傷寒論私見…大青龍湯その2〔39〕

39 傷寒、脈浮緩、身不疼、但重、乍有軽時、無少陰証者、大青龍湯主之、

本条の大青龍湯は、38条の大青龍湯と区別するため、大青龍湯②と呼ぶことにします。
本条文も、38条に説明したように、「傷寒」を「太陽中風」に書き換えます

太陽中風、脈浮緩、身不疼、但重、乍有軽時、無少陰証者、大青龍湯主之、

▶証候の説明

太陽病で中風寄りの病態、つまり風邪>寒邪 の状態です。

  • 浮脈は表証を示します。
  • 緩脈は寒邪が中心ではないということだけは言えます。寒邪は疏泄しないので、脈は必ず堅くなります。
  • 身体痛がないのも、寒邪の占める割合がかなり少ない…中風ということが言えます。
  • ただ体が重く、たちまち軽くなる時もある。重いのは水湿の邪です。たちまち軽くなるのは風邪のデタラメさです。
  • 少陰証とは、「ただ寝んと欲す」のような状態です。

太陰病は、不食欲・下痢・腹痛。つまり、おなかの調子が悪い。
厥陰病は、飲食したい・興奮する。つまり、落ち着きがない。。
少陰病は、寝たい・寝てしまう。つまり、元気がない。

正気が衰えたときの、パターンを示しています。

大青龍湯②は、とにかく体が重い。でも、少陰証のような寝ころびたいとか元気がないとかいう状態ではないということです。

よって、この証における「重」は明らかに水です。越婢湯証とよく似ています。
越婢湯については「傷寒論私見…桂枝二越婢一湯」で詳しく説明しました。

▶越婢湯との比較

▶組成

大青龍湯と越婢湯を比較します。

 越婢湯…麻黄6.石膏8.   生姜3.大棗15.甘草2.
 大青龍湯②…麻黄6.石膏鶏子大.生姜3.大棗10.甘草2. 桂枝2 杏仁40 

比較するとよく分かるように、大青龍湯②は越婢湯とよく似ています。麻黄も石膏も大量に使っています。基本病理は同じとみてよいと思います。越婢湯 (越婢加朮湯) は風熱でしたね。だから越婢湯には桂枝を入れていません。

▶大青龍湯②の病理

大青龍湯②は桂枝が入っているので、風寒であると考えられます。ただし風邪の割合が非常に高い風寒です。しかも風邪の勢いは非常に強い、つまり邪気の絶対量が多い。よって割合は少なくとも寒邪の絶対量もそこそこ多いです。

この強い風寒が肌表を強く侵した。表裏の境界という壁に激突し、勢いあまって壁を越えて影響してしまった。風は軽いので上にある肺に影響した。肺の宣発・粛降・通調は、風邪によってランダムに乱され、水道が停滞したり停滞しなかったりし出した。それが脾の上昇作用に負担をかけ、脾の病証である「体が重い」という症状が出たり出なかったりするのです。

▶表衛と肺、表衛と膀胱

表衛の宣発は肺気が行います。立体的にみると、肺と肺経は一体で、肺経は孫絡という形で毛細血管のように枝分かれし、表衛の宣発をあまねく行います。「肺は皮毛を主る」というのは、この部分です。ただし、表衛の守備範囲は皮毛だけでなく、肌表も含みます。つまり、肌表は肺のテリトリーなのです。

当然、膀胱も表衛に関わりますが、膀胱の場合は腎陽という意味合いが強く、衛陽のもとは腎陽なのですから、肺と意味が重なります。肺と膀胱は子午陰陽で互いに助け合う関係です。肺は前を中心に、膀胱は後を中心に、体の防衛をしているとは言えますが、中心にというだけです。風寒は肺と膀胱に影響しやすいということです。

表現方法を変えるなら、皮毛には皮毛の肺があり、肌表には肌表の肺があり、肌肉には肌肉の肺があり…となります。深い部分を侵せば侵すほど、肺の臓そのものが病むことになり、浅ければ浅いほど、肺経の浮絡を病むことになります。

さて、わずかにある寒邪は、肌表まで侵入できず、皮毛で止まります。これを取るのに桂枝の力が必要なのでしょう。杏仁は、肺気宣通・水道通調です。

石膏を使うのは、越婢湯と同じように肌表に熱があるからです。風邪の勢いが強く、肌表の浅い部分では風邪のままですが、肌表の深い部分 (肌裏) では熱に変化したと思われます。風邪は陽邪で熱にすぐ変化します。

そして肺に影響を与えたという裏の部分でも、熱が悪さをしています。肌表の熱を取れば裏熱がおのずと取れるというレベルなのか、裏熱は裏熱で取らなければならないのか、そのいずれかということにお構いなしに、石膏は肌肉の熱を取ります。肌表の熱は石膏+麻黄で、裏の熱は石膏で、皮毛の寒邪は麻黄+桂枝で、という組成だと思います。姜甘棗は、土を良くすることによって、水を制する働きです。スポンジに水を吸収させるのです。

▶痿病と似ている

こうしてみると、痿病っぼいですね。寒邪は弱くても表に張り付いているので、肌表の熱を発散することができず、余計に熱を激しくしていると思います。急性外感による痿病は、治療して2時間後に完治した経験がありますが、同じような病理でした。

▶侵す範囲が広い

越婢湯は、表から境界を越えて、裏である肺に影響が及んだものでした。
大青龍湯②は、表から境界を越えて、裏である肺 (~脾) に影響が及んだものです。
大青龍湯②の方が裏の侵す範囲が広いです。これは、表が侵された範囲が広いからでしょう。先ほど言うように、皮毛 (寒邪) ~肌 (風邪) までが侵されています。対して越婢湯は、肌 (風熱) に邪気が集中していて、範囲が狭いです。

大青龍湯②は、「広義の表裏の境界」を介して、「狭義の肌肉」まで影響が及ぶからです。

▶38条の大青龍湯との比較

大青龍湯②と38大青龍湯とを比較します。
両者とも強い外邪に襲われたことが共通します。
相違点は、大青龍湯②は風邪>寒邪に襲われたこと、大青龍湯は寒邪>風邪に襲われたことです。
大青龍湯②は風邪が肌表付近で強い熱と化しています。
38大青龍湯はもともと持っていた内熱を強い寒邪が閉じ込めてしまいます。

▶素体をイメージする

▶もともと水邪がある

本条のような証を呈しやすい人は、ふだんはどうなのでしょう。もともと全体の水のめぐりが悪い人です。しかも、大青龍湯のような俊剤を用いるのですから、体力のある人です。これは、前回 (38条) の大青龍湯証でも触れたように、正気が強ければ強いほど邪気が強くなるタイプです。

水の巡りが悪い人で、体力のある人…よく食べよく飲む人です。それでも消化器の症状が出ない。コレステロールが高くなり、内臓や血管に支障が出ても症状が出ない。これには二つの側面があります。
①体が求めていない栄養分を、なぜ求めるのか。
②食べ過ぎているのに、なぜ症状が出ないのか。

▶ストレス食い

簡単にいうと、肝気の進む方向が誤っているのです。肝気の進む方向は、本来ならば健康に向かう方向でなくてはなりません。なぜなら肝気は正気だからです。誤った肝気のもとでは、病気があっても症状に出ません。だから、気づかないうちに悪くなります。正しい肝気のもとでは、体に悪いことをすると不快感が起こります。

飲食が過ぎて症状が出ない人は、一見おおらかに見えますが、実は強い緊張を持っています。飲食することによりホッとし、その緊張を緩めているのです。しかし、普通は飲食というのはそんな風に使うものではありませんね。栄養に過不足がないように補充するのが目的です。この緊張を緩めることが平時の本治法となります。

さらに、この緊張は時にゆるみ、時に強くなります。食べることにより緩み、それをしないと緊張する。その落差が「内風」を生みます。心の波風ですね。これが風邪を引き寄せます。

結果として通調がやられるということは、宣発・粛降も機能低下していたはずですから、営陰の不足がなくとも、表衛がうまく機能していなかった理由を考える必要があります。ぼくは心の波風と考えました。

▶病気は人を導く

このタイプは本来、風湿 (外湿) にやられやすいのですが、ここは風寒ですね。張仲景の生活した地方は寒涼だったと聞きます。季節の変わり目には風邪が強くなりますので、そういうシチュエーションをイメージします。

もし軽い風邪なら、誤った肝気を正しい肝気に戻す力がないのですが、強い風邪なら戻せたのでしょう。強い内風と強い外風。外風は大自然の力です。その大自然から人は生まれました。大自然から生じた風と人から生じた風。2つの風のハザマで、肝気は進む方向を正す。人は生きる道を知る。これは前提として知っておくべきなのですが、病気は体を修理するためにあるのです。

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