起とは…経絡流注の字源・字義

起の字源・字義

起 【訓】おこる  おきる

起。能立也。从走巳聲。《説文解字》

起は「よく立つ」ということである。走と巳からできている。

起。能立也。…五經文字云从辰巳之巳。是。字鑑从戊己之己。非也。《説文解字注》

起の巳は、子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥の「巳」である…とする五經文字の説が正しい。
甲乙丙丁戊己庚辛壬癸の「己」という字鑑の説は誤りである。

《説文解字注》ではそのように述べています。

巳とは

巳也。四月陽氣巳出,隂氣已藏,萬物見,成文章※,故巳爲蛇。象形。《説文解字》

※文…彣。あや。いろどり。模様。
※章 …彰。あや文様が外に現れる。表す。あきらかにする。

【訳】四月の陽気が已 (すで) に出て、陰気は已 (すで) に蔵 (しま) われている。万物が現れる。色彩や形態がハッキリする。故に巳は蛇の象形文字である。

四月とは旧暦ですから、今の5月くらいのことを言います。冬眠していた蛇が出てきてゴソゴソ動き始める季節です。かがんでいるものが起き上がる様子を示します。

包.象人褢妊,巳在中,象子未成形也。元気起於子。子,人所生也。《説文解字》

また、この象形は胎児を象ります。《説文解字》の「包」の項目でそれが触れられています。胎児が已 (すで) に成熟して、今まさに生まれようとする姿です。巳と已 (すでに) は同源です。

奥に秘められた胎動が、今まさに表に現れる様子をイメージします。

「走」はそのまま、「走る」です。

はるか向こうの方から、速いスピードでやってくる。そして「巳」つまり突然ニョキッと「現れる」。

これが「起こる」ということです。

字源から考えると、「起こる」というのは偶然に何がが突然ポンと生じるのではなく、その場所に走ってやってくる見えない何者かがあって、その見えなかったものが急に現れるということなのですね。必然性があります。

臓腑経絡学での読み方

たとえば、膀胱は下焦にありますが、その「起こる」ところは目の晴明ですね。膀胱にひそみ、かがんでいた脈気が、晴明に走る。ジャンプして表に現れるのです。

膀胱足太陽之脉.起於目内眥.上額.《霊枢・経脈10》

【訳】膀胱足太陽の脈は、目頭 (晴明) に起こり、額を上る。

余談

このように、「起」は、かがんだ状態からジャンプして現れる…という意味があるのですが、生命の根幹に関わる任・督・衝の三脈は、すべて胞中 (子宮) に “起こる” とされます。

先天を主る少陰腎経ですら “小指の下に起こる” のです。もちろん、腎から発して小指までジャンプするのですが、では胞中にはどこからジャンブしてやってきたのでしょうか。

これはただの想像ですが、体内のどこからかジャンプしてきたのではなく、外からやってきて起こったのではないか。そもそも受精卵も人体の外部から入ってきた要素がありますね。この三脈は、体の外部…つまり大自然から発して胞中に起こるのではないでしょうか。そのほうが奇経八脈の大意に沿うと思います。

ついでなので触れますが、十二経絡では、その臓腑に「起こる」のは偶然なのか心・心包のみです《霊枢・経脈》。古代中国人は、心や心臓の鼓動 (生命) は、どこか別のところからジャンプしてやってきたと考えたのでしょうか?

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