浮腫 (むくみ) …東洋医学から見た5つの原因と治療法

ひとくちに浮腫 (むくみ) といっても、軽症から重症までさまざまです。朝に顔がむくみやすくて困る…といったものから、腎不全で全身にひどい浮腫があるもの。ひどくなると腹水がたまったり、胸水がたまって呼吸困難になったりします。東洋医学では、どのように見るのでしょうか。

当然、浮腫は、口から摂取した水分が、体の中で滞る病気です。水の循環がスムーズならば、小便に排出されたり、汗に出たりして浮腫は解消されます。口から入って排泄されるまで。まずは、その道のりを東洋医学のメガネを通してみていきましょう。

その前に…。
東洋医学は人体をどのように捉えているのでしょうか。
「四診とは…望診・聞診・問診・切診」では東洋医学的視点とは何か、について説明しています。

西洋医学的なむくみのメカニズムの一形態については以下の記事をご参考に。
https://sinsindoo.com/archives/nephrose.html#むくみ

肺脾腎は3つのモーター

東洋医学では、水を動かすモーターは3つあると考えます。それが、肺臓・脾臓・腎臓です。もちろん、西洋医学でいう肺・脾臓・腎臓とはちがいます。東洋医学の言葉は「機能」に付けられた名称。西洋医学のように「物質」に付けられた名称ではありません。西洋医学の臓器名称のイメージを取り払って読み進めてください

肺臓・脾臓・腎臓などの言葉は、東洋医学では意味が全く違います。なぜ? 詳しくはこちらをどうぞ。
「五臓六腑って何だろう」

東洋医学は、なぜ「たとえ」を多用するのでしょうか。詳しくはこちらをぞうぞ。
「東洋医学の気って何だろう」

脾臓の働き

運化

脾臓とは…。食物を摂り、消化し、栄養分のみを選別して吸収し、その栄養分は各細胞に配られ、活動のためのエネルギーに変化して、最終的に栄養分そのものが消えて無くなる…というルートを動かす機能のことです。いらないものは大小便として排泄するルートも脾臓が担っています。

このような「動かす機能」を運化といいます。

口から入った飲食物は、脾臓で清 (有用なもの) と濁 (無用なもの) に仕分けされます。清は脾臓の力によって上昇し、身体各所に届けられ、濁は下降し大小便として排泄されます。

この仕分けの力が弱ると、清は上らず、濁が下りません。その結果、皮下に濁水が蓄積して浮腫をおこします。これが教科書的な説明です。

脾臓は土

分かりやすく例えを使って考えましょう。脾臓の働きは、土に例えられます

健康的な土をご存知でしょうか。雑木生い茂る山林で見られる、フワフワのスポンジのような土です。水はけがよく、しかも適度な湿り気をもっています。ミクロの世界では多くの微生物が、落ち葉を分解し、その有機物を粘土と混ぜ、無数の団粒を作って通気性・排水性・保湿性を良くし、自らが暮らしやすい環境を作っています。それら微生物は、昆虫・鳥・獣とつながり、一つの生態系をつくり、そういう自然の結果として土の質が保持されています。

泌別

この健全な土に、大雨で濁水が流れ込んだとします。その水はすぐに土に染み入り、濁りがこし取られ、やがて綺麗な地下水となって湧き出します。そういう美しい泉をイメージしてください。体に有用なもののみ取り出し、不要なものは大便として仕分けする脾臓にソックリです。このように脾臓には有用なものを取り出し、不用なものを捨て去る力があります。東洋医学では、これを泌別作用と言います。

泌別作用は、脾の運化作用のもと、小腸が行います。

昇清・降濁

地下に蓄えられた水が、泉となって地表に噴出する湧泉。砂漠のオアシスは典型的な例です。この泉が河川の源流となります。こういう土の力は、科学が進んだ現代でも不思議に満ちています。

古代中国人は、土を「汚さ・卑しさ・下劣さの極み」としました。これを「純陰」といいます。彼らが賢かったのは、この純陰があればこそ、純陽 (美しさ・尊さ・優秀さの極み) が生まれる、と考えたことです。現代の社会にも、優れた人はたくさんいます。しかし、その優秀さは、多くの「縁の下の力持ち」のおかげで成り立っています。その人を「陰で」支えてくれた人。いろいろいるでしょうが、その究極は、自らを生んでくれた母です。古代人は、土に母の姿を重ねて見ました。汚い土が美しい水を生み出す姿…母なる大地。

泥水をコップにいれ、しばらく待つと、澄んだ水と、濁った泥に分離します。澄んだ水は上に昇り、濁った泥は下に降ります。土はそれを、もっと強力に分離させ、澄んだ水を噴水のように持ち上げる…と、古代人は考えました。滔々と湧いてやまない泉を見て、また泥にまみれて支えてくれた母を想い、そう発想したのです。澄んだ水を上に持ち上げる力…それが土です。上流の山林の土が豊かで健全であれば、少々の大雨でも川は濁りません。濁ったとしても、すぐに清流に戻ります。日本の川が美しいのは山林が豊かで良い土に恵まれているからです。

脾臓 (土) は、清 (清水) と濁 (泥塵) とに泌別する力があります。これは同時に、清水を持ち上げる力 (昇清作用) でもあり、泥塵を沈める力 (降濁作用) でもあります。健全な土から湧きだした美しい水は、大河の源泉となり、穏やかな流れは、各所に美しい水を運んでくれます。しばらく雨が降らなくても、川のおかげで大地は至る所で水の恵みに浴することができます。栄養分を各細胞に届ける脾臓の働きそのものです。この運輸する力を運化作用と言います。

人体の世界を見てみましょう。小腸の絨毛が栄養分のみを吸収し (泌別) 、その栄養分は血液の循環ルートの上に乗る (昇清) と同時に、カスが大便として大腸に降ります (降濁) 。各細胞でも、それぞれが、毛細血管から栄養分を受け取り、受け取った栄養分から有用な物をエネルギーにかえ、不用なものを毛細血管に戻します。ここにも、泌別・昇清・降濁が隠れています。そして、血液中に戻された不用なものは、下方の膀胱に送られ捨てられます。これも降濁です

制水

以上、脾臓の働きを、健康的な土と対比しながら見てきました。さて、仮に、この土がフワフワなスポンジではなく、樹木まばらな不健康な痩せた土だとどうなるでしょうか。

恵みをもたらすべき雨が降ったとします。ところが、雨水は土に浸み込むことができず、土をけずって濁り、大量の濁流が一気に押し寄せ、土砂災害を起こしながら、所かまわず溢れ出すでしょう。正規の水のルートである、湧泉の清らかさ、河川の雄大な流れなど、もう存在しません。東洋医学では、浮腫をそういうふうに例えます。溢れた水はとどまって体を冷やし、機能を鈍らせ、体力を奪います。

逆にもし、雨が降らなければどうでしょう。痩せた土は保水力をもたないので、源泉を失った川はすぐに枯れ果て、干ばつが起こります。このように脾臓には保水作用があります。この作用で、ある程度、水量が調節されます。この保水作用 (制水作用) は「体力」そのものです。少々無理をしても問題ない。適応性・柔軟性がある。それが体力です。健全な土は、水をコントロールしているのです。

健全な土であるためには、樹木うっそうとした森林であることが必要である。水を血と見るならば、木は肝臓に相当する。ここに、脾の生血作用、肝の蔵血作用が反映される。肝脾一体となって後天の元気をコントロールする姿が見える。

≫「東洋医学の脾臓って何だろう」をご参考に。

肺臓・腎臓の働き

脾臓 (土) の重要さは良く分かりました。ですが、水のコントロールは、土の力だけではできません。雨を降らせる力が必要です。雨がなければ、フワフワの土も、やがで砂漠になってしまいます。この働きが 肺臓と腎臓です。

肺臓は皮膚表面に位置し、皮膚から蒸気や汗を出す働き (宣発) と、腎臓に水を集める働き (粛降) をします。皮膚から出された蒸気は、カゼを引かないよう、寒い外気が身体内部に侵入しないよう、身を守る働きをします。また、汗は体温が上がり過ぎないよう、暑い外気から身を守る働きです。

腎臓は身体内部に位置し、水を皮膚表面 (肺) に蒸発させる働きと、水を尿に変えて排出する働きがあります。

これも例えてみましょう。肺臓は空の雲。腎臓は陸海の水です。陸海の水は、照り付ける太陽の光により、温められ蒸発して雨雲をつくる。また、湿った大地は日差しを受け、地温が上がると乾き、水蒸気はやはり雨雲となる。水を蒸発させる力のことを腎臓と呼びます。蒸発した水は非常に純度の高い水です。濁った水を美しい水に変える。脾臓の泌別作用とは、また別のメカニズムで、清濁をうまく分けて、清のみを循環させています。この「温かい水」は、我々の体温に相当します。また、空の雲・陸海の水が共同で行う水の循環は、我々の血液循環に相当します。

余談ですが、血液循環といえば「心臓」ですよね。もちろん心臓のポンプは非常に重要です。ただ、人体の血管をすべてつなぎ合わせると、地球を2周半する長さがあります。これを心臓という小さなポンプだけで動かせるでしょうか。他の要素があることは容易に想像できることです。東洋医学ではその「他の要素」をこのように説明しているわけです。東洋医学的心臓は、太陽に例えられます。一定不変の力です。太陽の光が生命の原動力になっていることは疑いありませんが、太陽の光がどの程度差し込むか、生命をどう育むかは、太陽自身よりも他の要素の方が重要となります。こういう考え方は、機能を重視する東洋医学ならではのものです。

さて、こうしてできた雨雲は、風の力を借りてあちこちに移動し、恵みの雨をもたらし、乾いた大地を潤おす。雨が降ると雲が消え、日の光が差し込む。草木は芽生え、緑なす大地 (脾臓) は雨水を蓄え、いたる所で清水が湧出する。そうして生まれた沢山の小川は、各地域で恵みをもたらし、やがで合流して大河となり、余った不要なものは海に注ぐ。それがまた蒸発して雲になる…。全身を巡った水分が、やがて膀胱で合流し排泄される姿と重なります。上流の水は澄んでいて、下流になるほど濁っていく様子も、矛盾しません。

これが豊かな自然=健全な体です。人体は小宇宙です。東洋医学の機能論は、大自然と人体の相似に着眼することで展開されます。

もし、大気の状態が不安定で、冷たい空気と温かい空気が拮抗し、身動きが取れなくなると停滞前線が生まれます。上空には分厚い雲が覆い、雨が降っても雨雲が退きません。日差しがないと、水は冷たくなり、蒸発できずに大地が乾きません。そのうえ雨続きとなると、湿り過ぎた大地の樹木は腐り、湿地帯となってしまいます。水は大地に溢れかえるでしょう。人体においても、こういう病理で皮膚に水が溢れ、浮腫になります。

水が冷たくなりすぎると凍ります。氷は上に蒸発もしないし、下にも流れません。この、下にも流れない状態が、小便すら出なくなった状態です。腎不全の末期は小便すら出なくなりますが、 このように説明します。

≫「東洋医学の腎臓って何だろう」をご参考に。
≫「東洋医学の肺臓って何だろう」をご参考に。

脾臓が中心

以上、人体における水の動きを、陸・海・空を舞台とした水の動きに例えて説明しました。

図をみると分かるように、肺・腎のサイクルは大気の動きそのもので、スケールが大きく、脾 (土) に与える影響は大きそうです。 しかし、東洋医学では、逆に土 (脾) が大気 (肺・腎) に与える影響も大きいと考えます。

土は大地でもあります。大地は地球でもあります。そう見ると、土の上に海・空が乗っかっている姿が見えてきます。大地は天をも支配します。宇宙空間は「地」があってはじめて「天」として存在できます。そういう意味で、地は天をつくった、と言えます。図を見てください、肺・腎の大きな循環を、脾は真ん中でグルグル回しています。脾臓は、最終的にすべてを支配します。「純陰」の卑しい脾臓…が、です。

脾臓の泌別作用によって、美しい湧き水が生まれる…と説明しましたが、この湧き水は、規模を大きく見ると、海そのものです。海は地球の大きな水たまり、湧き水と考えることができます。

大地は天をつくり、海を抱き、雲を養っている。ですから、脾臓の異常は、当然、肺臓・腎臓に影響を与えます。

さて、上記のイメージをもとに、浮腫の原因を、東洋医学的に解析してみましょう。

余談…大便について

消化器 (脾臓・土) がシッカリしていたら、口から入った食物は、濁水が土に染み入るように清濁に分けられます。清は栄養分 (地下水) として体内 (土中) に取り込まれ、濁は大便として下降します。清濁を分ける力が脾臓ですので、その力が強いと大便はカスばかりになり、綺麗な形で臭くありません。栄養分を残していると形が整わず臭いにおいがします。
ただし、大自然には大便のように捨てられるようなものがありません。なぜでしょう。人体をバウムクーヘンのように穴の開いたものと考えたとき、小便は人体の内部ですが、大便は人体の「外部」に属します。小便は人体の一部だか、大便は人体の一部とは言えない、ということです。これは畑に実った野菜が「人体」ではないのと同様です。地球は食べないので大便をしない、ということですね。

詳しくは「ピロリ菌…賛否両論に一石」をご参考に。

原因と治療法

1.脾虚

脾虚とは、「脾臓の弱り」です。食べ過ぎ・食べなさ過ぎ・動き過ぎ・動かなさ過ぎは、すべて脾臓を弱らせます。脾虚=痩せた土。土が痩せていて、樹木が少ないと、少しの雨でも土砂崩れを起こし、濁流が氾濫します。その結果、浮腫が起こります。脾臓を健全に治せば、濁流は土に染み入り、清濁に分けられ、濁は小便として下降します。

水は重く下に降る性質があるので、浮腫は下半身が主です。指で押すと粘土のように凹み、元に戻りません。
脾虚があるので、お腹が張る・食欲がない・泥のような大便が出る・元気がなく手足が冷える・尿量が少ない…といった症状が見られます。

治療は、脾臓という体力・機能を補う治療法 (補法) を行います。
脾兪・足三里・太白など。
漢方薬では、実脾飲など。
水が溢れて冷える…という観点から、お灸を使うと効果が上がることもあります。
下半身に出る浮腫は、小便として出ると改善します。 上図を参照してください。

≫「東洋医学の脾臓って何だろう」をご参考に。

2.風邪 (ふうじゃ)

風に当たり続けると、皮膚が冷えますね。そうすると、肺臓が弱って働かなくなります。すると肺臓 (=皮膚表面) で水が滞り、浮腫となります。この場合の浮腫は上半身…つまり、まぶたから始まり、顔全体、腕などを中心に起こり、ひどくなると全身に広がります。

大自然でいえば、上空で水蒸気の滞り…つまり停滞前線が居座り、雲が覆ったままになる。すると、まず湿気が多く空気がジメジメします。加えて雨が降れば、地表も水が溢れてきます。そういう状態が人体で起こります。上半身から浮腫が起こるのは、雲が上空に位置し、その上空の停滞が原因で、まず空気が湿り、その後、地表にも影響が及ぶからです。

風邪にやられた状態は、悪寒・発熱などのカゼ症状が出ないこともあります。しかし多くはカゼ症状を伴います。隙間風ビュービュー、ワラのフトンで寝ていた昔ならともかく、現代の快適な生活でカゼを引きやすい、それが原因で浮腫を起こすとは、どういうことでしょうか。簡単にいうと肺臓が弱い。肺臓が弱いと、上記「肺臓・腎臓の働き」でご説明したように、外気の侵入を許すことになります。すると、弱い肺がますます弱ってしまいます。

外気は風に乗って身体内部に風穴をあけ、侵入します。つまり、風邪は、外気の身体侵入形と言えます。

こうした浮腫が起これば、まず風邪を追いだす必要があります。
治療は、風邪を取り去る治療法 (瀉法) を行います。
列缺・身柱・外関・内関・公孫・申脈などを用います。
漢方薬では、越婢加朮湯・防己黄耆湯など。

上半身を中心とした浮腫は、汗が出ることによって改善します。上図を参照してください。
風邪に侵されているときは、運動・お風呂・冷たい飲食は避けるべきです。肺臓を強くし、外気の侵入を予防するためには、肺臓だけでなく、脾臓と腎臓を強くしておかなければなりません。

≫「風邪とは」 (外邪って何だろう) をご参考に。 

3.寒湿

人体に影響を及ぼす湿気のことを湿邪といいます。

湿邪は「内湿」と「外湿」とに分類されます。雨などの天候によるものを外湿 (外邪の一種) といい、飲食過多で胃の内部に発生するものを内湿といいます。これらに冷えがプラスされたら、寒湿といいます。

つまり、気温が低く雨の多い時期、冷たい生ものを多食したり、ジュースを多飲すると、寒湿により、体が冷えて重くなり、それと同時に浮腫が起こりやすくなります。

これは、土 (脾臓) に、ゲリラ豪雨 (雨・生もの・ジュース) があったと考えてください。上記「脾臓の働き 」にご説明したとおりです。脾虚との違いは、土はそれほど痩せていないが、雨が多量に過ぎた、という点です。雨 (寒湿) を取り去る治療を行います。もし、雨が長期に渡って続くと、樹木が腐り、崩れやすい土 (脾虚) になります。

湿は水で重いので下に降り、下半身に症状が出ます。加えて、上半身にも症状が出ます。肺がやられているからです。外の湿気の影響を受ける…それは 外邪に相当するので、肺がやられています。

治療は、寒湿を取り去る治療 (瀉法) と、脾臓を温める治療 (補法) を行います。
外関・申脈・陰陵泉・中脘・水分・足三里など。
漢方薬では、五皮飲合胃苓湯など。

≫「湿邪とは」 (外邪って何だろう) をご参考に。 

4.湿熱

体の内部を流れる水が、サラサラ流れていれば、水は生命を支える力となります。しかし、それがモタモタすると、水は淀み、濁ってドロドロしたものになります。これを痰湿といいます。そこに熱をもったものを湿熱といいます。肉類・糖分・油脂分・アルコール・乳製品などを、おいしいからと言って多飲多食すると、水が濁って湿熱を形成します。その湿熱が脾臓 (土) を汚染し、結果として脾臓が働かなくなり、浮腫を起こします。ドロドロした不純物が混ざり、水はけが悪くなった土を想像してください。ドロドロした土は清濁を分ける力がなく、清水は湧き出てきません。

湿熱は蒸し暑い時期に悪化しやすくなります。 雨が降った後、雲は消えますが、急激に湿度が高くなりますね。これは外気における湿熱です。もし、肉類・糖類による痰湿や湿熱に汚染された土ならば、蒸し暑い時期になると余計に腐敗しやすくなります。自然でも、水に浸かった大地に急に強い日光が差し込むと、腐敗して悪臭が漂うことがあります。

上半身・下半身を問わず、浮腫が生じます。皮膚は張りつめて光沢感があります。湿熱の「湿」は水で重い性質があり、下半身に出やすく、「熱」は上に昇る性質があるので、上半身に出やすくなります。湿と熱の比率で、上に出るか下に出るかが変わります。

治療は湿熱を取り去る治療法 (瀉法) を行います。
後渓・脾兪・上巨虚・背骨ラインのツボ・陰陵泉など。
漢方薬では、疏鑿飲子など。

≫「湿熱とは…邪気のステージ」 (正気と邪気って何だろう) をご参考に。

5.腎虚 (腎陽衰微・気化失常)

腎虚とは、腎臓の弱りです。老化・生まれつき体が弱い・セックスのし過ぎ・無理のし過ぎ・夜更かしなどが原因です。

また、上記の1~4に列挙した浮腫の原因は、最終的には全て腎臓に負担をかけ、腎虚の原因になります。

腎虚が起こると、「温かい水」が冷えた水になります。全身に水を蒸発させたり拡散させたりすることができず、腎臓は水に浸かって、もっと冷えてしまいます。冷えた水はますます蒸発できなくなります。このように、腎臓の温める働き (腎陽) が衰えて、 “動かない水” を “動く水” に変える働きを「気化」と言います。

気化作用◀気の6つの作用 をご参考に。

こうして水が体内にとどまり、浮腫となります。放っておくと、水が増え過ぎ、大地まで水に浸かり、土 (脾臓) を水浸しにしてしまいます。

主に下半身に浮腫が起きますが、上半身・下半身を問わず、顔面にも浮腫が起こります。腎臓は水を拡散する最も大きなモーターですので、これが弱ると、肺臓・脾臓も同時に弱っていることが多く、ために全身に浮腫が起こります。最も重症のむくみです。指で押すと粘土のように凹み、元に戻りません。

腎臓という体力を補う治療 (補法) を行います。
腎兪・胞肓・復溜・照海・気海・関元など。
必要に応じて、脾虚の治療も組み合わせます。
漢方薬では、済生腎気丸合真武湯など。

≫「東洋医学の腎臓って何だろう」をご参考に。

よくあるむくみ

以上、1から5まで、簡単に説明しました。軽い急性のむくみは、2.風邪 4.湿熱 などに多く見られます。多くは単独の原因で起こっていて、これを除けば、むくみは速やかに消失します。

たとえば、ときどき、朝起きると顔がむくんでいる人がいたとします。カゼを引きやすい体質で風邪 (ふうじゃ) を受けているかもしれないし、前日に飲み過ぎ食べ過ぎで湿熱をこもらせているかもしれません。バックに脾虚が隠れているかもしれません。

もう少しひどくなると、毎日むくみが気になりだします。たとえば、夕方になると毎日のように足がむくむ人がいたとします。今までは、一過性のむくみで、疲れたときや食べ過ぎたときに出て、数日で治っていたのに…。ぼちぼち腎虚が目立ち始めているのかもしれません。

腎不全のむくみ

1から5までの原因が、2つ3つと重なって浮腫を起こす場合は、ほとんどが重症となります。腎虚の重いものになると、1から5の原因すべてが複雑に絡み合います。皮下に蓄積した水邪 (動かない水) が存在すること自体が、身体にとっては非常に重い負担です。そのため生命力を弱らせ、その結果、水邪がますます増える、という悪循環があります。3つのモーターのどこに主要トラブルがあるかを、その都度見破り、治療する必要があります。

西洋医学でも、腎不全が進むと食事療法や運動療法を指導するようです。腎不全は腎臓の病気のはずなのに、なぜ食事や運動が関係するのでしょうか。西洋医学的腎臓は、毛細血管の集まりです。毛細血管が詰まると、濾過ができなくなります。詰まる原因はコレステロール。だから関係するんです。1.脾虚 4.湿熱 でご説明した内容と符合しますね。東洋医学では、すでに何千年も前から腎不全の原因の一つに食べ過ぎ・運動不足がある…ということを指摘しています。

食事や運動療法を正しくすると、東洋医学的脾臓がいくらかは強くなります。しかし、それだけでは治せないため、鍼灸や漢方薬が発達しました。人工透析という技術がない時代であればこそ、古人は工夫を凝らして治す技を編み出しています。それが現代にも受け継がれているのですね。

むくみ… 指定難病222;ネフローゼ症候群の症例
ネフローゼ症候群 (指定難病222) とは、腎臓の炎症による蛋白尿・むくみを主症状とし、人工透析にいたるリスクがある腎臓の病気である。症例として、尿蛋白4.52g/日が0.78g/日に下降したものを挙げつつ、東洋医学的な「表証」との関係について考察する。

余談ですが、こういう話があります。腎臓がほとんど機能しなると、尿から毒素が出なくなります。そのとき、毒素を肛門から大便とともに出すというやり方があります。 人体の機能は大変なものですね。毒素を出す筋道は一つではないのです。上述した、肺臓・腎臓のルート。もう一つは脾臓のルート。いずれも清濁を分け、清をめぐらし、濁を排出します。一方が役に立たないときは、もう一方が補うという仕組みが、人体には備わっているようです。

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