新型コロナ後遺症の症例

小学6年生。男児。

野球少年。

新型コロナ陽性の診断をうける。

経過

2022年11月16日、朝起きたら体がだるい。その後、最高で40℃の発熱。食欲がなくなった。11月18日に平熱となる。

発熱などの症状は消失したが、なぜか両手 (右>左) が震える。字を書くと腕がすぐに痛くなる。その後も症状がましにならず持続するため、12月13日に当院を受診する。

診察

天突に寒邪の反応がある。つまり表証があり、表に寒邪がある。

神闕に邪熱の反応がある。つまり裏証があり、裏に邪熱がある。

病因病理

表証とは、生命という城郭をとりまく敵軍のようなものである。この敵軍は「寒」の性質を持っているため、寒邪という。

敵軍に取り巻かれ続けた城は、ドンドンと疲弊していく。疲弊した生命力は、ますます寒邪を追っ払う力を失う。よってずっと寒邪が居座り、その期間は初診までの25日間に及んだ。これが東洋医学的に見た時の、後遺症が退かない主要な原因である。

この寒邪が表 (ひょう・皮膚表面) に居座ると、裏 (り) の邪熱が発散できない。魔法瓶のように、表面は冷たいがゆえに、中の熱湯が冷めないのである。

冷めない邪熱は、上に上昇気流を起こす。熱い空気は上に昇るのと同じである。すると上に風が吹き上げる。それが木の枝や木の葉を揺らすのである。これが手の震えである。人体生命を樹木と重ねて考えると、体幹部は幹で、手は枝葉である。幹が震えるような大風なら大事であるが、手の震えもこうした体の矛盾を教えてくれている。早く整えてくれ…と。

このような風のことを内風という。

字を書くとすぐに腕が痛くなるのは、寒邪による気滞であろう。寒邪は氷のように凝固する性質がある。気滞が腕に強く起こり、不通となって痛みが出る。不通則痛である。

治療

百会に金製古代鍼をかざし、一瞬で離す。

目的は、表の寒邪を取り去り、裏の邪熱を発散させて冷ますことである。魔法瓶をペットボトルの容器に変え、中の熱湯を冷まして適温にする。適温になれば上に吹き上げる風が止み、枝葉が揺れなくなる。また寒邪を去れば気の流通がが凝固することが無くなり、痛みも出なくなると考えた。

養生指導

今日の入浴を禁ずる。当分の間、冷たい飲食物の摂取と、運動を控えるよう指導する。

カゼは表証のなかに見られる症候群であり、よって表証はカゼと同じように考えると分かりやすい。ブルブル悪寒がし高熱が出ている状態では、入浴・冷たい飲食・運動は、すべてよろしくない。

また、裏に邪熱を起こした原因は気滞 (緊張・興奮) があったからである。野球をならっているが、スポーツは他人との勝負ではなく、自分との勝負であるという心の持ち方を教える必要がある。自分との勝負ならば、緊張や興奮が生じない。落ち着きがあるのみである。

結果

3日後来院時、震えも痛みも無くなった、とのこと。

一ヶ月弱つづいた症状が、一度の治療で消えた。

その後、1ヶ月経過時点で症状の再発なし。

考察

表証によって寒邪が生命を取り囲む状態となると、自力で回復することが難しいことがわかるだろうか。後遺症の代表は倦怠感や味覚障害が挙げられる。

倦怠感は寒邪が痰湿をコテコテに固めてしまっていることが考えられる。痰湿は餅だと考えると分かりやすいだろうか。餅は温かいと柔らかくなるが、冷やすとカチカチに固まる。固まった痰湿は流通せず、流通しなければ体外に排出することはできない。寒邪が退かなければ、痰湿は柔らかくならず、排出する糸口が得られない。

味覚障害は肺気に関わる。肺気は感覚を支配する。皮膚は肺の一部であると東洋医学では考える。寒邪が皮膚に張り付いた状態だと、肺気がフリーズするため、感覚 (味覚) も部分的にフリーズする。また口中や舌は清竅でもある。コテコテになった痰湿が内風に巻き上げられて清竅を塞ぎ、味覚を通じなくさせている側面も考えられる。

表証は、カゼをイメージして対処するのが良い。

カゼの養生法は、安心と安静である。

焦ったり動き回ったりすることは、かえって表証を治りづらくし、慢性固着化の原因を作っていることを知るべきである。

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