足の冷えと痰湿… “治未病” のフェーズ

60歳。男性。健康管理のために定期的に来院されている。

年明けの1月7日。

いつものように、まずは体の診察から。

何から診るかというと、4日の診療開始日から、みんな同じように出ている “あの反応” からだ。うん、やっぱりこの患者さんにも同じように出ているな。

顔面の気色が全面で沈んでいる。
右太白・右公孫が虚している。

ついでに足三里と太白を診る。右三里が虚で、豊隆の実が左右のスネ全体に広がっている。これはこの方独自の反応である。

この間、約20秒。

「あの、足が冷えて仕方ないんです。」

待ちかねたように、ご自分から不調を訴えられた。普段から寡黙で、 “どうですか? ” と聞いても “特に…” くらいの応答しかない方である。よほど冷えるのだろう。たしかに、ゆび先から三陰交あたりまで非常に冷たい。

冷えの原因は痰湿だな。豊隆の反応からそれが候 (うかが) える。

「年明けは4日からさせていただいているんですけど、患者さん一斉に同じ反応が出ているんです。その反応が〇〇さんの体でも出ています。体の反応って、本来は人それぞれなんです。みんな考え方もやってることも違うからです。ところが、こんなふうにほとんどの方で同じ反応が出ることがある。多くはこういうのは、全国的に急に暑くなったとか、寒くなったとか、湿気が多くなったとか、 “気候” が関係するんです。みんな一様に影響を受ける。それで、冷えかな…と体を診ても冷えの反応が見られない。では、なんでこんなにみんな一斉に同じなのかな…となるわけです。そもそも気候とは気です。気を候 (うかが) う。 “気” は目に見えません。そういえば今、目に見えない “変な気” が日本中を影響下に置こうとしていますね。増えてきているとニュースでやってるやつです。たとえば強い寒気が入ってきてるけど、それで体調を壊したわけではない…というのに似た段階だと思ってください。」

この “変な気” のことを癘気 (れいき) という。

癘気 (れいき) とは をご参考に。

ほとんど全ての患者さんで見られる年明けからの特徴とは、
・顔の気色が全面で沈んでいる
・右太白・右公孫が虚
・背候診の反応が右脾兪実がトップ
である。

他府県からお越しの患者さんはもちろん、生放送の昼のワイドショー・ニュースでも確認したが、出演者たちもみんな気色が沈んでいる。

「みんなすごく疲れている。具体的にどこが疲れているかというと、消化器 (脾臓) が弱っています。これを脾虚と言います。食べないと死ぬでしょ? 消化器は生命の根幹なんです。ところがね、弱っているにも関わらず、僕が診立てたほどの弱りを、患者さんご自身が自覚できていないんです。 “どうですか?” と聞いても “まあまあです” とか、そういうのが圧倒的に多いですね。」

この状況は、いま流行の癘気 (れいき) がものすごく喜ぶ環境だ。体力が弱っていて抵抗力が落ちているのに、さほどにも感じず動き回る。とても侵入しやすい。

「お腹にはお茶碗みたいな容器があるんです。この容器に、食べたものが八分目入れば腹八分目です。満タン入れると溢れる可能性があり、満タン以上になると確実に溢れます。溢れたものはカーペットとか畳とかに染み込んで、その瞬間、汚くて臭くてベタベタしたものに変わります。そういうものを痰湿と言います。この痰湿、拭き取るのが大変なんです。時間も体力も消耗するでしょ? その上、これって、虫が好むんですよ。床が汚れたままで放っておくと、ゴキブリとかハエとかが集まって来ますね。いま、目に見えないほどの小さな “虫” 、あれも虫なんですが、飛沫に乗ってやってくる、あの虫も痰湿が大好物なんです。ショウジョウバエみたいに大繁殖するかもしれません。エサを作らない、与えない。そんなふうにお互い気をつけましょう。」

この “容器” のことを “生命力” という。 “陰陽の幅” ともいう。

そしてなぜか今、みんなこのお腹の容器がオチョコみたいに小さくなっている。脾虚である。しかもそれが自覚できないので普通に食べる。するとどうなるか? 食べすぎていないのに溢れるのである。

体力が弱っているうえに、エサも豊富なのである。これも癘気が喜ぶ環境である。侵入しやすい上に、ご馳走が用意されている。ほとんど天国に近い。

なぜオチョコになっているのか。そもそも2021年末の「血熱」から続くものであろう。冬至と血熱 を参考にしていただきたい。お腹の中にある容器は、血を材料として気によって作られる。その容器 (陰陽幅) には気血が入る。すでに年末から、容器の材料が窮乏していたのである。年末年始にかけて、血熱としてのフェーズから、脾の陰陽幅の縮小というフェーズに移行したのだが、気血の虧虚・陰陽幅の少なさという根本原因は相変わらず持続しているのである。

「痰湿は、冷えると固まる性質があります。油汚れでも、温かい水だと流しやすいですが、冷たい水だとかえって固まって流しにくいですね。つまり、冷えると痰湿が強大になるんです。痰湿はもともと水なので冷たくなりやすいし、0℃の空気より0℃の水の方が冷たいですね。それからまた、冷たい水は下に降る性質があります。お風呂でも混ぜずにに放置すると下の方だけお湯が冷たくなりますね。お湯が冷えたくらいなら混ぜればいいですが、どろどろの痰湿が冷えたものは混ざりにくい。だからひつこく足だけが冷えるんですね。」

足の冷えばかりではない。痰湿が溢れると、浮腫 (むくみ) になったり鼻水が出たり下痢をしたりすることもある。溢れて膝に出ると水が溜まる。溢れて手足に流れると痺れや重痛 (重だるい痛み) になる。胸の深い部分に溢れると、狭心症や鬱にもなる。

溢れたものがあることを示す反応…つまり豊隆 (痰湿を示す) 、それから容器がオチョコみたいになった反応…足三里 (不摂生による急性の脾虚を示す) 、これらを意識しつつ、問診する。

「年末年始といえば、多少の食べ過ぎはみんなあると思うんですけれど、その辺、どうですか? 」

「気をつけていたんですが、食後のお菓子が、ちょっと多かったかもしれません。」

そういうことである。

足を触ってみる。さっきより温かくなっている。気色、右太白など穴処、反応すべてが改善している。

「もうぬくもってきてませんか?  」

「あれ? なんか、ぬくもって来ましたね。ははは。」

「僕の話を聞いて、いま気持ちが変わったんです。だからもう、体がいい反応をして来ています。これでいい。この気持ちでいてください。この気持ちで飲食すれば、ほんの少し食べ方が変わります。その “ほんの少し” が大きい。それでいけるということです。今すでにオチョコがお茶碗くらいに大きくなって、それで痰湿が元の容器に収まってきた。つまり、邪魔な痰湿が、有用な体液に変わってきているんです。これから鍼をして、もっと溢れにくい大きなドンブリ茶碗にしておきますから、その大きさを維持してください。維持するために、今の気持ちでいてください…ということです。」

本来、痰湿は留恋しやすく、しつこく取れにくい。しかしこの患者さんの痰湿は、おそらく正月につくったものだ。だからまだ新しい。新しい痰湿なら、すぐに治療すれば正気 (津液) に戻すことができる。お茶碗からこぼれたご飯を、こぼしたすぐならお茶碗に戻すことができるようなものである。

それにしても、本当に伝えたいのは感謝である。食材はすべて命あるものの命を奪ったものだ。調子に乗って食べるものではない。しかしこれは、言葉にすると押し付けがましくなる。なぜそうなるかというと、僕自身が感謝できていないからだ。伝えたいものは何か、伝えることができないのは何故か、そこの考えが僕には足りない。

百会に一本鍼。補法。陰陽幅を増し、気を引き下げ、調子に乗らないよう、この気持ちが持続するよう治療を行う。

5分置鍼、抜鍼後、20分休憩。

ポカポカの状態でご帰宅いただいた。

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