《霊枢・經脉》で見られる「臑」は、上腕部の内側面・前面を意味します。
また、上腕部全体を指すこともあります。よって、上腕部内側面・前面を中心とした上腕部… をイメージすればいいでしょう。
詳しく見ていきましょう。
解釈にばらつきがある
中国人が「臑」の意味をどう理解しているか、百度百科で調べると、臑は “上肢” とあります。
しかし、《類経》によれば「上腕部内側面・前面」と解釈できます。
《霊枢・経脈》では「上腕部」と解釈できます。
ばらつきがあるのですね。
「臑」は「月 (肉) +需」です。よって、まずは「需」のもともとの意味から探ります。
需の字源
「需」の意味は、もとめる・ぬれる・まつ です。
臑は「月 (肉) +需」です。父辛鼎に残された金文では、人の脇から汗がしたたる象形文字となっています。脇は人体で最も柔らかい部分で、もっとも汗をかきやすい部分です。よって「需」は「やわらかい」「ぬれる」という意味があります。
また、お笑いコンビ「オードリー」の「春日のここ空いてますよ」のギャグからも分かるように、上腕部内側面・前面〜側胸部のエリアは「求め受け入れる」場所であり、「待つ」場所です。とくに二の腕にその意味が強く反映されます。
以上から、「柔らかく受け止める」「ぬれる」という意義が生まれます。柔らかいふわふわの土は雨を吸収しやすい… ということもイメージして良いでしょう。
よって「需」は、需求する・求める ・需要がある… という意味で用いられることが多いですね。
濡… 中医学では「濡脈」という脈証がある。浮にして細軟の脈である。「濡」に柔らかいという意味があることが分かる。
襦… ハダギと訓む。ころもへんに需。柔らかい衣。汗で濡れやすい衣。
「臑」は、先出の象形文字から考えると「需」のもともとの意味となります。象形そのものが「からだ」を描いているからです。そのように考えると、「臑」は「上腕部内側面・前面を中心とした場所」という定義が成り立つと思います。
臑内,(膊之内侧,上至腋,下至肘,嫩白肉曰 ,天府侠白之次也。 )
《類経・七巻経絡類》
《霊枢・経脈》に “臑外前廉” という表現があり、手陽明大腸経の肘髎から手五里のあたりを指しますが、「臑 (上腕部内側) の外側面と前面」と解釈できます。が、ここでの “臑” は「上腕部」と取っても意味が通じます。
私見としてまとめます。
「需の字源」からも明らかなように、「臑」は脇の柔らかい部位を示し、上腕部の内側面・前面を意味します。
しかし、慣用的に上腕部全体を指すこともあります。なので《霊枢》ではわざわざ “臑内” と分かりやすく表現しています。また上腕部の外側面を示す場合は、 “臑外前廉” という表現も使っていると考えられます。
臑兪の穴性の参考になると思います。臑を兪する。