足が痛くて歩けない… 症状は成長のもと

女性。60歳。

電話があって、きゅうきょ来院となった。予約は1週間後である。何かあったな。

「足 (右第2・3指) が痛くて歩けないんです。寝てると大丈夫なんですけどね。今も駐車場からここまで歩いてくるだけなのに、右足だけ指を浮かして歩いてきたんです。なんででしょう?」

ざっと体を眺める。天突が反応している。これだ。

「いつからですか? 急に痛くなったでしょ?」

「そうなんです! 昨日の昼過ぎに、あれ? っ感じで急に痛くなって、歩けなくなったんです。 前回の治療 (一週間前) のときも同じ箇所がすこし痺れた感じがあったんですが、大したことなかったんで、言うのを忘れてたんですが、いま思えば、一ヶ月前くらいから歩くときに時々痺れた感じがあったと思います。」

「そうですか。」

わずか2分で歩けるように

「ちょっと人間関係でトラブルがあって、ちょっと納得がいかなくて…。それで友人数人に話を聞いてもらって、みんなそれはおかしいっていってくれて、まあそれでだいぶ落ち着いたんですけどね。そういうのが関係あるんでしょうか。」

会話をしながら天突の反応をチラチラ見ていたが、ここで急に反応が消えた。表証が消えたのだ。痛みはどうだろう。好奇心がある。

「ちょっと立ってみてください。」

「え? 今ですか。はい。…あれ? 立てますわ。普通に歩けます。わあ、すごいですね〜。」

治療室に入ってからわずか1〜2分のことだった。

「今の会話の中に、生命力を上げる要素があったんでしょうね。ストレスがあったと話されましたね。そのストレスと、上手く向き合えたんでしょう。そうやって、僕みたいな人間に相談するっていうこと、それが自分と向き合うことにつながるんです。向き合えれば片付いていきます。リビングのテーブルの上にゴミが乗っかっていればすぐ片付きますね。でも奥の部屋の押し入れにゴミがあってもなかなか片付きません。向き合わないからです。」

もちろん、鍼はする。百会一穴。

その後の経過

一週間後、来院。

その日はそのまま楽で、翌日は少し痛かったが、その翌日からはずっと楽で、普通に歩ける。

前回の痛み (痺れ) を10とすれば、現在は2。

この、2の痛み (痺れ) は一ヶ月ほど前からあったらしい。前々回の治療で言うのを忘れていたやつである。とりあえず、急に激痛がおこる前の状態に戻った。

病因病理

一ヶ月前からある痺れ (右第2・3趾) 。この原因はなんだろう。

ここ3ヶ月ほど、腰痛 (7/3 表証と痰湿による) 、右膝痛 (8/22 痰湿による) と、足三里に食滞の反応を伴う症状が続いていた。いずれも治療後まもなく消失したが、この痰湿はまだ残余しており、それが胃経の流注する第2趾と第3趾に留滞し、部分的な気滞を起こし、血を推動できず部分的血虚を起こして痺れが発症したのである。

しびれ…東洋医学から見た原因と治療法
痺れの基本病理は、痺れる部位における血の不足です。つまり、部分的な血の不足があると、痺れが起こります。東洋医学では痺れをどのように捉えているでしょう。ここで注意したいのは、東洋医学の「血」の概念です。物質的にではなく、機能的に捉えます。

体 (正気) は痰湿の掃除で目いっぱいの状態である。
そこに、あのストレスがかかった。
一気に気滞が激しくなり、部分的気滞があった右第2・3趾の気血の流通が閉ざされる。
同時に正気は外邪 (寒邪) から身を守る防御すらできない状態に陥り、寒邪に取り囲まれる状態 (表証) となる。
寒邪には凝滞の性質がある。体の表面を寒邪に覆われてしまうと、気血はますます滞り、痰湿はますますコテコテとなり、右第2・3趾の部分的血虚は、激しい痺れとなり歩けない痛みのレベルにまで達したのである。

痛み…東洋医学から見た7つの原因と治療法
東洋医学では、あらゆる痛みの原因を「不通則痛」と表現します。通じなければ痛む。「通じないもの」とは気と血のことです。「通じなくさせるもの」とは邪実…すなわち気滞・痰湿・邪熱・瘀血・外邪です。これら要因を取り除くことで痛みを治療します。

その状態で当院に来院、こんなストレスがあったと僕に伝えた。その瞬間にストレス (気滞) が消失したのである。ぼくの臨床では、最近こういうことがよくある。ぼくに相談すると、どうも強烈に自分に向き合えるらしい。簡単に言うと、その場でホッとするのだろう。

ふつうなら、足が痛くて歩けないならば、足をくじいたとかの物理的要因を考えるだろう。それが無ければ腰から来ているのかなとか整形外科的要因を考える。しかし当該患者は、心理的要因に目が向いた。これはすごいことである。僕の治療を普段から受けているので、そういう発想が生まれるのだ。「原因」を患者さんに説明することの大切さである。これを僕が普段から怠らなかったことが、今回のスムーズな緩解にもつながったのである。

また、継続して通院している患者さんは、異変があってもこのようにすぐ回復する傾向があるのも、特徴として見受けられることである。

こうして気滞が消失すると、正気は再び体表を守りに出向くことができ、取り囲んでいた寒邪はそれを恐れて消散したのである。

気血を滞らせ、痰湿をコテコテにしていた外邪が無くなったので、本来の気血の流通が得られ、その場で歩けるようになった。

症状は成長のもと

当該患者は、初診は4年前だった。

このときは、右膝の痛みを訴えて来院された。半年ほどの治療でほぼ消失、一年後には全く痛みがない状態となったが、比較的時間がかかった。これは、なかなか間食の習慣が改善できなかったからである。分かっていても、なかなか改善できないのが悪い癖である。これを、無理に止めさせるのではなく、本人のできる分だけ、少しずつ改善していった結果である。

間食の習慣は痰湿を形成し、痰湿は膝痛の主要な原因となる。多くの膝の痛みはこれが関与すると考えていい。

そして間食の習慣はほぼ無くなった。

しかし、自分を変えるのが難しい同様、習慣を変えるのは並大抵ではない。

最近、またちょっと甘いものやお菓子が進んでしまっているのだ。足三里の食滞の反応が出ていたことはさっき触れた。

「最近、ちょっと食べすぎてるんです。娘が仕事しだした会社が、毎日お菓子をたくさんくれて、持って帰っくるんですよ。だから、つい…。ちょっと気をつけますわ。」

そう、それでいい。向き合えている。

足の痛みが出た。そしてぼくのところに来て消えた。そして、向き合えた。
自分に向き合う。原因に向き合う。

こうやって成長していく。樹木も冬はいったん葉を落として悪くなったかに見えるが、そうではない。芽吹きの準備をしているのだ。

雨降って地固まる。失敗は成功のもと。

症状は成長のもと。

 

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました