理想の文化、実際の経営

大阪松竹座が閉館の運びとなった。古きは平安時代の出雲阿国に始まり、近松門左衛門や坂田藤十郎が活躍した上方歌舞伎、その100年続いた本拠地であった。

上方文化を代表する上方歌舞伎であるが、近年の松竹座では空席も目立っていたという。近松門左衛門の作品に湧いた時代から時は流れ、現代は娯楽の多様化が進み、建物の老朽化や再建築のコストに見合わなくなったのだ。

思えばこの仕事も同じである。562年に日本に伝わった鍼灸は、江戸時代後期まで日本医療の主軸であった。しかし明治維新で医療の座を追われ、敗戦によって消滅の危機に沈んだ。

その混乱冷めやらぬ時代に、鍼は一本で効くという未だかつて聞いたことのない理想を打ち出した鍼灸師がいた。藤本蓮風先生である。その理想を理想論で終わらせず、実際に効果がすぐれたものであるということを示された。一般的鍼灸よりもよく効く、だからたった一本しか鍼をしないのに、患者さんがたくさん集まったのである。

その子どもの世代である僕たちも、先生から多くの学びを受けた。他の鍼灸師からは散々言われた。「そんなの理想論だ。」「そんなのデタラメだ。」最初は下手だから効かない。だから周囲からは総攻撃を受ける。でもあきらめなかった。

そして今、経営は円滑である。理想論が現実の経営成功と一致する。そこには本物の中身が存在する。だから先生から学びを受けた多くの鍼灸師が成功し活躍している。もしそれが、現代の患者さんに効かずニーズに合わないものであるならば、理想論で終わっただろう。

理想論で終わらせない、学問としても術式としても秀逸な鍼灸を見出された藤本蓮風先生の達観と功績は褒めても称えてもまだ足らざるものがある。

閉館とならない理由は、そこに本物の値打ちがあるからである。それは文化的にも、いまの人々にとっても、必要とされる中身で満たされているのだ。

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