リウマチ消失

49歳。女性。2022年5月17日初診。
というか、僕の妻である。

  • 数週間前から、手指が痛くて握れない。とくに朝がひどい。左>右。
    最も痛いのは左小指、次いで左環指。
  • 左手指は、母指 (第1指) IP関節、中指 (第3指) ・環指 (第4指) ・小指 (第5指) のDIP関節とPIP関節、さらにこれらすべてのMP関節が痛い。
    右手指は、環指・小指のDIP関節とPIP関節とMP関節が痛い。
    (下図参照)
  • 手指・足趾の腫脹とむくみがある。 特に朝が顕著。手指>足趾。
    朝は手足以外に体のあちこちが痛い。
  • 手に力が入らない (筋力低下) 。経過観察中、包丁を3回ほど落とした。千枚通しを落として足に刺さったこともあった。右手は左ほど痛みがなく物が握れるので、力が入らないということがよく分かる。左は、そもそも痛くて握れないので力が入らないかどうかは不明である。
  • 手指が痛いときは、その指だけが必ず冷たい。
  • 足関節が痛くて歩く時、朝と夕方は足を引きずる。右>左。日中はまし。
    朝は立てないので這って歩く。

第一子出産後 (26歳) のときにも両手指全指の全関節が痛くなったが、ぼくの治療で一年以内に治癒した。関節の痛みはそれ以来である。

この4月から長女 (第一子) が就職して寮生活を始めた。不安感や気分の落ち込みがある。
また、閉経が近い年齢である。
朝の気温の低いときに手足ともに痛みが激しい。

5ヶ月 (週に2回にしてから3ヶ月強) の治療で、痛み・腫脹・筋力低下が完全に消失した。その後、1年を経過するがそれらの再発はない。

病変遷延中に生じた結節 (足の甲;リスフラン関節) の自然消失も、良好な経過を示すものである。

以下、カルテの内容から考察を行いたい。

週に一度の治療で効かない

5月17日 (火)  関元
5月24日 (火)  関元 気温が高いと痛みがまし。
5月31日 (火)  関元 右少沢 
6月10日 (金)  百会 今日から月経。頭痛がある。
6月17日 (金)  百会 気持ちが落ち込む。
6月21日 (火)  百会 落ち込みマシ。
6月29日 (火)  関元  

ここまで週に1回のペース (妻の希望) で治療を行ってきたが、だんだん痛くなってきているので、週に2回のペースにした。進行性で不可逆性の側面を持つリウマチを、食い止め元に戻すには、かなりの力量が要る。週に1回では食い止める事ができず、週に2回で元に戻す力を得た。

加えて、養生の励行も大きかった。ゾンビのように歩く妻の姿を見て、また痛そうに包丁や鍋を持つ姿を見て、「リウマチは治らない」と次女が泣いて心配し出した。「夜9時までに床に就いた方がいい」と僕が言うと、次女が率先して9時までに寝るように努力してくれた。これ抜きに本症例を語ることができないほど、この行動は大きかった。家族みんなが9時に寝るなどあり得ない。こういうあり得ないことが土台となって、奇跡というものは起こる。

早く寝なさい!
「早寝早起き」について、東洋医学的に考察する。《黄帝内経・靈枢・營衛生會》に言及がある。症例を添えつつ、《靈枢》の記載に基づいて説明する。ポイントは子の刻 (23時〜1時) である。

9時を目標に寝よう!という習慣は、治癒から1年を経過した今も、家族みんなが続けている。
週に2回の治療も、ほとんど欠かすことなく続けている。

週に2回の治療を始める

7月4日 (月)  百会 長女のことが心配。中枢に実の反応。
7月5日 (火)  百会 手の痛みは楽。左小指はあまり変わらない。朝の腫脹あり。
7月8日 (金)  関元 また手が痛い。7月4日よりはマシ。両足は朝のみ痛く、30分でおさまる。
7月12日 (火)  百会 手足とも前回と同じ。巨闕愈を中心に督脈すべてに熱の反応。
7月15日 (金)  百会 右少沢 (刺絡)  左手は同じ。右手はマシ。ただし力が入らないのは同じ。足同じ。
7月19日 (火)  百会 朝の体の痛みマシ。足の痛みもマシ。手は同じ。

右少沢は刺絡 (瀉法) である。正気が十分でないと瀉法はできない。週に2回の治療で正気が補われて、邪気を押し出す力が出てきたことを意味する。邪気を、浅い所に追い込みつつあるのだ。

ぼくとしては、まず足の痛みが良くなって欲しい。足が使えず歩けなくなるということは、生命力の土台が失われることになるからである。手は使えなくとも、足さえ使えれば体力は増す。

実際、足の痛みの改善が、手よりも先行して見られた。

邪気を追い込む

7月22日 (金)  百会 右少沢 7月21日から月経。頭痛。
7月26日 (火)  百会 おとついの朝寒かった。手足の痛みきつい。朝の体の痛みもきつくなった。
7月29日 (金) 百会 右豊隆 体の痛みマシ。足痛みなし、腫れて硬い感じのみ。
8月2日 (火)  百会 朝の体の痛み・足の痛みマシ。動けるようになる時間が早くなった。手は同じ。
8月5日 (金)  百会 右少沢 朝の体の痛み・足の痛みマシ。朝の手の痛みもややマシ。
8月9日 (火)  百会 前回と同じ状態。
8月12日 (金)  百会 右三陰交 同じ状態。
8月16日 (火)  百会 右少沢 同じ状態。
8月19日 (金)  百会 同じ状態。

7月21日からの月経以降、手の痛みはあるものの、足の痛みは大きく改善した。
その前の7月19日に、月経前の悪化が見られなかったのが非常に大きい。
8月19日、次の月経はまもなくであるが、ここでも月経前の悪化が見られない。これは順調な経過をしめす重要要素である。

使用穴処の記録を見ると、豊隆 (痰湿) ・三陰交 (瘀血) ・少沢 (邪熱) と、あらゆる邪気を取ろうとしている (取れる状態にある) ことが分かる。

痰湿は朝の悪化の原因。
瘀血は動かしたときの痛みの原因。
邪熱は炎症や腫脹の原因。

月経を機に

8月23日 (火)  百会 同じ状態。8月22日から月経
8月26日 (金)  百会 右三陰交 同じ状態。
8月30日 (火)  百会 右三陰交 前回治療後から手の痛みマシ。足の痛みは変わらず。
9月2日 (金)  百会 右三陰交 手の痛みマシ。足の痛みは変わらず。
9月6日 (火)  百会 右豊隆 ここ2日間、右腕中心にふとんを着ずに寝て、寒さで右腕の痛みで目が覚める。右肘から手首が痛かったが、ふとんを着ると治まった。
9月8日 (木)  百会 右豊隆
9月13日 (火)  関元 右豊隆 一番ひどい時を10とすると現在は3くらい。
9月16日 (金)  百会 前回と同じ状態。
9月20日 (火)  百会 台風で朝の痛みが少し増したが、昨日から回復し、前回と同じ状態。

前々回、前回に引き続き、悪化なく8月22日の月経を迎え、月経以降、さらに痛みが大きく改善した。
そして9月20日の月経前に、悪化していない。
このように、順調な経過をたどる女性の場合は、月経ごとに改善していく。これは僕の治療と本人の養生で体の状態が良いからこそ、起こる現象である。
逆に、月経前に悪化し、月経開始後にそれが改善しない…を繰り返すと、月経ごとに悪化していく。リウマチに限らず、いろいろな病気で言えることである。

三陰交・豊隆で、痰湿や瘀血といった実体のある邪をどんどん追い込んで取り去ることができている。リスフラン関節の結節 (上画像;9月27日撮影) は、全身に遍満する痰湿が氷山の一角として顔を出したものである。痰湿がまず塊を作り、それが長期化すると瘀血になって塊がカチカチになる。本症例では表面は痰湿 (柔らかい) で、奥はすでに瘀血 (硬い) の状態であった。かなり症状がマシになってきたので、このような画像をとる余裕が出てきたのである。

黒くて臭い大便

9月27日 (火)  百会 今日から月経
9月30日 (金)  百会 28日は生理痛 (後頭部痛) で一日中寝て、翌日夕方に治まる。今日、黒っぽい大便。どぶくさい臭い
10月4日 (火)  百会 (出血)  手の痛みがマシ。足の痛みは変わらないが、そう痛くない。
10月11日 (火)  百会 右三陰交 生理は9/27〜10/3で終わっていたが、10/6〜10まで黒っぽい出血があった。通常の月経の5日目くらいの量。
10月13日 (木)  百会 (出血)  今朝は手足の痛みはまったくない。こわばり、むくみは少しあった。
10月18日 (火)  百会 右三陰交 手足の痛みなし。腫脹・硬さなし。
10月21日 (金) 百会 右三陰交 痛み等すべてなし。
10月25日 (火) 百会 右三陰交 痛み等すべてなし。
10月21日 (金) 百会 右三陰交 痛み等すべてなし。調子いい。

またもや月経を皮切りに、堰を切ったような改善のビッグウェーブである。

黒っぽい大便は、瘀血の排泄を意味する。
どぶくさい臭いの大便は、痰湿の排泄を意味する。

これを機に諸症状は消失した。

以降、黒くて恐ろしく臭い大便は、月に1〜2回のペースで出続けた。ちょっと嗅いだことのない臭さである。痰湿とは臭いのである。それを体の隅々から肝臓に集め解毒されて、胆管から胆汁として腸に排泄しているのである。

胆汁とデトックス… 朝食は一口でも
朝食を取らない人が増えましたね。一昔前は小学校でも「朝ごはんを食べましょう」と指導していました。朝ごはんの必要性について、「胆汁」をキーワードに考えてみましょう。

そういう現象であることを僕はよくわかっているので、トイレが臭い度に深呼吸して味わったものだ (いいにおい) 。異臭を放つ大便は2023年の6月ごろまで続き、その後は完全に無くなった。邪が出切ったのだろう。

気がついたら、リスフラン関節の結節 (痰湿と瘀血) も、完全に消えていた。 (上画像;2023年5月)
この結節は、まだカチカチにはなっておらず、すこし弾力性があった。カチカチになるとこれは瘀血であり、取ろうとしても非常な労力と時間がかかる。柔らかければ痰湿であり、瘀血よりは取りやすい。この結節は、痰湿から瘀血に移行しようとする段階だっただろうか。これなら行けると思ったので、写真に撮っておいたのである。

全身の痰湿・瘀血が取れたので、結節も消失した。この結節は、全身に遍満した臭い臭い痰湿の、真っ黒に固まった瘀血の、氷山の一角だったのだ。

人間というものは、こういう邪悪な分子を日々の生活で知らず知らずにためこんでいるものである。それを、精算してきれいにする人もあれば、一生持ち続けて苦しむ人もいる。50歳前後はその分岐点になることが多い。

リウマチ…東洋医学から見た9つの原因と治療法
東洋医学では、リウマチをおこす原因は2つに大別できます。それは、「外感」と「内傷」です。外感は、気象変化による病因のことで、たとえるなら敵軍です。内傷は、たとえるなら城の守りを弱らせる内部の混乱…城そのものの問題です。

関節リウマチ診断基準に該当

医療機関を受診していないが、以下のリウマチ診断基準と照らし合わせて、妻はリウマチであったことが推定される。

以下の基準で、合計6点以上となれば、関節リウマチの診断となる。

2010 ACR/EULAR関節リウマチ分類基準

【腫脹または圧痛のある関節数 】
大関節1カ所                  …0点
大関節 2~10カ所                …1点
小関節1~3カ所(大関節罹患の有無を問わない) …2点
小関節4~10カ所(大関節罹患の有無を問わない) …3点
11カ所以上(1カ所以上の小関節を含む)     …5点

※大関節とは肩、肘、股、膝、足関節を指す。
※小関節とはMCP、PIP (IP)、MTP (2-5)、手関節を指す。
※変形性関節症 (OA) との鑑別のため、DIP関節、第1CM関節、第1MTP関節は除外する。
※上記以外の関節(顎関節、肩鎖関節、胸鎖関節など)を含んでも良い。

【自己抗体】
RF陰性かつ抗CCP抗体陰性      …0点
RF低値陽性または抗CCP抗体低値陽性 …2点
RF高値陽性または抗CCP抗体高値陽性 …3点

※RFと抗CCP抗体は正常上限以下を陰性、正常上限以上で正常上限値の3倍以下を低値陽性、正常上限値の3倍以上を高値陽性として採点する。

【炎症反応】
CRP正常かつESR (血沈) 正常  …0点
CRP異常またはESR異常 …1点

【症状の持続期間】
6週未満 …0点
6週以上 …1点

本症例との比較

本症例の関節の所見を、図に示す。

計22箇所あり、 “11カ所以上” という条件を満たすため、5点。
5月17日初診で、週に2回の治療を開始した7月4日時点で少なくとも7週を経過しており、 “6週以上” という条件を満たすため、1点。

合計6点となり、関節リウマチに該当する可能性が極めて高い。

手の関節の名称

本症例では、

左手指は、母指IP関節、中指・環指・小指のDIP関節とPIP関節とこれらすべてのMCP関節 (MP関節) が痛い。
右手指は、環指・小指のDIP関節とPIP関節とMCP関節が痛い。

また、左手指は、母指IP関節、中指・環指・小指のPIP関節とこれらすべてのMCP関節に腫脹があり、むくみと硬さを自覚する。
右手指は、環指・小指のPIP関節とMCP関節に腫脹があり、むくみと硬さを自覚する。
腫脹の所見は、ACR/EULAR関節リウマチ分類基準における関節の条件に該当する。

足の関節の名称

本症例では、

左足趾、右足趾ともに、すべてのMTP関節、リスフラン関節と足関節が痛い。

また、左足趾、右足趾ともに、すべてのMTP関節、リスフラン関節と足関節に腫脹があり、硬くて動かせない。腫脹の所見は、ACR/EULAR関節リウマチ分類基準における関節の条件に該当する。

悪性リウマチ (指定難病46) に肉薄

本症例は、冒頭の画像で示したように皮下結節 (リスフラン関節部の骨隆起) が認められる。

また本症例は、千枚通しのような軽いものを落としたり、包丁を落としたりなど、筋力低下が見られた。これは、以下の “運動障害を伴う多発性神経炎” の可能性がある。

関節リウマチの場合、抗体が組織を攻撃してそれが末梢神経にも及ぶとそこにも炎症が起こる。手足の末梢神経は運動や感覚をつかさどるため、そこが障害されると、手足の力が入りにくい・物をうまくつかめなかったり落としたりする・歩きづらい・腕を上げにくい…などの運動障害 (筋力低下) や、手足がしびれる・熱さ冷たさを感じない…などの感覚障害が起こる。

また本症例は、痛い指だけが冷たい、というレイノー現象 (抹消に血が届かない) が見られた。仮にこれが進行すると、下記 2.の “皮膚潰瘍又は梗塞又は指趾壊疽” になる可能性がある。

関節リウマチの場合、抗体が組織を攻撃してそれが血管に及ぶと血管炎を起こす。抹消動脈が炎症を起こして閉塞すると、組織に血液が届かない「虚血状態」となって組織が破綻する。だから潰瘍・梗塞・壊疽・壊死などが指などに起こるのである。もちろんレイノー現象もその病変の一部である。
関節リウマチによる血管炎を、リウマトイド血管炎という。このような血管炎は、全身性血管炎型と末梢動脈炎型に分けられるが、本症例で可能性のあるのは後者である。

本症例は臨床検査を受けていないため不明だが、さらにもう1項目が加わることで悪性リウマチ(指定難病46) にかなり肉薄する。

悪性リウマチの本邦診断基準

2010ACR/EULAR分類基準を満たし、以下のいずれかに該当する。
(1) 臨床症状3項目以上を満たす。
(2) 臨床症状1項目以上と組織所見がある。

【臨床症状】
1.多発性神経炎:知覚障害、 運動障害いずれを伴ってもよい。
2.皮膚潰瘍又は梗塞又は指趾壊疽:感染や外傷によるものは含まない。
3.皮下結節:骨突起部、 伸側表面又は関節近傍にみられる皮下結節。
4.上強膜炎又は虹彩炎:眼科的に確認され、 他の原因によるものは含まない。
5.滲出性胸膜炎又は心嚢炎:感染症など、 他の原因によるものは含まない. 癒着のみの所見は陽性にとらない。
6.心筋炎:臨床所見、 炎症反応、 筋原性酵素、 心電図、 心エコーなどにより診断されたものを陽性とする。
7.間質性肺炎又は肺線維症:理学的所見、 胸部X線、 肺機能検査により確認されたものとし、 病変の広がりは問わない.。
8.臓器梗塞:血管炎による虚血、 壊死に起因した腸管、 心筋、 肺などの臓器梗塞。
9.リウマトイド因子高値:2回以上の検査で、 RAHAないしRAPAテスト2560倍以上(RF960IU/m以上)の高値を示すこと。
10.血清低補体価又は血中免疫複合体陽性:2回以上の検査で、 C3、 C4などの血清補体成分の低下若しくはCH50による補体活性化の低下をみること、 又は2回以上の検査で血中免疫複合体陽性(C1q結合能を基準とする. )をみること。

【組織所見】
皮膚、 筋、 神経、 その他の臓器の生検により小ないし中動脈壊死性血管炎、 肉芽腫性血管炎ないしは閉塞性内膜炎を認めること.

まとめ

妻の症例であり、一般とは比較しにくい面もあろう。

しかし、放っておけば本当に悪性リウマチ (指定難病46) になるかもしれなかった。

家族のこういう危うい場面を、今まで何度も乗り越えさせていただいた。それは、まったくこの医学のおかげである。家族だからこそコントロールしやすい面があり、家族だからこそやりにくい面もある。家族であろうが他人であろうが関係なく、悪化の勢いある病気を食い止め鎮静する力を、中国伝統医学は持ち合わせている。

リウマチの完治例
リウマチの中医学的な症例検討である。鍼灸を用いた。CRPが正常値となり、医師から完治と告げられた症例である。両手指・両手関節・両肩関節・左膝関節両手指・両手関節・両肩関節・左膝関節。特に左手指の第2・3・4指のこわばり・痛み。

長女のアトピーや体調不良による不登校寸前の状態、また次女が全身麻痺で全く動けなくなった時は本当によく切り抜けたものだった。思い出すたびに戦慄を禁じ得ないが。

全身麻痺 (痿病) の症例
中医学での表証は、あらゆる奇病と関連する可能性を持つ。本症例は急性の痿病であり、全く筋肉が動かせない状態が全身に及んでいたが、表証を撮ることによって速やかに回復した。表証とは何かを考えつつ症例を検討したい。

そういう修羅場をすぐそばで見てきた妻だけに、そしてことごとく乗り越えてきたことを知る彼女だけに、本症例において一度も病気に対する不安の表情を浮かべたことがなかった。

安心する。

この一見何でもないようなことが、難病をも薙ぎ払うほどの力を持つ。この一番大切なことを忘れ去り、不安を助長するようなものは医療ではない。

僕を信じてくれた。まかせてくれた。
妻も、子どもたちも。

あれから一年を過ぎた。

当たり前のように、台所で家事をする音が聞こえる。

今はただ、これだけ危険な方向に向かいつつあったリウマチと思しき病態を、今は平和で談笑しながらいただく夕食時に、僕の帰りを待ちつつ作ってくれたこの夕食を前に、夢であったかのように思い出すのである。

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