鼻閉と呼吸、そして衝脈

40代前半。女性。

パニック障害。

「ノドが気持ち悪くて、夜になったらひどくなるんです。」

「なんでやろ。なんか思い当たるふしは? 」

「夫が泊まりで仕事に行っているんです。そんなことめったにないんですけど…」

「それで不安? 」

「はい、息が苦しくなって、息ができなくなりそうで…。もし発作が起こったらどうしようって思ってしまって…。昼はまだマシなんですけど、子供を寝かしつける時間になると…。」

就学前の一児の母である。

「ああ、そうか…。それはつらいなあ。」

これはパニック障害の特徴である。「広場恐怖」という。ここから逃げられない、誰かに助けを求められない… という恐怖である。死を意識する場合も多い。たとえば、会議室など逃げ出せない環境、広場など助けを求められない環境で起こる。高速道路・電車・信号待ちの車内・エレベータの中…。ぱっと出てくるものでも、いろいろある。一度その環境でパニックを起こすと、それに似た環境に遭遇したときに、強い不安に襲われる。

「無意識に夫に頼っていたみたいで…。」

生理前でもある。三陰交は充実している。生理に必要な血が足りているという土台は重要である。
太渕・列缺に反応はない。
公孫が実。

望診で全体を眺める。気が極端に昇っている。

「いま、気をつけてもらっていることありますね。食べすぎない・夜ふかししない、それから取越苦労はつまらないことだという価値観を持つ…。これらの努力、この調子ですよ。いま息が苦しいけど、それを治すのは僕の仕事です。だから〇〇さんは “この調子” で行きましょう。」

心神をリセットする。腎志を鼓舞する。そして正しい疏泄を生む。これで気が下がる。

いま、当該患者に改める点があるかないか。この見極めが大切だ。乗り越えられる壁があれば、それを “乗り越えられる” と指導すべきである。乗り越えられない壁ならば、丁寧に上手に指導しないとかえって負担になりやすい。それよりも、成長するまで待ってあげたほうが効率が良いと考えている。そして僕はその指標を太渕・列缺にもとめている。いかに簡単な方法で気を下げるか。簡単な方法であればあるほど、正しいやり方に近くなる。

太渕・列缺の実の反応は、気滞 (気閉) を示し、誤った気の暴走 (疏泄太過) に対して、蓋をするようにさえぎってくれる反応である。この反応があれば取り去る (壁を乗り越える) べきだし、なければ取り去るべきではない (この調子で行く) 。そう考えている。

関元 (任脈) に2番鍼を3mm刺入。5分置鍼後、抜鍼する。

普通はこれで治療終了だが、脈を確認するとまだ平脈 (健康的な脈) になっていない。

右少商 (肺経) に2番鍼で刺絡。これで胸がスッとするはずだ。十宣 (手の井穴) は、すべて胸中 (心・心包・肺) に流注する。

平脈になった。公孫の邪が消失。

「いまも息はしにくいですねえ? 」

「いえ、ましです。鼻が通りました。だから息がしやすくなりました。」

「いつ通った? 」

「指に鍼をしてもらったときです。」

鼻が通ったのではない。肺経が通じることによって「衝脈」が通ったのである。衝脈は胸中に散じ頏顙に出る。頏顙 (こうそう) とは、鼻の穴から喉頭蓋にかけての「機能」を指す。頏顙から胸中にかけて機能しだした。それが、公孫の邪が消えたことで言えるのである。

「 “胸” が通ったのかもしれないですね。だから鼻も通ってきた。いま、少しのスキマが胸のあたりにできてきて、それで息がしやすくなっているかもしれません。もしそんな感じがあるなら、それをよく感じ取ろうとしてください。」

4日後、再診。

あれから息が楽になる。夜も安眠できている。

おとつい生理がきた。

ご夫君は昨日帰宅した。

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