カゼが流行っているようだ。
2019年から流行り始めた癘気 (レイキ) の影響で、発熱の患者さんを診ることはめっきり少なくなった。それでも、検査で陰性だった方から診てもらえないかとお電話をいただくことがある。
そういう乏しい経験からしか言えないのだが、考察したい。
▶2022年11月21日の症例
47歳男性。半年ぶりの来院だ。一週間前から微熱が続き、昨日から38℃の発熱、夕方6時半に診察。数脈。悪寒がある。眠不良。食欲がなく、何も食べられない。ぐったりした様子でしんどそう。治療は神闕の打鍼のみ。その夜よく眠り、発汗があった。翌朝来院されたが、体温は36.6℃、食欲は普通に戻り、すっかり元気になっていた。
久しぶりの「発熱の治療」だったが、スンナリ治った。まだ腕は衰えていないようだ。
スンナリ治ったのは、「表証」があるからである。外邪が主となるものは、外邪を取ればいい。たとえ食欲がなく脾虚 (脾の弱り) のように見えても、表証が脾を抑え込んでいるだけであり、外邪をのぞけば脾は復活して食欲がもどる。
この、食欲がもどる…というのが重要だ。
この時期、「表証ではないカゼ」も多い。このカゼは、食欲が戻りさえすれば治る。ただしこの場合、脾は抑え込まれているのではなく、本当に弱っているのである。表証が絡まないからだ。ホンモノの脾虚である。
表証がなく、脾虚のみによるカゼのことを「陰火インカ」という。気虚発熱ともいう。補中益気湯が主薬となる。陰火とは、人体を地球だと考えると、地球の地表の「土」が無くなって、中心の灼熱のコアがむき出しになった状態である。コアの熱は、脾の分厚い布団によって覆わていれば温かさ (正気) として現れるが、この布団がはぎ取られるとマグマ (邪気) がむき出しになるのである。相火が正気と目されたり邪気とみなされたりするのが理解できるだろう。また補中益気湯に柴胡と人参が配合されていることの意味も垣間見える。陰火を唱えた李東垣 (李杲) は、陰火とは「独盛」となった火であると説いている。
脾胃氣衰,元氣不足,而心火獨盛。心火者,陰火也。
《脾胃論・飲食勞倦所傷始為熱中論》
陰火は脾虚である。脾虚 (気虚) によって発熱する。気虚は寒がりで寒邪を避けるために表証とはならない。気虚だからぐったりすることが多く、食欲がない。
これに、食養生そっちのけで医者よ薬よと言ったところで、食欲はもどらない。
間食がよくない。栄養を気にして無理に食べるのもよくない。何も食べないのも良くない。解毒に関わる胆汁の排出をうながすために、少量 (経験的に白米あるいはお粥がよい) を感謝していただくことこそが大切である。米 (うるち米) は料理で唯一調味料を使わない。この淡い甘みを舌でじっくりと探すように味わうことは、感謝にもっとも近い感覚であり、感謝に満ちた心は、体という「他人 (思い通りにならない生き物) 」を元気づける。感謝されると元気が出るのだ。最初の一口目は目を閉じておかず無しで味わうと良い。味覚が鋭敏になり、おかずがもっと美味しくなる。
このような食養生が治療の主眼であると言ってもいい。これができてはじめて鍼も薬も効くのである。つまり、食欲が出てくる。
食欲がもどれば治るということは、つまり、カゼを引いても食欲があるものは治るのが早い…ということでもある。
そもそも、カゼを引いて食欲がなくなるということ事態、カゼを引く前段階で食養生の乱れがあったことを暗示する。食事に感謝して節度を保ち、カゼを引いてもすぐに治るよう気をつけたい。流行りカゼの後遺症などという話をよく聞くご時世であれば、なおさらである。