気滞証

概念

気滞とは気の滞りです。気とは機能です。

川の流れで考えましょう。流れは気の推動作用です。この流れが土砂や枝などのゴミでせき止められたようになり、うまく川の水が流れない状態を気滞と言います。人体生命のある一箇所が推動できなくなり、「気行不暢・不通則痛」 (脹・悶・痞・痛) の原因になります。

実証です。

“初病在気” (病は気から) といわれるように、病気の初期に見られます。

気滞とは◀正気と邪気って何だろう をご参考に。

原因

気滞の原因は色々ありますが、主なものは、

・ストレス
・食べすぎ
・外邪
・打撲・捻挫
・筋損傷 (ギックリ腰など)    などです。

いろんなものが気滞を作ります。概念が非常に広いです。

気滞の原因で、最も一般的なのは七情内傷 (ストレス) です。肝との関係が密接です。肝の疏泄 (条達) が邪魔されると気滞を生じ、鬱結します。 このように、精神活動の影響を受けやすく、情緒が抑鬱する人、よく怒る人、神経質な人は、気滞証を起こしやすいといえます。

常見症状

胃・胸・腹・脇・腰・子宮・メンタルなど、ある部分に、

・張る (脹)
・苦しい (悶)
・つかえる (痞)
・痛い (痛)    などが自覚されます。

時に軽く時に重く、時に消え時に現れる。
時に集まり時に散じ、ゲップや屁でマシになる。
攻めてきては逃げていくような遊走痛 (攻痛と竄痛) がある。固定痛ではない。

あったりなかったりの気まぐれさ・ガスのような実体のなさ・一箇所にとどまらない遊走性。こういうイメージが気滞です。

気滞は無形の邪気です。有形の邪気 (痰湿・瘀血) であれば、そういう気まぐれさや遊走性はなく、一箇所に固定した症状となります。

多見症状

肝経と気滞

気滞の主な原因は肝気鬱滞です。そのため、足厥陰肝経に気滞を示す症状が多く見られます。

肝病者.兩脇下痛引少腹.令人善怒.<素問・藏氣法時論 22>

・両脇脹痛 (季肋部〜側胸部〜側腹部の痛み) …肝経は期門・章門に流注します。
・胸悶胸痛 (胸が苦しく痛む) …肝経は肺に流注します。
・曖気 (ゲップ) …肝経は胃に流注します。

しかし気滞は、肝の関わりの薄いものもあり、広範な病態でみられます。そこで、 “たとえば” でひとつひとつ見ていきます。

胃痛と気滞

  • 寒邪犯胃…冷たい空気が口から入ったり、冷たい飲食物を摂ったりすると、肺や胃を冷やして内寒を生じます。その内寒が胃を犯します。寒邪には凝滞する性質があり、胃の温煦作用・推動作用を阻害して、気滞を生じ、胃痛となります。
  • 邪熱犯胃…暑い空気が口から入り、肺を熱して内熱を生じます。あるいはストレスで肝気鬱結すると内熱を生じます。その内熱が胃を犯すと、胃の推動作用を阻害して、気滞を生じ、胃痛となります。

邪熱が気滞を起こすというのが、僕はイメージするのに苦労しました。
“蘊郁” (うんいく) という言葉が理解しやすかったのでメモしておきます。

【 “蘊” の字源】
「囚」は人を閉じ込める様子。「囚+皿」は皿に入った温かい食べ物が冷めないようにフタをして熱を閉じ込める様子。「糸」は蚕から取り出した絹糸のことで、「縕」は “古いわた” “奥深い” という意味があります。そこに艹を付けた蘊は、温かい真綿を深く包んで閉じ込めた様子です。

“蘊郁” は熱がこもって気滞を起こす様子をよく表していると思います。臨床に活かすには、イメージがどれだけハッキリできているかがポイントです。

  • 肝気犯胃…ストレスにより肝気鬱結して、横にある脾胃を犯す (肝気横逆) と、胃の推動作用を阻害して、気滞を生じ、胃痛となります。

寒も熱も肝気 (木) も、土がこれを抱きとめます。します。地球も、分厚い土があるおかげで極寒にも極熱にもならずに済んでいます。アルミホイルのように薄っぺらいものだと、ライターの火でもすぐに熱くなったり冷たくなったりしますね。つまり胃土が極端な寒・熱を緩衝材のように抱きとめて “温かさ” “涼しさ” に中和しようとします。抱きとめきれず、中和しきれないと、内寒や内熱が生じます。

外邪と気滞

寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・温邪は、すべて表 (皮膚に近いところ) を犯すと肺気不宣をおこします。

肺主身之皮毛.<素問・痿論44>

肺気不宣は、気滞を生じます。

諸気者.皆属於肺.<素問・五臓生成論>
肺主一身之気.<医門法律>

表証は必ず肺気不宣を起こすので頭項強痛などの気滞を伴います。

外邪って何だろう をご参考に。

打撲と気滞

強く打撲すると、その部分の組織が損傷し、損傷した部分が不通となって気滞を生じます。

例えば強く頭を打撲した直後に発熱することがあります。子供さんでよく見かけます。気滞を生じると、肺気に直接ダメージが来るからで、肺気不宣となって気の防御作用が弱くなり、表証となったものです。

肺は全身の気を周らせる働きがあり、気滞→肺気不宣、肺気不宣→気滞 というふうに密接に関わり合います。

人身之気,禀命於肺,肺気清粛.則周身之気.莫不服従而順行.
<医門法律>

【訳】人体の気は、肺から命令を禀 (う) けて、全身の気を周らせ、それに服従し順行せぬものはない。

腰痛 (ぎっくり腰) と気滞

力をかけすぎて経絡に負担をかけると、そこが不通となって気滞を生じ痛みが出ます。これは腰に限らず、身体各所の筋肉や関節で起こります。以下の2つのパターンがあります。

  • 打撲と同じく、組織の損傷がありますので、すごく重いものを急に持つと “腰の筋肉” という一部分が気滞を起こし不通となります。全身は一つの道のようにつながっているので、一箇所が滞ると、全身的な気滞を生じます。
  • ストレスから全身的な気滞を生じて不通気味になっていたところに、たまたま少し重いものを持った際に腰に負担をかけ、その部分だけがさらなるハッキリした気滞を生じて腰痛を起こす場合もあります。

全身的な気滞と、部分的な気滞と、どちらがウェイトが上かを噛み分けます。

胸痛と気滞

心と肺とは君主と宰相の関係で、一体とも言えます。よって肺に起こった気滞は心に影響し、胸痛となります。

足の厥陰肝経が肺に流注していることからも分かるように、肝鬱気滞は肺気不宣とつながっています。

肺気不宣となると、肺は “貯痰之器” なので痰湿が生じます。また気滞は邪熱を生じます。

脾為生痰之源,肺為貯痰之器。
<証治彙補>明・李中梓

痰湿と邪熱は、それぞれ単独でも胸痛の原因になります。合わさると激しい胸痛になります。

腹痛と気滞

冷えるとお腹が痛くなることがあります。寒凝は気滞を作ります。
便秘でお腹が痛くなることがあります。熱結は気滞を作ります。
食べすぎるとお腹が痛くなることがあります。食滞は気滞を作ります。
裏急後重も気滞が関わります。

脇痛と気滞

ストレスで脇痛 (季肋部痛) が起こることがあります。肝鬱によって気滞がおこり、脇痛が起こります。 以下の気滞の特徴を伴います。

・脹痛…突っ張り、張りを伴う痛み。
・走竄不定…走っては逃げていくような痛み。痛みが出たり消えたりする。
・胸悶不舒…胸の苦しさ。
・曖気…ゲップ

うつと気滞

うつは気が鬱して伸びないから起こります。どんな種類のうつであろうと、最初は気滞から起こります。肝気鬱結 (ストレス) による気滞がほとんどです。

・情志抑鬱…心が抑鬱される
・心煩不寧…イライラして落ち着かない
・脇肋脹満…季肋部から側胸部が突っ張る。
・善太息…よくため息が出る
・曖気…ゲップ
・納呆…食欲不振
・月経不調…生理痛や月経不順

以上の症状が気滞によって起こることがあります。

月経と気滞

女性は肝と非常に深い関わりがあります。肝が情緒と深い関係があることは上段の見出し “原因” で述べました。そして月経ですね。

肝は気と血の “運用” に深く関わります。

肝は血を部下として支配下に治めており、これを蔵血と言います。肝は、部下である血を身体各所 (手・足・目など) に派遣して、各所に力を届けます。それが終わったら戻るよう命じ、そして血をねぎらいます。出向したり帰還したりはスムーズである必要があり、これを疏泄といいます。蔵血と疏泄は表裏一体の関係なのです。

そういう “機能 (=気) ” は、 “物質” として子宮という形で現れる。子宮の血は “ダム” のように蓄えられ、 “生活用水” にも使われるからです。

機能については、東洋医学の「気」って何だろう をご参考に。

つまり、
肝の蔵血…機能
子宮…物質

これは、
砂糖の甘さ…機能
砂糖の白い粉…物質  と同じ関係です。

だから、肝血と子宮が満ちているときは、生理は規則正しく来て、妊娠も安らかです。

もし肝気が鬱結すると、肝血を支配し調整すること (蔵血) ができなくなります。女性生理も気滞が最初の原因になるのです。

・月経不調…生理不順、生理痛、無月経
・妊娠悪阻…つわり
・腹痛…下腹痛
・腫脹
・産後悪露不下
・乳痛…乳腺炎など
・缺乳…母乳が出ない

…などの症状が気滞を原因として起こることがあります。

気象病と気滞

気象病は外邪が関わります。

風寒湿の外邪が経絡の推動作用を阻害すると、気候変動で悪化しやすい関節痛・頭痛・全身倦怠感などになります。

リウマチなどが典型例ですが、この難病も気滞を抜きにして語ることはできません。

あらゆる “証” の出発点

以下に示すように、気滞はあらゆる証に発展分岐してゆく、最初の出発点になります。 “病は気から” ですね。

  • 気滞→気逆 気のめぐりは肝 (疏泄) ・肺 (宣降) ・脾 (運化) が関わります。それらの元締めは腎ですので、気滞は腎 (下) を弱らせます。下はガラガラ、上はギュウギュウになりやすく、上で気滞を形成しやすくなります。
  • 気滞→気虚 滞りがあると、エンジンに負担をかけてそれを弱らせます。気のめぐりのエンジンは先天の気と後天の気のツインエンジンです。
  • 気滞→血虚 気と血は陰陽関係にあります。気が高ぶれば高ぶるほど、血が弱くなります。
  • 気滞→邪熱 気滞とはギュウギュウで緊張を伴います。ギュッと圧縮すると邪熱を生じます。これは自然の法則です。
  • 気滞→痰湿 水は気の推動作用によってめぐることができます。気が滞る=水が滞る。
  • 気滞→瘀血 血は気の推動作用によってめぐることができます。気が滞る=血が滞る。
  • 気滞→積聚 積聚とはガンのことです。気滞・邪熱・痰湿・瘀血、これらの邪気は発生するごとに排除しなければならないのですが、それを後回しにすることも可能です。しかし後回しにし続けると問題 (4つの邪気) が山積し重なり合い複雑に絡み合って、ほどく糸口が分かりづらくなります。これがガンです。そこに気虚・血虚も入り混じり、余計に治りづらい病気になります。

こじれる前に、気の段階で解決する。問題が新しく、浅い段階で片付けておきたいものですね。

気滞の原因についての考察

気滞は、肝と関係が密接です。あらゆる気滞は、 “気滞肝鬱” として肝に影響が及び、肝気が鬱結して、その気滞をより頑固なものにすることがあります。気滞は夜間悪化という特徴がありません。じっとしていると気滞は強くなりそうなのに、どうしてでしょうか。これは五志七情が関わるからだと思われます。寝ている間は五志七情の活動が鈍くなるので、滞りが生まれないと考えるとスッキリすると思います。

もう一度、どのような原因が気滞を作るのか、おさらいしておきましょう。

・ストレス (五志七情の過不足)
・食べすぎ
・外邪
・打撲・捻挫
・筋損傷  

これら全てが、肝気を触発するのですね。

私見ですが、気滞を作る原因は、他にも考えられます。すなわち、

  1. 運動不足
  2. 運動過剰
  3. 夜ふかしと朝寝坊
  4. 夏の活動不足・冬の活動過剰

…です。 “2. 運動過剰” 以外は、現代によく見られる現象で、昔はほとんどなかったはずです。中医学は歴史を重んじるので、この辺の言及がないのでしょうか。一つ一つ説明します。

  1. 運動するとスッキリすることがありますね。体を動かし、気血を循環させ、お腹が空き、美味しく食べ、口から肛門の流れをスムーズにする。そういう生活を続けていると、体を動かすことが滞りなく、楽しく感じられ、おっくうではなくなります。これこそ気が回っている証しです。人間は動物の一種なのだから、運動不足は “自然” ではありません。
  2. しかし、だからといって無茶をして体を無理に動かし続けると、筋肉を損傷します。急に運動しすぎて “みがはいる” いわゆる筋肉痛も、こまかい筋肉の損傷があります。筋肉の損傷は気滞の原因になります。無理をすることも “自然” とは言えないのです。
  3. 夜ふかしと朝寝坊は、自然の気の流れに沿うことができていません。朝→昼→夕→夜→… というサイクルはまさに “自然” の気のスムーズな流れです。起きるのが遅くなる、寝るのが遅くなる…ということは、その流れが遅くなる、つまり気の渋滞です。朝は起きて活動する。夜は寝て休息する。これが一日の自然の法則です。
  4. 同じことが一年の自然の法則でも言えます。春→夏→秋→冬→… というサイクルも “自然” の気のスムーズな流れです。春に日が長くなりはじめて温かくなると活発に活動し、夏にそのピークを迎えます。秋に日が短くなりはじめて涼しくなると活動量が減り、冬にそのビークを迎えます。明るい時間帯 (昼間) に活動し、暗い時間帯 (夜間) に止むようにしていれば、この法則に自然と従うことになります。

人身の気。そして天地自然の気。

我々の体も心も人工物ではありません。自然から生まれ、生まれさせられたものです。天地自然の気の流れに合わせることこそが、気滞という “あらゆるトラブルの原因” を早めに片付けるコツなのかも知れませんね。

自然 (じねん) って何だろう
大自然を眺めてみます。まず目に映る生命、それは草木、樹木です。樹木は静止しているかに見えて、少しずつ成長しています。勝手に、しなやかに、健全に成長しています。成長の向かう方向、それは肯定的であり、健全にして健康です。

参考文献:中国中医研究院「証候鑑別診断学」人民衛生出版社1995

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