首が動かない

29才。女性。飲食業の管理職。

症状

主訴
首が痛くて動かせない。
3日前から痛みがあり、悪化しつつある。昨日からは完全に動かなくなった。
実際に、動かしてみてください、とやっても不動。

その他の症状
5日前に39℃の発熱。
最近、寝言が多い。寝ている最中に突然すわる。≫夜間に肝臓に邪熱が襲う状態であると言える。
とにかく眠い。
ストレスがあると下痢する。≫肝の横逆がある。
両下腿部に浮腫。指で押すと粘土のように凹み戻らない。5年前から。≫水邪がある。
たまに痔出血がある。鮮血大量。≫邪熱が強いことが言える。

首の状況
まず、座位で首の動きを診る。前後屈 (首を上下に動かす) ・左右回旋 (首を左右に回す) ・左右側屈 (首を左右に傾ける) すべて、痛みにより全く動かない。

診察

望診
天突に求心力がない。≫表証の可能性。

舌診
胖嫩。≫正気の弱りと水のさばきの悪さを意味する。
紅刺が顕著。≫気滞が強い。
舌の中央から奥にかけて黄苔。≫邪熱がある。

脈診
左が沈位。右が中位。≫深浅を支配する少陽が機能していない。
幅なし。≫瀉法不能。

腹診
左右不容の浅部に邪熱。≫気分の熱を示す。
左右不容の深部にも邪熱。≫営血分の熱を示す。
左右章門浅部・深部ともに邪熱。≫営血分の熱を示す。
左右の章門の邪の絶対量が同等。≫左右を支配する少陽が機能していない。

要穴診
左後渓が実。≫邪熱がある。
右太白が虚。≫脾虚がある。
左竅陰が実。≫肝鬱気滞が胆経に影響している。首の痛みは胆経異常がもとか。
右肝兪が実で少し触れるだけで身をよじるほどの圧痛。≫肝鬱気滞がある。
ただし、列挙した穴処はすべて沈んでいる。≫これらの穴処は治療点としては使いにくい。

その他
背部から触れることのできる腸骨稜ラインがすべて圧痛顕著。あまりに圧痛が強いので腹膜炎を疑い、プルンベルグ徴候 (腹部の反跳痛) の有無を調べるが、これは陰性。≫全身に炎症症状が広がる寸前の状態を考慮すべきだと思った。数日前に高熱を出していることや、異常なまでの忙しさはその懸念を後押しする。

病因病理

朝8時に起床しそのまま食材の買い出しに。午前11時の営業開始に向けて準備、午後4時にその日はじめての食事、午後11時の営業終了、午前1時過ぎまでパソコンで事務、2時に帰宅し食事もとらず就寝。半年前から人材不足で2人前の仕事をこなしている。休みは週に1回しか取れていない。あきらかに過労である。

当該患者にまず伝えたことは、とにかくこの忙しさは変わらないのだから、その環境の中で疲れを取れるようにしましょう、ということ。ここ最近、睡眠中に座ったり寝言を言ったりするのは、寝ていても熟睡できていないことを示す。これは治療で改善しなければならない。睡眠中のこの症状は、営血分の熱である可能性が高い。

加えて、痛みがあるということは忙しすぎる毎日に体がブレーキをかけたということなので、疲れをとることによってブレーキの必要がない状態にしましょう、ということ。

この場合の「つかれ」とは。
①緊張のことである。息つく暇もなく仕事をこなす精神的肉体的緊張は、やがて熱をもち、その熱は体の炎症として現れる。肝鬱気滞化火による邪熱である。
②弱りのことである。緊張は生命力に負担となる。緊張時の下痢、下腿のむくみ、舌の力なく膨張した状態 (胖嫩) などは弱りの現れである。脾虚である。

脾虚は邪熱を取れにくくするため、非常に取れにくい「つかれ」となっている。具体的に言うと、脾虚が陰陽の幅を小さくし、邪熱が浅部の気分と深部の営血分のどちらにもまたがり、深部に入った熱が邪熱を取れにくいものにしている。

また、「つかれ」によって、気候変動による冷えが皮膚の表面に侵入した。この状態を表証というが、これは肝鬱気滞化火を内に閉じ込めて取れにくくし、また脾気虚を加速させている。表証は首の症状として現れやすい。これは傷寒論にある通りである。

以上の理由で首の痛みが発症したと考えた。

表証を直接取るには脾気虚が強すぎる。逆に脾気虚を回復させることができれば表証は勝手に除去されると判断した。

治療

中脘に0番鍼を2mm刺入。4分置鍼後、抜鍼。補法の手技。≫腹診で邪を表現しているにもかかわらず、脈の幅なしはそれを除去できないことを示す。奇経を用いる。また、深浅・左右の陰陽が機能していない。正中線上で境界を動かす必要がある。中脘で陰陽の幅が増えれば邪熱を大雑把に掃除することができる。

右三陰交に5番鍼で速刺速抜。瀉法の手技。その後、15分休憩させ、治療を終える。≫中脘の鍼で脈幅が出た。また営血分の熱を示す章門の反応のみ残っていたので、深部営血分に邪熱が残っているとみて、三陰交で営血分の熱を取り去る。

効果

直後、首は前後屈・左右側屈・左右回旋ともに40°くらい動かせるようになる。
1週間後来院時には、首の痛みは完全に消失していた。

気になるのは顕著な圧痛だが、治療直後は全く不変。1週間後来院時には消失していた。

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