44太陽病、外証未解者、不可下也、下之為逆、欲解外者、宜桂枝湯、主之、
▶外証未解 3つの法則
本条は42条を承けながらも、大原則を歌っています。原則は3つあります。
まず、分かりやすくするために条文を2つに分けましょう。
- 太陽病、外証未解者、不可下也、下之為逆、
- 太陽病、外証未解者、欲解外者、宜桂枝湯、主之、
▶不可下の法則
1つ目。中風・傷寒に関わらず、太陽病で経過が長引いたり誤治したりしたものは、下剤をかけてはいけない。こういうことをやるのを逆というのだ。
「外証未解」というのは、期間的に長引く、あるいは誤治によって、なかなか表が解さないニュアンスがあります。でなければ、わざわざこのフレーズを入れなくとも、「太陽病、不可下也、」と言えばいいのです。
太陽病を誤下したことに対応するために、今までいろいろな薬が出てきました。でも、これらは何とか回復させることができる。しかし、経過が長引いて正気のくたびれが出ている太陽病は、絶対に誤下してはならない。これは場合によっては取り返しがつかなくなるぞ、というのが、「逆」という詞に込められています。
▶桂枝湯基本の法則
2つ目。太陽病というのは中風と傷寒に分けられるが、長引いたときに複雑な証候が現れる。そのとき、いきなり麻黄湯に行くのではなく、桂枝湯という基本を忘れてはなりませんよ、という宣言です。
42条に「太陽病、外証未解、脈浮弱者、当以汗解、宜桂枝湯、」とあるように、浮弱ならば桂枝湯で間違いないのですが、そうでない場合も桂枝湯を基本にしなさい、ということです。
なかなか表が解さないということは、虚・寒などの陰の性質が強い可能性があります。桂枝湯を用いるべきで、麻黄湯では危険なのです。38条の大青龍湯について述べた条文の中に、
38「若脈微弱、汗出、悪風者、不可服、服之、則厥逆、筋惕、肉瞤、此為逆、」
とありますが、桂枝湯証に大青龍湯などの麻黄剤を飲ませると「逆」になる、と警告しています。
だから麻黄湯ではなく、桂枝湯を出してきているのです。大青龍湯の麻黄は麻黄湯の倍量であり、本条でも麻黄湯で逆になるとは言っていませんが、38条を踏まえると、危険だということが分かります。外証未解での麻黄湯は逆に準ずるのです。
▶二陽併病の法則
3つ目。これが大切です。
太陽病がなかなか解さないと、太陽病が残存しながらも、陽明に一部が転属することがあります。これを二陽併病と言います。それで陽明証が出たら、つい下法かなと思ってしまいがちですが、表がもし解していないなら、下してはいけないという大原則です。このときも桂枝湯を基本にしなさい、と教えています。これは48条で詳しく説明します。
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以下、46条から57条まで、非常に難解ですが、上記の意図を踏まえると理解できます。
▶未解でも麻黄剤を出すケース
ちなみに、40条に
40「傷寒表未解、心下有水気、乾嘔、発熱而欬、或渇、或利、或噎、或小便不利、小腹満、或喘者、小青龍湯主之、」
とありますが、「表未解」なのに麻黄剤が出ていますね。さっき麻黄湯が危険だと言ったことと矛盾します。これは例外です。どんな時にこの例外が適応するのでしょうか。
ここで37条を思い出しましょう。
37「太陽病、十日以去、脈浮細而嗜臥者、外已解也、設胸満脇痛者、与小柴胡湯、脈但浮者、与麻黄湯、」
やはり、表がなかなか解さずに、でも麻黄湯です。ここで重要なのは胸脇の痛みがあって浮脈ということです。身体痛があれば寒邪中心ということが分かるので、麻黄湯でいい。しかし40条では身体痛にも脈にも触れていません。
37条の法則にはありませんが、40条には「欬」があります。
咳がハァハァ言うレベルなら呼吸困難 (喘) です。喘といえば麻黄湯の証候にありましたね。つまり、麻黄剤である小青龍湯の咳は激しい咳…つまり喘であると見るべきです。これは大きな鑑別ポイントになると思います。
35「太陽病、頭痛、発熱、身疼、腰痛、骨節疼痛、悪風、無汗而喘者、麻黄湯主之、」
つまり、麻黄剤に行くためには身体痛もしくは喘が重要なのです。
●太陽病+長引く = 桂枝湯 ≫原則 |
●太陽病+長引く+胸満脇痛 = 麻黄湯 (or 小柴胡湯) |
● 傷寒 +長引く+咳 (喘) = 麻黄剤 (小青龍湯) |
ここに述べた例外も、46条以下の条文を理解するために必要です。
40条の小青龍湯では少し違う説明をしました。すなわち、小青龍湯証は37条に従って「但浮」で身体痛を伴う。だから麻黄剤を選択できる。そう説明しました。それも重要ですが、ここではもう一つの可能性として咳 (呼吸困難) を挙げました。臨床ではこういう知識がヒントになることがよくあります。確定要素としてではなく、疑ってよい要素として重要だと思います。
▶「宜桂枝湯、主之」とは?
ところで、「宜桂枝湯、主之」とは変な表現だと思いませんか。
- 「宜桂枝湯」はだいたい桂枝湯あたりが適応だ、≫本ブログでいう「桂枝湯アラウンド」。43桂枝加厚朴杏仁湯などが該当。
- 「桂枝湯主之」は桂枝湯が絶対的な主薬だ、
という意味だと言われます。
「宜桂枝湯、主之」は、桂枝湯でやや外れることもあるかもしれないけれど、それでも桂枝湯を絶対だとみておくと間違いない…という表現です。どういうことでしょう。46条以下を見ていけば、その真意が見えてきます。