手の陽明大腸経《経別》

大腸経といえば、商陽から始まり迎香に終わるというのが一般的な認識だが、臨床を高めるにはこれだけでは不十分である。《霊枢》には実に複雑な流注 (脈気の巡行) が記載されている。それは、経脈・経別・絡脈・経筋である。経絡とは、これら4つをまとめて言ったものである。

本ページでは、このなかの「経別」について、《霊枢》を紐解きながら詳しく見ていきたい。

手陽明之正.從手循膺乳.別於肩髃.入柱骨.下走大腸.屬於肺.上循喉嚨.出缺盆.合於陽明也.《霊枢・經別11》

経別の流注

手陽明之正.
手の太陰の正は、
>> “手の太陰の正は” というフレーズは、「手の太陰の経は」ということである。
経別とは正経の別れであり、正経の一部である。これが一般的な認識である。

【私見】 「正」という字は、囗+止 である。囗は国のような「線引されたある範囲 (枠) 」を示し、ここでは陽明大腸経脈がめぐる「決められた範囲 (枠) 」を示す。そこに 止 (=足)  を踏み入れ、自由にワープしたり “肺に属し” て他臓と連携を強めたり、「枠を度外視した働き」をする。これが “足陽明之正” つまり大腸経の経別である。経別とは をご参考に。

從手循膺乳.
手より膺乳を循 (めぐ) る。
>> 手 (商陽・二間・三間・合谷) から腕を上り、膺 (大胸筋) 乳 (大胸筋に付着する脂肪組織) を循 (めぐ) る。循 (めぐ) るということは、脈気が膺乳に盾のようにピッタリ覆うという意味である。
>> “胸両旁高処為膺” 《類経》

【私見】まず大雑把な流れとしては、手から肩髃を経由して大胸筋および乳房を守る。乳がんのシコリは、鍼を打つとその場で柔らかくなったり小さくなったりすることがよく見られる。もちろんていねいに弁証して穴処を選び鍼をすればの話であるが、これは陽明大腸経が気滞と強く関わる脈気であることを示している。乳がんの部位は、その経別が最も強い関連を持つために、こうした変化が見られるのであろう。患者さんに正しく寄り添い、正しく言葉掛けをするだけでも、乳がんはその場で小さくなることがある。気滞が取れるからである。

乳がんの症例
中医学 (鍼灸) による乳ガンの症例検討である。

別於肩髃.入柱骨.下走大腸.屬於肺./上循喉嚨.出缺盆.合於陽明也.
>> 肩髃において別れ柱骨に入り、一方は大腸に下走し肺に属す。一方は喉嚨に上循し缺盆に出て、 (缺盆で) 陽明に合する。
>> “手陽明之正,循胸前膺乳之間,/其內行者,別於肩髃,入柱骨,由缺盆下走大腸,属於肺,/其上者,循喉嚨,復出缺盆,而合於陽明本経也。 ” 《類経》
手の陽明の正は胸前膺乳の間を循 (めぐ) る。
その内行するものは、肩髃において別れ、柱骨に入り、缺盆を経て大腸を下走し肺に属する。
その上るものは、 (肩髃において別れ) 喉嚨を循 (めぐ) り、缺盆にふたたび出て手陽明大腸経の本経 (経脈) に合する。

【私見】経脈と異なるのは、膺乳を支配する点、喉嚨を支配する点である。
また、大腸経の経脈は大腸に属しているが、経別は肺に属している。これは経別が、大腸経の手部から始まって肺に終わるということである。 経別から見れば、大腸はそもそも肺である… 極論するとそうなる。例えば表寒実の主穴が肺経よりもむしろ大腸経の合谷であったりするのは、経別の流注を見ると納得がいく。

手の陽明大腸経 記事一覧

手の陽明大腸経《経脈》
手の太陰肺経、経脈の流注と病証について図を交えて詳説する。
手の陽明大腸経《経別》
手の陽明大腸経、経別の流注について、図を交えて詳説する。経別とは、大腸と大腸経を一体化し、大腸と肺を一体化する脈気である。
手の陽明大腸経《絡脈》
手の陽明大腸経の十五絡は偏歴である。ここから始まる絡脈を、《霊枢・經脉10》を紐解きながら詳しく見ていきたい。
手の陽明大腸経《経筋》
手の陽明大腸経、経筋の流注と病証について、図を交えて詳説する。経筋とは、筋肉とほぼ同じと考えてよい。また経絡を治療して筋肉が緩むのは、経筋を緩めていると考えてよい。
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