ノド痛とネフローゼ症候群… 北海道から通院する患者さんの記録

18歳。男性。

ネフローゼ症候群。6歳で発症し現在に至る。これまで、何度もむくみでパンパンになり、入退院を繰り返し、その度にステロイドで鎮静してきた。

根本的に治す方法はないものか。これが御母上の願いであり、本人の願いである。その一心で、北海道から飛行機で、ここ奈良まで通院されているのである。

2024年7月下旬退院。

2024/8/29 初診時、
・プレドニン10㎎/1日… ステロイド錠剤
・ネオーラル50㎎カプセル7回分/7日… 免疫抑制剤
を服用。むくみはない。

数値 (2024/8/22) は、
尿蛋白補正… 1.43 (正常値 0.14〜0.00)
アルブミン… 4.0 (正常値 5.1〜4.1)

2024/11/16 時点、
・プレドニン3㎎/1日… ステロイド錠剤
・ネオーラル50㎎カプセル3回分/7日… 免疫抑制剤
を服用。むくみはない。

数値 (2024/11/14 ) は、
尿蛋白補正… 1.99 (正常値 0.14〜0.00)
アルブミン… 3.6 (正常値 5.1〜4.1)

いつ聞いても「体調がよい」との返答。
ジョギング20分を指導、毎日ではないが継続できている。

こういう結果が出ているから、北海道から遠路はるばる通院されるのであり、そのご紹介で近所の方も北海道から現在通院中なのである。

当該患者は、前日に飛行機でやってきてホテルに宿泊し、御母上の付き添いは初診のみであった。もちろんその後も、御母上とは電話で連絡を取りつつ治療を進めている。もちろん予断は許さない状況であることは承知しているが、それはどんな病気を治すうえでも言えることである。

腎臓の難病 (ネフローゼ症候群;指定難病222) … やはり、奇跡は起こる
ネフローゼ症候群の中医学的な症例検討である。ステロイドが効かない巣状分節性糸球体硬化症において、数値の激減を見た症例を考察する。

2024/8/29 初診。8/30に2回、8/31に2回、計5回の治療。
9/9に2回、9/10に2回、計4回の治療。
9/20に2回、9/21に2回、計4回の治療。
10/3に2回、10/4に2回、計4回の治療。

【成長してほしい】
10/5も2回予約が入っていたが、朝起きられずに2回ともキャンセルした。初めてのキャンセルではあったが、初診からここまで全て遅刻であったことを考え、当院から治療を断った。約束が守れない人は治らない。まして難病である。
御母上に連絡を取り、約束と「誠」… 夢を現実化するトレーニング を当該患者といっしょに熟読していただき、それでも当院に通いたい気持ちがあれば、いつでも受け入れる旨を説明した。
まもなく治療依頼の電話があり、治療再開となった。それ以降、一度も遅刻はなく、5分前には到着して待機するようになった。
こういうものを成長という。瞳も生き生きしている。成長がある限り、奇跡が起こる可能性がある。

10/18に2回、10/19に2回、計4回の治療。
10/31に2回、11/1に2回、11/2に2回、計6回の治療。
11/16に2回、11/16に2回、計4回の治療。
11/25に2回、11/26に2回、計4回の治療。
12/6に3回、12/7に3回、12/8に3回、計9回の治療。

12月に3日で9回の治療を望まれたのは、たぶん12月10日から自動車免許の合宿が四国であるからだ。だいぶ前に御母上から相談を受けた。遠くへ行きたい志向が強く、当院への通院もこれがあるからできているとも言える。2年前にはマルタ共和国で一人暮らしをして、1ヶ月ほどしたら一気にむくんだために急きょ帰宅したという経歴もある。

「自動車の合宿に行きたいって言うんですけど、大丈夫でしょうか…。」
「大丈夫かどうかは行ってみないと…っていうか、地元の教習所になんで行かないんですか?」
「つまんないって言うんです…。」
「まあ、悪化の可能性はかなりあると思ってください。で、それを踏まえたうえで失敗するなら、本人の学びにもなるでしょう、とだけ言っておきます。あとはよく相談して決めてください。」

以下の話をした。

【失敗は成功のもと】
息子がまだヨチヨチ歩きの頃、丘陵公園に遊びに行った。上まで一緒に登ったのだが、下りの丸太階段で息子は走り出したのだ。大人の目から見て何が起こるかは明らか、しかし僕は「こけるぞ〜」と言っただけで引き止めなかった。案の定、息子はこけてコロコロくるくると転がった。泣いていたが、しかし無傷だった。ぼくは、「ハッハッハッ、な? こけたやろ?」と腹を抱えて笑った。
つまり、コケるのを見守ったのである。大人が見ればだいたい予想できることなのだ。まだこんな小さな子供がコケたところで、まわりは落ち葉がつもって柔らかそうだし、頭の位置エネルギーは大したことなく、コケても強く打たない。しかし、それがもし僕みたいな大人だったらどうだろう。180cmもの位置エネルギーで転倒すれば只では済まない。軽症で済むうちに、失敗は早めにさせてあげた方が良い。子どものうちにたくさん失敗しておけば、大人になって失敗しなくなる。大人になってからの失敗は大怪我になる。
もし親の過保護で引き止めたとしても本人は納得せず、今度は親の見ていないところでそういうことをやらかす。こうなると厄介なのだ。痛い目にあえば気をつける。自分で気をつける自主性を育てることが大切である。
ただし、命の危険があると見たら、そんなことはしない。首根っこを引っ掴んででも強制的に連れ戻す。そこのメリハリをキチンと付ける。こんなふうだから、僕は子供にあまり干渉しない。しかし、ここぞというところはコラッてやる。そういう僕のことを、子どもたちはみんな好きだと言ってくれる。

当該患者には、自分の子供と同じように接している。合宿を乗り越えてなんともなければ嬉しいし、何かあればそれはそれで成長につながる。もしむくみが出たらまた入院になるかも知れないが、悪化したとしても命の危険というところまではいかないのである。

12/6 (金)

あさってから2週間の合宿。

ここ1週間、喉が痛い。発熱はない。

1回目 8:54

舌を見ると、心肝に邪熱を持っている状態である。邪熱は舌尖部やや右に本拠地がある。正気の本拠地は舌中部、ここには胃の気がある。この正気本拠地が、今にも侵されそうになっていることが舌診で分かる。舌中部がハゲたら、かなりの悪化であり危険でもある。

濃い赤はハゲの激しい部分、
薄い赤はハゲているが激しくない部分を示している。
濃い赤で、引っ掻こうとする「手の指のようなハゲ」があることが分かるだろうか。

ハゲの輪郭が「波線の輪郭」となっているところに注目してほしい。
ハゲと剥げていないところの境界線がクッキリしているところにも注目である。
これらは、邪熱の勢いが強い (邪熱による傷陰が激しい) ことを意味する。

「手の指のようなハゲ」は「波線の輪郭」のもっとも極端なものであり、こういう輪郭のハゲは邪熱の勢いが強く、どんどん広がろうとする様相を示す。

これは、ただのノド痛ではない。疏泄太過 (スピード過剰) から、疏泄不及 (急ブレーキによる気滞) がおこり、気滞化火して邪熱を起こすという構図である。その邪熱は、おそらく腎臓に達してネフローゼ症候群の悪化につながる。

疏泄太過 (スピード過剰) とは、北海道の快適な家でじっとしていられず、四国に行って珍しいものがいっぱい見たいという逸 (はや) る気持ちである。それはやがて邪熱となる。熱とは火である。火は、同じところにじっとしていられず、燃え広がろうとする勢いを持つ。

その目指す先は、四国の自動車合宿であり、生命の中心を意味する舌中部である。

腹部打鍼術を行う。
関元に火曵。右不容に相曵。再度、関元に火曵。
わずか10秒ほどの処置である。

2回目 10:02

1時間後、「手の指のようなハゲ」は消えた。

ハゲは、8:54に見た「波線の輪郭」ではなくなった。
なだらかな「弧線の輪郭」に変化している。

この「弧線の輪郭」では、ハゲとハゲていないところの境界線がぼやけている。
「波線の輪郭」がクッキリしていたのとは対照的である。
これは邪熱の勢いが弱まった (邪熱による傷陰が止まった) ことを意味する。

弧線は円満を意味する。波線は波乱を意味する。

百会に3番鍼で1分間置鍼。

3回目 11:25

1時間30分後、さらに「弧線の輪郭」がぼやけてきた。
ハゲたところに苔が生えてきたのである。

舌中部にある正気が回復し、邪気 (邪熱) は本拠地である舌尖部やや右に退却したのである。

喉の痛みは、1回目の8:54時点を10とすると、現在6か7。

百会に3番鍼で5分間置鍼。

抜鍼後、喉の痛みは1回目の8:54時点を10とすると、現在5か6。
またましになった。

この日の変化が分かりやすいように画像を連ねて示す。
ハゲたところに苔が生えてきている様子がよく分かる。

画像はクリックで拡大できます。

写真の確認すらできないほど多忙な診察の隙間で撮ったものである。
なぜ撮ろうと思ったかというと、一瞥して「この舌なら瞬時に苔が生える」という直感があったからである。
診察を終えた昼下がり、写真をやっと確認した。思ったとおりだった。
何十年も舌を真剣に診ていると、こういう直感が働く。

12/6 (土)

この日も午前中に3回の治療を行う。

来院時に喉の痛みを聞くと、昨日1回目の8:54時点を10とすると、現在3。

3回の治療いずれも百会に3番鍼で5分間置鍼。

「このまま四国にいくの?」
「はい、このまま行きます。」
「ほんま、気ぃつけてな。」
「(笑)はい。」

帰り際、受付さんとなにかしゃべっている。
「奈良って寒いですね〜。」
「そうなんです〜。めっちゃ寒くなりま… えっ? でも北海道に比べたら…」
「いやー、結構寒いですね。」

おいおい、そんなわけないだろ。

思わず診察を中断して談笑した。もう正午を少し過ぎている。

合宿が終わった2週間後。

元気で帰ってきて欲しい。

 

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました