不安障害

57歳。女性。

高校生の頃に不安障害を発症し、それが今も続いている。午後4時頃から特に不安定になる。
焦燥感・イライラ・不安感が主である。

その他、
・リウマチ (右肩上部・手指の痛み・CRP+)
・便秘
・目や鼻のアレルギー的な炎症
・めまい

過去、形成外科で頬をふっくらさせるためにヒアルロン酸様のものを注入したが、それが今になって不自然な形となり、「見た目の問題」が大きな主訴となっている。ただし、僕の目には不自然さは全く感じられない。顔というものは誰でも左右で少しは違いがあるので、言われてみればそうかな?とも思うが、正直よく分からない。ヘバーデン結節もあり、手指の痛みよりも見た目の変形をつらく感じているようだ。女性のことでもあり仕方ない面もあるかと思うが、容姿を鏡に写して落ち込み、絶望することがよくある。

また、非常に暑がりだが、手足は冷え切っている。これは当該患者の多くの不定主訴の根幹をなすものであり、ぼく的にはもっとも改善すべきものとして注目している。初診は去夏だったが、手は温まるようになったが足の方は夏でも非常に冷たい状態が改善できなかった。当然、冬になった今もそれは同じである。診察ベッドではキャミソールと短パンで、タオルケットをかけなくても寒がることはない。果物を好んで摂取するが、これは口・喉・胸の熱を冷ましたい無意識が働くためである。

寒熱が錯綜するが、基本は熱である。非常に多弁であり早口である。これは熱の陽的な側面である。暑がり・目鼻やリウマチの炎症・便秘もそれが関わる。熱は上に昇りやすく、気の上衝が強く見られる。痰湿を伴うめまい・便秘・頭部や指先に症状が出やすいのも、気の上衝が大きく関わる。

午後4時からの症状の悪化は、潮熱である。陽明潮熱 (腸胃実熱) と陰虚潮熱 (陰虚内熱) を兼ねたものである。

間食は腸胃の火に油を注ぐ行為になるのでできるだけひかえるように指導している。すなわち、間食によって腸胃の実熱が盛んとなり、下からそれが胸中の熱 (肝鬱による焦燥感) を煽るのである。

また夜ふかしの習慣があるので、できるだけ早く就寝するように指導している。夜の睡眠は「陰」を養う。陰とは「静」すなわち「やすらぎ」であり、燃え盛る炎 (陰虚内熱) にとっては消火用水のようなものである。この水 (夜の睡眠) が足りなくなると、とうぜん焦燥感が大きくなる

初診以降、週に2〜3回の治療を継続し、当初は強く訴えていた右肩のコリや痛みは訴えなくなった。また便秘もスッキリ出る日が増えて喜んでおられた。間食や夜ふかしによく注意しておられた。

調子が良くなると、油断が生じる。

たが、この秋からみかんの間食が続き、めまいと目鼻の炎症が悪化、それが緩解しかけたころに外出で帰宅が午前になる日があってまた悪化、さらに夜食としてナッツとみかんを食べて悪化が止まらず今日に至る。鼻をグズグズいわせる音がカーテンの外から聞こえている。

「めちゃくちゃ調子悪いんです! 通じもぜんぜん出なくて気持ち悪いし、目もかゆいし鼻はムズムズするし、めまいで脳梗塞になるかもしれないと不安だし、右肩はマシになったかなと思ったんですけど、またなんか気になるんです!」

「ふん、ふん。そうですか。」

「あと、リウマチって言われているんですけど、本当はリウマチじゃないんじゃないかって思うんです。ヘバーデン結節とリウマチって何が違うんでしょうか?」

「東洋医学的には別けて考えませんが、一般的にはリウマチ因子・抗CCP抗体や関節の腫れ痛み、CRP陽性などがリウマチの特徴ですね。リウマチ因子が出なくてもリウマチと診断される場合もあります。だからまあ、そこはあまりこだわらなくてもいいかなと思いますが…。」

「あと、これも今まで言ってなかったんですけど、形成外科でほっぺに注入してることは言ったと思うですけど、それがコメカミまで来ていて、デコボコしているんです。それが嫌で嫌で仕方ないんです!」

「そのデコボコ、今もありますか? 」

「はい、ここに。」

「どれどれ、うーん、触ってもよく分からないなあ。」

「見た目では分からないと思うんですけど、すっごく気になるんです! 」

「気になるかー。うん、それでいい。そうや、 もっと気にすることです! いや、もっと気にせなあかんことがある!」

「え?」

「何やったっけ。」

「さあ、何のことが分からないです…」

「これね。原因があるんですよ。なんやったっけ。原因。」

「原因? さあ、何でしたっけ。」

「ナッツとみかん。夜に食べたでしょ。あれが原因。まえ言ったね。」

「あー、あれか…。」

他人の目を気にせず、
自分 (間食と夜ふかし) に目を向ける。

「一度炎症が起こると、引くのにはそれなりの時間がかかります。たとえばハチに刺されたら、腫れが引くのに時間がかかりますね。で、どんどん腫れが大きくなって、もうそれ以上腫れなくなったら、それから先は引いてくるんですよ。」

「ああ、そうですね。」

「でも、引くのを待ちきれずに、いじくり回したらどうなる?」

「また腫れますね。」

「そうやねん。だからあまり気にしないほうがいい。そしたら自然に治るんです。でもね、 “気にするな” っていうのは、言っちゃダメなんですよ。気にするなって言っても、気になるものは気になるじゃないですか。」

「そうなんですよ!」

「気にすべきはね、先日のナッツとみかんです。それがなかったら、こんな風にはなってない。でもね、失敗って大事なんですよ。失敗するから成長する。成長するから結果が出るんですね。ただし、失敗を成長につなげるには条件がある。その条件とは、 “自分を見つめる” ことです。ああ、先生に間食は良くないって聞いてたのにしてしまったなあ… これって自分を見つめているんですね。」

「ぜんぜん頭になかったです。」

「ほら! いま、軸ができたんですよ。失敗が成功にひっくり返る回転軸ですね。それが “自分を見つめる” ってことです。いま〇〇さんは自分を見つめておられる。だからいま急にきれいな眼になりました。それでいい、その調子です。自分を見つめるんです。症状を見つめたらあかんのです。症状は自分じゃない。だって、コントロールできないでしょ? 今日はちょっとめまい起こしとくか…とか、今日はめまい止めとこう…とかね。」

「ははは、そうですね。」

「症状はコントロールできない。つまり、症状は他人さんなんです。他人さんがなんかひどいことをしてきたとしても、それはどうにもできないんですよ。他人は相手にしないほうがいい。そういう奴は、相手にすればするほど嫌なことをしてくる。だから、自分を変えるんです。そんな変な人に会わなきゃいいんでしょ? 会うか会わないかは自分でコントロールできる。自分を変える。これが “反省” です。自分と向き合うことですね。」

病気の症状は「他人」と同じ。だからコントロールしにくい。
病気の原因 (生活習慣) は「自分」と同じ。だからコントロールしやすい。

「なるほど…。」

「そこに、もっと神経質になれたらいいですね。あることに神経質になると、他のことを忘れてしまうという性質が人間にはあります。これをうまく利用すればいい。コントロールできない “症状” に神経質になるのではなく、コントロールできる “自分” に神経質になる。これが、病気を健康にひっくり返す回転軸をつくる秘訣です。」

「他人」を変えようとせず、「自分」を変える。

多弁さが影をひそめた。

眼に落ち着きと集中力が生まれた。黙して治療を待つ。

百会に刺鍼。

夏でも冷たかった両足がポカポカに温まる。

この冬、今まで一度もなかったことが起こった。

病気とは不安なものである。
というより、人生とは不安なものだ。僕もそうである。

どうせ不安なら、どこを不安に思うか、その視線がどこを向いているのか。

誰にも言える課題ではないだろうか。

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