熱中症を予防するポイントを挙げる。
・深部体温を上げない
・脱水を起こさない
・塩分を補給する
対策として言われるのが、
・冷たい水を飲む、かき氷などを食べる
・クーラーを使用する
・スポーツドリンクなどでミネラル (塩分) を摂取する
これらに対して考察を行いたい。研究者の方には、以下考察の是非をご検証いただき、新しいエビデンスを構築していただきたい。
熱中症の症状が出たときは、頸動脈や腋の動脈を氷で冷やすなどして、脳の深部温度を早く下げるという対処が重要になります。
これから以下に述べるのは、あくまでも熱中症になる前の予防であることを断っておきます。
熱中症になった後は、現在よく言われている対処で間違いありません。しかし、それを予防にまで当てはめることに問題があるのではないかという提言です。
対処 (対症療法) と、予防 (原因療法) は、方法が違うということです。
冷たい水を飲む?
「冬かな?」と勘違い
夏に氷は自然界には存在しない。
さらに、冷蔵庫が普及するまでは、人類は火によって衛生的安全を確保し、温かいものを是としてきたと考えられる。ホモサピエンスの歴史は20万年に及ぶ。
よって、たとえばかき氷など極端に冷たいものを口にすると、体が「冬かな?」と勘違いしてしまう可能性がある。これはあくまでも「可能性」である。消化管に対する寒冷の刺激に対して体がどのような反射を取るかを調べた研究者がいないと考えられるからである。これは、複数の大学医学部の生理学教室に問い合わせて得られた回答でもある。
なのであくまでも推測の域を出ないことを断っておく。
ただし、皮膚に対する寒冷の刺激が強すぎると、手足末端や皮膚表面の毛細血管が収縮することは研究によって分かっており、生理学の教科書にも記載がある。
かえって温度が上がる
氷のように冷たい飲食物や、強烈かつ極端な冷房など、夏には存在しないはずの寒冷刺激 (寒邪) を受けたらどうなるのか。手足末端や皮膚表面の毛細血管が収縮すると考えられる。
手足末端や皮膚表面の毛細血管が収縮するとどうなるか。深部を流れる熱い血液が、ラジエーターの役割を果たす手足指に届かず、あるいは皮膚表面に届かなくなる。届かなければ体温よりも低い外気によって冷まされることなく、熱い血液が深部のみをぐるぐる回ることになってしまう。これでは深部体温が下がらない。体は絶えず熱産生をしているので、かえって深部体温は上がってしまう。
深部体温が上がると、暑く感じる。
暑いからと、さらに氷などを食べれば、その瞬間は深部体温が下がるが、「冬かな?」と勘違いさせる反射が働いて、ますます毛細血管が収縮する可能性がある。表面の毛細血管が収縮すれば、すぐにまた深部体温がそれ以上に上昇することが考えられるのである。
魔法瓶効果
手足末端や皮膚表面の毛細血管が収縮するのは、冬によく見られる状態である。寒いと手足の末端から冷えてくるだろう。皮膚の表面も冷たくなっていく。これは深部の温かい血液を末端に到達させないことによって、深部の温かさを守る働きがあるのだ。これを仮に「魔法瓶効果」と呼びたい。魔法瓶は表面は冷たく、中は熱い。この状態が、体温を守るべき冬には必要なのだ。
しかし、魔法瓶効果が夏に働くならば恐ろしいことである。外気の高温下で、深部体温を保持するようなことがあれば、スムーズに体温が上がってしまうからだ。深部体温が上がりすぎると生命に危険が及ぶ。さらに、深部体温が上がると体は発汗を促すことがある。皮膚の表面は冷たいので、冷や汗が止まらくなる。脱水の危険が生じる。
冷たいものを飲むと、後がかえって蒸し暑く感じることがあるが、こういう現象を普段から注意深く観察するといい。
夏場は浅部の毛細血管を拡張させることが、深部体温の放散につながる。熱中症予防はここを主眼に置くべきである。冷やすばかりで浅部毛細血管が縮小してしまうならば、その場の回避にはつながるが、長期的に見ると熱中症を起こしやすくしてしまう恐れがある。
快適「すぎる」と?
飲む水の温度は、水分の摂取量にも影響を与える可能性がある。
ぼくは家庭菜園をしているが、真夏はその作業中に、番茶を生ぬるい温度 (35〜37℃) で、5〜6リットル飲む。それくらい汗をかくからだ。たまに地元の清掃作業に参加したときは冷たいお茶が振る舞われるが、それを飲むと冷たく、非常においしくて心地よい。スッとする。しかし、さほどの量は飲まない。なぜかというと、スッとして喉の乾きが癒えるからだ。これは、「飲まない」というより「飲めない」という方が正確である。そう欲しくなくなるのである。いつもの畑をしている感覚ならこんな量では済まない。
たとえば高温下で汗をかいて、ものすごく喉が渇く。それでお茶を買いに、ものすごくクーラーの効いたコンビニに入るとする。すると、ものすごく涼しくて気持ちがよく、とたんに、さっきまであれほど喉が渇いていたのに、そうでもなくなる。そんな感覚がわかるだろうか? これも研究者に研究してほしい内容である。
ものすごく冷たいものを口にしたり、ものすごく冷えた部屋に入ったりすると、さっきまで脱水の危険を察して発していた「口渇」というシグナルが、反射的に解除されるのではないだろうか。危険の少ない「冬場」だと安心 (勘違い) して、夏場なら必要であろう水分摂取量の見積もりを修正する (見誤る) のかもしれない。これが正しければ、摂取を必要としていたはずの水分量が、摂取できなくなる危険がある。
脱水に気づかず、喉も渇かず、熱中症になるパターンがあると聞くが、このような機序との関係はないだろうか。
「適温」を考えよう
ぬるま湯ならたくさん飲める
ぼくはお盆休みなどは、朝から夕方まで休憩なしに畑仕事をする。これは毎年のことであるが、熱中症になったことは一度もない。むしろ昼食も夕食も食欲旺盛で体調も良い。これは、大量の汗をかけるからである。さらに、水分を6リットルも摂取できるからである。
大量の汗をかき、喉が渇いては飲む。また喉が渇いては大量のお茶を飲む。それができるのは水分の温度に秘訣がある。35〜37℃というのがポイントで、これ以上低いと飲めなくなる。これ以上高いと気分が悪くなる。高いと気分が悪くなるのは、炎天下で労働していると体温が平熱よりも高くなっているからである。
炎天下の肉体労働の経験は、熱中症予防を指導する立場の人には不可欠ではないだろうか。治療家たるもの、あらゆる経験を積んでおくことが必要で、書物ばかり読んでいたのでは実際の事は分からない。経験もないのにベラベラ指導するばかりでは、まさに机上の空論・畳の上の水練となりかねない。それでは臨床家とは言えないだろう。
ふだんから少しの発汗
クーラーについて。
クーラーは使用すべきだが利かしすぎない。
近年の異常な暑さは、クーラーを使用しなければ危険である。
なおかつ夏は暑いのが自然である。
クーラーを利かしすぎて快適にしすぎると、発汗しなくなる。夏の日中はいくらかの発汗があって自然である。あまりに発汗をサボらせてしまうと、クーラーのない屋外などでスムーズな発汗ができなくなる恐れがある。
もしそうなれば体温を冷ますことができず、深部体温が上がってしまう。クーラーの適温とはどういう温度設定であるかを考える必要がある。
流れるような汗は良くないが、
・少し首元がしめっている程度の発汗は残しておく。
・手首の太渕穴に少し発汗がある。
その程度の発汗があるくらいの温度設定が良いのであって、何℃かはその人それぞれであると考えた方がよい。
いざというときにスムーズに発汗できるスタンバイ (練習) を、常にしておくのである。
ここ奈良から、泊りがけで岡山県の寺院にお参りにいったという女性 (80歳) が、熱中症になった。向かう車中でクーラーが効きすぎ、寒かったという。午後2時ごろ、参拝のために階段を昇りかけたが、なんとなく変な感じがしたので、下で一人で腰掛けに座って待つことにした。と、その間に意識がなくなり、倒れていたという。参拝を終えて降りてきた同行者がこれを発見し、救急搬送されたという。クーラーが効きすぎて、冬の体になった (浅部毛細血管が閉じた) 状態で、猛暑日の昼過ぎの気温にさらされたためであろう。
「別腹」にしない
喉が渇くから飲む。そうすれば、体に受け入れ態勢があるから、飲んだ水は組織に染み渡って有効に働く。
中医学的には、無理に飲んだ水は水邪となる。水邪とは、いわば容器からあふれた水のことであって、あふれたものは拭き掃除の手間がかかるものになるように、体にとっては余計な仕事を増やす邪魔者である。
この水邪も、過剰な深部体温 (邪熱) の発散を妨げる。寒邪と同様である。
スポーツドリンクなどの口に美味しい飲み物は、喉が渇いていなくても飲めるため、器に収まりきらずにあふれて、水邪を作り出すと考えられる。
口に美味しいと、本来求めていない分でも取り込むことができてしまう。お腹が一杯でも大好物のケーキなら食べられるのと同じで、いわゆる「別腹 (べつばら)」である。別腹で取り込んだものは、水邪として「容器の外」にこぼれてしまう。むくみなどはその典型例である。
センサーを鍛える
塩分は美味しく
塩分摂取について。
せっかく味覚という優れたセンサーがあるのだから、塩味が薄いと感じれば足すことである。体はオーダーメイドで不足する栄養分を教えてくれている。水分しかり、塩分しかりである。
料理に砂糖を使いすぎると味覚が鈍麻になる。塩は体に必要だが、砂糖は必ずしも必要ではないので、塩ではなく砂糖を控えた「うすあじ」を普段から心がけ、味覚を鋭敏にしておく。これが急場の役に立つと思う。急激に塩分を損なったときに「あれ? 味が薄いな」と、機敏に反応できるのである。
そういう意味でも、梅干しはやはり優れた食品である。汗を多量にかいて塩分が不足したときは、梅干しをご飯なしで一個まるごと口に入れて、それが美味しく感じる。これは僕が個人的に経験するところである。
今年 (2023) は14kgの自家製の梅を漬けた。紫蘇も自家製、これでしばらく安泰である。
汗をかき慣れておく
そのうえで、ふだんから適度な運動を心がけることである。汗をかき慣れていない人は、ナトリウム (塩分) が汗とともに漏れやすい。汗をかき慣れていると、ナトリウムの排泄を抑制する働きが鍛えられていく。これも体に備わったセンサーである。
さらにいえば、冬は汗をかかないので、4月ごろ肉体労働で汗をかくと、汗腺が仕事に慣れていないので誰でも大量のナトリウムが漏れ出す。だからこの時期の汗は少量たが非常に塩辛い。
このように暑くない春から体を少しずつ動かし、少しずつ汗腺に発汗を経験させ、ナトリウムが漏れないように慣らしておけば、いざ夏に大汗をかいてもナトリウムが漏れにくい。実際、汗を舐めてもあまり塩辛くない。
春からの準備が夏の熱中症予防になる。
まとめ
要は、規則正しい生活をして適度に体を動かし、口から寒邪を取り込まない、別腹で飲食物 (水邪) を取り込まない、こういう努力を普段から行って丈夫な体を養い、猛暑に備えるのが王道である。
そのうえで、暑くなった時に的確な対処をすることだろう。
ここにリンクを挙げておく。
以上のような考察は、リンクに代表されるような数々の臨床の中から導き出されたものであることを付記しておきたい。
中医学では寒冷の刺激のことを「寒邪」と呼ぶ。皮膚に受ける寒冷の刺激も、口腔内から消化管に受ける寒冷の刺激も、いずれも寒邪と呼んで病因として捉える。