傷寒論私見…苦温とは (薬学のまとめ)

66条「発汗後、腹脹満者、厚朴生姜甘草半夏人参湯主之、」に進む前に。

厚朴も半夏も燥湿です。生姜は水をさばきます。よく似た感じの薬では、茯苓・白朮がすでに出てきました。まず、これらの共通点と相違点をまとめてから、66条について考察していきたいと思います。

そのためには、厚朴 (苦温) についての理解を深めることが必要だと感じました。ぼくは、苦寒剤は理解できた気になるのですが、苦温をそこにからめると頭が混乱します。そもそも苦味とは何か、それを整理する必要がありそうです。

厚朴を中心に展開しながら、ついでに気になる生薬もまとめます。

余談ですが、ここまでに、つまり66苓桂甘棗湯までに出てきた薬を挙げてみます。

桂枝・芍薬・生姜・甘草・大棗・麻黄・杏仁・葛根・附子・知母・石膏・粳米・茯苓・白朮・大黄・芒硝・乾姜・半夏

これだけしかないんですね。たったこれだけの薬で、こんな豊かな弁証による方剤ができるという驚きとともに、組み合わせ・分量・炮製などの多様性から、個性を持たせることができることに納得もします。

▶苦味について

苦は堅のほか、泄 (降・瀉) ・燥 (燥湿) に効きます。これらの要素をどう帰納すればいいでしょう。素問がいう「堅くする」とはどういうことでしょうか。

『辛散、酸収、甘緩、苦堅、鹹耎 (軟) 』 臓気法時論22

邪熱や湿熱に用いられる苦寒と、痰湿に用いられる苦温に分けて考えます。ポイントは「濁をより濁らしくする」ということです。濁らしさとは重堅さです。

▶苦寒…堅と降とのつながり

苦寒の場合、堅とは地球 (濁) のことであると考えます。土が堅まって地球になる。地球 (濁) の質量や密度が大きいので、地温は程よく保たれています。もし地球が小さければ、少しの日差しですぐに熱くなります。

たとえば、空洞の鉄球があったとします。火であぶるとすぐに熱くなります。一方、中身が詰まった鉄球なら、火であぶってもなかなか熱くならず、たくさんの熱を取り込むことになります。中身の詰まった鉄球は重堅・重濁なのです。

つまり、熱くなれば苦寒の目的で地球…すなわち濁を重堅にするのです。そうして軽いはずの熱を重い濁の中に取り込む。そしてそれは重い性質のままに下に降る。

人体の場合は質量に一定の限界がありますので、器 (陰陽幅)の中に入る分の濁は正気として機能し、入りきらずに余った分の濁 (邪気) は重濁の性質そのままに下降し、熱もろともに排泄し、結果として寒化します。これが苦寒・苦降・苦泄です。

これによって、濁がより濁らしくなり、純粋な濁 (脾土) として、純粋な清を生みます。

▶苦温…堅と燥とのつながり

苦温の場合、地球がまだ清濁混淆の泥海だったころをイメージします。水と土が混ざってドロドロ、そういう状態から、地球が重堅となって引力が強くなり、濁である土が降りて底に沈み、澄んだ海が表面に浮いてくる。

痰湿の邪は清濁混交の泥水であると考えます。清濁を切り離して別々にし濁を重堅にする。そして下に下降し、上澄みの清 (津) を生み出します。沈んだ濁は土+水 (液) です。こうして津と液がおのおのの働きをして全身を潤します。

清濁混交から清が抜け出すこの過程が「燥湿」です。水分が多いと柔らかいですが、乾くと堅くなりますね。沈んだ濁は水分が抜けつつ、より凝縮して堅い大地となっていきます。

堅く凝縮すると温度が上がり、地熱が生じます。この温かみによって清は、軽い正気 (津) として上昇し、気化して無形の正気 (衛気) として体表を温めます、器 (陰陽幅) に入りきらない過剰分 (水湿) は、汗として太陽膀胱から排泄します。この過程が「辛温」です。

濁は重い有形の正気として下降し、器 (陰陽幅) に入りきらない過剰分 (湿濁) は、大小便として排泄します。この過程が「苦降」です。

苦辛温とも言われ、厚朴は有形・無形の湿濁を排泄するというのは、こういうことだと思います。

▶湿熱をさばく

湿熱は、泥海の地球が空洞で熱化した状態です。それを重堅にして降ろし、余った濁を熱とともに排泄するという基本は変わりません。

熱>湿の場合は、熱も湿も同時に降ろして排出します。黄芩などの清熱燥湿薬は、清濁軽重を分けた後の、上に浮いた水湿を乾かす作用 (燥湿)も兼ねています。苦寒で冷ましすぎないように、上手に熱を利用して乾かすのでしょう。黄芩も生用すると清熱瀉火に特化するようです。乾燥させて用いると清熱燥湿です。

湿>熱の場合は、苦寒で重堅にして降ろし、残った湿を茯苓 (滲利水湿) などでさばきます。茵蔯四苓湯 (茵蔯蒿・猪苓・茯苓・沢瀉) などがそうです。

▶生薬の各論

以上をふまえて教科書的な説明を読んでみます。

▶厚朴

厚朴…苦・辛・温。苦は堅。辛は行気発散。温で燥湿。脾気虚や津液不足には用いない。

脾を補ってジンワリと清濁をハッキリさせる…というニュアンスではなく、清と濁とを切り離す…やや強制的な部分が行気です。

▶枳実

枳実… 苦微寒。理気・破気。

辛散ではなく苦降です。大黄とともに用いて、下す作用が重視されます。

苦の基本は堅ですから、上述したように濁を重堅にして邪熱や湿濁を下降し、気滞という軽い無形の邪と切り離すのでしょう。いや、切り離すというよりも引き裂くくらいの力があるので、破気と言われるのでしょうか。

気滞・邪熱・痰湿が、清濁混淆となっている状態から、気滞&水湿 ⇔ 邪熱&湿濁 というふうにバラバラにするのではないか、ということです。

▶半夏

半夏…辛 (苦) ・温。辛散温燥、化湿化痰。

◉厚朴との違い…厚朴は温燥にも苦降にも効くが、半夏は温燥の力が強い。

▶白朮

白朮…甘・苦・温。甘温で補中。苦で燥湿。

中を補い、清濁を分けつつ、清を燥湿して軽清ならしめ、濁を利水 (利尿) して堅濁ならしめる。

◉厚朴との違い…厚朴は補中がなく、利尿もない。

▶茯苓

茯苓…甘淡・平。甘は補い緩める。淡は滲利水湿 (利尿) 。寒熱に偏らず中庸を得る。尿量の多いものには用いない。

脾気の昇清降濁機能を強くし、清濁をハッキリさせる薬剤です。濁 (脾土) がハッキリしてこそ、清もハッキリします。脾を補い、清濁という陰陽の幅を広げます。濁がハッキリするので滲利水湿します。清がハッキリするので心神を清々しくします。

◉白朮との違い…白朮には燥湿・利水という、やや強制的な排邪がある。茯苓の利水は土が美しい地下水を作るような、ジワジワした穏やかなものである。

清濁については、「排尿障害…東洋医学からみた7つの原因と治療法」をご参考に。

▶小便は開か闔か

ついでに、小便は開か闔か、の問題にも触れておきます。開とは発汗によって排邪すること、闔とは排便によって排邪することです。

発汗は太陽病・太陽膀胱経・発散というイメージから開と判断できます。便通は陽明病・陽明胃経・下降というイメージから闔と判断できます。しかし、小便は太陽でもあり下降でもあり、ややこしいですね。

膀胱は津液を集めて気化します。最終的には衛気として宣発されます。これは開です。
気化されて濃縮された尿が下降します。これは闔です。

これは「三陰三陽って何だろう」で説明しました。

辛開あっての苦絳ということが言えます。これは腎の清濁を分ける部分の説明ですが、脾の清濁を分ける働きを理解するうえでも、小便がどういう陰陽によって機能してるかは理解しておくべきだと思います。

小腸の下口が水分と呼ばれ (和漢三才図絵) 、水分という穴処が任脈上にあり、ここに治療すると利尿効果がある言われるのは、大きな枠組みでは脾の清濁を分ける働きです。そこには苦辛温の原理が見え隠れします。

▶生姜

生姜…辛・微温。辛はめぐらせる、開く (辛開) 。温中祛湿・化飲寛中。中焦を温めながら寛げるとともに、水湿の邪をさばく。開胃。胃を大きく開く。胃を広げて邪を作らないようにする。

おなかにはバケツがあると考えます。このバケツに八分目の飲食物が入っていれば、腹八分目です。そういうバケツだと、持ち歩いて、栄養が足りていないところに、補充ができます。十分目の満タンのバケツだと、持ち歩いたときにこぼれますね。こぼれた瞬間に、それは汚いベタベタした臭いものに変わります。これが水湿の邪です。

たとえば、バケツが急に小さくなったとしたら、あふれてしまいますね。バケツが大きくなれば、こぼれる心配がなくなります。生姜は辛でバケツを広げます。辛散は補法というイメージはありませんが、バケツは胃の気を容れますので、これが広がれば正気の充実に直結します。だから大棗とともに補益剤として用いられるのです。

▶大棗

大棗…甘・微温・柔。補脾和胃・養営安神。

生姜とセットが多い。濁の材料。

大棗は濁を濁らしくする、地球を重厚・重濁にすることで、寒・熱の急激さを緩くするイメージです。このイメージは体力そのものです。

▶甘草

甘草…甘・平。補中益気。熱薬とセットで熱性を緩め、寒薬とセットで寒性を緩める。

陰陽の境界にアプローチします。陰は陰らしく、陽は陽らしく、陰陽のハザマ (中焦) に立って調整します。

たとえば補剤と瀉剤、温剤と寒剤など、陰陽として相反する性質のものを橋渡しし、それらが相殺し合わぬよう、力を合わせて正気を助けるべく調和させるつなぎ役となります。

▶生姜・甘草・大棗
桂枝湯にもみられる、生姜・甘草・大棗のセットは、非常によく考えられています。生姜は脾の用の幅を増やし、大棗は脾の体の幅を増やし、用・体という陰陽の境界に甘草が入り、渾然一体となって脾土を補う処方と言えないでしょうか。

炙甘草は補中益気、生甘草は清熱解毒と言われます。甘草湯など、ノドの炎症に生甘草が清熱解毒として効くからです。たしかに炙と生とでは大きな違いがありますが、それにしても違いが大きすぎると思いませんか?

甘草湯は、下焦が冷えて (少陰病) 、同時に上焦が熱の場合、中焦という境界にアプローチするからではないか、と思います。境界にアプローチすると熱毒さえも取り去ることができるということでしょう。

▶人参

人参…大補元気。結果として益血生津。

▶葛根

葛根湯で説明しました。

▶石膏

白虎加人参湯で説明しました。

▶麻黄

桂枝二越婢一湯で説明しました。

▶杏仁

麻黄湯で説明しました。

▶桂枝・肉桂・附子

68芍薬甘草附子湯で説明します。

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