むくみと無尿 (腎不全) 、10日で治癒

急性腎不全である。こういう重症疾患が初診 (1年半ぶりの再診) で来るということは、しかも病院ではなくここに来るということは、1年半前に強烈な効かせ方をしたからであろう。だが、強烈な効かせ方をしていると言っても、したのは表証を取っただけである。今回も、同じことをした。たったそれだけで、尿が出始め、むくみが取れたのである。表証と言えばカゼをイメージするが、そんな「簡単な病気」を的確に診立てて治療することは、「重篤な病気」を的確に診立てて治療することとまったく同じことである。簡単な病気も難しい病気もない。同じように診立てて治療する。それが東洋医学というものである。簡単なものをナメていては出来ないことだし、難しいものに腰が引けても出来ないことである。

表証…カゼ (風邪・感冒) を治す意味
表証と呼ばれる概念の中にカゼ (感冒) があります。これを治療することは中医学の弁証論治の基本です。表証を見破り、慢性的な表証を治療することも大切ですが、もっと大切なのは、裏証を治療するためです。表裏は一枚の紙の表と裏で、一体のものです。

41歳。女性。2023年12月4日初診。

無尿が一週間前から続いている。この期間、1日の尿量が約40㎎ (おおさじ3杯弱) 、かつ尿意がない。
この一週間で下肢がむくみ出し、体重が2kg増えた

ネフローゼ症候群を持病として持っている。尿タンパクの数値悪化 (12/1検査で5.73;正常値0.15) に伴い、急性腎不全 (腎前性腎不全) の状態にある。すなわち、一回尿量が大さじ1杯 (15㎎) にも満たない。それが1日3回しか出ない。その状態が11月27日から7日間続いているのである。

腎不全、しかも一刻を争う状態である。このままだと、さまざまな合併症を起こす危険がある。

このような状態で初診を受診された。
病院では検査のみで、治療は一切なし。当院を受診してすでに治療を必要としない状態で病院を受診したからである。

以下、弁証論治の詳細である。

【病因病理】
正気の弱りに乗じて寒邪が表を襲う。寒邪に取り囲まれ、邪熱が外に出られない。内に邪熱がこもり津液を乾かすが、その津液もまた表寒 (表の寒邪) に取り囲まれ、外に出られず皮下に水邪として溜まってしまった。そのため無尿・水腫が同時に見られる。

【証】
表寒裏熱証

【治療方針】
先表後裏の原則に従い、表寒を散らす。

【治療方法】
関元に2番鍼。1分置鍼。正気を補いつつ、表邪を瀉す。同様の治療を4回 (12月4日〜12日) 行う。

【結果】
12月4日治療後から尿量が増え始め、悪化前 (11月27日以前) の尿量を上回り、正常な量の尿が出るようになった。
12月12日現在でその頃よりも体重が4kg減った

本症例での腎不全発症から治癒までの詳細をまとめておく。

脚が鉛のように重かったが10→5になった。11月22日 (水)  下腿むくみに気づく。このころからジワジワ尿が出にくくなる。

11月24日 (金)  尿量が減ってきた。この時点で尿タンパクは4.06、5.00になると入院になると思い、病院に電話連絡してプレドニン15㎎を飲み始める。 >> 本症例はネフローゼ症候群のなかでも、ステロイド (プレドニン) がほとんど効かない巣状分節性糸球体硬化症と呼ばれるものである。これはステロイド抵抗型であり、難治性ネフローゼである。ステロイドがまったく効かないので、2021からプレドニンの服用を中止している。

11月27日 (月)  37℃の微熱・節々の痛さ・リンパの腫れが起こり、3日間続く。このころから尿が1回量が大さじ一杯弱、それが1日3回しか出なくなる。プレドニンを30㎎に増量する。 >> このようなステロイド抵抗型であっても、治療薬はステロイドによらざるを得ないのが現状である。このタイプのネフローゼは予後が悪く、本邦では約1/3が末期腎不全に至るとされる。

12月1日 (金)  病院受診、尿タンパクの数値激増 (5.73) となった。6日後に再検査する約束で入院は見合わせた。むくみで体重が2kg増えた。

12月4日 (月)  眞鍼堂、初診。関元に鍼 (正気を補い表証を取る目的) 。プレドニンを10㎎とする。

12月5日 (火)  一回尿量が倍 (大さじ2杯) になる。
眞鍼堂、2診目。関元に鍼。正気を補い邪実 (水邪と邪熱) を取る目的。

12月7日 (木)  尿タンパクの数値激減 (0.76) との結果が出る。尿量が徐々に増える。尿意がもどる。

12月8日 (金)  尿量・回数ともに正常 (通常の状態) となる。体重が2kg減って11月22日以前の状態に戻る。脚が鉛のように重かったが10→5になった。
眞鍼堂、3診目。関元に鍼 (正気を補い邪実を取る目的) 。プレドニンを0㎎とする。 >> プレドニン (ステロイド) はネフローゼ症候群の治療薬として代替の効かない重要薬である。一方、ステロイドは免疫抑制作用があるため、これを大量に使用するネフローゼの場合、死因の約半数が感染症と言われている。本症例はステロイド抵抗型でもある。よって、ステロイドを用いずに数値を改善できれば、それに越したことはない。

12月12日 (火)  尿量・回数ともに通常の状態よりもよく出ている。さらに体重が2kg減り、11月22日以前よりも2kg減となる。ふくらはぎが鉛のように重かったのはゼロになった。
眞鍼堂、4診目。関元に鍼 (正気を補い邪実を取る目的) 。

10日間足らずで2kg増えた体重が、当院初診から7日間でかえって4kgも減った。通常時でも尿タンパクは2.00以上あり (正常値は0.15) 、むくんでいる状態がある。そのむくみが尿として排泄されたのだろう。かつてない、一番いい状態と言えるかもしれない。

その後も治療は継続している。体重は、さらに減りつつある。

じつは本症例は、かつて公開した記事をまとめ直したものである。
かつて公開した記事とは、「腎臓の難病 (ネフローゼ症候群) … やはり、奇跡は起こる」である。これは数値の改善を中心にまとめたものである。

本ページには、この症例の「腎不全」「水腫」「癃閉 (無尿) 」にスポットを当て、鍼灸のさらなる可能性を広げる一助としたいという目的がある。

もちろん、急性の腎不全である。急性だからわずか10日で治癒となった。

ただし、急性だから簡単ということにはならない。むしろ慢性よりも急変の可能性が高い。そういうことを知りつつも、治療が可能となったのは、中医学を基礎とした診察というものがデタラメではない証しと言えよう。

鍼には底力がある。その力とは、ツボの診察 (切経;体表観察) にある。漢方家はまず用いないこの診察法によらなければ、この症例検討は成立しない。

ツボの診察…正しい弁証のために切経を
ツボは鍼を打ったりお灸をしたりするためだけのものではありません。 弁証 (東洋医学の診断) につかうものです。 ツボの診察のことを切経といいます。つまり、手や足やお腹や背中をなで回し、それぞれりツボの虚実を診て、気血や五臓の異変を察するのです。

鍼灸というのは、これくらい効くものであるということを示す必要がある。
後進を次ぐ士のため、パイオニアの一人として道を切り開くことが必要である。

当該患者にはその旨ご説明し、写真の公開の許可をいただいた。

この医学が、正しい方向に向かって発展することを願ってやまない。




補足 … 専門家の方へ

尿が出ない状態には、無尿・乏尿、また尿閉という分け方がある。
無尿・乏尿とは、腎不全のために腎臓が尿を作れず、膀胱に尿がたまらない状態である。よって尿意がない。無尿は1日100ml未満、乏尿は1日400ml未満の状態を言う。
尿閉とは、腎臓が作った尿が膀胱に溜まっているが、尿道が塞がっているため尿が出ない状態である。よって尿意がある。少量ならば出る状態は排尿困難と呼ぶ。

いずれも、中医学では「癃閉」と呼ぶ。

排尿障害…東洋医学からみた7つの原因と治療法
東洋医学では、尿が出にくい病態を淋疾 (りんしつ) と癃閉 (りゅうへい) の2種類に分けます。淋疾は、一回量が少なくスッキリ出ない、ただし一日の尿量の合計は正常です。癃閉は、一日の尿量が少ない、または全く出ないものです。

結果として起こった浮腫は、中医学では「水腫」と呼ぶ。

浮腫 (むくみ) …東洋医学から見た5つの原因と治療法
むくみを東洋医学的 (中医学的) に説明します。脾と腎が中心となって水湿代謝は行われます。脾腎は生命力の根幹で、それが弱ると生命力を邪魔するもの (邪気) が強固となります。このような構図が総合的にむくみを形成します。

腎機能が低下した状態を腎不全という。腎機能とは血液をろ過し老廃物を取り除く働きをいう。一般には腎臓そのものの機能をいうが、広義には循環血液を腎臓が取り込み尿道口から排泄するまでの機能をいうこともある。そのため腎不全は、腎前性腎不全・腎性腎不全・腎後性腎不全の3つに大別される。

腎前性腎不全は、血管を循環する血液量が減少し、腎臓に十分な量の血液が流入なくなって、尿が作れなくなる事によって起こる。このような腎不全は、腎臓そのものの機能不全による尿量減少 (腎性腎不全) ではなく、腎臓に血液が入る以前に問題があるため、腎前性腎不全と呼ばれる。逆に、前立腺肥大などで尿が出なくなる場合は、腎臓で作られた尿が、出ていく過程に圧迫などの問題があり、これは腎後性腎不全と呼ばれる。

本症例は腎前性腎不全に該当する。ネフローゼ症候群のために、血中のアルブミンが大量にアルブミン尿 (タンパク尿) として血管外組織に漏れ出すことにより、血液濃度が低下し、血液中の水分が血管の外に漏れ出して浮腫や体重増加をきたし、血液中の水分が血管外組織に大量にもれ、その分の尿が出ないことによるものであり、腎前性腎不全である。

これだけの重症疾患となると、病態を西洋医学的に把握しておくことは重要である。それを踏まえた上で、中医学の「癃閉」「浮腫」として弁証論治を行う。

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