6歳。女の子。
女の子のおじいちゃんは当院の患者さんで、20年近くの付き合いである。
症状
「孫がね、おしっこが近いんですよ、治りますかね。」
「どんな感じでトイレに行きます?」
「すぐにおしっこに行くんですわ。へたすると10分おきに。聞いたら、2週間も前かららしいんですわ。」
「へえ、それはひどいですね。」
「もうすぐ小学校の入学式で、そんなのも関係あるのかどうか…。」
「なるほど。」
「いま春休みで、こっちに帰って来ててね。いっぺん、先生に聞いてみるわ、ということで。」
「ああ、1回来てもらってください。こっちにはいつまで滞在ですか?」
「家は京都なんですけど、あさって帰るっていうから、明日、診てもらえますかねえ?」
「ハイ、分かりました。」
診察
翌日は3月31日。
お母さんに連れられて来院。
入ってくるなり、トイレ。
よくしゃべる元気な女の子。
頻尿は「下」に弱りがある。「下」とは根本、つまり根本的な弱りによる場合がある。高齢者の頻尿によく見られる。
しかし、この子は元気がある。
「小学校へ行く緊張からかもしれませんね。ハイ、べーして 。」
白膩苔。いくらか脾・胃 (消化・吸収・栄養分配機能) の弱りがある。
舌の先が赤い (舌尖紅刺) 。「上」に気が昇って気滞がある。つまり「上」に緊張がある。
正気と邪気って何だろう▶気滞とは をご参考に。
治療
中脘に金製の古代鍼をかざす。
その後、夢分流打鍼術。これを、みぞおち中心に処置。上半身の気を廻らすのが目的。
「緊張のせいで上に気が偏り、そのため下が弱くなって、おしっこが近くなるんでしょう。もともと消化器もやや弱めなので、それを修復できないんだと思います。冷たいものとか、お菓子は控えめにね^^」
治療後、いろいろ説明し時間をとったが、トイレにいかず。
効果
それから2週間後、おじいちゃんが診察に見える。
「こないだ、ありがとうごさいました。あれから、おしっこ止まったそうです!一発で効いたらしいですわ。」
「そうですか? それはよく効きましたね。一回しか診てないから、どうかと思っていたんですけど。でも子供さんの治療は驚くほど効く事が多いんですよ。我々大人と違って、素直なんでしょうね。」
病因病理
そもそも、頻尿は「下 」つまり下焦・腎に弱りがある。「下」というのは土台である。土台とは、生命の土台である。だから高齢者の頻尿は問題になる。生まれ持った生命力の枯渇を意味するからだ。
しかし、この子は見るからに元気がある。「下」に弱りがあるには違いないが、それは絶対的な弱りではなく、相対的な弱りである。
つまり、「上」が強すぎることによる下の弱りである。「上」が強すぎるとは、就学前の緊張である。緊張で、胸がいっぱいなのである。
「上」が電車の一両目、「下」が二両目だとすると、一両目にお客さんが集まってしまってギュウギュウ、二両目はガラガラなのである。治療では一両目 (胸部) と二両目 (下腹部) の継ぎ目 (脾・胃 = 消化器) である「中」を強くした。これが中脘の鍼である。継ぎ目がシッカリしていないと、一両目から二両目にお客さんが移ることができない。二両目にお客さんが少し移動できれば、一両目も二両目も機嫌よく座席に座れる。
その後、ミゾオチを中心とした打鍼、これは「上」の緊張を解いて、相対的に「下」を強くするための処置である。
下が強くなれば、頻尿が止む。
排尿障害…東洋医学からみた7つの原因と治療法 をご参考に。
〇
その1年後、その子のお母さんの友達に、脳性麻痺の子供さんがあるとのことで相談を受けた。
「脳性麻痺にも鍼は効きますか。」
「ハイ、期待していいと思います。治療は早ければ早いほどいいです。おいくつのお子さんですか?」
「一歳半くらいらしいです。」
「なるほど、ではそうお伝えください。」
脳性麻痺は、生まれつき「下」が弱い。治療はそれを強くする。
「孫ね、あれから一回もおしっこが近い、ってことは無いらしいですわ。本当に助かりました。ありがとうございました。」