ノロウイルスの症例

今朝、子供が吐いたので診てほしい、との電話。
午前10時30分に来院。 (2015年12月)
4歳の男の子。

初診 (午前10:30)

「朝から吐いた?」
「ハイ、朝ご飯食べるまえに吐いたので、食べさせてないんです。4回ほど吐いて・・・。食べてないからほとんど何も出ないんですが・・・。」
「昨日は?」
「ずっと元気だったんです。でも、秋祭りとかで食べ過ぎたかもしれません。で、今、小児科に行ってきたんですけど、浣腸でウンチを出されました。ノロウイルスって言われました。流行っているらしいんです。」
「そうですか。ウンチを出した後、元気がなくなったりしてませんね?」
「ハイ、それは大丈夫みたいですけど、あんなの効くのかなあ、と思って・・・。」
「ウイルスを外に出す意味があるんでしょうね。東洋医学でも吐かせたり、下したりすることがあるんですよ。ただ、もう少し慎重にやりますがね・・・。」

・・・・・・・・・・・・・・・

脈診…中位に寒邪
舌診…黄色の膩苔。やや厚い。
治療…
左滑肉門に金製古代鍼をかざす。中位の寒邪が浮位まで浮いてきたのを確認し、左合谷に金製古代鍼で瀉法。

・・・・・・・・・・・・・・・

処置が終わって質問を受ける。
「病院では、今日は何も食べさせないように、と言われたんですけど、どうでしょうか?」
「分かりました。確認しますね。」
脈診で、食べるべきか絶食すべきかを診る。絶食は良くなく、食べるべきであると結果が出る。
「絶食は良くないみたいですね。薄いおかゆを、重湯でもいいですから一口でも二口でも良いからスプーンで食べさせてみてください。でも嫌がったら無理に食べさせないでください。」
「分かりました。そうしてみます。」
「まだスッキリしにくいと思うから、もし良かったら午後も来られたらいいです。」
「そうですか。じゃ、お願いします。」
子供さん、急に泣きそうになる。
「ん? 吐く?」
胃の内容物がが逆流するゴロゴロっという激しい音とともに、少量、黄色い痰のような胃液がでる。
・・・治療、効いてないのか? いや、中位の冷えはきちんと取ったはず・・・。
少し迷いが出る。脈診で再度確認するが、やはりおかゆを食べるべき、とのこと。
午後からまた診ることができるので、とりあえず、そのまま帰っていただく。

2診目 (初診日の午後6:00)

その日の午後6時に再診。

「また吐きました?」
「そうなんです。午後1時に重湯を飲ませたんですが、スプーン一口で寝てしまって・・・。それで、起きてから3時半におかゆを食べて、5時半に吐いちゃいました・・・。」
「そうですか。」

舌を診る。黄色の厚膩苔が、白くなり薄くなっている。これは改善している証拠。脈を診ると、中位にあった寒邪は見当たらない。
よかった、大丈夫そうだ。

・・・・・・・・・・・・・・

治療…
中脘に金製古代鍼をかざす。
左合谷に金製古代鍼で瀉法。気滞を取って上に昇った気を下ろす。

・・・・・・・・・・・・・・

脈診で晩御飯を食べるべきかを確認。食べない方が良いと出る。
「晩御飯は、もう食べさせないでください。舌はきれいになっているので、良いほうに向かっていることは間違いないと思います。」
「ハイ」

「これね、朝に診たときは、食べる方が良いと出て、今は食べるなと体が言っているということはね、おかゆがあったから吐いてウイルスを外に出したともいえるかもしれませんね。それから、おかゆを食べたから昼寝ができて、回復が早くなっている可能性もあります。最終的には免疫がウイルスを殺すので、コンディションが大切なんです。今晩よく寝てくれたら、かなり良くなると思うんやけど・・・。」
「分かりました。明日もお願いできますか?」
「はい、そうなさってください。」

3診目 (翌日午前10:00)

翌朝、10時から診察。

「あれからどうでした?吐いた?」
「はい・・・実は・・・、あれから、お腹空いたって言うもんやから、おかゆを食べさせたんです・・・。先生が食べたらあかんよ、って言ってくださってたのに・・・。そしたら夜の9時ごろ少しだけ吐いて、それから寝ました。」
「それからもう吐いてない?」
「はい。」
「今朝からも?」
「はい。」
「夜はよく寝ていたみたい?」
「ああ、それは、よく寝てました。」
「今朝、朝ご飯は?」
「夕べ吐いたから、食べさせてないんです。」
「お母さん、お腹空いた。」
「ははは、お腹空いたか。ちょっと待ってな、治療してからな。ここで、子供の欲しがるものを与えてしまうと逆戻りする場合があるんで・・・。」
「はい。・・・そうやで、〇〇ちゃん。先生が、これ食べてもいいよって言ってくれはるからね。それ、ちゃんということ聞いたら早く治るからね。」

・・・・・・・・・・・・・・・

治療…
左百会に銀製古代鍼をかざす。腎臓を補いながら気を下ろす。

・・・・・・・・・・・・・・・

何やら、お母さんに耳打ちしている。
「ん?何ですか?」
「ハイ、卵焼きが食べたいらしいです。」
「卵焼きか、ヨシヨシ、いけるかな? 他に何か食べたいのある?」
「ハンバーグ!」
脈診で卵焼きはOKと出る。ハンバーグは残念ながらアウト。
「昼はそれを食べさせてください。それが収まったら夜も同じものを食べさせてください。ただ、夜の食事は、昼の食事量を上回らないようにしてください。それで、たぶん行けるでしょ。もし何かあったら明日も来てください。」
「分かりました。」
「・・・やっぱり、昨日のお昼におかゆは正解だったと思いますね。おかゆがなかったら、吐こうにも内容物が出ないですから。内容物が出たからウイルスの除去が早くなった可能性がありますね。ウイルスが除去されたら、あとは胃腸の弱りが残るので、その夜はやはり食べるべきではなかったと思います。食べない方が胃腸が休まると考えることができますね。」
「いやー、先生に食べない方がいいって言われてたのに・・・すみません・・・」
「いえいえ、お母さんは何も悪くありませんよ。こういうのは難しいんです。ぼくも、体の声を一部聞くことはできますが、それがどういう意味で言っているのかをちゃんと判断できるほどの信念がないんです。だから、食べさせなさい、食べさせてはいけません、とか、はっきり自信をもって言えているわけじゃない。子供がおなかが空いたと言えば、親なら食べさせたいと思うのが当たり前です。だから、それでいいんですよ。」
「ハイ、すみません・・・」

経過

その三日後、お電話をいただく。卵焼きの昼食はすんなり納まり、その後吐くこともなく、元気になったとのこと。ただし、お母さんと、この子の兄弟2人の、合わせて3人が発熱・下痢・嘔吐の症状なので診てほしい。全員にうつるとは・・・。やはり、ノロで間違いなさそう (^^;

ともあれ、まる1日で症状終息。よかった。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました