断食 (ファスティング) と酵素… 自然って何だろう

いつもありがとうございます。質問があります。
ここ10年ほどで流行っているファスティング (酵素ドリンクを使った主に3日断食) は、東洋医学でどのような説明ができますでしょうか。先生の見解があればお教えいただきたく🙏
断食は肝臓を休める、という意味でも良いのかなとか、
でも酵素ドリンクちょこちょこ飲んでると逆に意味がないのかな、
など、素人ながら考えております。

東洋医学をいっしょに勉強しよう! より

かつて病弱で、いま流行っていることは一通り経験があります。

朝食がわりに酵素ドリンクは、12歳の頃 (1980年頃) から何度も試しました。
マクロビは18歳から一年間、厳行しました。圧力釜を自分で買いに行って…。
早熟でしょ?
いろいろ試しましたが、今は無縁です。
そんななかで、淘汰に耐えて残っているのはウォーキングだけです。16歳のときに体に良いと聞いて毎日5〜10kmやっていました。通院中の患者さんに必ず指導します。

患者さんにお勧めしている内容は 自分でできる4つの健康法 …正しい生活習慣を考える に、すでにまとめてあります。体にいいと思うものは全部勧めます。これに載せていないものは、お勧めできないものであると考えてください。

自然って?

そういう遍歴の中から、最終的に得た確信があります。自然であるべきだ。

そして自然とは何か、それを深く考え続ける半生でもありました。

自然 (じねん) って何だろう
自然を眺めてみます。まず目に映るのは生命です。それは草木、樹木です。植物は静止しているかに見えて、少しずつ成長しています。勝手に、しなやかに、美しく健全に成長しています。成長の向かう方向、それは肯定的であり、健全にして健康です。

人間は自然です。人工物ではありません。自然によって生まれさせたものである以上、自然からはずれたことをするならば、自然な状態 (健康) ではいられなくなります。

酵素ドリンクは、自然の果物や野菜などに、自然に付着する乳酸菌 (善玉菌) などを培養し、それらが自然由来の酵素を分泌して、それら植物を自然発酵させたものです。だから自然だ!
…とは言いません。

自然から生まれた我々は、自然から与えられたものを頂き、命をつないでいます。自然から奪うのではなく、自然からいただくのですね。それが自然だと思いませんか?

自然からいただく。そこに必ずともなうのは「感謝」です。いただくのなら感謝する。それは当然のこと、自然なことです。

その感謝に、必ず伴うのが「味わう」ということです。ああ、おいしい。よく咀嚼して味わう。当たり前のことですね。味わってこそ、自然が与えてくれた恵みに思いを馳せることができる。それが自然というものです。

瞳をとじて白米を
感謝は体にいい。その理由は、人間というものが感謝されることを好み、感謝されると元気になるからだろう。体も人間である。だから体も元気になるのだ。ただし感謝は難しい。だが、誰でもできる簡単な方法が食事の摂り方で得られる。

感謝は自然です。この自然な行為を始めた患者さんが、自然な姿 (健康) になってゆく姿を、ぼくは臨床でたくさん見てきました。そのなかには、奇跡と呼べるものが多く含まれています。

その自然なことが、もっともやりにくいもの。何でしょう?
…それが粉末やエキスなどの加工品です。体に良いという、ただそれだけの理由で、グッと一呑みにする。こんな変な食べ方をするのは、地球広しといえども人間だけです。

ぼくは、すごく不自然だと思います。

これは「いただく」とは言えない。「奪い取る」である。いや、それならまだしも、その味にすら関心がないとは、命を奪った相手に対して失礼ではないのか。効能さえ得られればいい。栄養さえ得られればいい。それが金目当ての強盗と同じならば、動物にすら及びません。

「食」に向き合う… 食・節・即・既 に見る東洋の食意識とは
「食」にも「節」にも含まれる「皀」とは、ご飯のことです。 ご飯をクチバシでついばむ姿が「食」です。 ご飯の前に手をつき頭 (こうべ) を垂れる姿が「節」です。 人間は鳥ではない。食にどう向き合うべきか。

不自然な行為から、自然な姿 (健康) が果たして得られるのか。少なくとも僕の臨床では見たことがありません。

一時的にそれが得られたとしても、最終的には惨めな結果となる。最終的な結果まで、見届ける必要があります。

以上、まずこれが、普遍的に最も大切なことだと思います。

断食 (ファスティング)

次に、本題の断食について。

断食が効く人はたくさんいます。現代人は基本食べすぎて肝臓に負担がかかっているからです。肝臓が休まるのですね。こういう人はもともと脾が強く、正気 (生命力) が充実している人です。

また、断食で悪化を起こす人もたくさん知っています。昼を抜くだけでも悪化する人もいます。なかには、これからの人生を左右するような激しい悪化を見た人も知っています。こういう人はもともと正気が弱い人です。食べなさ過ぎは脾を弱らせます。

こういう区別をつけず (診断をせず) 、あの人が効いたならオレにも効くだろう…というのが、一番やってはいけないことなのです。

中医学における “病因” とは
病気を治すには、病気を知ることです。病気を知るには、その原因を知ることです。中医学では病因をどのように考えるのでしょうか。まず、外感と内傷に大別します。内傷は、五志七情・飲食・労逸が主なものです。病理産物 (痰湿・瘀血など) も重要です。

また重要なことは、食事にはゴミ出しの意味があります。口から入るから、ゴミが出る。ウンチのことではありません。胆汁のことです。全身のあらゆる細胞は、生命活動の代償として必ず老廃物を生みます。それは肝臓に集められ、解毒され、胆汁に溶け込ませて、胆管を通って十二指腸に排泄されます。そしてウンチとして出ていくのですね。

唾液がよく味わって食べることでたくさん出るように、胆汁も味わって食べるから出るのです。食べないと、胆汁は出ません。

断食は、入ってこない代わりに、出てもいきません。ゴミが出せないのですね。

胆汁とデトックス… 朝食は一口でも
朝食を取らない人が増えましたね。一昔前は小学校でも「朝ごはんを食べましょう」と指導していました。朝ごはんの必要性について、「胆汁」をキーワードに考えてみましょう。

また、 “酵素ドリンクちょこちょこ飲んでると逆に意味がないのかな” の部分は、ちょこちょこ食いですね。これは間食になってしまいます。グレージング (家畜のように少量ずつずっと食べ続けること) が本当にいいのか迷うとの別の方の疑問には、これを回答とさせていただきます。

間食は、肝臓にとってみれば「たった5分の夜間呼び出し出勤」と同じでしたね。仕事というのは (月) から (金) の日中と、規則正しく決めてほしいのです。社長さんの気が向いたときに、夜中に呼び出されたり日曜に呼び出されたりされてはたまりません。

身勝手な社長さんに、従業員はついてきません。

この辺りについては、「この冬、脾の弱りにご注意を」にまとめてあります。まだ読んでいなければご覧いただきたいと思います。

この冬、脾の弱りにご注意を
月曜日 (2013.11.13) くらいから、患者さんに異変が見られ始めた。 右足三里に虚の反応が出ているのである。月・火はちらほら程度だったが、水の休診日をはさみ、木・金は90%以上の患者さんで…

極端なことは持続可能ではありません。一度で効果を得ようと欲張っても、長期的に見れば効果は出難いと思います。腹八分目で慎ましく三食 (朝夕の二食でもよい) を食べ、間食を摂らないというのが、最も安全かつ効果的、かつ持続可能な断食だと思います。

乳酸菌と発酵食品

自家栽培・自家製のぬか漬け・梅干し

日本人にとって、もっとも身近な発酵食品は、梅干し・ぬか漬け・味噌などでしょう。とくに梅干しやぬか漬けは、火を通さずに食べることが多く、乳酸菌を効率的に取ることができます。大切な伝統食であり、日本人には最も合ったものであると考えます。

しかし、それでも漬物ばかりを食べ過ぎると、体によくありません。実熱のない人が食べ過ぎると、寒証が出ます。泡だらけの嘔吐物が出たり、下痢したりします。

乳酸菌はもともといろんな野菜に付着していて、それが塩などで漬けることによって増殖します。だから酸っぱくなるのですね。この酸味は、適量であれば香り高く爽やかですが、量が過ぎると冷えてしまうのです。過ぎたる及ばざるがごとし。

ただし、普通はそんなに食べすぎるものではありません。大量に食べると「飽き」がくるからです。飽きは、これ以上摂取するのは止めろ…という体の声です。この声がまったく聞こえないのが、「粉末」や「ドリンク」で、味わいもせずに一気に飲み込むやり方です。

「味わう」ということは、大切なフィルターなのです。肝臓が許容できる分は美味しく、その容量を超えると飽きがきます。

肝臓が、他の動植物 (食べ物) を、人体に変えるという話はしたことがありましたね。その肝臓が忙しすぎて窮地に立たされている。だからこそ、この体が窮地に立たされているのです。

栄養のとりすぎと仕事のしすぎ
仕事がないと困りますね。生きていけない。栄養もないと困ります。やはり生きていけない。 ただし仕事は、多ければ多いほど良いということではありません。忙しすぎると体を壊して病気になってしまいます。 では栄養はどうなんでょうか?

この体が窮地に立たされているからサプリを用いるのならば、それは窮地に立たされた肝臓をさらに追い詰めることになる。そして「飽き」こそが、寡黙な肝臓が唯一口に出すことができるシグナルであるとするならば、泣くことでしか意思表示できない赤ちゃんの口にガムテープを貼るのと同じことになる。その帰結はどのようなことになるか、明確に見えてこないでしょうか。

日本人が、昔から摂ってきた発酵食品をいただく。

味わい、感謝し、いただく。

どうせ食べられるのなら、美味しく食べてほしいと、食べ物たちは思っているのではないでしょうか。食べる側の我々としては、その願いにできるだけ寄り添うことが、自然なのかなと思います。意図したことがうまくいかなくとも、自然に忠実であれば知らぬ間にうまくいく。この半生でそれを多く見てきた気がします。

まとめ

味わい、感謝し、いただく。

そんな風景を好ましく思わない人はいません。それが自然だからです。自然の一部である人間は、自然にそれを好むのです。食べ物を作った人は、ことさらそれを好み、そしてもっと美味しいものを作るでしょう。
ああ、おいしい。ありがとう。そう言ってもらえるだけで元気が湧き、もっと美味しいものを作ってやりたくなるのです。

さらに、それ (味わい、感謝し、いただく) を好むのは、やはり「人間」である肝臓も同じであろうと察します。そんな気持ちで食事を摂れば、その材料を使って肝臓は、今のような不具合のある身体ではなく、もっと出来のいい人体を作るでしょう。
ああ、おいしい。ありがとう。そう言ってもらえるだけで元気が湧き、もっと良いもの (良い人体) を作ってやりたくなる。それは肝臓も同じだと言っているのです。肝臓の持つ驚異的な回復能力 (4分の3切り取られても元通りに再生する) は、ここから得られるのではないでしょうか。

“肝臓” を考える…東洋医学とのコラボ
肝臓には500以上の働きがあると言われ、様々な病気と関わる “主役級の臓器” です。と同時に寡黙で “沈黙の臓器” とも呼ばれます。これを往年の名優、高倉健に例えつつ、東洋医学ともコラボしながら、肝臓とは何か、病気の原因とは何かを考えます。

これ以上の「自然」を僕は見いだせません。

健康も、幸せも、体に良いものも、すぐそこにある。探し回らなくても足元にある。

多くの人は、それを見いだせないだけなのかもしれません。

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