山薬とは

山薬とはヤマノイモ (とろろ芋) のことです。

中薬では一般にナガイモを指しますが、日本産の自然薯 (じねんじょ) も山薬です。

自家製の自然薯です。何でもやるでしょ?

秋から冬にかけてが収穫期で、旬になります。めっちゃおいしい。

かなり生命力が強く腐りません。オガクズで暗所に保存すれば、年を越して初夏までは持ち、5月くらいまでは美味しくいただけます。それを過ぎると味は落ちますが、腐りません。

性味帰経

【性味】甘・平
【帰経】脾・肺・腎

補虚.除寒熱邪気.補中益気力.《神農本草経》

【訳】虚を補う。寒邪や邪熱を除く。補中益気の作用がある。

補不足.清虚熱.《傷寒蘊要》

【訳】気の不足を補い、虚熱を清す。

陰を補いながらも、気を補います。
気は陽なので、陰陽ともに補うのですね。このような便利で変わった効能があります。

掘っていると、うなづけるところがあります。とにかく、土を突き抜け、下に行く力が強い。たぶん、植物の中で一番強いのではないでしょうか。下層の硬い土も、モノともしません。

東洋医学の「空間」って何だろう より引用

下 (陰) に向かう力が強いというのは、それだけ陽が強いということです。陽は異極である陰を求めるからです。異性を求めるのですね。山薬は、より強い陰を求めて、地中深く突き進みます。それだけ強い陽をもっているということです。

陰を求める陽。つまり陰も得ることができ、陽も持ち合わせている。それが山薬の特徴です。

東洋医学の「空間」って何だろう より引用

土を深く貫くもの、つまり長いものであればあるほど、その作用が強いと考えていいと思います。

古人は、男根と精をイメージしたでしょう。純陰 (土) に突き刺さり、奥深く突き進む。とろみの付いた白い液体。

補気であったり滋陰であったりは、そういう発想もあったと思います。陰部は宗筋とも呼ばれ、筋力の元締めとする考え方があります。また精とは命を生み出す、つまり陰陽を生み出すものです。陰とは静 (休息) 、陽とは動 (活動) です。生命活動そのものですね。

陰陽ともに補うとは、精をおぎなうことに他なりません。

功能主治

【功能】
・健脾 (補脾養胃) >> 脾胃を補い、脾の運化を助けて湿をさばき、胃の下降を助ける。
・滋陰扶脾 >> 脾陰虚で空腹感はあるが食欲がないときに、脾胃の潤いを助ける。
・養肺益陰 (生津益肺) >> 気血津液の源 (脾) を補うことによって津液を生じ、補脾によって清陽を持ち上げ、肺を潤し衛気の宣発を盛んにする。
・固腎益精 (補腎渋精) >> 「精を出して働く」というが、その「精」がもれないようにする。とろみがあるのでスムーズには流れ出ない。

【主治】
・脾虚による下痢や食欲不振。
・虚熱による消渴 (ショウカチ・糖尿病の多飲・多食) 。
・虚労や肺虚による咳嗽。
・腎虚による遺精 (精液がもれる) ・帯下 (オリモノがダラダラ出る) ・小便頻数。
などを主治する。

生者性涼.熟則化涼為温.《薬品化義》

【訳】ナマは涼性である。火を通すと涼性から温性になる。

生食すると気陰ともに補いますが滋陰の作用が強くなります。
火を通すと気陰ともに補いますが補気の作用が強くなります。

「山の力」をもつ薬

山薬は山に自生します。

「山」とは、雑木生い茂るフカフカのスポンジのような腐葉土です。そんな山の土が、水 (陰) を蓄えているのをご存知でしょうか。豪雨があっても山は崩れず、かんばつが続いても川の流れは尽きることがありません。これは山の土のおかげなのですね。そういう山の土の力を、人の体に薬として取り入れる…という発想があります。

脾胃は土です。この土がフカフカなら水が染み込みます。すると下痢になりません。土が粘土みたいだと雨水が土に染み込まずに濁流が流れます。これが下痢や帯下です。

また土が砂土だと雨水を蓄えられず下から漏れてしまいます。それが小便頻数や遺精です。また土がすぐに乾いてしまいます。それが咳 (乾いた咳) です。

土の力を補うことで、水邪も乾きも解決してしまう。そう考えると分かりやすいですね。土の力については 「浮腫 (むくみ) …東洋医学から見た5つの原因と治療法」に詳しく説明しました。むくみも滲み込めずにあふれたものなのです。

土とは、万物を育てる力、つまり「陽」です。
しかも土そのものは、もっとも濁っていて重い物質、つまり「陰」です。

さらに、土は地球の表面を覆っています。その土が分厚ければ分厚いほど、地球は大きくなりますね。地球が大きければ大きいほど、地球の核 (コア) は強くなります。核とは腎のことです。脾 (土) は、腎を補うのです。

まとめ

《神農本草経》ではヤマノイモは薯蕷ショヨ/ジョヨ と記載され、「上品ジョウボン」に分類されます。非常に安全で効果があるということです。

また、「懐薬」の一つとして数えられます。懐薬とは、懐慶府 (1368年〜1913年の行政区分) で産出した牛膝、地黄、菊花、そして山薬のことで、品質の良いよく効く薬として歴史的に重く用いられてきたものです。

懐慶府産出の山薬は、高麗人参にちなんで “懐参” とも呼ばれ、他の補剤とは一線を画する高い評価があり、「神仙の食」とも呼ばれます。

ただし、いくらからだに良いとは言っても、過ぎたるは及ばざるが如し。食べ過ぎれば、痰湿を生じて体を悪くします。これは中医学の基本です。同じ食材が続くと飽きがきます。これはもうそれを摂りつづけても効かないということです。美味しくいただくと体に染み込みます。

味覚は「誰もができる弁証」であり、薬食同源の基本です。

その風土の中で育った食材には、その風土独特の湿気なり乾燥なり暑さ寒さといった特徴に打ち勝って育つ力が備わります。湿気が多いところで育つものは、湿気を正気に変える力がある、そういう食材を食べていると湿気に強くなる。そういうことが言えます。地産地消を心がけるだけで、おのずと弁証論治になるのですね。医術があれば、産地を選別してより効果を出すこともできますが、そういう学術がなければ地産地消という基本にゆだねることです。

もっとも忘れてはならない前提は、 “節度をもって飲食すべし” です。欲張り爺さんや欲張り婆さんのように、欲をかくとろくなことが起こりません。

食材の持つ命に感謝し、謙虚な気持ちでいただきましょう。本当に体にいい薬とは、そんな気持ちの中にあるということを忘れないでください。


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