39.5℃の発熱 (5歳)

20✕✕年12月21日の症例。

夕方4時過ぎ、電話が。
「子供が熱を出しまして、39.5℃あるんですけど、これからよろしいでしょうか。」
「ハイ、どうぞ。」

所見

おとなしい。しゃべらない。伏し目。ぐったりしている状態。
「いつからですか?」
「昨日の夜からです。夕ご飯、あまり食べなかったので、早くお風呂に入れて寝させたんです。添い寝してたら熱いことに気づいて…。」
「今朝はご飯は?」
食べたがらないので、食べてません。」
「お昼は?」
「おかゆを少し…。でもほとんど食べませんでした。」
「寒がったりとか、なかったですか?」
「昨日、お風呂に入れるとき、いつも以上に寒いって言いました。」
「夕べ、睡眠は?」
「私が4時に起きるまでは、よく寝ていました。一緒に起きてきたんですが、ソファーで横になって、またうつらうつらしていました。」

「寒い?」
問いかけに、うなずく。
まだ悪寒があるようだ。
表寒が、まだ居座っている可能性が高い。

おでこを触ってみる。かなり熱い。
手足は…? これは非常に冷たい。
熱がこもって発散できないようだ。

診察

脈診

脈を診る。数脈。一息七至。滑脈。沈脈。
オーソドックスな表証ではない。
普通なら、カゼは脈は浮いていないといけない。
しかし、臨床では、オーソドックスなものは、むしろ少ない。

もう少し、詳しく脈診。
尺位から寸位に向けて、通常とは逆向きの脈の流れ。しかもルートは寸口外側から尺位内側。この脈は寒邪が存在することを示す。しかも浮位ではなく、沈位に。
普通の表証は浮位にこの脈が出る。
寒邪が沈み込んでいる。
正気が抵抗できていないから、浮位に寒邪を押し出せない。

素体

実はこの患者さん、普段から、たまに診察している。
だから、体質はよく分かっている。
素体として、腎虚 (腎精不足) がある。
腎虚があるために、気が上に昇りやすく、エスカレートすると、ワガママになる向きがある。
また、カゼを引きやすく、引くとこじらせやすく、咳が続いたりする。
だから、今回もたぶん、腎虚がポイントになる。
脈が沈脈なので、可能性はますます高い。

配穴はどうするか。

腹診

臍に手を翳す。虚の反応。右下に空間的偏在。
右下の補法の可能性が高い。
肝相火は? 左が実、右が虚。はっきりしている。少陽枢機は生きている。
四霊にも取れにくそうな邪は無く、陰陽の消長はすんなり働きそう。
鍼はよく効きそうだ。

舌診

鮮紅色。紅刺。
寒邪の一部が熱化し、邪熱が内陥している。おそらく陽明の腸胃に。
食欲がないのはそのためか。
太陽病が一部内陥して熱化、あるいはもともとある内熱を表寒が抑え込む。
インフルエンザなど、高熱が出る場合によくあるパターン。

下痢や嘔吐はない。太陽陽明併病と診た。

診断

とりあえず、腎経の原穴である、左右太谿に手を当てる。右が虚。
ただし、右太谿は生きた反応を示さない。太谿の上に空間的反応がある。
右復溜に手を当てる。生きた反応なし。
右陰谷に手を当てる。
生きた反応! この穴が効きそうだ。腎虚で間違いないだろう。

証は…
腎虚>太陽陽明併病 

治療

金製古代鍼を右陰谷に翳す。
脈が浮く。
寒邪を示す脈も、浮位まで浮いてきた。脈は緊張している。
これで、純粋な表寒証に。
無汗で、しかも緊脈。なので麻黄湯証 (表寒実) の可能性が高い。

麻黄湯証に効く合谷の反応を診る。
左合谷が実で、生きた反応。
左合谷に処置する前に…
そもそも瀉法適応になったのか?
それを腹診で確認。
臍に手を翳すと、実の反応。瀉法で行ける。
空間は左上。
やはり左合谷がよく効きそうだ。

左合谷を金製古代鍼で瀉法。

効果

脈が鮮やかに緩む。数脈も取れる。
柔らかく胃の気に満ちた脈。

同時に、お母さんにイロイロとしゃべりだす
目が機敏に動き出す。表情が出る。
手が温かくなる。足もすこし温かくなる。

「なんかしゃべりだしましたね^^」
「ははは、本当ですね^^」
「これで、ちょっと楽になっていると思います。晩御飯は、おかゆをスプーン一杯だけでも口に入れてあげてください。そのあとは、食べたい分だけ、無理には食べさせないでください。食事がすんだら、早めに寝室で添い寝してあげてください。」

経過

翌日、夜七時に来院。
「昨夜はご指導どおりにお粥にしました。お茶碗半分くらい食べました。その後、よく寝てくれて、起きたときは37.4℃でした。今日は朝と昼はお粥にしましたが、夕ご飯は食べたがったので、ご飯と鮭と野菜を食べさせました。いつも通りの食欲でした。」
「熱は? おでこは冷たいね。」
「ハイ、もう下がっているみたいなので、計ってません。」

本治・標治でいえば、本である腎虚を陰谷で補うことにより、陽明の熱を冷ましながら、正気を盛り返す。標である寒邪は、太陽で正気の戦力が弱いことをいいことに、蹂躙をほしいままにしていたが、かえって正気の攻勢を受け、形勢逆転。寒邪は崖っぷちに追いやられ、合谷の一鍼で、とどめとなる。

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