乾姜 (かんきょう) とは

写真は、自家製のショウガです。農薬は使わず、有機肥料のみで育てています。焼き魚などに添えると、ものすごくおいしいしいですね。

生姜は10月から11月ごろ、霜が降りる前に収穫します。収穫したら保存ですが、これは素人にはなかなか難しく、寒さで腐ることが多いと思います。農家さんは大きな横穴を掘って、冬を越させるようです。翌年、4月頃に種生姜を植え付けます。保存さえうまくいけば、秋に新生姜が採れるまでヒネ生姜として食べられます。

個人的には9月ごろに早採りした若い生姜を細切りにして、鰹節と醤油でいただくのがすごく好きです。まだ大きくなりきらない時期なので、ぜいたくな食べ方ですね。生姜は肺・脾・胃に行きます (辛・微温) 。その時期に取れた生姜を食べると、肺の粛降を助けるのでしょう。気が降りる心地よさが、落ち着きと潤いになり、美味しさとして感じられるのです。季節に合わせて食べることは、難しい理論を超越して体にいいのです。

体にいいからと言って、毎日生姜が続くと飽きます。これは、そうした効果がもう得られなくなった証拠です。無理に食べても効果はもう出ません。体は時々刻々に変化しており、それを、味覚でちゃんと教えてくれるのですね。味わって食べることがいかに大事か、です。

乾姜と生姜は別物

さて、本題に入ります。

ショウガの乾燥させたものを乾姜と言います。生 (なま) のショウガは生姜 (しょうきょう) といい、乾姜とはかなり違う性質をもつ「別物」と考えてください。

▶︎性味

乾姜について説明します。

◉大辛・大熱

“辛熱燥烈” と言われます。

“温” ではなく “熱” 、しかも “大熱” です。こういう位置付けは、中薬にも多くはなく、他には附子 (有毒) ・肉桂などが挙げられるのみです。蜀椒 (サンショウ) ・呉茱萸ですら単に “熱” です。

いかに熱する力が強いかがわかります。ひどく冷えに傾いたものを、強い力で元に戻します。船体が沈没しそうに右に傾いたものを、正常に戻すために左に押す力が強いと考えてください。

▶︎帰経

◉心・肺・脾・腎

心腎は元陽 (太陽と地熱) に関わります。脾は大地の温かさです。肺は大気の温かさです。乾姜は陽気の根幹に切り込み、陽気を鼓舞します。

▶︎禁忌

◉陰虚・実熱には禁忌

ここは大切なところで、万能ではありません。効果があるものほど、どのようなリスクがあるかを知っておくこと大切です。

捜狗百科 (中国の検索エンジンのサイト) に、乾姜についての詳しい記述があるので紹介しておきます。

阴虚,内有实热,或患痔疮者忌用。久服积热,损阴伤目。高血压病人亦不宜多食。生姜不宜在夜间食用,其姜酚刺激肠道蠕动,白天可以增强脾胃作用,夜晚则成了影响睡眠伤及肠道的一大问题,故夜晚不宜食用,

【訳】陰虚や実熱のあるものには禁忌である。痔にも良くない。長く服用すると熱を蓄積し、陰を損じ目を傷る。高血圧の病人もまた多食はよくない。ショウガは夜の食用は良くない。ショウガは腸の蠕動 (ぜんどう) を刺激する。昼間は脾胃を強くする作用があるが、夜は睡眠障害や腸の大問題を起こす。故に夜の食用はよくない。

干姜 << 捜狗百科 2022.1.13参照

▶︎考察

▶︎引用文の解説

捜狗百科で夜に言及しているのは、夕刻から夜にかけて実熱や陰虚内熱が増すからです。

五心煩熱とは をご参考に。

睡眠障害は、ほとんどが熱証です。不眠を伴いやすい鬱や双極性障害も熱証を伴う場合がほとんどです。乾姜の「帰経」が心にいくという部分ですね。

高血圧・脳梗塞は、肝陽上亢が基本になります。上亢は熱から起こりますね。

目も炎症が起きやすい場所で、そういうものに関しては熱証です。

痔もほとんどが熱証です。

▶︎寒熱錯雑とは

冷えるから乾姜。この構図に間違いはありません。

大切なのは、純粋な寒証、純粋な熱証、そういうものばかりではないことです。例えばイライラ・カッカしやすいのは「熱」です。冷えて動きたがらないのは「寒」です。もし、これらの症状を併せ持っているならば、寒熱錯雑です。

寒証は、冷えて元気がなく、イライラする元気もなく、夜はグッタリと眠りにつきます。
熱証は、カッカして性急でイライラし、不眠傾向となります。

こうして考えてみる。寒熱錯雑は少なくないですね? 上熱下寒とも言います。下半身は冷えます。上半身はカッカします。イライラの病位は頭から胸、つまり上半身です。現代人はほとんど上熱があります。

▶︎禁忌の理由

乾姜は、寒証にどう働くのでしょうか。冒頭でも述べたように、ひどく冷えに傾いたものを、強い力で元に戻します。船体が沈没しそうに右に傾いたものを、正常に戻すために左に押す力が強い。

逆に、「熱証」にはどう働くでしょうか。船体が沈没しそうに左にに傾いたものを、強い力でさらに左に押すと考えてください。

つまり、このような品を「寒熱錯雑」に投ずればどうなるかというと、

・「寒」は改善する
・「熱」は悪化する

ということになります。あちらをたてればこちらがたたず。

▶︎弁証したうえで使用する

甘草乾姜湯という薬がありますね。簡単にいうと甘草で甘みをつけたショウガ湯です。この使い方について、傷寒論ではものすごく難解な条文を展開しています。これが弁証論治、中国伝統医学の根幹です。深い深い、本当に深い学術です。

興味のある方は、非常に難解ですが、傷寒論私見…甘草乾姜湯・芍薬甘草湯・調胃承気湯・四逆湯〔29〕 をご参考にしてください。

単略的に流れることなく、性質をよく知った上で、美味しくいただきましょう。

 

参考文献:神戸中医学研究会「中医臨床のための中薬学」医歯薬出版株式会社1992

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