傷寒論私見…太陽陽明合病とは

太陽と陽明の合病という言葉が以下の条文に出てきます。張仲景先生の文体は、簡略に過ぎるため洞察力・言語力が必要です。そのためにはまず、すぐれた国語力が必要です。

まず、太陽陽明合病とは何か、ということを明確にしてから、それぞれの薬の説明に行きたいと思います。

32 太陽与陽明合病者、必自下利、葛根湯主之、

33 太陽与陽明合病、不下利、但嘔者、葛根加半夏湯主之、

36 太陽与陽明合病、喘而胸満者、不可下、宜麻黄湯主之、

合病と併病のちがい

太陽病に罹患した瞬間、陽明病を併発した病態であるということが前提です。似た概念に「二陽併病」があります。のちのち詳しく説明しますが、これは延焼です。

つまり、太陽陽明合病は、2軒の家が時間差なく出火し同時に火事になったものです。二陽併病は1軒の家が火事になり、それが隣の家に燃え広がったもので、時間差はあるが同時に燃えているものです。

二陽併病については「傷寒論私見…二陽併病〔48〕」をご参考に。

条文には省略がある

さて、条文を読むと、情報が少なすぎます。特に、33条は、嘔しか症状がありません。嘔なら、太陽病の特徴でもあります。
・乾嘔 (12条…桂枝湯証)
・嘔逆 (3条…傷寒)
なので、陽明病を伺わせるものが書かれていないことになります。また、自下痢・喘・胸満も陽明証とは言いがたいものです。

つまり、条文では陽明証の列挙を省略しているのです。どんな陽明証が出てくるか分からないからでしょう。

陽明病とは

陽明病 (陽明証) とはどんなものでしょう。

  • 187「陽明之為病、胃家実也、」とあるように、まず胃家実です。
  • 215「陽明病、不吐、不下、心煩者、可与調胃承気湯、」とあるように、心煩が特徴です。
  • 217「陽明病、潮熱、大便微鞕者、可与大承気湯、」とあるように、潮熱・大便硬が特徴です。
  • 白虎湯証の「大熱・大汗・大渇」つまり、激しい高熱・激しい自汗・激しい口渇です。

合病で起こりうる陽明証とは

まず、太陽病…脈浮・頭項強痛・悪寒がある。
その上に陽明病…心煩・潮熱・大便硬・高熱・自汗・口渇・脈洪、などのどれかがある。
これら太陽病と陽明病が、同時に起こったときに矛盾しない陽明証とは、どんな症状かというと…、

  • 悪寒がある可能性があるので、口渇は確定要素にはなりません。
  • 自下痢がある可能性があるので、大便硬は確定要素にはなりません。
  • 葛根湯や麻黄湯の適応症なので、自汗はありえません。
  • 潮熱は慢性的な陽明病 (毎日午後4時ごろになると発熱する) を指すイメージがあるので、ここでは消去します。

よって、心煩・高熱が消去法で残ります。

つまり、

太陽病の脈浮・頭項強痛・悪寒があり、
陽明病の心煩・高熱のどれかがある。

これらが同時に発症するものが、太陽陽明合病といえると思います。

+α で薬をチョイス

その時、以下の条件が加わることで薬が決定します。

自下痢+不嘔 →葛根湯
不下痢+嘔  →葛根加半夏湯
喘+胸満   →麻黄湯

そういう理解で行きたいと思います。
自下痢・嘔・喘・胸満の意味など、詳しくは各条を各ページで展開しますが…、

簡単に言うと、
悪寒があってしばらくしてから熱が上がって高熱になるのではなく、悪寒と高熱が同時に起こるものと言えるでしょう。
さらに、それと同時に、
・下痢したならば葛根湯、
・吐いたならば葛根加半夏湯、
・息がしにくくなった (咳や喘鳴などで) ならば麻黄湯
と単純に考えてみましょう。

ちなみに、
悪寒があってしばらくしてから発熱するのは太陽病、
悪寒があってしばらくしてから高熱になるのは二陽併病と言えると思います。その高熱が陽明病であるとするならば。

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