頏顙 (こうそう) とは

頏顙 (こうそう) とは、咽喉から鼻腔にかけての部分のことです。

▶鼻水と頏顙

流注を勉強していると「頏顙」という言葉が出てきます。

頏顙者.分氣之所泄也.横骨者.神氣所使.主發舌者也.故人之鼻洞.涕出不收者.頏顙不開.分氣失也.《霊枢・憂恚無言69》

【訳】頏顙は分気※して通すところである。横骨 (喉頭蓋軟骨) は神と関わりを持ち、舌の絶妙な動きで分気の開閉を支配している。故に人の鼻腔で、鼻水が出て収まらないものは、頏顙が開かないからで、分気が失調している。

※分気…天空の気 (空気) か水穀の気 (飲食物) かに仕分けること。

【解説】鼻が詰まって鼻水が止まらない。これは頏顙の蓋が閉じっぱなしになっているからだ。頏顙が開けば、天空之気が通りぬけて、鼻が通り、鼻水が止まる。そういうことを言っています。つまり、衝脈や肝経の不調を疑って診察すればいい…ということになりますね。

頏顙は喉頭蓋の機能と深く関わります。下段の「頏顙の出典」を御覧ください。

東洋医学は常にそうなのですが機能的にものを言います。頏顙も実際には目に見えない機能的なものとして捉えます。ただし物質的に、鼻腔とか喉頭蓋とかでイメージして捉えたほうが初心者には分かりやすいので、そういう説明をします。しかし、物質的にのみ見てしまうと荒唐無稽になります。

▶衝脈・肝経

頏顙には、衝脈・肝経が流注します。

夫衝脉者.五藏六府之海也.五藏六府皆稟焉.其上者.出於頏顙.滲諸陽.潅諸精.《霊枢・逆順肥痩38》

肝足厥陰之脉.…屬肝.絡膽.上貫膈.布脇肋.循喉嚨之後.上入頏顙.連目系.上出額.與督脉會於巓.《霊枢・經脉10》

【訳】衝脈は、五臓六腑の海である。五臓六腑はみなこの海の恵みを受けている。 (気衝から) 上行する気は、頏顙という形で具現化する。すべての陽に温かさをしみ渡らせ(遠心)、すべての精に恵みの雨をもたらす(求心)。《霊枢・逆順肥痩38》

足の厥陰肝経は、…肝に属し、胆に連絡し、膈を貫き、脇に散布し、気管の後ろをめぐり、目と連携し、額に出て、督脈と百会で交会する。《霊枢・經脉10》

とくに、衝脈《霊枢・逆順肥痩38》は意味深です。「五臓六腑之海」「頏顙」「陽」「精」としか書いていません。いかに頏顙が「生命の海」と関わりがあるか… ということを強調しています。

▶衝脈と頏顙

▶脾胃と肝腎

衝脈は腹部腎経と同一です。そして衝脈と腎経は、流注がそっくり (腹・脊・下肢に流注) です。

しかも衝脈は、脾胃と関係が非常に密接です。じつは、この流注の仕方は脾経も胃経も同様です。そのうえ衝脈の宗穴は、脾経と胃経に関わる公孫 (脾経の絡穴で胃経に連絡する) です。

腎・脾胃、そして衝脈…。生命の根幹をなすものばかりです。

後で述べますが、これが頏顙の位置づけを解くヒントになります。

また、肝もこれと類する流注の走行があり、それは《霊枢・營氣16》に見られます。

從肝上注肺.上循喉嚨.入頏顙之竅.究於畜門.
其支別者.上額.循巓.下項中.循入骶.是督脉也.
《霊枢・營氣16》

【訳】肝から肺に注ぎ、喉嚨 (気管) をめぐり、頏顙の穴に入り、畜門に深く入る。その枝分かれは、額に上り、頭の天辺 (百会) をめぐり、項中 (風府) に下り、脊椎をめぐり尾骶骨に入るが、これはつまり督脈である。

つまり、こういう流注の仕方をする脾胃・肝腎は、すべて生命の根幹に関わり、それが衝脈と深く関わります。そして、その衝脈は、頏顙と関わるのです。

▶逆気

衝脈の病証の特徴は “逆気” です。

衝脉爲病.逆氣裏急.《素問・骨空論 60》

逆気は頏顙と関わると考えられます。しかし、衝脈 (逆気) のままではザックリしすぎて分かりづらいので、「脾胃の病証」と「肝腎の病証」に落として考えてみます。

▶脾胃と気逆

“逆気” とは、気逆です。よって胃気上逆とも関係します。

  • 胃気上逆は、気逆証 をご参考に。

胃気上逆の代表は嘔吐ですが、鼻から鼻水を嘔吐すると考えると分かりやすいでしょうか。 “逆気” は鼻水の原因になるのですね。

“逆気” とは異なりますが、鼻水は、脾の制水の失調とも関わります。体液が漏れてしまうのです。唾液が出て止まらない、下痢が出て止まらない、小便が出て止まらない…などです。そんな感じで鼻水が出て止まらない。鼻水も体液です。

胃気上逆で、頏顙が機能せず、つまり喉頭蓋が機能せず、分気できずに鼻水や嘔吐が起こるのです。

▶肝と気逆

逆気 (気逆) といえば肝ですね。

恚怒氣逆.上而不下.則傷肝.《難経・四十九難》

肝といえば怒りですね。これが気逆と大きく関わります。肝気上逆です。気持ちが下に落ち着いていれば、本来おしっこで下から出るべき水が、逆に上に昇って鼻水として出てしまう。頭にくると、頭に血が昇るみたいに鼻水も昇るのですね。

  • 肝気上逆は、気逆証 をご参考に。

気が上に昇ると、息を下腹まで吸い込む「疏泄 (条達)」「納気 (固摂) 」ができなくなり、呼吸が整いません。腹が立つと息が荒くなって苦しくなるのはそのためです。疏泄とは「スムーズに流れる働き」です。

疏泄 (条達) については、東洋医学の「肝臓」って何だろう をご参考に。
納気 (固摂) については、肺失粛降・腎不納気は気逆 をご参考に。

肝気上逆でも、頏顙が機能せず、つまり鼻腔や喉頭蓋が機能せず、分気できずに呼吸困難が起こるのです。

▶嚥下障害・誤嚥

頏顙は横骨 (喉頭蓋軟骨) とも関わりますので、嚥下障害・誤嚥 (による嘔吐) にも応用できます。

衝脈・肝経を意識します。

脾胃が弱く、あるいは腎気が弱く肝気が高ぶりやすい方は、食物が飲み込みにくいという症状を訴えられることがあります。慢性的なものは根気が要りますが、脾胃が丈夫になって体力がついてくると改善します。気分の落ち着きも出てきます。

誤嚥は気の上衝が関わります。表寒で急な気逆を起こし、誤嚥で嘔吐が止まらなくなったものを一度の治療で改善させた例があります。

飲食物を蓄えたり、余分なものを排泄したりするのは脾胃が中心ですが、そもそもの最初、つまり「飲み込む」という行為は、衝脈と肝が深く関わるということが、頏顙という概念から読み取れます。衝脈が奇経八脈の根本であるということを考えると、意味深いものがあります。

▶まとめ

飲食物を飲み込むか飲み込まないか。これには脾胃が大きく関わります。
空気を吸えるか吸えないか。これは肝腎が大きく関わります。

どちらも生き死にに関わります。

飲食物と空気、この絶え間なく注がれる外界の気が、 “五臓六腑之海” たる衝脈を満たしている。それは口鼻から注がれます。その “分気” …つまり飲み込むか飲み込まないか、吸い込むか吸い込まないか…それを支配する象徴的な存在、それが頏顙なのです。

冒頭に説明した “咽喉から鼻腔にかけての部分” という教科書的な説明、それに柔らかな命を吹き込むのが東洋医学の精神です。

▶頏顙の出典

肝足厥陰之脈.…挾胃屬肝絡膽,上貫膈,布脅肋,循喉嚨之後,上入頏顙。《霊枢・経脈10》

【訳】肝、足厥陰の脈は、…胃を挟み、肝に属し、胆を絡 (まと) う。上りて膈を貫き、脇肋に布き、喉嚨の後ろをめぐり、上りて頏顙に入る。

  • 楊上善《太素·卷第八·經脈之一》注:「喉嚨上孔名頏顙。」
    【訳】咽喉の上孔を頏顙という。
  • 張介賓《類經七卷·經絡類二》注:「頏顙,咽顙也。」
    【訳】頏顙とは咽顙※である。
    【解説】つまり、咽から頭蓋骨内部に至る部分のことです。咽から印堂 (眉間) のあたりのことと解してもいいでしょう。
    ※顙とは額のことです。頁とは人の頭のことです。桑と頭で顙です。桑は蚕の餌として重要で、これを取る時にはしごに登らなくても採れる高さ (額くらいの高さ) にある桑葉のことを顙ということから、額のことも顙というようになりました。
  • 張志聰《靈樞集注》:「頏顙在會厭之上,上齶與鼻相通之竅是也。」
    【訳】頏顙は会厭の上にある。上顎と鼻を通じる穴のことである
    【解説】会厭 (ええん) とは喉頭蓋のことです。喉頭蓋とは、食物を飲み込む時、気管に入らないように蓋をする杓子様の形の軟骨組織のことです。

從肝上注肺,上循喉嚨,入頏顙之竅,究於畜門。《靈樞・營氣16》

【訳】肝より上って肺に注ぎ、上って喉嚨をめぐり、頏顙の穴に入り、畜門 (鼻孔) に深く入る。

  • 楊上善《太素·卷第八·經脈之一》注:「頏顙,當會厭上双孔。」
    【訳】頏顙とは会厭の2つの孔のことである。
  • 張志聰《靈樞集注》雲:「頏顙,鼻之內竅。」
    【訳】頏顙とは鼻腔のことである。

頏顙者,分氣之所洩也。《靈樞·憂恚無言 69》

【訳】頏顙は分気の通る所である。

  • 張志聰《靈樞集注》:「頏顙者,齶之上竅,口鼻之氣及涕唾,從此相通。」
    【訳】頏顙は、上顎の上にある穴である。口鼻の気や鼻水・唾液はここから通じる。
  • 《医宗金鍳·正骨心法要旨·頭面部》:「玉堂在口內上齶,一名上含,其竅即頏顙也。」
    【解説】玉堂=上含=頏顙。口内の上顎にある…と言っています。

【参考文献】
“頏顙” 百度百科https://baike.baidu.com/item/%E9%A2%83%E9%A2%A1(参照2022-2-13)
“顙” 百度百科https://baike.baidu.com/item/%E9%A2%A1(参照2022-2-13)

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