アトピー性皮膚炎の重症例

30代。女性。

以前からアトピー性皮膚炎である。本人の強い希望で、他の治療を一切行わず、当院の治療のみで経過を観察する。

現在、下腿・膝・前腕・上腕・背部にかゆさとヒリヒリ感。とくに上肢と下肢がひどく、程度は上下肢とも同等。体の広範囲に炎症があり、かゆさは夜>昼。皮膚の炎症部位は、油紙のようなカサブタ状になっており、無数の細かい亀裂がある。亀裂には黄色い浸出液がにじんでいる。

その他の症状は、不眠。寒がり。神経質。過食。

望診…天突の反応から表証がある。印堂の反応から風寒 (表証) と診断。神闕の反応から心神不寧がある。
舌診…紅舌。舌根部に黄白色の膩苔が少し。老>嫩。
脈診…幅あり。脈は浮いていない。
腹診…両章門に邪。浅部は寒邪。深部下方に熱。
背候診…右肝兪・右胆兪が実。左肺兪・左心兪が虚で心兪のほうが顕著。

診断…
舌診以外には熱証を示す所見がないが、これだけの赤さが体の広範囲にあるということは、熱は相当激しいことが言える。にもかかわらず、寒がりである。寒がりは重症化したアトピーではよく見られることで、表寒 (寒邪を主とする表証のこと) があるからである。本症例では表寒がストレスより生じた熱を抑え込み発症したと診立てた。

ただし、この表寒 (表証) は、ただ単に寒さの影響を受けたものではない。心神・肝魂が不安定で、心の波風が営陰の潤いを損なうことによって、衛気が不安定となって感受したものである。よって、心肝を安定させれば自ずと表寒を退けることができると考えた。表寒をうまく退けることができたら、皮膚炎の直接原因である内の熱は勝手に皮膚から放散される。

初診の状態

初診から11日後

初診から18日後

初診から38日後

考察

表寒 (表証) を見破る技術が必要である。いわゆる難病のなかには、本症例のように表寒が一枚噛んだものが少なくない。傷寒論にある「脈浮・頭項強痛・悪寒」は一応セオリーではあるが、典型的で誰にでもわかるレベルのものを説いたにすぎない。セオリーを踏まえたうえで、自由自在に診察力をつけていくべきである。

本症例は、治療期間中ステロイドその他の薬剤をまったく使用していない。また、治療は週に3~5回行った。この間、使用した穴処は…

神門 (補) ・心兪 (補) ・太衝 (補) …心神の治療
内関 (補中瀉) …陰維脈の治療

≫陰維脈については「冬至…営血分の熱」をご参考に。

肝兪 (補中瀉・瀉) ・胆兪 (瀉) ・百会 (補中瀉) …肝鬱化火の治療
三陰交 (瀉・補中瀉) ・外神門 (補中瀉) …営血分の熱の治療
脾兪 (瀉) ・胃兪 (瀉) …痰湿の治療
中脘 (補) ・三焦兪 (補) …正気の虚の治療

…で、一回の治療ではこれらの穴処から1~2穴をもちいた。最も使用頻度が高かったのは内関穴だった。

アトピー性皮膚炎の東洋医学的な基本病理は 「アトピー…東洋医学から見た4つの原因と治療法」をご参考に。

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