脳梗塞…東洋医学から見た原因と予防法・治療法

原因と予防法

脳梗塞。

脳の血管が詰まったり (脳血栓) 、破れたりして (脳出血) 、脳細胞が死ぬ。その結果、もし脳細胞のダメージが大きいと死に至る場合もある。ダメージが軽くても半身不随などの後遺症が残りやすい。この説明は非常に分かりやすいです。

脳梗塞を東洋医学的に見たとき、そういう分かりやすい説明とは大きく異なることに驚かされます。あくまでも陰陽論によって生命に切り込もうとする東洋医学。脳梗塞をどう説明するのでしょうか。実は、その先に、本当に気を付けなければならない予防法、そして治療法も見えてくるのです。

陰陽論で生命を解剖

東洋医学では生命をどう捉えるか。いきなり大きいですね。しかし死と隣り合わせの脳梗塞を論じるのだから、これは当然です。陰陽論によって紐解いてゆきましょう。

生命という家があるとします。この家の柱は「陰」で、壁や屋根は「陽」です。それほどまでに、陰・陽は生命そのものです。

陰…「血」にクールダウンする機能が加わったもの。
血…体力をストックする場所。
陽…「気」にヒートアップする機能が加わったもの。
気…発動中の体力。

つまり、陰という場所に、陽という力が宿っている。これが生命です。生命は、夜はクールダウンして静かに安眠し、昼はヒートアップして活動します。陰と陽は、月 (太陰) と太陽みたいにグルグル循環し、柱と屋根みたいにお互いがお互いを助け合う関係です。

陰虚陽亢

生命の陰と陽は、このように助け合っているので、陽が病めば陰がそれをカバーし、陰が病めば陽がカバーしようとします。軽い病気であるならば、こうして、陰・陽のどちらかがシッカリと生命を支えています。

さて、この陰と陽、その両方が病むとどうなるか。生命が危うい状態になります。家でも、屋根も柱も痛むとなると、危うくなりますね。これが脳梗塞を考える上で、もっとも基本になることです。

陰・陽が同時に病む。この土台の上に、陰虚陽亢と呼ばれる病態がプラスすると脳梗塞となります。陰虚陽亢は
「頭痛…東洋医学から見4つの原因と治療法」
「めまい…東洋医学から見たつの原因と治療法」で詳しく説明しましたが、簡単におさらいしておきましょう。陰虚とは陰の弱り。陰が病んでいます。陽亢とは陽の亢進。陽が病んでいます。陰は陽をストックしておく場所でしたね。ストック機能が弱ると、陽は休む場所を失い、ヒートアップする激しい性質をむき出しにして、上に舞い昇ります。

軽い病気なら、「陰虚>陽亢」や「陽亢>陰虚」の形をとり、どちらかが主になります。しかし、脳梗塞の場合は「陰虚=陽亢」となります。陰・陽ともに病むという形です。

気と陰の弱り

ここでいう陰虚は、ただの陰虚ではありません。陰虚は生命の柱の弱り。そこに、屋根である気の弱りが加わります。
陰の内訳は「血+クールダウン」、
陽の内訳は「気+ヒートアップ」でした。
このうち、「ヒートアップ」をのぞいた陰陽の弱りのことを、気陰両虚 (気と陰の弱り) といいます。弱りがないのはヒートアップのみ。これが激しい陽亢…つまり陽の突き上げを生みます。陰陽ともに病むと、危険なのです。

脳梗塞と台風

この激しい陽亢は、まるで台風のようなものです。台風では、高温の海水が水蒸気を持ち上げ、強風となります。台風が風 (上昇気流) と一緒に水蒸気を持ち上げるように、激しい陽亢は痰湿 (水) ・瘀血 (血) を一緒に持ち上げます。こういう状態を「陽亢に痰湿を挟む」「陽亢に瘀血を挟む」と言います。
そして、それらが「清空」を侵す。清空とは、簡単に言うと、頭が冴えてスッキリした状態、つまり正常な脳の働きです。これを侵すわけです。

臓腑に命中

陰・陽がともに病むと、陰陽の「境界」がぼやけてしまいます。陰は陰らしく、陽は陽らしくなれないからです。左と右…という概念にも、左右の基準となる点が必要ですね。これが境界です。左・右という概念を支えるキモです。この大切な境界がぼやけるということは、生命のコアが無力になるということです。このコアのことを東洋医学では「臓腑」と呼びます。

臓腑・経絡・孫絡・境界については
経絡って何だろう で解説しています。

閉証 (気閉) とは

陽亢による強風 (風邪) によって、巻き上げられた痰湿・瘀血は、このコアを容易に侵します。清空を犯すといっても、頭痛やめまいとは侵す深さが違います。清空のもっとも精微な部分に、風邪・痰湿・瘀血という不純物が命中し、曇らせます。これを閉証といいます。

昏倒し意識を失いつつも、後述する「脱証」に至らぬよう、最後の歯止めを効かせ、手を固く握り、歯を食いしばって耐えている状態です。

脱証 (気脱) とは

陽亢とは、陰の求心力、すなわち陽をストックしておく力が弱ったための陽の暴発です。暴発した陽は生命にとって敵ですが、陰さえしっかりしていれば生命の柱である陽でいられたはずでした。

激しい陽亢は陽そのものを上に巻き上げ、清空を犯しながら体を見捨てて脱出しようとします。

この脱出を無理矢理にでも防ごうと、上から蓋をして抑え込む姿が閉証です。この歯止めがかからない場合、一気に陽は体外に放出されます。これが脱証です。

意識を失ったまま、陽は、大便・小便・汗とともに体外に放出されます。口を開け、失禁し、淋漓として汗をかき、体が冷たくなってゆく。この脱証を食い止められなければ、やがて死に至ります。

閉証から後遺症に

脱証に至らず、蓋による歯止めがかかり閉証のままで何とか耐えられれば、台風のような陽亢は、やがて終息しますので、意識が戻ります。

ただし、清空には様々な不純物が残ります。つまり後遺症です。

経絡に命中

上に説明したのは、昏倒し意識を失うほどの重症です。昏倒・失神なしで麻痺を起こすものは、経絡に不純物が命中したものです。経絡は、臓腑の延長・末端です。城の本丸が臓腑なら、経絡は本丸の外にある堀 (内堀) のようなものです。ここに命中しても、死に至ることはありません。

意識障害を起こさず、軽い後遺症が残ります。

孫絡に命中

脳梗塞は起こしません。

孫絡とは、経絡の末端部分のこと。城でいえば外堀のようなものです。ここに命中すると、顔面神経麻痺・舌下神経麻痺になります。コアのより中心に命中するか、より末端に命中するかは、陰陽の境界のぼやけ具合によって異なります。上肢・下肢の神経麻痺で、物理的要因が明白でないものもこれを応用します。

真の原因

いくつかの条件がそろわなければ台風は発生しません。

これは脳梗塞も同じです。

その条件とは…。
年をとると、誰でも体が弱ります。でも、元気いっぱいの方も多いですね。元気な人には二通りあります。一つは、本当に健康な人。もう一つは、気だけで持っている人。気だけで持ってる人は、体がついてきていません。常に火事場の馬鹿力を出し続けている。こういう人は、はた目には「無理のし過ぎ」に写る。でも本人は「無理なんかしてない!」。

生命の柱は、陰 (クールダウン+血) と陽 (ヒートアップ+気) だと言いました。このうち、気陰 (クールダウン・血・気) を、過労はむしばんでいきます。しかし「火事場の馬鹿力」を出し続けている本人は、それに気づくことができません。

ヒートアップだけはしっかりしているので、本人は常に興奮状態です。他人の意見も聞かないし、無理しても疲れを感じません。食欲も衰えない。ストレスがあっても、それを柔和に解決するのではなく、興奮状態の勢いで押し切る。ストレスで萎えるのではなく、ストレスをますますの興奮に変えていきます。高い海水温をエネルギーに変えて大きくなっていく台風と重なりませんか?

・無理のし過ぎは、気陰の弱りを生みます。
・興奮による機能過亢進は、生命が必要とする以上の食べ過ぎを生み、痰湿を生みます。
・ストレスは緊張を生み、緊張は熱を生み、熱は興奮を生み、興奮は風邪 (突き上げる暴風) を生みます。
・また、ストレスによる気滞 (緊張) は、瘀血 (血の滞り) を生みます。
これで、脳梗塞を起こす条件が整いました。

このうち、特に重要なのは、熱から生まれた風邪。激しく突き上げる熱風です。これがきついと、体液や血液を乾かしながら、それらを巻き込んで上昇しますので、痰湿や瘀血が急激に生まれることになります。

痰湿・瘀血が風邪によって上に昇る。気陰の弱りがあるので、容易に生命のコアを侵し、命中する。「中風」の名の由来です。

予防と治療法

脳梗塞の原因をまとめます。

●気陰両虚=気虚&陰虚… 生命の弱り。
●風・熱・痰・瘀… 生命を犯す不純物。
このうち、陰虚・風・熱が陰虚陽亢の内訳となります。
陰虚陽亢を早目に治療して、気虚を生じないようにすることが大切です。気虚をおこすと陰陽ともに病むことになるので危険だからです。

①陰虚陽亢
②痰湿
③瘀血
この三つの病態に対する治療が、予防にも直結します。

①から③の治療方法は
「頭痛…東洋医学から見た4つの原因と治療法」をご参考に。

興奮状態をクールダウンし、本当の活動力を養う。
嚙み砕いて言うとそうなります。そして、そういう治療こそ予防の主眼になります。また、年をとると誰でも気が勝って体がついてこない状態になることを理解し、「和敬清寂」の高尚な気持ちを持つ努力をすることも大切です。

そうすることで血圧は下がり、食事量も落ち着きます。そういう心と体調が続かなければ、「古くひび割れたゴム」のように硬化した血管に、弾力が戻ることはあり得ません。

無理のある食事制限はさらなるストレスを、過度の運動療法はさらなる気陰の弱りを生む可能性がゼロではありません。重々考慮し診断したうえで、適切に行うべきです。

脳梗塞の後遺症…4つの原因と治療法

脳梗塞の後遺症として見られる半身不随・言語障害の治療は、散歩など体を動かすことが最重要です。しかし継続が難しい現状もあり、さらに患者本人の気力・体力が保てないという側面もあります。

原因と予防法で述べたように、そもそも「気陰の弱り」という生命力の重度の消耗が、脳梗塞を起こす土台となっています。意識不明の重い病状をくぐった後に訪れる後遺症期に至り、体力が大きく回復する人もあれば、ほとんど回復しない人もいます。気力・体力がどの程度なのか、体を動かすことを無理なくこなすレベルにあるのか、ここの判断を画一的に行うことは慎重であるべきです。

脳梗塞の発症原因となる気陰の弱りは、後遺症期も存続します。この弱りをどのようにして回復させるか。体を動かすこととともに、そこをまず考慮すべきです。

この弱りの回復を妨げるものは何か。その理解と解決法こそが、後遺症期における最重要事項です。半身不随と言語障害の2項目について考えます。

半身不随

半身不随では「気虚・瘀血」と「陰虚・陽亢」の2つがポイントになります。両者は多くの場合同時に存在し、どちらか一方が中心となります。

気虚・瘀血

梗塞を起こした際に、風邪によって巻き上げられた瘀血は、後遺症期も存続します。瘀血は痰湿に比べて強固で、経絡の流れをほぼ完全にふさいでしまいます。瘀血は、川に蓄積した汚泥のようなものです。しかし、川の流れが「弱い」ため、それを押し流すことができません。

この弱りが気虚です。気とは、栄養機能・推動機能・温煦機能・固摂機能のことであり、血の流通・生命保持の原動力となります。血はそれらの機能をストックしておく場所です。気虚とは気の弱りという意味です。

経絡は気血 (生命力) の通り道なので、気虚や瘀血があると、生命力そのものである気血が機能しない状態であり、麻痺側の手足はそういう状態に陥っています。ゆえに力が入らず、血色が悪くなります。

気の製造元は脾です。脾が弱ると浮腫を起こす場合があることは「浮腫…東洋医学から見た5つの原因と治療法」で説明しました。そのため、麻痺側は浮腫が起こりやすくなります。

気の固摂作用は、生命力が外に漏れないように保持する働きです。これが弱ると筋肉は緩み、口角からはヨダレが流れ、小便が近くなり、時には失禁します。

脾を強め、川の水かさを増しながら、タイミングをみて瘀血を除去する治療を行います。
脾を強めて気を増すことを益気と言います。瘀血を除去することを活血と言います。

▶益気
脾を強め、気を生産し血を強くする。
・鍼灸治療…脾兪・胃兪・公孫・太白など。
・運動療法…適度な運動がどのくらいか脈診で診断し指導する。体が発する声を聞くためには高い技術が必要。適度な運動は益気につながる。過度の運動は気虚をひどくし逆効果となる。
・食事療法…糖分・油脂分の過度の摂取を控えるよう指導。食べ過ぎは気虚をひどくしたり、さらなる副産物を生んだりして悪化の元となる。多くはストレスから過食となりやすいので、ストレスを緩める治療を同時に行い、自然と健康食にしてゆくことが重要。無理な食事制限を強いるとストレスを生み、さらなる陽亢を生む。

▶活血
脾がある程度のレベルまでくれば、瘀血を取る。
・鍼灸治療…臨泣・三陰交・血海など。

益気と活血を根気よく繰り返すことで、麻痺側に気血を充実させていきます。

陰虚・陽亢

前章で述べたように、陰虚陽亢は頭部に風を巻き上げます。このとき、上昇する熱風が激しすぎると、血を巻き上げながら頭部に吹き付けます。その際、血を熱風で乾かし、血を瘀血に変化させながら上昇します。上部の経絡が瘀血でふさがってしまうと、麻痺が起こり、半身不随となります。

陽亢で熱が上に昇るので、顔や唇が赤くなります。長嶋茂雄名誉監督の近況は、脳梗塞前に比べて明らかに顔が赤いですね。陽亢がある証拠です。その他、陰虚陽亢に好発する症状として、めまい・耳鳴り・不眠を伴うことがあります。

一方、陰虚がひどいと腎精不足という状態になります。これは「めまい…東洋医学から見た6つの原因と治療法」で学びました。陰は血+クールダウン機能なので、腎精不足+血の弱り (血虚) という状態が起こります。骨は腎精によって補充されており、筋肉は血によって補充されています。腎精と血が弱ると、骨がもろくなり、筋肉が萎えてしまいます。これは半身不随が治らないベースになります。この場合は、リハビリに耐えうる陰、まずはそれを養うことが必要となります。

治療は、陰虚陽亢の治療を行います。
百会・合谷・後渓・行間・照海・大巨・関元・陰谷・腎兪など。

言語障害

言語障害では風痰と陰虚の2つがポイントになります。両者は多くの場合同時に存在し、どちらか一方が中心となります。呼び名は変わりますが、陰虚陽亢がベースになっていることが、以下からお分かりいただけると思います。

風痰

陰虚陽亢による上昇気流の風とともに、痰湿が頭部の滑舌に関わる処を侵すと、言語障害が起こります。

滑舌は、読んで字のごとく、舌がよく滑る。これを粘着性 (ネバネバ) が特徴である痰湿が侵す。ろれつの回らないしゃべり方は、痰湿が原因です。この痰湿は、もともと飲食不養生で、体内にためていたものと、上に立ち昇る熱風で体液が蒸し乾かされてできるものとがあります。どちらにしても、痰湿が激しく熱化すると上に上昇します。これを風痰と言います。

百会・合谷・豊隆・公孫など。

陰虚

陰には筋肉を潤わせる作用があります。この作用が弱り、舌の筋肉が養えないと、滑舌が悪くなります。

腎兪・照海・大巨・関元・陰谷など。


まとめ

冒頭に述べたように、生命は陰陽論をもって切り込むのが東洋医学のやり方です。陰と陽は相反するところにありながら、お互いがお互いを助け合う。夫婦のようなものです。一方が弱くなれば、もう一方が助ける。一方が道を踏み外せば、もう一方が諫める。

まるでシーソーのようですね。両端に向かい合って座った2人が、互いにバランスを取り合うのです。

この陰陽関係が狂うと、シーソーの両端に、シーソーが耐え切れないほどの重みが、均等にかかってしまうのです。シーソーの境界部分 (チョウツガイ) のあたりには、シーソーが壊れかねないほどの重みがかかります。

この状態が、陰・陽ともに病む状態…気陰両虚・陰虚陽亢…です。

しかしシーソーは、こんな重みがかかっていても、一見何ともないように見えますね。しかし、耐え切れなくなった瞬間、真ん中から折れてしまうのです。症状がないからと言って、健康とは限らないのです。後遺症期といえども、再発の可能性はゼロではありません。治療と予防が大切です。

脚下照顧という言葉があります。自分の足元というのは、得てして目につきにくく、汚れていても気づけないものです。かえって家族の方のほうが、よく見えているかもしれません。他人の意見に耳を貸し、自らを省みる心… そんな “柔軟さ” は、硬くひび割れた古いゴムのような血管を、伸縮自在の新しいゴムのような血管に変えてくれるに違いありません。

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