弁証論治とは

中医学は、「証」と呼ばれる「体質の分類」を行い治療します。どういう体質なのかをはっきりさせることが中医学の診断です。

診察してから診断に至る過程を「弁証」と言います。弁証を行ってから治療方法を決定します。このように、「証」を弁 (わきま) えて治療を行うことを、「弁証論治」あるいは「弁証施治」といいます。

まず、「四診」と呼ばれる診察を行い、弁証のための「多くの材料」を収集します。

その材料が用意できたら、「八綱」という8つの棚に整理します。8つの棚のうち、最もたくさんの材料が入ったところはどこか、それによって、まずは大まかな証が決定します。

患者さんから得た多くの情報を集約し、一つにまとめるのです。
一つの情報によって確定とはしません。

たとえば夜中の咳に苦しむ患者さんがおられて、「喘息だと言われました」という問診が得られたとしても、その情報一つで診断とはならないのです。その患者さんの過去の「生きてきた歴史」と現在の「できるだけ詳しい診察事項」から「一つの証」を確定します。

《難経本義》

《難経》は現存する最も古い東洋医学の経典 (およそ紀元前1世紀〜紀元1世紀の前後) の一つですが、ここにすでに「証 (證) 」の文字が見られます。それ以前の経典は戦火などで失われています。

▶八綱とは

弁証論治を行う際に、最も基本になるのが「八綱」です。体質をもっとも大ざっぱに分類するのです。どのように分類するのか、説明します。

八綱とは、陰陽に基づいた体質分類で、

・陰陽
・表裏
・寒熱
・虚実

のことです。合わせて8項目の大綱なので、八綱といいます。

それぞれ、陽証・陰証・表証・裏証・寒証・熱証・虚証・実証と呼ばれます。

▶陰陽

▶陰証とは

陰証とは、「陰的」な属性をもつ証候です。

以下に挙げる裏証・寒証・虚証は、みな陰証に分類されます。

▶陽証とは

陽証とは、「陽的」な属性をもつ証候です。

以下に挙げる表証・熱証・実証は、みな陽証に分類されます。

陰陽って何だろう をご参考に。

▶表裏

▶表証とは

寒さ・暑さ・湿気・乾燥・強風など、外邪 (気候変動など) が体に影響したもののうち、初期段階のものを言います。もっと正確な言い方をすれば、邪気の侵入が「浅い」段階の病態です。

表証と裏証 をご参考に。

代表的なのは「風邪ひき」です。

表証のままで治癒する場合もありますが、外邪が深く侵入すると、裏証に進展する場合があります。

▶裏証とは

ストレス・飲食の不摂生・無理のしすぎなどの要素が病因となった病態を言います。

例えば、飲み過ぎや濃厚なものの食べ過ぎは、脂肪肝など、肝臓を悪くしますね。これは痰湿を生じて深い部分を犯したからです。

邪気の侵入が「深い」段階の病態です。

▶寒熱

▶寒証とは

「冷え」を自覚しやすい病態です。

強い寒邪に犯される、あるいは陽気 (心身を温める力) の弱りが起こることによって生じます。

気の6つの作用 をご参考に。

陽気の弱り (陽虚) は、生命力 (正気) の衰退が原因となって起こります。また、陽虚が原因となって、寒邪を体内で生成します。

▶熱証とは

「熱さ」を自覚しやすい証です。炎症やノドの乾きが起こりやすくなります。

熱邪 (暑邪・火邪・内熱) 、あるいは陰液 (心身をクールダウンする力) の弱りによって生じます。

邪熱の原因は、
ストレス
肥甘厚味辛辣燥熱の飲食過多
急激な暑さ
です。

これらが正気 (生命力) を弱らせると、陰液の弱りとなります。

寒証は、温める治療をすると改善し、冷やす治療をすると悪化します。
熱証は、冷やす治療をすると改善し、温める治療をすると悪化します。
このように、弁証は正しく行う必要があります。乾姜 (かんきょう) とは をご参考に。

▶虚実

▶虚証とは

正気 (生命力)の弱りが中心で、邪気は大したことがない病態です。

弱々しい病態は、一般的に虚証が多いとされます。

▶実証とは

邪気が旺盛で、正気の弱りは大したことがない病態です。

症状はあるが弱々しさの見受けられない病態が、一般的に実証が多いとされます。

虚か実かの判定は、中医学における基本であり、究極でもあります。よって、弱々しいかそうでないかによって判断できるものではなく、膨大な学識と高度な臨床技術を積み上げたものにしか見えないものです。当たり前のことですが、診断とは簡単なものではなく、虚証がどんなものか、実証がどんなものかは、捉えているものにしか理解できないと言ってもいいでしょう。
・虚実とは
・脈診の κ coefficient 高値化は可能か

▶「証」の基本

陰陽表裏寒熱虚実を組み合わせ、分類します。
・陽虚
・陰虚
・虚寒
・虚熱
・実熱
・寒実
・表寒
・表寒虚
・表寒実
・表熱
・裏熱
一般的に、以上のような用語が用いられます。これらの語尾に「証」を加え、たとえば「陽虚証」と呼ぶこともあります。こういう分け方をして、よりイメージしやすいものとしていきます。

以上が基本的な「証」で、八綱弁証と呼ばれます。基本的なものが、最も難しいものです。しかし、これを基本にして、正しい弁証は成り立ちます。

▶五臓六腑の弁証へ

五臓六腑は有名ですね。基本となる八綱弁証から、たとえば、五臓六腑の弁証 (臓腑弁証) に分化していきます。

五臓六腑って何だろう をご参考に。

たとえば裏証であれば、裏 (肝・心・脾・肺・腎) のどれに主要矛盾があるかを考えます。そのうち、例えば肝が主になるなら、その肝が、虚しているか実しているか、肝が熱を持っているか持っていないか、それによって肝血虚・肝陰虚・肝気鬱結・肝火上炎などの証を判定します。こうすることによって、より明確な証を確定します。

▶その他の弁証

ここまで、八綱弁証・臓腑弁証について簡単に説明しました。

その他にもいくつかの種類があります。

・気血津液弁証… 気・血・津液の病変を判別する弁証 >>気の弁証血の弁証
・六経弁証… 寒邪を中心とした外感病の弁証 >>表証…カゼ (風邪・感冒) を治す意味
・衛気営血弁証… 熱邪を中心とした外感病の弁証 >>温病って何だろう…五運六気からひもとく
・三焦弁証… 六経弁証と衛気営血弁証とを上中下の病位によって捉える弁証
・経絡弁証… どの経絡に病変があるかで病態を把握する弁証 >> 経絡の流注を学ぶ

が挙げられます。これらを駆使して、患者さんの固有の体質を見極めます。「病名」は参考にはしますが、決定打にはなりません。

「病名」による診断ではなく、「証」をオーダーメイドで考える… それが東洋医学です。

弁証の奥深さ

弁証とはこういうものだ、ということを非常に簡単に説明しました。

しかし、一言では説明できない奥深さを持つのが学問であり、中医学もその類に漏れません

以下にリンクが参考になると思います。中医学の奥座敷を覗いてみてください。

証候とは… 病態把握への果てしなき挑戦
中医学では、病態のことを「証」といいます。証には「証名」と「証候」があります。ここに「悪寒・浮脈・頭項強痛」というひとくくりの症状があるとします。このとき証名は「表証」です。このとき証候は「悪寒・浮脈・頭項強痛」です。
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