中学2年生。男の子。他県から、お母さんに伴われて来院。
3月6日 (月) 、1ヶ月ぶりの受診である。
野球部に所属している。野球が大好き。
「花粉症がひどくて、野球どころではなくなったので連れてきました…。」
あの野球好き少年がここまでやってくるとは。
相当つらいのだろう。
3月6日 (月曜日) の診察
なるほど、目が真っ赤でボーッとした表情、鼻をクンクンすすっている。
表証の養生… 寒邪 (冷え) に取り囲まれた「カゼ」のような病態
一瞥 (いちべつ) して表証 (表寒) を見抜く。これがあるとしんどい。
魔法瓶のように、外側は冷たく、内側で熱が持続するからである。
内側の熱 (内熱) は、鼻や目の炎症につながる。
・診断当日の風呂 (洗髪も) をやめる。翌日の夕刻以降にする。
・温かいもの (37℃以上) のみを飲食する。電子レンジの活用が必要。
・無用の外出や運動をひかえる。
以上の3項目は、当院がすすめる表証の養生法である。
「いま〇〇君の体は、冷え (寒邪) に取り囲まれている状態になっています。これからその冷えを遠くに移動させて、戻ってきにくくしますね。この状態は、じつは風邪引きと同じです。もちろん風邪引きじゃないけど、寒邪に取り囲まれているのは同じなので、同じように考える。だから、今日はお風呂やめとこう。冷えがすぐに戻ってくる可能性があります。それから冷たいものを飲食しないようにね。果物もすべて37℃以上に温めてください。たとえば、トマトの一番美味しい食べ方は、炎天下で農作業して喉が渇いて丸かじりするもぎたてのやつですが、これは温かいんです。温かい果物は自然、これは覚えておいてください。それから今は野球どころじゃないので、体を休めてゆっくりすることが大切だと思ってください。つまり、カゼで高熱があるときにお風呂はダメですね。カゼで寒気がブルブルしているときに冷たい飲食物はダメです。カゼでしんどいときに気晴らしにジョギングして良くなる試しなど無い。そう考えてくださいね。」
表証を起こす原因は正気の弱りである。正気が弱るから寒邪になめられ、取り囲まれてしまうのだ。よって最も基本は、食べる・寝る・動く・思うの4つの健康法を丁寧に行うことである。
「鼻水のもとは痰湿 (水邪) だから、間食とか食べ過ぎに気をつけてください。夜は目を使うことはできるだけ控えて、早く床につきましょう。」
花粉症一つを治すにしても、なかなか奥が深いのである。
アレルギーに特化した養生
また、花粉症はアレルギー疾患なので、アレルギーに特化した養生指導を行う。
「それに加えて、麦、トランス脂肪酸をできるだけ摂らないようにしましょか。徹底して気をつけたほうが効果が分かりやすいと思うな。アレルギーはほんの少しでも引き金があれば作動してしまうんで、微量摂取しただけでも、直後に突然ひどくなることがあるんです。そして、それを花粉が飛び出す年明けから、3月20日※くらいまで気をつけたらいいです。つまり春分 (スギ花粉飛散のピーク) ですね。これくらいを目安にやってみて。春分を過ぎたら、努力してもあまり意味がなくなるので、欲しければ食べたら良いです。」
※近年は温かくなるのが早いので、もっと早く解禁になることが多い。
花粉症の食事メニューの養生法はこちら
>> https://sinsindoo.com/archives/hay-fever.html#食事
- 口から入った飲食物はドロドロの水になって器にはいる。器に八分目なら腹八分目である。入ってくる量が多すぎると器からあふれて痰湿となる。
- 器は陰でできており、夜ふかしはこの器を小さくする。小さくなると食べすぎていなくても器の中の水があふれて痰湿となる。
治療
百会に金製古代鍼をかざす。仰向けで5分休憩させ、治療を終える。
3月11日 (土曜日) の診察
3月11日 (土) 、2診目。
表証は見当たらない。まだ目はすこし赤いが、前回のようなボーッとした感じがなく、表情に冴えがある。
「その後どう?」
「あ、ましです。」
「うん、よく頑張ったなあ。前に言ってた冷えは戻ってきてない。この調子で努力を続けてな。」
治療同前。
母「前回治療していただいて、翌日 (火) にはマシになって、翌々日 (水) はもっとマシになって喜んでいたんです。それで、本人がイチゴを食べたいっていうもんだから、私と上のお兄ちゃんと3人で、水曜日に食べたんです。そうしたら30分ほどしたら、3人とも鼻がグズグズになって… 」
僕「いやー、実は今日、その話をしようと思っていたんですよ。前回、麦とトランス脂肪酸の話をしましたが、実は、季節に合わない作物もなんです。それ言うのウッカリ忘れていて、ホントごめんなさい。そうかー、出ちゃったかー。」
「いえいえ、3人とも同時になったんで、これはイチゴだろうと思って気をつけていたら、だんだんマシになってきて、もう大丈夫なんです。季節のお野菜を食べたほうが良いっていうのはわかっていたので、以後は気をつけます。」
もう食べた後だったとは…。
うっかりしていた。
しかし、このうっかりがまた、考えの正しさを浮き彫りにする結果となった。
養生指導のいずれもが大切で、一つ欠けても良くないことがよくわかった。いずれも気乱を起こすのだ。
つらい思いをさせたお三人には申し訳のないことをしたが。