五運六気って何だろう では、天干・地支の東洋医学における意味付けを展開しました。ここでは、天干 (十干) の詳細を説明します。
天干とは、太陽の昇る様子、沈む様子を10段階に説明したものです。また、夏と冬とに見られるような太陽の高低差も10段階で説明します。
この太陽の光が、地上の草木を照らします。照らされたことによって、我々の目にはどういうものが映し出されるのでしょうか。これも天干が示すところのもの、すなわち「地の五運」です。
天干が地の五運 (木・火・土・金・水) すなわち生長化収蔵を生むのです。
甲
甲とは、日の出前の黎明です。木性です。
甲羅のような外郭が2つに割れる。種子が2つに割れる。黎明、あけぼの。子宮口が開く。
甲者,言万物剖符甲而出也。《史記・律書》
※符甲…種子の表皮
種の堅い殻を割って出ようとする象形。
乙
乙とは日の出です。木性です。
根や芽が圧迫されつつもツルっと出る。日の出。分娩。
乙,草木冤曲而出也。象形。《説文解字》
種から芽を出し、土を押し上げて頭をもたげて出ようとする象形。
丙
丙とは東から南 (真上) に向かう太陽です。火性です。
「丙」は「炳」で、明らか。火を見るより明らか。芽 (太陽) の形がはっきり見える。赤ちゃんの誕生。
丙位南方,万物成,炳然。《説文解字》
左右に分かれた魚の尾の象形。左右に分かれた双葉が地表に現れた。
丁
丁は南 (真上) に達する太陽です。火性です。
苗が大きくなる・太陽がどんどん高くなってゆく。成長。
夏時萬物皆丁實。象形。《説文解字》
植物が成長し、縦に突き立つ。釘クギの象形とも。
戊
戊とは、輝きをエネルギーとして植物に与える太陽です。土性です。
「戊」は「茂」。茂る。繁茂。
輝く太陽により、植物が盛んに繁茂する。
戊之言茂也。萬物皆枝葉茂盛。《説文解字注》
ホコ (矛・戈) のような武器の象形を示すが、原義は失われ、「茂」の意味が伝わる。
豊楙於戊.《漢書·律歴志》【訳】豊楙が戊である。
長大楙盛.《漢書·律歴志》
関連がありそうなのは「楙」つまり「木+矛+木」。楙は、木が高く大きくなり盛んに繁茂する。番木瓜 (パパイヤ・蕃木瓜) のことでもある。矛は樹勢を示すか。「番」は蕃秀を意味する。
己
己は、自らはこれ以上輝くことなく、エネルギーを大地に還元・貯蓄しようとする太陽です。土性です。
成長が止まる。太陽が沖天からUターンする。成熟した大人。
己。中宮也。象万物辟藏詘形也。《説文解字》
辟藏者、盤辟※1收斂※2。字像其詰詘※3之形也。此与巳止字絕不同。《説文解字注》
※1 盤辟…盘旋。
盘旋…旋回進退。進んでは戻り、ぐるぐる回る。
※2 收斂…縮小し収まる。
※3 詰詘…屈曲。屈折。
「己」は生長収蔵のサイクルの折り返し地点である。「巳」とは全く異なる字である。己と巳 を見よ。
庚
庚は、西に傾く大きな太陽、落日の黄金色です。金性です。一日の完成の時、一年の収穫の秋 (とき) です。
「庚」は「更」。成長エネルギー (陽気) が、封蔵エネルギー (陰) に更 (あらた) まる。果実 (種子) に変化する。変更・転換・転化。
太陽が低くなってゆく。次世代である子に受け継いでゆく。
庚之言更也,万物皆粛然更改。秀実新成。《説文解字注》
字源は諸説あり。一説に、「手+干+手」、「干」は結実した植物を表し、両手でこれを収穫する様子を示す。次世代である子を抱く姿と理解してもいいだろう。
辛
辛は、日没です。太陽は隠れ、山の端だけが黒く浮かび上がる。金性です。
「辛」は「新」。無に帰するかに見えて、その実は新しい生命が宿る。
日没。落果。肉体は朽ち果てるかに見えて、次世代の胤 (たね) を落とす。
律書曰。辛者、言萬物之新生。故曰辛。律曆志曰。悉新於辛。釋名曰。辛、新也。物初新者、皆收成也。《説文解字注》
罪人を処罰する刀剣を象る。
辛。秋時萬物成而孰。…从一从䇂。䇂,辠 (罪) 也。《説文解字》
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壬
壬は、地中の極点に向かって、深く埋もれゆく太陽です。水性です。
壬。位北方也。陰極陽生,《説文解字》
太陽が地下に隠れる。闇の帳 (とばり) に大いなる来朝を包み込む。地中 (闇の中) に種が埋もれてゆく。妊娠する。
すべて、深い闇 (陰) の帳の中に、重要なもの (陽) を包み込むの意。
「工」の形は、織物工業で用いる器具である… という説がある。衣服は温かい体を包み込み、大切に養うという意味がある。布をかぶせると暗くなる。しかし包み込んだものは大切に守られる。
「闇」に沈んだ「太陽」に通じる。
「闇」に埋もれた「種子」に通じる。
「闇」に秘められた「胎児」に通じる。
任脈とは… 字源・字義 を見よ。
癸
癸は、地中の極点から東に向かって昇りゆく、夜明け前の太陽です。水性です。
「癸」は「揆度」。揆度キタク…推し量る。「揆」ははかりごと、「一揆」など。「度」は忖度の「度」と同義。
癸之为言揆也,言万物可揆度,故曰癸。《史記・律書》
よって癸は、程度をイメージし様子を伺う。夜明け前。臨月。
胎児が外の様子をうかがう。冬眠中の生物が穴の中から外の様子をうかがう。
癸。…象水从四方流入地中之形。《説文解字》
水が四方から一点に集まる姿を象る。水は生命の源である。腎臓は「水」を見よ。
水が集まり、そこから火が生じるのである。東洋医学の五行「木火土金水」って何だろう を見よ。
地支 (十二支) とは もご覧ください。