肝臓には500以上の働きがあると言われており、様々な体調変化と密接に関わると考えらます。最終的には生死に関わります。
しかし、意外と肝臓って何をする臓器なのか知らないですよね?
それをわかりやすく説明するために、東洋医学と西洋医学をコラボさせて肝臓の説明をしたいと思います。
ただし、東洋医学と西洋医学は同じ「漢字」という「中国発祥の文字」を用いており、おなじ表記であっても異なる意味で使っています。よって区別を明確にしておきたいと思います。用語の混乱の原因については、五臓六腑って何だろう をご参考にして下さい。
以下、用語には下記の記号を付すこととします。
〇〇 (西) …西洋医学で用いられる用語
〇〇 (東) …東洋医学で用いられる用語
このように (西) (東) と表記し、どちらの医学用語かを明確にしておきます。
肝臓 (西) の働き
肝臓 (西) には様々な働きがあります。
その主なものは、
- 老廃物を外に出す… 解毒・弱毒などの処理後、胆汁とともに排出し大便として排泄したり、尿とともに排出したりする
- 栄養分の貯蔵… 過剰分を “凍結” し貯金して、必要に応じて “解凍” し引き出して運用する
- 血小板造血因子・血液凝固因子の生成… 各種タンパク質を合成する
- 体温の産生… 1〜3などの物質の分解・合成の過程で熱を産生する
などが挙げられます。冒頭にも述べたように、肝臓の働きは500以上あると言われており、これはその一部に過ぎません。心臓や肺は大切ですが、いくつの働きをしているのでしょう。そう考えると、こういう多彩さを一つの臓器がこなしているとは、すごいですね。
西洋医学的な生理病理を理解しておくことはとても大切です。それが東洋医学的な理解をさらに深めるからです。1〜4について説明します。
1.老廃物を外に出す
コレステロールの再利用
肝臓 (西) は、コレステロール (油) を胆汁酸 (石鹸) に変える働きがあります。油から石鹸が作られることはご存知ですね。それと同じように考えると分かりやすいと思います。
この石鹸を胆嚢に貯蔵します。これが胆汁です。胆汁は食事をするたびに胆管を通って十二指腸に排泄されます。食べた天ぷらなどのコテコテ油を、石鹸水で溶かすみたいにサラサラに伸ばして、小腸からの消化酵素が行き届きやすいようにするのです。このように、油と水が溶け合う状態にすることを乳化といいます。
コレステロールをリサイクルし、有用な石鹸に変えて利用し、使用した後はウンチといっしょに外に出してくれるんですね! これはありがたい。
これは脂質代謝の一部です。脂質代謝とは、たとえば糖質・タンパク質・脂肪からコレステロールを生成し、コレステロールを胆汁に変える…などの一連の仕事です。
東洋医学で言えば、痰湿を取り去る作業に相当します。痰湿を取り去るのは主に脾臓 (東) です。脾は湿をにくみ、運化が特徴だからです。
東洋医学の「脾臓」って何だろう をご参考に。
胆汁は黄色ですが、これはビリルビンの色です。ビリルビンとは壊された血液です。古く不要になった血液は、おもに脾臓 (西) で壊され、胆汁に混じって十二指腸に排出され、大便として出ていきます。ウンチが黄色い (茶色い) のはこの色が元になっています。
瘀血の排泄ルートは大便からです。
肝臓 (東) は “将軍” として血 (兵士) を支配しますので、使い物にならない血 (瘀血) を壊したり追い出したりする (活血化瘀) のは肝臓 (東) と言えます。
アンモニア (猛毒) を弱毒化
食べ物は口から入り、胃に到達し、小腸で吸収され、残りカスは大便として排泄されます。小腸で吸収された栄養は、次にどこに行くかご存じでしょうか。
肝臓へ行くのです。小腸の絨毛に張り巡らされた毛細血管は集合して一本の「肝門脈」にまとめられ、それが肝臓を貫きます。肝臓では再び血管は細分化され毛細血管となり、再び集合して一本の血管 (肝静脈) となり、下大静脈に合流して心臓へと つながっていきます。ここで初めて心臓から全身をめぐるのですね。
小腸で何が吸収されるのでしょう。簡単に言うと “栄養と毒” です。正確には、食べ物に含まれるタンパク質 (アミノ酸) は消化・吸収され、肝臓で分解されて再合成され、体に必要な各種たんばく質 (アミノ酸) を合成します。しかし分解の過程で毒 (アンモニア) が発生するのです。
ちなみに、ヒトの体は、20種類のアミノ酸と、それらを材料とした約10万種類のタンパク質でできていると言われています。
このアンモニアがそのまま全身をめぐってしまうと、毒が脳に達し、肝性脳症となり、昏睡状態となって死に至ります。
そこで肝臓は、毒性の高いアンモニアを、比較的無害な尿素に作り変えます。アンモニアの弱毒化は、生死に関わる肝臓の一番重要な働きです。
尿素は尿として排泄されます。尿素は血液中4%に達しても害はなく、その値に達する前に腎臓がこし取るので問題ありません。アンモニアは0.005%以上で昏睡状態となりますので、パーフェクトに近い肝臓の仕事が必要です。
肝硬変で亡くなったり、ガンが肝臓に転移すると危ないと言われたりするのは、この働きがどれだけ重要かを示します。
RCH(NH2)COOH …アミノ酸
NH3 …アンモニア
アミノ酸の中にアンモニアの元がすでに入っていますね。
アミノ酸の構造です。
NH3 …アンモニア
CH₄N₂O …尿素
2NH3 + CO2 + H20 → CH₄N₂O + 2H20
アンモニアに二酸化炭素と水をからめて、尿素に作り変えるんですね。
・アミノ酸は、中心に炭素原子(C)があって、そこに水素原子(H)、アミノ基(NH3)、カルボキシル基(COOH)、およびRで示す構造が結合したものである。
・Rは側鎖と呼ばれ、この部分の構造によりアミノ酸の性質が決定する。
・COOHはカルボキシ基と呼ばれ、炭素が酸素と二重結合し(-C=O)、水酸基(-OH)と一重結合したものからなる。化学式は-C(=O)OH になるが、慣例的に-COOH または -CO2H と書かれる。
https://www.jsbba.or.jp/manabu/site/01_02.html
https://www.emf-portal.org/ja/glossary/3913
https://ja.wikipedia.org/wiki/カルボン酸
たんぱく質を分解するたびに、アンモニアがうまれます。アンモニアは0.005%以上で昏睡となりますので、そうならないように肝臓は仕事をします。これだけは目を光らせ、命がけで検閲し処理します。
帝曰.病熱當何禁之.
岐伯曰.病熱少愈.食肉則復.多食則遺.此其禁也.
<素問・熱論 30>魚者使人熱中.
<素問・異法方宜論 12>
東洋医学では、肉・魚の過食は熱証 (慢性炎症など) を引き起こすと説きます。動物性の食事を取りすぎることで脾臓 (東) に負担がかかり、その結果「邪熱」が生じます。生命をおびやかすような邪熱のことを「熱毒」といいます。
解毒作用
消化管からは、人体に有害な薬物・毒物・食物や細菌の作る有害物質・アルコールも吸収され、肝門脈を通って肝臓に達します。
また、血液中に混じった異物・毒や、細胞の代謝で生じた老廃物 (アンモニア・乳酸・プリン体など) などは肝動脈を通って肝臓に達します。
肝臓は、これらの有害物質を細胞内に取り込み、無害な物質に分解したりリサイクルしたりします。
分解された老廃物は、胆汁に溶けて胆管から十二指腸に排出され、便として排出されます。こうして血液がきれいになるのですね。この働きを解毒作用といいます。
アルコールの場合は、アルコール (有毒) はそのまま吸収され、肝臓で分解されてアセトアルデヒド (有毒) となり、さらに酢酸 (無毒) に解毒します。学生のコンパなどで急性アルコール中毒で死亡するというニュースを耳にすることがありますが、これなどは肝臓の解毒が追いつかず、脳を毒が犯すことで起こります。
現代社会は人体に有害な人工化合物であふれています。これらを解毒してくれるのも肝臓 (西) なのですね。有害物質はできるだけ取り込まない努力が大切ですが、しかたなく体内に侵入してしまった有害物質に関しては、肝臓を健全な状態に保つことが、できるだけの努力になると言えます。
東洋医学の「解毒」… 脾胃は “土”
東洋医学の「毒」については、東洋医学の「毒」とは をご参考に。
胃厚色黒.大骨及肥者.皆勝毒.故其痩而薄胃者.皆不勝毒也.
<霊枢・論痛53>
<霊枢・論痛53>では、毒に勝つ要素として、胃が「分厚い」ことを挙げています。逆に胃が「薄い」と毒に勝てないと言っています。分厚い・薄いは、東洋医学ですから物質的なものを言うのではなく、機能的なものを指しています。
わかりやすく説明します。胃は脾と同じく土に属します。例えば傷んだ食べ物 (有毒) を土に埋めると、それが肥料に分解 (解毒) され、新鮮な野菜 (無毒) が収穫できますね。東洋医学で言う「解毒」には、古代中国人のこうした素朴な発想があると考えられます。
その際、薄っぺらい土では分解できませんね? 植木鉢に腐ったもの埋めても、土が負けてしまいます。いくら掘っても底なしの分厚い自然の土ならば分解することができます。
解毒 (西) と解毒 (東) は意味が違いますが、通じるものがあります。酔っぱらいの治療で、脾経に属する公孫を用いて効果があったことも、これと関係があると思われます。
自然界では毒は土が処理してくれる、そのように考えると、土に相当するのは脾臓 (東) ですね。脾胃の陰陽幅が分厚いことが、解毒の要件となります。
すなわち「肝臓 (西) の強さ」と一致します。
2.栄養分の貯蔵
血糖値の調節
血液中から糖がなくなると、低血糖で死んでしまいます。飲食物から得られる糖は、生きる力です。この糖のことをグルコース (ブドウ糖) と言います。肝臓はこれを貯蔵する働きがあります。
小腸で吸収されたグルコースは、肝門脈を通っていったん肝臓に集められます。このグルコースを、グリコーゲンに合成して、一時的に蓄えるのです。必要に応じてグリコーゲンをグルコースに分解して、血糖を調節します。いわば凍結保存 (貯金) して、必要に応じて解凍 (引き出し) し用いるのですね。これが機能しないと、血液中にグルコースが多く流出し、血糖値が上がることになります。
血液中に流出したグルコースの過剰分は、膵臓から分泌されるインスリンによって中性脂肪やグリコーゲンに作り変えられ、保存されます。
また、アミノ酸 (タンパク質) ・脂肪も、分解してグルコース (ブドウ糖) に作り変え、グリコーゲンに合成して、一時的に保存します。
“土” そっくりですね。ふわふわの土は保水性と通気性があって、水や肥料を一度与えると、一日に何度も与えなくてもしばらくは保持してくれます。土は脾臓 (東) です。貯金してくれるのです。
しかし、水や肥料が多すぎて、土のキャパをこえてしまうと、ドロドロの苔 (痰湿) が生じて花は枯れてしまいます。いわゆる “肥あたり” です。また、土が砂土になってしまうと、水や肥料をとどめておくことが出来ない状態 (脾虚) になってしまいます。
常に疲れている、という人がいますね。また、お腹が空くと症状が出てしんどくなり、食べると落ち着くという人がいますね。正気の貯金が少ないケースがあります。
ビタミンの貯蔵
小腸で吸収されたビタミンA・B12・Dを集めて貯蔵します。
グリコーゲンをふくめ、これらの栄養分の貯蔵は、後天の精のことですね。精というのは陰陽未分の状態で、気化して血となり気となります。口から入った栄養は水穀の精と呼ばれ、脾臓 (東) によって作られ、脾臓によって五臓六腑に配られます。よって後天の精 (水穀の精) は “五臓六腑の精” とも呼ばれます。余った分は腎臓 (東) の先天の精を補足します。こうした凍結・貯蔵は、気の “固摂” によって行われ、気の “気化” によって解凍され活動力となります。また固摂は血が漏れ出さないようにする働きでもあります。
つまり、肝臓 (西) の働きには、脾臓 (東) と腎臓 (東) が含まれることが分かります。
血液の貯蔵
血液のおよそ5分の1が肝臓 (西) に流入します。肝臓は、それを蓄えておいたり放出したりして、肝臓からの流出量を調整することができます。こうすることで血液循環量の調節を行う。もし不慮の出血があったときなどに備えることが出来ます。血液は大切なので、ストックを持っているんですね。
肝臓 (西) が弱るとこういうものが保持できなくなるのですね。これら貯蔵の働きは、脾臓 (東) の働き (統血作用) …土…と似ています。ふわふわの土はスポンジのように養分を保持します。脾臓 (東) を強くすれば、肝臓 (西) が強くなって貯蔵 (貯金) ができ、体力がつく…ということが言えます。
血液内の水分量の保持
肝臓 (西) ではアルブミンが合成されます。この数値が低くなり、蛋白尿 (アルブミン尿) が見られなければ、肝機能障害を疑います。アルブミンを作る業務が滞っているのです。
アルブミンは、血漿中に最も多く含まれるタンパク質です。血液にはアルブミンが多く含まれ、その分 血漿が濃くなります。そのとき浸透圧が生じ、その濃くなった分だけ血管外の水分が血管内に入り、水分が集まって血管の内外の濃さを均等にします。アルブミンはこのようにして、水分を血管内に留め、血管外に漏れ出ないようにするはたらきを持ちます。
もし、肝臓の「アルブミンを作る働き」が弱ると、血管から水分が染み出てしまい、むくみや腹水などの原因になります。
水を保持する働きは、脾臓 (東) の制水作用と同じです。これも土です。
3.血液凝固因子の生成
肝臓は、各種のタンパク質 (アミノ酸) の合成や分解を行います。さっきのアルブミンはその一つです。
タンパク質は口から入って、消化酵素でアミノ酸に分解されて小腸から吸収され、肝門脈を通って肝臓に入り、肝臓でさらに分解され、再合成して体に必要ないろんなタンパク質を作ります。その過程で猛毒アンモニアができてしまう…ということはすでに説明しました。
いろんなたんばく質とは、アルブミン (既出) ・フィブリノーゲン・プロトロンビン・トロンボポエチン・ヘパリンなどの血漿に含まれるタンパク質です。いま挙げたのはほんの一部です。肝臓はこれらを合成し、血漿中で不足しないように供給します。
- フィブリノーゲン…血液凝固因子。フィブリンのもとになる。傷口の穴は血小板がブロックのように並んでふさぎ、フィブリンはブロックのスキマをシリコンのように埋める役割がある。
- プロトロンビン…血液凝固因子。トロンビンのもとになる。トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンに変える役割がある。プロトロンビン時間 (PT) は肝障害の重症化の指標となり、重症化を予測する上で有用である。PTとは、血液が凝固する時間を測ったものであり、この時間が長くなるとプロトロンビンの減少を示す。肝障害があると、プロトロンビンはアルブミンよりも素早く減少するので急性に対応できる。
- トロンボポエチン…血小板造血因子。肝硬変ではトロンボポエチンの産生ができないため、血小板数が低下する。
- ヘパリン…トロンビンの作用を阻害 (アンチトロンビンの作用を促進) し、血液凝固 (血が固まりすぎること) を防ぐ。
血小板は血を血糊のように固めて出血を止める働きがあります。よって血小板が減少すると出血しやすくなります。皮膚に青あざができたり、少しのケガでも出血が止まらなかったりします。
血小板が減少するということは、西洋医学的には肝臓が関与します。
肝臓は血小板造血因子を作る仕事をしています。血小板造血因子の合成ができないと、当然、血小板が作られずに減ってしまいます。
また、肝臓が線維化して固くなる (肝硬変の前段階) と、肝臓内の血流が悪くなり、肝臓の上流にある脾臓に血が溜まって腫れてくることがあります。脾臓には血液を壊して古い血液が残らないようにする役割があるので、脾臓に長く血液がとどまると、血小板も壊されて減少します。そういう原因もありえます。血小板減少は「肝臓の線維化」を示す数値でもあるのです。
よって、血小板が減少すれば肝臓の病変が疑われます。
血液凝固作用は、大切なものを外に漏らさないという意味で、 “栄養分の貯蔵” とも意味が重なりますね。また脾臓 (東) の統血に関与します。
フィブリノーゲンは凝固因子、ヘパリンは凝固阻害因子で、肝臓 (西) はこれらをいい塩梅に調整してくれています。このへんは肝臓 (東) の蔵血 (疏泄) に関与します。蔵血がうまく行けば出血も血栓も起こしません。
脾臓 (西) は役に立たなくなった古い血液を壊します。これは血を生み育てる母親のような脾臓 (東) ではなく、血を支配下に置いて統率する将軍のような肝臓 (東) の中に含まれる働きでしょう。肝臓 (東) が狂ってしまうと、まだまだ働ける血小板を処分してしまったり、血という大切な兵隊をまるで特攻隊のように体外に飛び出させてしまうのです。
4.体温の産生
このように、肝臓 (西) では様々な物質の分解・合成が行われます。その反応過程では、多くの熱エネルギーが放出されます。これは骨格筋の産熱量 (60%) についで多く、全体の約20%を占めます。
肝臓 (西) が十分な働きをしていればいるほど、体を動かさなくても体温が保てる…ということが言えますね。解毒が盛んに行われている体では、化学反応が盛んに行われているので、冷え症にはならない、ということになります。
- 体を動かして得られる体温は、脾陽 (脾臓の陽気) が関与します。脾は四肢を主 (つかさど) り、体の運動に関与するからです。後天の陽気 (何らかのアクションによって得られる陽気) とも言えます。
- 体を動かさなくても得られる体温は、腎陽 (腎臓の陽気) が関与します。先天の陽気 (何もしなくても最初から存在する陽気) といえます。肝臓 (西) は腎臓 (東) でもあるのです。
- 腎陽は脾陽によって支えられています。
飲食に気をつけて冷えを治す。つまり、飲食に節度があると後天の元気 (脾) が強くなり、それが先天の元気 (腎) を補充することによって冷えを治すのです。これは東洋医学的な考えですが、肝臓 (西) の「体温の産生」から見ても説明できますね。
肝臓 (西) は「生命の母」…各種タンパク質の合成
ここまでをまとめましょう。
さきほどの「アルブミンの生成 >> 血液内の水分量の保持」「血液凝固因子の生成」は、各種タンパク質の合成とまとめることができます。我々の体は、おもにタンパク質からできているということはご存知ですね。
口からはいった外部からの飲食物は、すべて胃を経て小腸で吸収され、吸収された栄養分は肝門脈を通って肝臓に行きます。主な栄養分とは… 三大栄養素です。つまり、糖質・タンパク質・脂質ですね。
糖質と脂質は小腸で吸収され、その過剰分を主にグリコーゲンとして肝臓が貯蔵し、必要に応じてグルコース (ブドウ糖) に変えて全身の各細胞に供給され、エネルギーとして活用されます。
タンパク質は、小腸でアミノ酸に分解され、腸の壁を通る大きさになって吸収され、肝門脈を通って肝臓に到達すると、肝臓でさらに分子レベルにまで細かく分解されます。そして再びアミノ酸・タンパク質として再合成され、体の各組織や、先程のアルブミンや血液凝固因子などが作られるのです。
分かりやすく説明しましょう。
鶏肉を食べても、体はニワトリにはなりませんね。ニワトリのタンパク質ばかり食べていたら、クチバシができて羽でも生えてきそうなものですがそうはならないのです。これは、ニワトリ独自のタンパク質を原子レベルにまで分解し、再合成して人間独自の20種類と言われるアミノ酸をつくりだし、そのアミノ酸を組み合わせて、人間独自のタンパク質を作り出しているからです。もし、ニワトリ独自のタンパク質がこの体の組織を補填していくならば、そのうち本当に鳥人間になってしまうでしょう。
人体組織の主要なものはすべてタンパク質でできています。しかも筋肉・皮膚・血管・血液・心臓・腎臓などは、それぞれ異なるタンパク質によって作られています。肝臓は、その元になる20種類のアミノ酸を「鶏肉」から作り出します。そして、それをもとにして多種多様なタンパク質が作られているのです。このようなタンパク質は、人体においてはなんと、約10万種類もあるといわれています。タンパク質にそんな多くの種類があるとは知りませんでしたね。そして、それらを肝臓が作り出していたことも。
これは、子供のブロックのおもちゃとよく似ています。ブロックの大きな塊がアミノ酸だとすると、それをいったんバラバラにするのです。そしてもう一度組み合わせ直すことによって、飛行機・車・船・動物などいろんな種類のものをつくるように、筋肉・皮膚・血管・血液・心臓・腎臓などをつくりだしているのです。
人間の体は、柔らかい組織は3ヶ月もあればすべて入れ替わると言われます。つまり、3ヶ月後にはこの体は骨を残してほとんどなくなってしまうのです。さきほど血管は地球2周半もの長さがあるといいましたが、これをわずか3ヶ月でつくってしまうことになりますね。人体は血管だけではありません。脳・内蔵・筋肉・神経・皮膚…これらをわずか3ヶ月で…。
そして、これら組織を作っているのはいったい何者か。
それが肝臓なのです。
肝臓はおそるべき能力をもった「生命製造機」なのです。
肝臓は、命をつくり、命を守り、命を動かす臓器と言っても過言ではありません。
栄養分を原子レベルまで分解し、それを数え切れないほど多様なタンパク質に作り変える。そしてノーミスの解毒。これでたった2種類の仕事です。まだ他に500種類の命にかかわる仕事をこなしている。「人工肝臓」というものが存在しないことは、当然と言えるでしょう。おそらく、いくら科学が発展しても作れないのではないかと思います。一方、人工腎臓は人工透析、人工肺は人工呼吸器、またエクモは人工心臓と人工肺を兼ねたものとして、すでに作られています。肝臓は、飛び抜けて複雑精巧にできた臓器なのです。
肝臓の機能を人工的な装置で総括的に置き換えることは非常に困難である
東京大学生産技術研究所 酒井 康行
「生命製造機」と言ってしまうと、機械扱いになりますね。女性のことを「こども製造機」と呼んだら気分を害されるでしょう。肝臓は「生命の母」である。そう言い直しましょう。子宮と並べて考えていい臓器です。
しかし「生命製造機」と呼んだほうが分かりやすいですね。いかに我々が肝臓のことを「モノ扱い」してしまっているかがよく分かります。人間を元気にするときに「モノ扱い」してうまくいくでしょうか。肝臓も人間 (の一部) です。「人間扱い」しなければ、元気に働くことなどありえないと言えないでしょうか?
肝臓 (西) と脾臓 (東)
以上、肝臓 (西) の働きの主要なものを挙げました。身近な臓器ですが、意外に知らないことが多かったですね。どれも大切なものばかりですし、命に関わるものであることもよく分かりました。飲食や栄養に関わる要素も大きいですね。
また、項目ごとに東洋医学的なコメントを添えました。それを見てもわかるように、東洋医学的に見ると、意外にも肝臓 (西) のほとんどの機能が脾臓 (東) と一致することが分かります。つまり、東洋医学で言う脾臓が、西洋医学で言う肝臓の働きと大きく重なるところがあるのです。
脾臓 (東) とは、口から取り入れた栄養を生命力に変える力です。ここには、西洋医学的な「口→消化器→肝門脈→肝臓 (西) に至る機能」が含まれていると言えます。
つまり、脾臓 (東) を良くすることができれば、肝臓 (西) を良くすることができるということになります。
「肝臓 (西) を良くすること」を東洋医学的に考える足がかり、これが「脾臓 (東) を良くすること」である… そのように仮定します。それを踏まえ、どうしたら肝臓を良くすることができるか、以下に展開します。
“飲食不節” … 節度がない
脾臓 (東) の養生の仕方とは、おもに飲食です。
飮食勞倦.則傷脾.<難経・四十九難>
飮食不節.而病生于腸胃.<霊枢・小鍼解 03>
饮食贵在有节。进食定量、定时谓之饮食有节。<中医基礎理論>
“飲食不節” とは、飲食に節度がないことです。中医学では飲食不節は脾胃を傷 (やぶ) る病因であり、節度を保つことが大切だと説きます。飲食の節度は、脂肪肝を防ぐためにも重要ですね。
「節度」とは何でしょう。
具体的には、
・量を食べすぎない (腹八分目にする) こと
・間食をしないこと
などです。
飲食 << 中医学における “病因” とは をご参考に。
なぜこの2つが大切なのか。それ知るために、もう一度、肝臓 (西) という側面から見ていきます。
肝臓を良くすること… たとえば脂肪肝などを予防するには「食べすぎ」「飲みすぎ」「運動不足」を避けることが基本です。中医学でも “過逸” (過度の安逸=運動不足) という概念があり、それは “脾を呆滞させる” と説きます。脾は四肢と肌肉を主 (つかさど) り、全身の運動に関与するからです。本ページでは「運動不足」については煩雑を避けるため省略しますが、大切なことなので軽視しないでください。
肝臓 (西) の “疲労 ”
ただし、こんどは教科書どおりの見方ではありません。肝臓 (西) を擬人化して、肝臓の気持ちになって考えてみます。
こういう「たとえ」は東洋医学の本質です。体液循環を川の流れに例えたり、炎症を火に例えたり、人体生命を宇宙や地球に例えたり (五行) 、人体組織を国家組織に例えたり (十二官) 、臓器を人格化したり (五神・五志) 、そうやって何十兆とも言われる細胞の集合体である、複雑極まりない「生命」を説明しようとするのです。
肝臓 (西) の身になってみる
肝臓 (西) は、我々と同じ細胞でできています。髪の毛一筋の細胞からクローンを作れる人体です。どの細胞も、やっていること考えていることは基本同じです。
我々の体も、肝臓も、同じ細胞からできているのですから、気分が良くなることも、疲れがたまるようなことも、共通するはずです。その仮定のもと話を進めます。
我々自身に置き換えて考えてみましょう。どんなことが一番疲れるでしょう。
我々が疲れること…やっぱり仕事ですね。
でも仕事というのは、ないと困りますよね? 遊んでばっかりだと つまらないし、やっぱり世間様の役に立ってこその生きがいです。おそらく肝臓 (西) も同じです。体の役に立ってこその生きがいなのです。
ただし、休み無しで仕事ばっかりさせられては たまったものではありません。
肝臓の仕事とは? 三度三度の食事です。上に説明しましたね。まず、タンパク質摂取後のアンモニアの弱毒化、これは命がけの仕事です。それから飲食物に含まれる有害物質の解毒、栄養分の凍結保存、各種タンパク質の合成、脂質の代謝です。
三度の食事を生命力に変えることは、肝臓 (西) の仕事であり肝臓の生きがいです。
困るのは、多すぎる仕事を押し付けられることです。
もっと困るのは、時間外まで仕事をしろと言われることです。
さらに困るのは、休日まで駆り出されることです。
つまり「節度」のない仕事です。
沈黙の臓器
ところが、そんなふうに仕事を強要されても、肝臓 (西) は文句一つ言いません。つねに全力で仕事に打ち込みます。
肝臓 (西) は寡黙です。 “沈黙の臓器” とも言われます。数値に異常が見られない “隠れ脂肪肝” (後述) もあると言われます。
また、肝臓 (西) は命がけです。 “解毒 (弱毒)” をミスできないからです。もしミスすれば、脳に毒が到達して死に至ります。最高責任者ともいえます。みんながこの先やっていけるかどうかは、肝臓にかかっているのです。
夜間の呼び出し出勤 = ほんの少しの間食
まるで高倉健さんですね。寡黙・実直。つねに映画作品の顔であり、責任者です。いい映画になるかダメな映画になるかは、彼によるところが大きい。そして、俳優という仕事を抜きにして、彼を語ることは出来ない。働き者です。
そんな人が、夜間や休日に呼び出しを食らう。
「5分ですむ仕事だから、ちょっと出てきてよ」
帰宅して風呂に入って、ベッドでゆっくり寝ているときに電話がかかる。もしくは、今日はオフだ、と思っているのに電話がかかる。たとえ5分の仕事だったとしても、それはかなり こたえますね。
しかも仕事に命をかけ、責任感のある人ならば、それは大変なことです。
ゆっくり寝ている夜間、あるいは、せっかくの休日に、 “ちょっと5分でいいから撮らせてよ” と電話がかかってきたらどうでしょう。
断りません。それが眉を一瞬しかめるワンシーンを撮るだけだとしても、役作りを完璧にこなすでしょう。衣装を着る。メイクをする。役になりきる。すごい集中力です。たった5分の撮影であったとしても、そこまで持っていく作業、立ち上げる作業は同じなのです。皆さんの仕事でも同じですね?
むしろ残業のがマシに感じるのではないでしょうか。
仕事時間が時間通りに終わらず延長してしまう。
休みの日に出てこいと言われる。
どっちを取りますか? まあ、どちらにしても「節度」がほしいですね。
5分の呼び出し出勤は “ほんの少しの間食” です。
残業は一食一食の “食べ過ぎ” です。
ぼくなら呼び出し出勤が一番イヤですね。夜間くらいゆっくり休ませてほしい。こうやって、肝臓の身になって、自分ならどうか考えてみる。肝臓は大切なパートナーです。パートナーを元気にさせる方法、それを、その人の身になって考える「思いやり」を抜きにして、何が考えられるでしょうか?
詳しく説明しましょう。
食べすぎ… 絶対量が多い
そもそも脂肪肝になるのは、肝臓の持つ能力以上の栄養が、口から入って小腸で吸収されるからです。ドンドン栄養 (糖質・タンパク質・脂質) が肝門脈から入ってくる。過剰分は、これらをグリコーゲンにして貯蔵しましたね。でも、貯蔵場所がいっぱいなのに、まだ入ってくる。
肝臓のキャパを超えているんですね。仕事の絶対量が多い。詰め込みすぎ。オーバーワーク。はては残業。
しかも、タンパク質摂取後の猛毒アンモニアの弱毒化、この仕事は後回しには出来ません。
これは疲れます。毎日こんなことが続けは疲れが取れず、仕事の能率は下がり、片付いていない仕事が増える一方です。そう、他にもたくさん仕事があるのです。だから血糖やコレステロールはあふれて血中に…。肝臓は脂肪に包まれたゴミ屋敷に…。
脂肪肝です。
500以上もの業務への「影響」を無視できません。 家事にしても会社組織の業務にしても、死活に関する業務が忙しすぎると、他がおろそかになります。たとえば子供が熱を出すと、普段できている掃除ができなくなるとか。
なのに「節度」なく、なお仕事をやれと言われる。これはしんどい。
しかし、あくまでも「沈黙」なのです。
絶対量は多くなくとも
その上に、休んでいるところを叩き起こされる。
肝臓にも、つかの間の休息があるのです。朝食・昼食・夕食という食事サイクルの、その間の時間です。人間で言えば、夜の睡眠みたいなものです。
たとえば昼食を12時に摂ったら、15時くらいまでは仕事です。次の食事が19時だとすると、15〜19時まではゆっくり休めるはずの睡眠時間です。ここで英気を養い、また19時から始まる仕事に備えるのです。
そんなつかのまの休憩時間に、われわれは “ほんの少しだけ…” と言いながら、肝臓の気持ちも考えず、肝臓を叩き起こして仕事をさせてはいないでしょうか。いくら高倉健さんでも、それは “ガクッ” とくると思うのです。まわりの人が思っている以上に、疲れる。まとまった仕事をまとまった時間にこなすよりも、むしろです。
でも、肝臓としては “いやだ” では済まない。たとえ少しの仕事でも、解毒 (弱毒) しないままで心臓に送ると大変なことになるからです。やらざるを得ない。
もしかしたら、危険なアンモニアのもとになるタンパク質 (アミノ酸) は入ってこないかもしれない。でも入ってくるかもしれない。だから目を光らせ、集中して “検閲” しなければならない。アンモニアが来ようが来よまいが、緊張を必要とする仕事に変わりはありません。「無いかもしれないもの」を探すのは最も苦痛を伴うものです。
ほんの少しの、しかし無神経な「呼び出し出勤の要請」です。この「節度」のなさが、本来発揮できる働きを弱らせ、それのもつキャパを大きく超えた仕事量にしてしまう。
脂肪肝と痰湿
キャパを超える
仕事の絶対量が多い。そのうえ、ほんの短時間だからと夜間や休日に呼び出しがかかる。
肝臓の身になってみましょう。我々だったらどうなるか。
激しい怒りを押し込め、それでもみんなの命のために、責任者としてただひたすら働く…。
生命線に関わる業務 (解毒・弱毒) を優先し、第二第三の業務は停滞する。
身勝手なパートナーとは裏腹に、今日も「生きていくための仕事」をやらなくちゃならない。
そんな状況で、掃除 (脂質代謝) にまで手が行き届かない、大切な子供にも十分なことがしてやれない。
誰も経験のあることではないでしょうか。
そんな肝臓が、もし、「コレステロールを胆汁酸作り変えて排出する仕事」や「血小板造血因子を合成する仕事」などを停滞したからと言って、もし、重責と過労と憤怒に力尽き500種類の仕事のどれかが おろそかになったからと言って、誰が責めることができるでしょうか。
いろんな意味で「キャパを超えてしまう」のです。健やかでいられる生活から、はみ出してしまう。東洋医学では、このキャパのことを「脾臓」と表現します。そして東洋医学は、キャパを超えてしまう理由は、「絶対量が多いから」だけではなく、それも含めた「節度のなさ」こそが問題なのだと教えてくれています。なぜなら五臓は、肝細胞の集まりとしての「肉体」だけでなく、まるで人間のように「感情」 (五神と五志) をを持っていると考えられているからです。
それにしても「呼び出し出勤」は、キャパにこたえるでしょうね。 “ちょっと” であればあるほど、何も考えず能天気にやられればやられるほどに。
そしてこの「脾臓 (東) 」が弱ると「痰湿」が生じるのです。
痰湿はあらゆる病気の原因
痰湿とは?
内湿的产生,多因素体肥胖,痰湿过盛;或因恣食生冷,过食肥甘,内伤脾胃,
致使脾失健运不能为胃行其津液,津液的输布发生障碍所致。
如是则水津不化,聚而成湿,停而为痰,留而为饮,积而成水。因此,脾的运化失职是湿浊内生的关键。
<中医基礎理論>
【訳】内湿 (痰湿) の産生は、以下が原因となる。
・もともと肥満で痰湿が盛んである。
・生で冷たいものを恣 (ほしいまま) に食し、肥甘厚味 (油脂分・糖分の多いもの) の食品を過食して、脾胃を傷つける。これらが原因となって、脾が健運 (脾のめぐらせる作用) を失い、胃が津液を下行させることができなくなり、最終的に津液の循環障害が発生するに至る。
それはたとえば、
・体液が、汗や小便に変化せず、
・凝集して湿をつくり、
・停滞して痰をつくり、
・貯留して飲をつくり、
・蓄積して水をつくる。
つまり、水湿痰飲=痰湿 である。
これらを原因として、脾の運化が失われることが痰濁 (痰湿) 生成と大いに関係する。
脂質異常症 (高脂血症) ・コレステロール、そして脂肪肝…。これらのキーワードと重なる部分がありますね。
この痰湿という病理産物は、あらゆる病気の原因となり得ます。
それが近年分かってきた「脂肪肝のこわさ」と符合します。
脂肪肝はさまざまな病気の原因
肝臓に脂肪が蓄積すると、脂肪は肝細胞を圧迫し、肝細胞は炎症を起こし、壊れていきます。壊れた細胞が多くなると、カサブタのように肝臓そのものを硬くして行き(肝臓の線維化)、毛細血管は破壊され、肝臓はますます疲弊していきます。
これに歯止めがかからなければ、行き着く先は肝硬変ですね。ところがそこまで至らずとも、この脂肪肝が、様々な病気の原因になることが近年分かってきました。
隠れ脂肪肝
また、血液検査では分からない “隠れ脂肪肝” というものがあることも分かってきました。
脂肪肝は、水面下で自覚症状を出さず、健康診断さえもすり抜けて進行するのです。
そして様々な病気の原因になる。
ガン (肝臓がんのほか、胃がん、すい臓がん、肺がんなどの各種がん) ・脳卒中・心筋梗塞・アルツハイマー病などが挙げられます。
どういうことでしょう。
最後の消化器
肝臓 (西) の “検閲” を通さなければ、栄養は全身をめぐれない。アンモニアという猛毒を解毒 (弱毒) してしまうまでは…。
口から入った食べ物は、肝臓という「関所」で最高責任者のチェックを経て、はじめて心臓に送られ全身を栄養できるのです。いわば、肝臓は “最後の消化器” と言えます。
東洋医学では、脾臓 (東) を非常に重視します。しかしこのままでは伝わらないので、「消化器」と表現することが多いと思います。消化器が悪いよ…と説明しても、患者さんからすると「消化器に異常はないけど? 」となることがあります。この「消化器」とは、口から肝臓 (西) までを含めた表現なのです。理解の一助にしてほしいと思います。
“最後” のいちばん大切な仕事を一手に担う肝臓は、つまり責任者、大会社の “社長さん” みたいなものですね。社員のことを真剣に考える生真面目な社長さんです。口や食道は “窓口” 、胃や小腸は “部下” です。社長さんは一番深いところ、目に見えにく感じにくいところにいるものです。社員は目に付きやすい感じやすいところにいる。食欲がないとか胃が痛いとか下痢するとかは、まだ浅いレベルです。
社長さんの苦悩というのは見えにくい。分かりづらい。もしかすると、食べすぎたことが原因だとは思いもよらない「様々な病気」として、すでに現れているかもしれません。
“沈黙の臓器” という別名と重ねるとよく分かります。
東洋医学でいう脾の弱り (脾虚) や痰湿・湿熱は、脂肪肝だけでなく、「様々な病気」の原因になります。たとえば体の重さ・心の重さ・各部位の痛み・出血・冷え・炎症などです。
これらは、冒頭の「肝臓 (西) の働き」と照らし合わせても、うなずけるところが多いのではないでしょうか。また炎症は、肥満が慢性炎症を引き起こすことはよく知られるところですので、脂肪肝と無関係ではありません。
もちろん脾虚・痰湿は、脂肪肝で高リスクとなるところの、ガン・脳梗塞・心筋梗塞・アルツハイマー病の原因ともなります。
肝臓 (西) をいたわる生活は、脾虚や痰湿を改善する生活と符合し、これらの病気や症状を予防改善する方法と重なる部分があります。
重要な関所
口から入り、食道を通り、胃に入り、小腸に入って、吸収されて肝臓で最終処理を受け、心臓に運ばれ、全身に張り巡らされた血管を通って37兆個ともいわれる細胞一つ一つを潤す。もちろん脳細胞もこの「めぐり」その一つ一つの細胞は我々人間と同じです。元気に活動する。そして飲食もするし、ウンチやおしっこもする。
細胞から排出された老廃物は、毛細血管を通って、やがて肝臓にたどり着き解毒され、無毒化された物質は、或るものは胆汁に溶けて十二指腸から腸管を通って大便として排泄され、或るものは腎臓の濾過を受けて膀胱にから小便として排泄されます。
まさにチューブですね。長い長いチューブです。体の毛細血管をつなぎ合わせると、地球を2周半するほどの長さがあると言われます。
その長いチューブにおける最も重要な “関所” が肝臓 (西) なのです。この関所が疲れてもたつくと、全体のチューブの流れがもたつき、全部の細胞の活動が、様々な細胞の活動がもたつくのです。
「様々な病気の原因になる」と言うのも うなずけます。
肝臓 (西) と肝臓 (東)
ここまで食べすぎ・飲み過ぎを中心に話をしましたが、「ストレス」も無視できない要素です。ストレスは肝臓 (東) と深く関わります。
そしてまた、肝臓 (東) と肝臓 (西) も重なる部分があります。
例えばストレスがあると、食欲が落ちたり、便秘したり下痢したりします。ストレスはたしかに消化器機能 (ここでは、口→食道→胃→小腸→門脈→肝臓) に影響するのです。これらの仕事にダメージがあるのは確かなようです。そして、肝臓はこれらの機能の「最後の関所」であり「元締め」でしたね。口やら胃やらは「窓口」なり「受付」なりに過ぎません。
これらは、「東洋医学の肝臓」を詳しく調べると、説明しやすくなります。
じっくり見ていきましょう。
ストレスと「痰湿」
肝臓 (西) は、食べ物から得られる栄養を安心安全な状態にして送り届けつつ、その際に生まれる猛毒 (アンモニア) を水際で処理するという重責を常に果たしてくれています。
我々が今こうして生きていられるのは、いまわのきわまで肝臓が解毒し続けていることの証しなのです。
すごいプレッシャーですね。
我々が、例えば嫌なことがあった時、腹の立つことや落ち込むこと (ストレス) があった時、仕事に集中できない、はかどらない… ということがありますね。そんなに仕事は忙しくない、ペース的には丁度いい仕事量なのに、うまくいかない。プレッシャーがかかっていると余計に敏感になります。
こうしたプレッシャーやストレスをものともせず前向きに進む力のことを、東洋医学では「肝臓」と表現します。またプレッシャーやストレスに抑圧された状態のことを、肝気鬱結と言います。ストレスの影響をまず受けるのは肝臓 (東) です。
東洋医学の「肝臓」って何だろう をご参考に。
このように、東洋医学の肝臓といえば、メンタル的な意味合いがイメージされます。
メンタルの伸びやかさです。
この伸びやかさはメンタルだけではなく、体液循環の伸びやかさでもあります。
この伸びやかさのことを「疏泄」といいますが、この肝の疏泄が、あの重い重いネバネバの「痰湿」をもスムーズに動かし除去するのです。疏泄が伸びやかならば、心も体も軽くなります。
疏泄 (めぐりの良さ) を邪魔する最も大きな要因が、ストレスです。
日々我々が感じるところのストレスは、「めぐりの悪さ」を生み、「痰湿」を除去する作業を鈍らせる大きな要素となる。
東洋医学の考え方です。
ストレスと “飲食不節”
ストレスが “飲食不節” の根本的な原因になっていることがあります。
ストレスが、さらに「食べすぎ」「飲みすぎ」を生むという経験がある方は多いのではないでしょうか。「ストレス食い」などです。そこまで行かなくとも、たとえば「甘いものを食べるとホッとする」「食べることで一時的につらさを忘れる」という方は多いと思います。
これは立派な “飲食不節” であり、痰湿生成の原因になります。
痰湿には重い性質があります。この重さは「体の重さ」だけでなく、「気持ちの重さ」にもつながります。つまり「重圧」や「抑うつ」です。
この「気持ちの重さ」があると、少し嫌なことがあるだけで、大きなストレスかのように感じることがあります。
・「気持ちの重さ」が新たな肝気鬱結を生み、「ストレス食い」を生み出します。
・「ストレス食い」が新たな痰湿を生み、「めぐりの悪さ」を生み出します。
・「めぐりの悪さ」が新たな肝気鬱結を生み、さらなる「気持ちの重さ」を生み出します。
悪循環です。
ストレスと “気滞”
このように、ストレスが原因で肝臓 (東) が病む。
じつはこういうのは出血の原因にもなります。肝不蔵血といいます。肝気鬱結から肝火となり、肝の蔵血作用が不全となるものです。血液凝固因子をつくる肝臓 (西) が頭をよぎりますね。
それだけではありません。肝気鬱結が起こると気滞が生じます。肝鬱気滞といいます。気滞が起こると気の6つの作用 が不全ととなります。
・推動作用が不全となると、老廃物の排出ができません。
・気化作用が不全となると、無毒化・弱毒化ができません。また貯蔵した栄養分を正気に変えることができません。
・固摂作用が不全となると、栄養分の貯蔵ができません。
・温煦作用が不全となると、体温の産生ができません。
肝臓 (西) の働きに大きく関わる事が見て取れますね。このように、肝臓 (東) が病んだ事による影響が、各方面に出ると言えます。
肝臓 (東) をいたわることは、肝臓 (西) をいたわることにもつながるのです。
木 (肝) と土 (脾)
脾臓 (東) は土である。そう説明しましたね。
肝臓 (東) は木である。じつはこれも東洋医学の根幹をなす理論です。
東方青色.入通於肝.開竅於目.藏精於肝.其病發驚駭.其味酸.其類草木.…
中央黄色.入通於脾.開竅於口.藏精於脾.故病在舌本.其味甘.其類土.…
《素問・金匱眞言論04》
豊かな土であるためには、木が絶対に必要です。木があるからこそ、土は肥沃でスポンジのようなふわふわさが生まれるのです。そういう土には通気性・通水性・保水性・養分・分解能力などが備わるのです。そしてこれらはすべて肝臓 (西) の機能と相似します。
木がなければ、土はカチカチになってしまいます。まるで線維化ですね。
土と木は一体となって、つまり肝脾一体となって生命を養います。
肝臓 (西) とは、東洋医学でいう「肝脾一体」の機能である。そうまとめることができます。
まとめ
土あればこその木
ここまで、多彩な「肝臓 (西) の働き」の一部を説明し、擬人化して展開しました。
実直で無口で誰もマネの出来ない能力を持ち、夜中や休日に仕事を求められても、みんなの命のために断ることがない。そして人知れず疲労を抱え込み、しかしそれを秘めて口外しない。そうして人が死ぬその間際までひたすら命にかかわる解毒を続ける。そんな姿です。
この姿が、東洋医学で言うところの「脾臓」なのです。脾臓とは、すなわち “土” です。土は縁の下の力持ち、踏まれても文句一つ言わず、我々を支えてくれています。「土」があればこそ、「木」も根付くことができるのです。しかし、その勇壮で美しい「木」の姿を褒めるものはいても、「土」を褒めるものはいません。
寡黙な犠牲者「沈黙の臓器」
脾胃は土です。土は “寡黙にして偉大なる犠牲者” です。脾は “卑しい” 犠牲者としての姿です。
肝臓 (西) は “最後の消化器” としての側面を持ち、我々の自分勝手さの一方で、人知れず弱ってゆく「沈黙の臓器」です。そしてその弱りが明るみに出た時、一見それとは関係ないような「様々な病気」が表面化します。これが脾臓 (東) の「土」としての姿です。
胃の気とは
食欲があれば脾虚 (脾の弱った状態) ではない、と考えるのは誤りです。脾胃の虧虚は、様々な症状によってその存在を暗に示しつつ、あるいは水面下で進行し無症状で弱っていきます。そして、それがついえたときが最期の時です。いわゆる “胃の気” です。 胃の気とは、生死に関わる生命力のことです。胃の気があれば生きるし、胃の気がなければ死にます。
人無胃氣曰逆.逆者死.<素問・平人氣象論 18>
瀕死の状態はもちろん、一見元気そうに見えても「胃の気がない」と判断されることがあります。これは、たとえば数日後に病気や老衰で亡くなる人が、瀕死の状態である場合と元気そうに見える場合とがあることを考えると分かりやすいと思います。
高倉健さんのように、実直・真面目で信頼できる無口な人。そんな人柄をいいことに、われわれは我々の勝手な都合を押し付けすぎてはいないでしょうか。
“沈黙の臓器” という異名は、深く考える余地があります。仕事に疲れ果て、不当な扱いを受けて、それでもダンマリを決め込む。もしそんな人がいたら、「黙っているのが悪い」とその人のせいにしていたのでは解決しません。何かを言おうとしているのに、言おうとした尻から言わせない、口を封じ込んでしまうようなことをしてはいないでしょうか。
母なる大地
我々は土 (地球) のことを真剣に考えたことがあるでしょうか? 土がなければ、我々は立つことも寝ることもままなりません。土がなければ海水さえ溜まる場所がありません。我々が食べるすべてのものは、土の上に成り立ったものです。糞尿で汚しても、土は黙って受け止め、それを有用化したり無毒化したりしてくれています。その土が、地球が、いま瀕死の状態にある。地球汚染・温暖化…。
それによって、「一見それとは関係ないような」さまざまな災害が起こっているのではないでしようか。
母なる大地。
長じて出世したからと言って、自分一人で出来たのではありません。縁の下で支えてくれた慈母の恩を忘れて、この先いいことが続くはずなどない。
“土” のような生き方がしてみたい。
叶わぬ夢であったとしても、心からそう願えたならば…。
そう願えたならば我々は、
・ストレスを広く大きく細やかに受け止め、
>> 有害物質を大海や大地のように受け止め、
・すべてがありがたく今の恩恵に充足し、
>> 間食などせずともありがたく感じ、
・前に前に進んでいけるのではないでしょうか。
>> のびやかに血液は循環するのではないでしょうか。
奇跡的な再生能力
朗報があります。肝臓 (西) は4分の3を切り取っても、もとの大きさに戻る再生能力を持つのです。これはすごいですね。たとえばこの体が、胸から下が切り取られたとして、ニョキニョキとお腹や足が生えてくるでしょうか。そんなことが起こったら奇跡です。それを肝臓は当たり前のようにやる。
この驚異的な回復能力が、休肝日が有効といわれるゆえんです。心臓や脳や他の臓器に、こんな離れ業ができるでしょうか。こういうことができる実質臓器は他にはありません。身の半分以上を失っても、なお余裕しゃくしゃくのなです。
肝臓のことを自分のことのように思いやり、正しい努力を心からするならば、必ずや肝臓は奇跡ともいえる再生を果たし、その類まれなる才覚を十二分に発揮し、新品の人体組織の生成・健やかな毒の排泄・分厚い生命力の貯蓄を、おおらかに、そして細やかに行ってくれるに違いありません。
おまけにアミノ酸を分解再合成する際に発生する猛毒アンモニアを、ノーミスで解毒 (弱毒) してくれている。アンモニアは血中に0.005%で致死量でしたね。それを毒性のすくない尿素に作り変えます。尿素は4%までなら害がなく、それ以上になれば尿毒症となるのですが、つまりは一番危険なアンモニアは肝臓が処理し、融通の聞く尿素に変えてやり、「おい腎臓、尿素にしておいてやったから、あとはお前でもできるだろ? 」という感じでバトンタッチしているのです。