月曜日 (2013.11.13) くらいから、患者さんに異変が見られ始めた。
右足三里に虚の反応が出ているのである。
月・火はちらほら程度だったが、水の休診日をはさみ、木・金は90%以上の患者さんで右足三里の虚が確認された。しかもこの両日で、週ごとに来院されている神奈川県・石川県の患者さんもお越しになり、やはり類にもれず反応があった。
近畿圏だけでなく、全国的な異変であると推定できる。
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みんなに一斉に変化が起こる。その原因は気候であろう。本来、人間は一人ひとりが好みや行動が異なるため、人によって反応がまちまちである。いっせいに降りかかる影響力、すなわちここ最近の気温の寒暖差が、みんなの生命力を弱らせているのだ。
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弱らされた生命力の内訳は?
消化器 (脾) の弱りである。足三里は陽明胃経の要穴であり、ここに虚の反応が出るということは、そういうことである。寒暖差があれば冷えで出るのが通常だが、今年に関しては消化器の弱りで出ているのである。
西洋医学的に言えば、消化器 (栄養を吸収して生命に変える働き) の元締めは肝臓である。肝臓は沈黙の臓器であり、これが弱ってきているとは自覚できない。「食欲あるし消化器なんて大丈夫だよ」と思っている方も要注意である。異常気象となる前は、養生はその注意の仕方で良かったが、この異常気象でもうひと頑張りが必要となったのである。
西洋医学的に言えば、人体の体温は60%が筋肉で、20%が肝臓で作られる。だが、そもそも筋肉とは他生物のタンパク質を、肝臓が人体のタンパク質に作り替えたものである。筋肉だけでなく、体はすべてタンパク質でできている。そのように考えると、体温を生み出す元締は、体を生み出す元締である肝臓であると言える。
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気候が悪いからといって、気候を原因にしても始まらない。気候はコントロールする訳にはいかないからである。だからこの体をコントロールする。どうコントロールすればいいのか。
それにはまず、なぜ消化器が弱るに至ったかを考える必要がある。
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まず、間食はないか。間食は肝臓にとってみれば「たった5分の夜間呼び出し出勤」と同じである。たった5分でいいから、会社に出てきてくれよ。そんなふうに上司から真夜中に起こされて呼び出されるのである。たった5分? なんで今? 明日にまとめてくれればいいのに。ああ、やる気なくしちゃう。ああ、しんど。
これが、肝臓の仕事量 (うつわ) を小さくする。器が小さくなると、食べすぎてもいないのに、器から中身があふれる。この溢れたものが痰湿である。
痰湿とはドロドロ・ネバネバしたものである。それが体の各所にこぼれる。腰が痛だるい。肩が凝る。体が重い。起床時に体が思うように動かせない。痰湿は餅のようなもので、明け方に冷えてくるとコテコテに固まる。起床して動き始めると、温まって柔らかくなる。こんなことを繰り返す原因は、痰湿を持っているからだ。
肩や腰くらいならまだいい。痰湿はガンを作り大きくする。動脈硬化を進行させ脳梗塞を引き起こす要素でもあることを忘れてはならない。
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身勝手な社長さんのように、自分の好きな時間に従業員を働かせるのはよくない。仕事時間とは、月曜日から金曜日の8:30〜17:30と規則正しく決めるものである。それを社長さんの気分次第で、今日は夜も働けとか、日曜に出てこいとか、いきなりそんな事されてはたまったものではない。
肝臓が決めてほしいのは、規則正しい食事時間である。
肝臓がやめてほしいのは、時間を無視した間食である。
肝臓は、僕たちの体になくてはならない大切な従業員なのである。
いや大切どころか、社長さんでもこの従業員の代わりは逆立ちしてもできない。
この従業員 (肝臓) は、この体とこの命を作ってくれている。たとえばこの体には血管が詰まっているが、この血管をすべてつなぎ合わせると、地球を2周半する長さがある。人体の軟部組織は約3ヶ月で入れ替わるが、だとするとわずか3ヶ月で地球を2周半する長さの管をつくっていることになる。そんなことが社長さん (あなた) に出来るだろうか。ティシュを裂いてコヨリを作りつなぎ合わせるだけでも、一生かかって町内一周が関の山ではないだろうか。
間食はまったく摂っていないという方へ。
コーヒー ・紅茶も間食になるので食事時に摂るのが望ましい。ガム・飴・果物・ジュースもである。どうだろうか。ちなみに日本のお茶は間食にならない。
それもないという方は、それでも気候の影響は受けていると思っていただき、その場合は、他の消化器 (脾) を弱らせる要素…すなわち以下を考えてみる。
①食べ過ぎ、食べなさ過ぎ はないか。
②動き過ぎ、動かなさ過ぎ はないか。
③考え過ぎ、考えなさ過ぎ はないか。
①について。
食べ過ぎはそのまま器がいっぱいになって溢れる。
また、食べすぎていなくとも、おかず (デザート含む) の量がご飯の量を超えると消化器 (脾) を弱らせ、器が小さくなって痰湿が溢れる原因になる。おかずは栄養が多い分、負担も多い。ご飯は脾を元気づける「穀気」を持っている。
食べなさ過ぎは、たとえば朝食を抜くなどが該当することがある。
②について。
動き過ぎると脾の器が小さくなり、食べすぎていなくとも溢れて痰湿を生じる。
動かなさ過ぎ (運動不足) も同様である。
③について。
考え過ぎは脾を損なう。だが、考えることは、生きていく上で不可欠である。何も考えないととんでもない方向に進んでしまう。ここでいうのは、もう十分に考えた、これ以上考えても解決しない、にも関わらずまだ考えてしまうこと。これが考え過ぎである。取越苦労ともいわれる。考え過ぎは悪いことだ。どの程度悪いかというと、人を殴るくらい悪い。いずれも体を傷つけるからである。これを知識 (理性) としてハッキリと持つ (=信) 。すると、考えすぎてしまうクセ (感情) をほんの少し抑止する。この「ほんの少し」が大きい。知識 (智) とは、太陽である。植物も、この太陽に向かって「ほんの少し」ずつ成長しようとするではないか。だから植物はイキイキしているのである。
ご自分で、これかな?っと思うものがビンゴである可能性がある。そして、正しく自分に向き合い、完璧でなくとも、出来るだけでいいから実践しよう…という気持ちになれば、その場で足三里の虚が消える (脾がイキイキと成長する) ことを、僕の臨床で経験している。臨床では、どれが該当するか一つ一つを足三里の反応を見つつ、三里の反応が消えたもので確定とする。
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これだけほとんどの患者さんに同様の異変が見られるのは、2022.11.25以来である。このときは、くだんの感染症が大流行した。今は下火なのかもしれないが、かわりにインフルが子どもたちを中心にあちこちで流行しており、学級閉鎖の話をよく聞く。学級閉鎖は成人の日あたりがピークになる印象だが、今季はあまりにも早い。
クリスマス・お正月。のんきな社長さんが、ギリギリの忠誠心で仕事をしてくれている従業員を酷使する機会は多い。
これから1月初旬に向けての体調不良のプロローグとして、この右足三里の虚が出ているとするならば、それは今から気をつけるべきことがあることを意味する。
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これを書いている今 (18日午前6時) も、夕立のような横殴りの雨が降っている。昨日の昼過ぎから降り出した雨だ。冷たい風は、気温をさらに低くした。暖かく湿った空気に、強い寒気が流れ込む。流れ込んでくる不穏な空気を感じるのである。
脾は土であり中央である。土はあらゆる生命をその上に乗せて養う。
土が分厚い (強い) と寒暖差や多少の無理し過ぎがあっても吸収してくれる。
土が薄っぺらい (弱い) と、薄っぺらいアルミホイルにライターを近づけたときのようにすぐに熱くなり、ライターを離したときのようにすぐに冷たくなる。
分厚い鉄板ならば、ライターを近づけてもすぐに熱くならずにじんわり温かくなり、離しても冷たくならず温かさが持続する。
脾土の分厚さとは、陰陽 (寒熱) の幅のことである。
脾 (西洋医学て言えば肝臓) が弱いと、寒さに耐えられないのである。