傷寒論私見…亡津液〔58・59・60〕

58 凡病、若発汗、若吐、若下、若亡津液、陰陽自和者、必自愈、

▶亡津液をも念頭に

16条を承けています。

16「太陽病、三日、已発汗、若吐、若下、若温針、仍不解者、此為壊病、桂枝不中与也、観其脈証、知犯何逆、随証、」


16条では、太陽病 (桂枝湯証) において汗吐下したのち、治らないものは壊病である…と説いています。

本条ではこういっています、

汗吐下で悪化したり津液を損なったとしても、陰陽が自然と整うならば、自然治癒する、それは壊病に限らず、病気全般において言えることである。

陰陽を調和させること、これさえできれば病は癒える、ということです。たとえ誤治を行ったとしても、たとえ正気を消耗したとしても、です。

これは大原則です。

16条から57条まで汗吐下による壊病を意識しつつ述べてきたが、この58条からはそれに加えて「亡津液」をも念頭に置いて読んでいきなさい、ということでしょう。

59 大下之後、復発汗、小便不利者、亡津液故也、勿治之、得小便利、必自愈、

▶脱水による小便不利

本条で言いたいことは2つです。

1つ目。小便不利の場合、治療薬が不要となるケースがあると注意を促しています。小便不利が起こっている原因を考えたとき、利水してはならないケースは脱水です。

2つ目。58条の「亡津液は陰陽自和すれば癒える」を合わせて読むと、本条は「亡津液で小便が出るということは陰陽自和した証しである」と読めます。

桂枝湯証で、大いに下したあとに発汗させ、脱水を起こして小便が出ない。これは薬よりもまず水分が補給できるかどうかなので、治療は第二義である。もし、58「陰陽自和」ができだすと、水分補給が自然と出来だし、小便が出だしたら、必ず自然治癒する。

「大下」というのはものすごく下痢することです。大下の後に発汗させるということは、極端な脱水を起こしたということです。極端な脱水状態での第一義は、小便が出るところまで水分を摂ることだ、利小便を旨としてはいけない、ということでしょう。水分を摂りたくても摂れない状況を治療するのです。

これから読み進めるなかで、「小便不利」という詞が出てきたならば、脱水によるものか、五臓六腑の変調によるものかをよく噛み分ける必要があります。

先表後裏という原則から考えて、汗法の後に下法という誤治ならば、証候が複雑でやむを得ない場合があり得ます。しかしここでは、下法のあとに汗法を用いています。これは治療家に心得が全くないことの証明です。治らないのでうろたえている様子さえ想像してしまいます。明らかな誤治を例に挙げています。

それほどひどい誤治を侵して亡津液を起こしたとしても、陰陽自和して津液が補えれば、小便が出て治るんだ、という指針を示しています。

誤治がなくとも、脱水というのはあり得ることですね。そういう場合も同様のことが言えると思います。

60 下之後、復発汗、必振寒、脈微細、以内外倶虚故也、

▶内外倶虚という重症例

59「大下之後、復発汗、小便不利者、亡津液故也、勿治之、得小便利、必自愈、」の補足として述べた条文です。やはり脱水を起こしたケースです。対比させてみましょう。

59 大下之後、復発汗、 → 小便不利者、  ∵亡津液故也、
60  下之後、復発汗、 → 必振寒、脈微細、∵以内外倶虚故也、

桂枝湯証で、「下之後、復発汗、」したとき、「必振寒、脈微細」する原因は、「内外倶虚」だからである。

細脈と微脈

細脈とは細くて輪郭がハッキリしたものです。微脈とは脈が細い上に輪郭がハッキリしないものです。「陽虚則無力」「血虚則細」の脈理から、細脈は血虚、微脈は陰陽ともに虚です。

外が虚している、つまり衛陽が虚している。そういう状態であれば風寒の出入りは自由です。だから振寒します。内が虚していれば衛気が外邪に対抗することはないという意味で脈は浮きません。だから微細です。

悪寒戦慄があれば、表証があるのかな、と考えてしまいそうですが、脈が微細というのがポイントで、表証は考えない。表証がないのではなく、これは第二義の問題なのです。だから桂枝湯類ではないという判断が、ここでできるということです。

壊病なので16「桂枝不中与也」なのです。

下して発汗させる、というダブル攻撃は、これまでの条文にはありませんでした。そういう重症例がこれから論じられます。58「陰陽自和」までもっていけるかどうか。

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