
すると、登下校の徒歩・体育、習い事まですべて「やっていい」とのYES判定になる。

「ゲーム、お母さんに預けなさい。このまま今の生活を続けると、間違いなく病気になると思う。」
と告げる。

霊台に治療。目的は初診と同じ。

6診目 (2/10)

足の指をみる。腫れが引いている。
舌を診る。赤みが出ている。

この患者さんは1年前からカゼを引いた時のみ診ているが、今まで一度もこんなに赤みのある舌を呈したことがなかったのに!

症状を聞く。

「心臓の痛みは出ていません。」
「動悸は1日15回から、1日5回に減りました。」
「足の痛みはいつもを10とすると3か4になりました。」
ゲームを預けた翌朝から足も動悸も楽になってました。

半年続いた症状が、一夜で…。

その後、10日足らずで、すべての症状が完全に消失。

実は、ゲーム禁止令を出してから数日後に、転倒して手首を骨折し、ほんとうにゲームができなくなったのだ。手が使えなくなって足が使えるようになるとは皮肉な話であるが、この骨折はまさに天佑であった。あきらめるしかないのだから、ストレスもないのである。もし骨折がなければ、ゲームを辛抱できず、よって10日足らずで症状完全消失とは行かなかったかもしれない。

まとめと考察

かつての生活様式とは大きく異なる現代。文明は便利だ。
しかし、便利なものほど大きな闇を持っている。

たとえば自動車は移動にすごく便利だが、人の命を奪う危険を併せ持っている。我々が文明の中で生きるべき運命にあることは前提。それを踏まえた上で大切な事は、文明を操り支配すること。文明に踊らされ支配されてはならない。酒は飲んでも飲まれるな…というではないか。

文明の歴史をたどってみよう。かつて、人類は飢えと寒さ (熱帯では不衛生) に勝てず短命だった。

産業革命以降、生活が豊かとなり寿命が延びた。一方で、ある種の病気が増えた。生活習慣病だ。ガン・脳卒中・心筋梗塞など、みなこの範疇に入ると言われている。

そして、IT革命。この革命以降の歴史は始まったばかり。IT技術が、世界が一つにまとまる (世界が平和になる) ための重要な役割を果たすであろう大きな利便性を持っている。でも一方で…。僕はハッキリ予言する。スマホ・ゲーム・パソコン…これらに振り回されることで、新しい病気が増える。

IT通信技術は、文明が生み出した非常に利便性の高いものである。だからこそ、正しい使い方をしなければならない。
薬もシップも、文明が生み出した非常に利便性の高いものである。だからこそ、正しい使い方をしなければならない。

僕は患者さんによく、こういう話をする。

「あなたと、あなたの体は、ぜんぜん別人格ですよ。体は意志を持っています。しかも、優しく厳しい目であなたを見ているんです。あなたを育てようとしているんです。あなたがやむを得ない理由で体に良くないことをしたとき、体は黙って耐え、それを咎めようとしません。でもあなたが自分勝手な欲 (=疏泄太過;以下に詳説) で体に良くないことをしたとき、体は怒りをあらわにします。そういうものなんです。もし、その人が真理にかなった心境になれば、その場で病気が治ることも珍しくありません。そういうことを、僕は臨床の中で見せられてきました。」

本症例も、一夜で大きく改善した。

東洋医学は人を育てるのだ。人を育てる=病気を治す。この医学の信念である。

本症例の患者さんには、今回の試練を糧に、輝く未来に向けてスクスクと育ってくれることを願ってやまない。

余録《専門的考察》

東洋医学に詳しい方のみご覧ください。

本症例での、強度の淡白舌は血虚によるもので間違いないだろう。もし陽虚のものであるならば、元気のなさが目立つはずだか、それは全く見受けられない。むしろ、はつらつとした少年だ。

ここで疑問になるのは関節炎である。発熱・発赤・腫脹・拒按。実熱である。しかも物理的損傷ではないため、臓腑病が経絡に発現したものといえる。関節炎以外に熱証を示す所見はない。

血虚と実熱がどうリンクするか

そもそも、この血虚と実熱はどのようにして生じたのだろう。ここで重要になるのが下虚上実である。本症例の患者は胎児期にステロイドを大量投与されており、3歳まで体が非常に弱く、頻繁に発熱したらしい。もともと稟賦不足があり、下虚から上実を生じた。そして3歳のある時期を境に急に活発になる。

上実はそのまま気滞として邪気化することもあるが、多くは疏泄太過に変化する。下虚による腎の求心力の弱さによって、上実が滞らずに暴走するのである。3歳までは上実は常に滞って邪気化して発熱として現れた。しかし3歳以降は疏泄太過となって、暴走が中心となっている。

疏泄太過って何だろう
出血のメカニズムを学ぶ中で、引っかかっている部分があります。肝不蔵血証で述べられるところの疏泄太過です。肝不蔵血証とは、出血を主症状とする肝の病態の一つです。この病態の中に疏泄太過があり、これは出血の原因となるとされますが、概念がイメージし...

上実が気滞となる場合、気滞は邪熱 (実熱) になる。
上実が疏泄太過となる場合、疏泄太過はいずれ疏泄不及となり、気滞となって邪熱 (実熱) になる。

血虚に至った病理

まず下虚がある。これが血虚につながる。

上実が上焦の気滞を形成した場合、気滞は血虚を生み出す。気実血虚である。

上実が疏泄太過となった場合、スピードオーバーによって血虚 (ガソリンの不足) を生み出す。

邪熱の生成機序

下虚と上実の落差が大きいと、封蔵できず疏泄太過になりやすい。

疏泄太過の症状として、当該患者は、大きな声で叱ってもらわないと歯止めが効かなくなることが頻繁にあるようで、それが挙げられる。疏泄太過と疏泄不及 (気滞) が同時に存在し、気滞化火だけでなく、太過と不及が摩擦を生んで強い邪熱を生じる。この邪熱が興奮による暴走 (体を壊すところまでゲームをやる) の正体である。

上実下虚では、正気が上焦 (気分) に遍在し、下焦 (営血分) の正気は虚ろになっている。なので、邪熱は気分にとどまらず、営血分に入りやすい。営血分に熱があると、舌診上には表れにくいし、熱証を示す所見も出にくい。

気分で生まれた気滞と疏泄太過は、邪熱を生みながらも営血分に入る。営血分に疏泄するのである。なので気滞特有の特徴がなく、一見ハツラツとしている。またこの営血分の熱は血をドンドンと消耗させていく。

この血虚をゲームでさらにひどくした。

まとめ

このような状態で、半年前に動悸が出るまでの間、本人は症状や病的なストレスを感じずして、営血分に熱をひそませ、強度の血虚となった。

その営血分の熱が、気分に出て関節炎を起こす。
その血虚が、心神を養えず心血虚となり、心気・心陽のレベルが下がり、動悸を起こす。

治療経過中に出た胸痛は、心気・心陽のレベルが下がって推動作用のレベルが下がり、心気滞を生じて痛みを発するに至った。気虚気滞である。因虚致実なので、かなり危険だ。

以上のように考察した。このような考察はもちろん仮説ではあるが、今後の治療で臨機応変の処置を取るうえでの座標軸として必要となる。また疑問や批判をはさむためのたたき台として、すなわち、より正しい座標軸を引くための目印としても必要である。

ばくぜんと治療してはならない。

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