傷寒論私見…桂枝加葛根湯〔13・14〕

13 太陽病、頭痛、発熱、汗出、悪風者、桂枝湯主之、

12条でも説明したように、「太陽病」とは脈浮・頭項強痛・悪寒があるという意味の言葉です。つまり、本条文の「太陽病」という部分に「脈浮・頭項強痛・悪寒」を代入すると、

脈浮・頭項強痛・悪寒・頭痛、発熱、汗出、悪風

という桂枝湯適応の証候が示されていることが分かります。悪寒と悪風が両方あるのは、寒邪と風邪が混在する証であることを示します。

▶桂枝湯で効くボーダーを示す

本条では、風邪>寒邪で、寒邪の割合が大きくなったとき、それがどこまでなら桂枝湯でいけるのか、という基準を示しています。それが頭痛です。

頭痛があるということは寒邪がきついということです。この頭痛は頭項強痛とは違います。「太陽病」とすでに断りが入れてあり、頭項強痛 (悪寒・脈浮) をすでに含ませているからです。頭項強痛は後頭部を中心とした部分的なものですが、本条で頭痛と特記されているのは、頭全体の痛みです。

頭痛にまで範囲が広がる原因は寒邪が強いからなのですが、身体痛まで広がらずに頭痛でとどまる程度なら、寒邪はまだ部分的なので、桂枝湯で行けるのです。そしてこれが桂枝湯で行けるボーダー…寒邪のギリギリの割合であると言えます。

頭痛なら桂枝湯、
体幹部に痛みが出るなら体痛なので傷寒、
背にこわばりがあるが痛みを伴わないなら14条 (桂枝加葛根湯)
、となるのです。

14 太陽病、項背強、几几、反汗出、悪風者、桂枝加葛根湯主之、

13条では、寒邪の割合が増えたとき、桂枝湯で行けるボーダーを示しました。

本条では、そのボーダーを超えて寒邪が増えたときの方剤を示しています。本条では頭痛は挙げられていませんが、本剤はそもそも桂枝湯+葛根なので、頭痛があっても本剤で行けると考えられます。

桂枝三両 芍薬三両 甘草二両 生姜三両 大棗十二枚…【桂枝湯】
桂枝二両 芍薬二両 甘草二両 生姜三両 大棗十二枚 葛根四両…【桂枝加葛根湯】

▶寒邪の郁滞のレベルを「背強」でうかがう

太陽病ということは、1「太陽之為病、脈浮、頭項強痛、而悪寒、」に本条文の証候が加わるということです。

頭項強痛に項背の強ばりが加わります。郁滞するということは寒邪があるということです。太陽病のステイタスである頭項強痛よりも、広い範囲に郁滞があるということは、寒邪が多い方だということです。

寒邪が主体なら汗が出ないはずなのに、かえって汗が出る。陰弱があり表衛の弱りもある。明らかに 風邪>寒邪 です。

桂枝湯証が、たとえば風邪9:寒邪1 だとしたら、桂枝加葛根湯証は、風邪7:寒邪3くらいなものでしょうか。寒邪による郁滞が少し目立つなら、葛根を足すといいですよ、という主旨だと思います。これは下の組成を見ればよく分かります。

桂枝加葛根湯方 葛根四両 芍薬二両 甘草二両 生薑三両 大棗十二枚 桂枝二両

▶葛根の意味

桂枝湯+葛根です。葛根は、胃気を鼓舞して陰で潤しながら浮かせて散らす作用です。基本は桂枝湯でいいが、寒邪によって生じた気滞を、葛根でちょっと散らせておこう、という主旨です。気滞があると解肌しにくくなるので、葛根が有効なのです。寒邪そのものは、桂枝で取れる範囲なのでしょう。

葛根は潤す作用があるので、解肌発汗するときの呼び水にもなります。

右六味、以水一斗、先煮葛根、減二升、去上沫、内諸薬、煮取三升、去滓、温服一升、覆取微似汗、不須啜粥、余如桂枝湯、

注目したいのは、粥をすすらなくてもいい、という部分です。粥をすすらなくてもいいと明記されているのは他に、葛根湯麻黄湯です。

▶桂枝加葛根湯の陰陽図

▶肌表に集中しきれない

そもそも、風邪は肌表を侵し、寒邪は皮毛を侵すのですが、肌表と皮毛は深浅という陰陽で、この場合、それらに優劣という陰陽が働きます。つまり、肌表が優ならば、皮毛が劣になる。皮毛が優ならば、肌表が劣になる。肌表が優になればなるほど、皮毛の劣は際立つ。

皮毛の寒邪が捨てるもの、肌表の風邪がしまうものだとしたら、散らかった部屋をきれいにするには、捨てるものばかりか、もしくはしまうものばかりか、どちらかになっていれば早く片付きます。ごちゃ混ぜになっているのが一番厄介なのです。

だからこそ、正気は肌表に集中することができ、治癒も早いのです。この優劣は、正気の優・邪気の劣にもなります。正気が優になればなるほど、邪気の劣は際立つ。だから正気は肌表に優となり、皮毛は邪気が劣となるのです。この陰陽の振り子が大きく振れれば振れるほど、早く治癒します。

もし、風邪=寒邪ならば、肌表が戦場であればあるほど、皮毛も戦場となるのです。陰 (肌表) と陽 (皮毛) ともに病んでいる、優劣という陰陽が働かない。すると、正気が正気らしくあればあるほど、邪気も邪気らしくなってしまうのです。桂枝加葛根湯証では、そこまでいかないにしても、風邪>寒邪といいながら、それらが桂枝湯証に比べ、大差ない割合で表を侵しています。

▶粥をすすらない意味

気前よく正気を補い過ぎると、邪気が勢いづいてしまう可能性があることが分かります。だから粥を省くのだと思います。

組成を見ても、桂枝湯という補剤に、やや瀉法の側面をもつ葛根を配合し、補のみに偏り過ぎないようにしています。これは、葛根湯や麻黄湯にも同じことが言えます。葛根湯も麻黄湯も太陽陽明合病に使えますので、陰 (陽明) と陽 (太陽) ともに病むという意味では同じです。

そもそも葛根は、皮毛と肌肉という陰陽にまたがる薬剤であり、また甘による補的側面と辛による瀉的側面の補瀉陰陽双方にまたがる薬剤といえ、虚実錯雑に使ってもよい特殊な薬剤であると言えるかもしれません。

粥は止めたほうがいいが、葛湯ならいい。そういう側面が垣間見えますね。

虚実錯雑についての詳細は、23条の桂麻各半湯のところで説明します。

▶鍼灸

▶ツボの操作

鍼灸でいくなら、外関などです。桂枝湯でも外関を挙げましたが、同じとはどういうことでしょう。鍼を外関にもっていくとき、寒邪の抵抗があるはずですから、それをまず散らしてから、穴処に補うスペースを作り、そのスペースを補うイメージで刺鍼します。抜鍼時も気を付けて、表面に邪が残っているならば、それは風邪や寒邪ですから、それを散らして、完全に脈が流れるのを待ってから抜鍼します。

これをやるとやらないとでは大違いですから、鍼を打つときは細心の注意をはらいます。こういう微細な感覚は、ツボ (経穴) の反応を丹念に観察し、違いが読み取れるようになると、分かってきます。軽く触れて観察するのが基本で、ゴリゴリやっていれば分かるというものではありません。

鍼というのは、こういう風に感覚によって、生体の反応に合わせてやりますので、葛根の働きが勝手に出るという側面があります。

薬の場合はこういう融通が利かない分、理論の構築がしやすいという特徴があります。ただし、理論が空論になるのを防ぐための「裏付け」も必要です。

▶ツボによる診断の重要性

その裏付けは切診 (体表観察) によって行います。特に大切なのは切経 (経絡・経穴の診察) です。

脈診・腹診は漢方家もやりますが、切経を行う先生は少数です。臓腑経絡が一体であることを考えると、臓腑の異変は経穴によって伺うものだということが分かります。東洋医学は、鍼灸・漢方薬の両方から成り立っており、両方の勉強をしなければ分かりません。経穴の診察をもっと重視すべきです。

ツボの診察…正しい弁証のために切経を

東洋医学の理論は、薬によって作られていったという印象を持たれがちですが、そうではありません。切経によって裏付けができることにより、理論をより正しく、より単純にすることができ、それが土台となります。そこにまた新しい理論を載せていくのです。こうして新しい有用な理論が構築されていき、東洋医学は発展してきたのです。傷寒論でも随所で経穴に言及しています。張仲景もそうやって勉強してきたのです。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました