24 太陽病、初服桂枝湯、反煩不解者、先刺風池風府 、却与桂枝湯則愈、
25 服桂枝湯、大汗出、脈洪大者、与桂枝湯、如前法、若形如瘧、日再発者、汗出必解、宜桂枝二麻黄一湯、
▶結論から
▶文の構成 ①②と③
24条と25条は、合わせて読んでいきます。
桂枝湯証に桂枝湯を飲ませ、その後の3つの反応パターンと対処法を挙げています。
① | 反煩不解者、先刺風池風府 、却与桂枝湯則愈、 |
② | 大汗出、脈洪大者、与桂枝湯、如前法、 |
③ | 若形如瘧、日再発者、汗出必解、宜桂枝二麻黄一湯、 |
▶桂枝湯の補法で悪化
まず結論を述べ、後で解説を展開します。
▶①②の説明…風池・風府 ➡ 桂枝湯
▶語訳
まず①・②の説明です。
太陽病 (脈浮・頭項強痛・悪寒) があったので、桂枝湯を飲ませた。すると…
①かえって煩悶するケースがある。
②大量の汗が出て、脈が洪大であるケースがある。
これらのケースでは、風池・風府に鍼をしてから、桂枝湯を与えなさい。
もし、麻黄湯証に桂枝湯を飲ませたとしても、発汗できないだけのことで、かえって煩悶するというような悪化はないはずです。桂枝湯証に桂枝湯を与えても、発汗させる力が弱いので、大汗出にはならないはずです。にもかかわらず、そうなった。
▶温補で風邪が暴れる
これは補法で悪化しています。通常、実証に補法を行っても、効かないというだけで、悪化とまではいきません。洪大は、補法と桂枝の温性で、邪熱が増したことをイメージさせます。風邪の勢いが強すぎて、桂枝湯では対応できない。むしろ桂枝湯で温めることで風邪の勢いが煽られる。そういう例外的状況になったのです。
▶境界の壁に激突
たとえば、黄連解毒湯は出血に用いられます。出血するというのは営血分に熱をもったからです。しかし、黄連解毒湯に営血分の熱を直接取る働きはありません。気分の強烈な邪熱を速やかに取る働きがあるのみです。気分の邪熱が非常に激しい時、気分と営分の境界の壁に激突し、向こう側の営血分にまで影響を与えてしまうのです。本が気分の熱なので、本を治療すれば、標の営血分は自然と取れてしまいます。もし、これを補法で処置してしまうと、必ず悪化します。邪の勢いが強すぎて境界に問題が出た時は、必ず瀉法です。
①・②でも、風邪が肌表にすごい勢いで攻めてきて、境界に激突し、肌肉にまで衝撃が波及してしまっています。
しかし、風邪というのは厄介者で、直接瀉法ができません。だからふつうは、桂枝湯で血を補いながら血 (肌肉) を温め、営血を衛気に気化して取るのです。しかしこれは補法です。このケースで肌肉を温めると陽明証は悪化します。
▶鍼で境界を強化する
そこで、風池・風府に鍼をすることによって、陰陽の境界を正常化させるのです。境界が働き出すと、肌表か肌肉か、どちらかに仕分けするハッキリさが生まれます。とうぜん、本は肌表なので、生命は肌表に邪気を集めて外に排邪する力が強くなります。そのタイミングで桂枝湯を出すのです。
境界が正常化したということは、正気・邪気の陰陽協調関係…正気が強くなればなるほど邪気が強くなる…から、優・劣の陰陽協調関係…正気が優勢になればなるほど邪気が劣勢になる…に転化できたことを意味します。
▶風池・風府について
風府は督脈、風池は足少陽胆経に属します。どちらも境界を支配します。詳しくは「東洋医学の空間って何だろう」をご参考に。空間的にかなり上にあるツボで、浅い部分の境界なら治す力があると思います。もちろん、この穴処しか効かないということではありません。応用次第、もちろん薬を使わなくても鍼だけで治すことができると思います。ただし、張仲景は、ここで境界の調整をしてから、桂枝湯で解肌して外邪を追い出しています。一つの方法だと思います。
▶③の説明…桂枝二麻黄一湯
▶語訳
③ (服桂枝湯) 若形如瘧、日再発者、汗出必解、宜桂枝二麻黄一湯、
についてです。
太陽病 (脈浮・頭項強痛・悪寒) があったので、桂枝湯を飲ませた。すると…
③往来寒熱が日に何度か起こるケースがある。
このケースでは、汗が出れば必ず癒える。桂枝二麻黄一湯などがよいだろう。
①・②と同じく、補法で悪化しています。境界に邪が入ると、補法でも瀉法でも悪化します。正気の優勢・邪気の劣勢という陰陽の境界があやふやとなり、正気が増せば増すほど、邪気が増す…という状況に陥ります。
桂枝湯を服用した後で、瘧のような往来寒熱が出た。①・②が陽明証のようであるのとは対照的に、少陽証のような症状ですね。
▶桂麻各半湯との比較
それが23桂麻各半湯みたいに10日近くも経過はしていない。また1日に複数回、往来寒熱がくるということは、桂麻各半湯に「一日二三度発、脈微緩者、為欲愈也、」とあったように、癒えやすいニュアンスです。
ただし、脈はふと思います。往来寒熱というのは、寒として開で排邪するのか、熱として闔で排邪するのか、その意思が揺れている状態です。だから小刻みに往来するのです。ハッキリしないのは、陰陽幅が少ないからです。だから脈幅も少なくなります。
ただし、桂麻各半湯ほど少なくはない。境界はまだ少し生きていて、やや肌表に仕分けようという気持ちがある。そこに桂枝二麻黄一湯をもっていくと、境界が復活し、肌表に仕分けし、表虚証としてジワッとした汗を得て、治癒するというのです。どちらにせよ、往来寒熱がでたら、治療に工夫が必要です。当たり前です。寒と熱が同時に病むのですから…。境界が病むと陰陽ともに病むこととなり、寒熱錯雑、虚実錯雑になります。
▶①②との比較
境界に問題が出たという点では、①・②も同じですが、こちらの方は肌表で風邪が邪熱化して、陽明病のようになっています。しかし、肌表の裏には邪熱が入っていないので、口渇が出ない。だから白虎湯類ではなく、純粋な表に仕分けして桂枝湯で仕留めているのです。理論上は、桂枝二麻黄一湯証も、鍼で境界を動かせたらならば、つまり皮毛の邪を0にし、肌表に邪を仕分けられたなら、桂枝湯だけで仕留められるはずです。
桂枝二麻黄一湯方桂枝一両十七銖、芍薬一両六銖、麻黄十六銖、生姜一両六銖、杏仁十六箇、甘草一両二銖、大棗五枚、右七味、以水五升、先煮麻黄、一二沸、去上沫、内諸薬、煮取二升、去滓、温服一升、日再服
▶組成
23桂麻各半湯と同じく、やはり薄い薬です。
桂枝湯 | 桂枝9g、芍药9g、生姜9g、大棗12枚,甘草6g |
麻黄湯 | 麻黄9g,桂枝6g,杏仁6g,甘草3g。 |
桂枝二麻黄一湯 | 桂枝5.4g,芍药3.7g,麻黄2.1g,生姜3.7g,杏仁2.5g,甘草3.2g,大枣5枚 |
▶鍼灸
鍼灸で行くなら、やはり外関ですね。穴処を良くするように鍼を操作すれば、自然と加減ができると思います。相当な集中力が要りますが。