パニック障害の発作… 1日に2回治療する

パニック障害のために車にも電車に乗れない。そのためご主人の送迎で週に1回の治療だったが、このままでは改善が難しいと見て、週に2回の治療を勧めた。

しかしそれでは送迎してくださるご主人の負担が大きくなる。そこで、遠方からお越しになる患者さんで実践している治療方法をお勧めした。

1日に2回治療するのである。ただし、1回目治療を終えて、すぐ2回目治療はできない。朝食を食べてすぐに昼食を食べるようなものである。たとえば1回目を10時から始めると、2回目は11時30分からもう一度治療ができる。これを毎週やれば、週に2回の治療ができることになる。実際、週に1回では効かないものが、週に2回にするとグッと効き出すことはいくらでもある。

専門家の方は安易に真似をしないでほしい。望診で、気のスタンバイOKの合図を診る技術があるので出来ることである。その経験をたくさん積んで、僕の場合はこういう時間を開ければいい…というマニュアルができたのである。そのマニュアルは鍼灸師の誰にでも当てはまるとは限らない。みんなやり方が違うのだから、それぞれで判断してほしい。

本症例もそのようにしてから、発作は収まり、スーパーに一人で行けることができ、近距離なら車を運転することもできるようになった。

と、いい流れが出てきていたある日、前ほどでもないがまた発作が起こった。

1回目治療;16時30分から

「昨日からおかしくって、息がしにくいんですハアハア。」

胸が息遣いで大きく動いている。
おでこを触ったり、胸を触ったり、髪の毛を触ったり、肩を触ったりと、落ち着かない。

手足を触ると、非常に冷たい。これは、パニック障害で発作を起こしたときの特徴である。

診察すると…
・白毫に反応。 >> 悪化直線の状態。
・天突に反応。 >> 表証 (表寒証) の状態。
・右陰陵泉に反応。 >> 胆の弱りの状態。
が見受けられた。一度にこれだけの反応が出るのは、あまり経験がない。

「まず、悪化直前の状態にあります。これをこれから治療します。で、それで大丈夫です。まず悪化することはありません。ただし念のため、今から24時間は気をつけてください。何に気を付けるかというと、気を張ることを避けること。喜びすぎ・悲しみすぎ・怒りすぎなどもです。どちらにしても外出できないけど、ましになっても外出はひかえてください。」

>> 悪化直前の脈

「はい、分かりましたハアハア。」

「それから、寒邪に取り囲まれている状態 (表証) になっています。急にひどくなったでしょ? 寒邪に取り囲まれると魔法瓶状態になって中に熱がこもります。その熱が、落ち着きの無さとして症状に現れます。だからまず寒邪を取っていくんですが…。」

>> 表証の説明… 寒邪 (冷え) に取り囲まれた「カゼ」のような病態

「昨日の午前中はいつもどおりだったんですが、昼過ぎから胸がおかしくなって、それからなんですハアハア。」

「その前に、胆が弱くなってる。これを強くしていきますね。胆は、以前に説明したこと、ありましたかね? きもっ玉でしたね。あれこれと気になる要素があったとしても、それをいちいち相手にしていると生命力が分散されてしまうので、胆に生命力を集中させる。胆を強くするための話、おぼえてますか? 」

「はい、おぼえてます。」

>> 胆を強くするための説明

「うん、いまね。胆の弱りの反応 (右陽陵泉) が取れました。もう、胆が強くなってきてるんですよ。おっ、それから、胆が強くなったことで生命力が強くなったんで、取り囲んでいた寒邪 (冷え) が逃げましたね。寒邪といっても実は弱っちいやつなんですが、生命力がもっと弱いんで、なめて取り囲むんですよ。でも、弱い者いじめするやつが弱いのと一緒で、相手がちょっと強くなっただけで逃げていくんです。」

>> 隠れ表証と大阪城

「そうですか。」

相変わらず、おでこを触ったり肩を触ったりしている。
しかし、胸の息遣いの動きが止まった。呼吸が静かになっている。

「息苦しさは、おなじように息がしにくいですね?」

「……あ ましです。でも落ち着かない感じはあります。」

神闕に打鍼。

これからまだ悪化しようとする勢いを止めつつ、改善を期す。

息は正常になった。
落ち着かない様子 (手であちこちを触る) はまだある。
手足は冷たいままである。

2回目治療;18時から

・白毫に反応なし。 >> 悪化直線の状態が改善。
・天突に反応なし。 >> 表証 (表寒証) の状態が改善。
・右陰陵泉に反応なし。 >> 胆の弱りの状態が改善。

あらゆる所見が改善している。当たり前である。さっき良くしてあるからだ。

さっきの治療を終えてから、まだ一時間も経っていない。そのわずかな間に、体に悪いことをすることはまず無い。そういう状態で2回目治療をやると、もう一段の上乗せができる。これが一日2回の治療のメリットである。

「いま、落ち着いているから、ちょっと原因を考えましょう。急にひどくなった、なにか思い当たるふしは?」

カゼを引いていると、マシな気がするんです。カゼが治ってから酷くなった気が…。」

「おお、それはいい着眼ですね。なぜカゼでましになると思いますか?」

「なんででしょう。」

あきらめが付くからです。買い物にも行けない、子供の習い事の発表会にも行けない、友達の家にも遊びに行けない。カゼだからしかたない。だから行かない。だから消耗しないんです。どうですか? 友達の家に遊びには? 」

「おととい、行きました。その前も子供といっしょに…。私のパニックのことをよく知ってくれている子なんで、しんどくなったらすぐ帰れるんです。」

「スーパーに行くとしんどくなりますね。友達の家ならしんどくならない。でもね。使っている体力はおんなじで、でもスーパーは不安だからその場でしんどくなる。友達の家は安心だからその場でしんどくならないが後でしんどくなる。それだけの差なんです。外出をすれば、体力 (生命力) はどっちの場合も同じように消耗していると考えてください。単純に活動量で考えればいいです。」

「どこにも行かないでいると、ずっとこのままになってしまうような気がして…。」

“どこにも行かない” とするんではなくて、 “ほんの少し” を控えましょう。10できると思えても、8ぐらいでね。少し早めに帰るとか、その、ほんの少しが大きいんです。表面張力しているコップの水が、あふれて周囲を濡らす原因は、ほんの少し水を足したからです。ほんの少し控えるか控えないかが、大きな差を生んでいきます。」

パニック障害は、血虚が根本的原因である。血とは燃料である。車で言えばガソリンである。それが足りなくなるのは、しなくてもいい急発進や遠出を、今までやり過ぎたからである。燃料の補給 (食養生と早寝) を怠ったからである。もうすでに足りなくなっているのだから、無用のドライブは控えなければならない。極端に控えると生活ができなくなるので、ほんの少しずつ控える。するとチリツモで少しずつ血は充実してくるのである。燃料の補給を怠りさえしなければ。

パニック発作は急ブレーキである。これ以上ガソリンが減ると危険だ! という反応がいきなり起こる。
不安だと早めにブレーキを踏むだろう。不安がないとブレーキを踏むのが遅くなる。だが、どちらにしてもガソリンは減る。
スーパーでは不安なのでその場でパニックが起こる。友達の家では不安がないのでパニックが起こらない。だが、どちらにしても血は減る。

「分かりました。」

体は、症状を出すことによって上手な生き方、正しい生き方を教えようとしてくれている。ぼくはその通訳である。僕の通訳が正しく、それを患者が理解ができたなら、症状は消える。一段階成長したからだ。成長すれば体は必ず褒めてくれる。一段階成長したことを、症状をマシにして教えてくれる。

百会に鍼。

抜鍼後、もう落ち着いている。手で体のあちこちを触っていない。

「おっ、手、温もってるやん。」

「はい、足も温まってきました。」

鍼を打つまで、氷のようだった手が、ポカポカである。これは、胸の深い所にこもっていた熱、 …この熱が焦燥感・不安感・いても立ってもいられない落ち着かなさの原因になるのだが… この熱が手足の末端にまで伸びてきて指先から逃げているのである。だからパニックがクールダウンしたのだ。

手足の末端まで伸ばす力を生み出したのは、血 (燃料) である。

その後、ベッドで寝たまま10分休憩。
静かに寝ている。

笑顔であいさつして帰っていった。


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