よだれと脾

4歳。女の子。
健康増進のため普段から診ている。

「先生、口って開けない方がいいですよね…」
「え?」
「歯をみてもらうとき、しょっちゅう言われるんです。口を開けていると脳の発達が遅れたり、姿勢が悪くなったりするって…。それが気になって仕方ないんです…。」

東洋医学では、口は消化器の入り口で、消化器 (脾) の状態を示す。口が自然に開いてしまって閉じないというのは、脾が弱いことを意味する。

脾主口.<素問・陰陽應象大論 05>

「赤ちゃんってヨダレを出すでしょ? たくさん出ると元気な証拠だ…って言いますけど、あれは逆なんです。脾が弱いとたくさん出すぎる…。〇〇ちゃんはどうだった?」
「すごくヨダレが多かったです…。」
「普通は少し大きくなるとヨダレが止まるけど、弱い子は大きくなっても止まらないんですよ。口を開けるというのも、ヨダレほどではないけど、それに準じて考えますね。」

脾爲涎.<素問・宣明五氣 23>

胃は脾と深い関係にあるが、胃には食べ物を始めとして、気を下に下にと降ろす働きがある。これが弱るとヨダレが上に昇る。

胃緩則氣逆.故唾出.<霊枢・五癃津液別 36>

脾は気血を作る元である。気血が足りないと、とうぜん脳にも脊柱起立筋にも気血が不足し、頭の回転が遅くなったり、姿勢が悪くなったりということがあり得る。

脾為諫議之官。知周出焉。<素問・刺法論 72 (遺篇) >
脾主身之肌肉.<素問・痿論 44>

脳性麻痺では、よだれを止めることと、脊柱起立筋を強くすることが大切である。
つまり、脾 (よだれ・肌肉※と関わる) を強くする。
そして、腎 (督脈≒脊柱起立筋) を強くする。

肌肉とは筋肉のことである。現代中国語では日本語の「筋肉」のことを「肌肉」と言っている。東洋医学でいう「筋」はもっと深い骨に近い処のことを言っている。

この患者さんは、足の甲、衝陽 (胃の原穴) に痛みが出る。夜中に痛みで急に泣き出す。それが1時間も続く。これは脾に問題がある。治療を始めてから、痛みはあるが日中の10~20分で、ふつうに歩いていられる程度のものとなってきている。

「まずは体全体がよくなるということ。口を無理に閉じさせれば体が良くなるということではないし、まだこんな小さい子供に一日に何回も『口を閉じなさい』と注意するのも、かえってかわいそうですよね。」

「注意しちゃってます…。」

「たまに、『開いてるよ』とやさしく声をかけるくらいならね? それだと自然でいいんじゃないかな。それよりも、今こうやって治療していることが、出来るだけの努力になっていると、僕は勝手に思ってるんですけどね。」

「ああ、ありがとうございます。なんかホッとしました。」

脾の弱りが原因。
口が開くのは結果。

結果だけを良くしても原因はよくならない。

点数だけを無理に上げようと思ったらダメ。
普段から勉強をちゃんとする。
結果はおのずとついてくる。

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