ガンとともに

「はい、舌みせて。…はい、いいですよ。舌の色がいいですね。悪いときは白くなってるんやけど、ちゃんと赤みがあります。まあ、上手に生活しておられるのかな? 調子は?」

「うん、いいですよ。」

体調がいいので、最近、内職を始めた。チアリーダーの衣装を作る依頼が大学からきたらしい。心配していたが、この舌の色なら大丈夫だ。

4月の初診時に、肺兪を中心に20センチにも及んだ虚の反応が、半年たって消失している。だから動けるようになったのだ。

ツボの診察…正しい弁証のために切経を
ツボは鍼を打ったりお灸をしたりするためだけのものではありません。 弁証 (東洋医学の診断) につかうものです。 ツボの診察のことを切経といいます。つまり、手や足やお腹や背中をなで回し、それぞれりツボの虚実を診て、気血や五臓の異変を察するのです。

「忙しいけど、つかれたら ちょっと横になって、またやるみたいな感じです。ここの痛みさえなかったらなあ。」

腫瘤部分の痛みである。

「この痛みは大事やで。もしこれがなかったら、ずっとやってしまうやん? 末期ガンでまったく症状がないのはよくない。症状はブレーキやから…。ブレーキがなかったら、つらくないもんやから無理ばっかりするでしょ? そしてある日とつぜん痛みが出る。それはホントに突然なんですよ。とてつもない激痛です。あとはもう…。」

「わあ、そうなんですか。」

「この程度の痛みは悪い痛みではなく、いい意味でのブレーキなんですね。ウォーキングでは痛くないんでしょ? 無理しすぎたら教えてくれてる感じですね。こうやって、マメにブレーキを踏んでいれば、クラッシュしないんです。」

「ああそうか…、分かりました。」

「痛み」は「痛い」から治る?
痛みはなぜ存在するのか。痛みはどのようにすれば治るのか。 これを、模式的に考えてみましょう。 上図のように、手首に「切り傷」を負うとします。 時間がたてば傷口がくっついて、ふさがってきます。この時、手首を動かすと「痛い」と感じる方向 (姿勢...

「最近、ウォーキングはどう?」

「雨がよく降るでしょ。たがら飛び飛びになってるんです…。行くときはだいたい20〜30分かなあ。」

脈を見ながら…

「ああ、それでいいよ。雨のときは止めといてって言ってるもんね。一応時間確認しときますね。20分、30分、40分…。うん、できるだけ30分やるように、そしてそれを超えないようにしてください。」

脈診で “体の声” を聞く
藤本蓮風先生の御尊父、藤本和風先生。その患者さんが、かつて近所におられた。その方いわく、「ピーナッツが好きでね、でも和風先生は脈を診て、” ピーナッツは一日〇〇個までやで ”っておっしゃるんです。」僕が鍼灸学校に通っていたころだった。

「先生って体とお話ができるの?」

「うん、そうそう。できるんですよ。」

「すごいなあ。」

「僕がすごいんじゃなくってね。体がすごいんですよ。体って何でも知ってるから、言うとおりにしていると間違いないですね。」

「はい。」

「ガンとかいうと聞こえは怖い感じやけど、ガンの患者さんで30分もウォーキングしていいって人なんか なかなかいないんですよ?  」

ガンに向き合う…「休む」は生命の根源
大きな病を得たならば、いろんなしがらみから離れて、温かい家の中を懐かしい子宮の中だと思って、まるで胎児のように丸まって、無邪気に何も考えず、いつか子宮口が開く時を楽しみに待つ。それが「休む」ということだと思います。

「そうなんですか。」

「そうなんです。30分も毎日やれって体が言うってことは、これからもっともっと…、ご苦労さんやけどね、まだまだ頑張れってことや! 」

当院のみでの治療を望んでおられる。

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