悲しいほど歯が痛い

53歳。男性。
っていうか、ぼくです。2023年9月21日。

9月20日 (水)

9月20日 (水) 、今日は水曜日でお休みなので、一日中畑仕事に精を出す。

ああ、おなかすいた。機嫌よく夕食をいただく。

…と、あれ? 歯が痛い? 

右下の奥歯である。なんでかな。暑い中無理しすぎた? 考えながら食べてると、どうも温かいものを食べるときに痛い。数年前、石を噛んでしまって右下の奥歯 (6番目の第一大臼歯) が少し欠けている。これが痛いのか? ただしこれは冷たいもので少ししみることはあったが、温かいものでは痛くなったことがない。

冷たいもので歯が痛いのは寒証。
温かいもので歯が痛いのは熱証。

9月21日 (木)

9月21日 (木) の朝。朝食。やっぱり痛い。温かいご飯を噛むと、しばらく動きがとまる。うう…。耐えの20秒。昨夜よりも痛いじゃないか。
冷たいもの (お漬物とか) では痛くない。

昼ごはん時も同じく痛い。

これはやばい。なんとかしなければ。

4時からの午後診の患者さんが来られるまで少し時間がある。
治療を試みる。

【1診目】9月21日 (木) 午後3時30分

合谷を診ると、左右ともに沈んだ邪がある。これはいつもは無い反応である。下歯は大腸経が支配し、大腸経の原穴である合谷は下歯痛を治す上でのポイントになる。この邪を取り除ければ、理論的には下歯痛は治る。問題は、どうやって取り除くかだが、今の合谷の状態は、鍼を打っても効く反応ではない。

大腸手陽明之脉.…出合谷兩骨之間.…入下齒中.《霊枢・経脈10》

脈…有力。実脈。
八綱弁証…神闕に手をかざす。熱の反応がある。表証はないので、裏熱実である。
空間診…まず百会を診る。手をかざして気の偏在を診ると、左に出ている。次に神闕を診る。左上に出ている。左上に実熱の偏在がある。

邪熱 (実熱) が、陽明大腸経に入って下歯痛となっているものと病因病理を立てる。あとは、いかにして陽明大腸経の邪熱を取るかだ。

左上で邪熱を瀉しやすいツボは?
左百会、反応なし。
左後渓、生きた反応がある。

鍼をすればいいのだろうが、もうすぐ患者さんが来る。古代鍼 (かざすだけの鍼) で簡易に済ます。

左後渓に銀製古代鍼で瀉法。八綱陰陽としての全体の邪熱を取る。

合谷は左の邪が取れ、右に生きた反応が出る。
右合谷に銀製古代鍼で瀉法。陽明大腸経としての部分の邪熱を取る。

百会に手をかざし、空間の歪みが無くなったことを確認、また合谷の邪が消えていることを確認して治療を終える。

手の陽明大腸経《経脈》
手の太陰肺経、経脈の流注と病証について図を交えて詳説する。

その日の晩ごはんは…。
痛い。一口目、温かいご飯、静かに耐えること数十秒。

合谷を診る。邪がある。治療が効いていない。古代鍼 (かざすだけの鍼) では甘かったか。 炎症・化膿を起こしているような物理的なものは、浅い気を動かす古代鍼では難しいのだろう。やはり物理的に鍼を刺し、邪に当ててこれを取り去らねば。

そんなことよりも、ああ、痛い…。

「ああ、歯が痛い!」
「えっ ! ?  歯、痛いの?」

とうとう言ってやった。ここまで痛いと、カミングアウトしといた方がいい。
少しの温かさで。
噛めば噛むほど。
当たっただけでも痛い。
冷たいものでも痛い。

だんだん痛くなってきてるじゃないか!

「たぶん治療済みの歯 (神経は残っている) が痛い。虫歯かなあ。歯医者さん、予約しといてくれへん?…。」
「今度の水曜日 (ウチの休診日) でいいの?」
「うん。 (今日が木曜日で) あと一週間か…。」

食べ終わった後もズキズキが止まらない。痛みが増している。一週間も耐えられるかなあ。当たっただけでも痛くなってきたので、痛いのがどの歯なのかが分かってきた。4番目の第一小臼歯だ。この歯は10年ほど前に虫歯で、神経は残したまま詰め物がしてある歯である。奥で炎症を起こしたのだろう。今思えば、8月末 (8/23・30) に物理的刺激があり、それが原因で経絡経筋病を起こしたと思われる。

その夜中、寝ぼけて顎がカクッとなって、痛みで目が覚める。

今だ。今なら集中して治療ができる。鍼をしよう。
虫歯であるならば、歯医者さんに診てもらうまでに痛みを軽減させておきたい。

【2診目】9月22日 (金) 午前2時ごろ

診立ては夕方と同じ。ただし、かざすだけの古代鍼ではなく、刺す鍼を使う。
左後渓に2番鍼で瀉法、5分置鍼の後、抜鍼。
右合谷に2番鍼で瀉法、速刺速抜。

後渓に鍼を打ち、邪に当てる。ああ、気持ちいい。胸がスーッとする。やっぱり鍼は気持ちいいなあ。ぼくの場合、脈はいつ見ても平脈なので、ここ数年は鍼をしたことがない。古代鍼なら花粉症でこの3月ごろ1回やったかな、という程度である。昔は1日1〜2回はやったものだったが。

合谷に鍼を打つと、奥の方からジーンとうずいていたのが、歯の表面に移動し、そして抜けていく感覚があった。痛みが消えた爽やかさが歯を通り抜ける。

鍼をして身も心もスッキリ。心地よさを堪能しながら寝につく。

9月22日 (金)

よく寝た。目が覚めて、歯のうずきなし。
合谷の邪は? …出ていない!

朝食。こわごわご飯を口に入れる。痛くない方の歯で噛む。大丈夫。痛い方の歯に少しずつ移動させていく。痛くない。今度は温かいごはんをダイレクトに痛い方の歯に…。どうかな、どうかな…、んっ痛くない。もっと口に入れてみる。おっ、痛くない。もっと頬張ってみる。痛くない!

冷たいお漬物を噛んでみる。やっぱり痛くないぞ!

ただし、温度的なものでは痛くなくなったが、噛んで歯が当たる (上下左右に動く) と少し痛い。でもこれは、奥までジーンと来るものではなく、歯の表面だけが痛い (かゆい?) だけ。なんならちょっと気持ちいい痛みだ。しかも、噛んでいるうちにマシになってくる。食べ終わる頃にはほとんど痛くなくなっていた。

ここまで急激にマシになるということは、虫歯ではない可能性が高い。
歯医者さんの予約は、ちょっと見合わすよう頼んだ。

抜歯直後の止痛
抜歯直後の歯痛を合谷の一本鍼のみで治療した症例である。中国伝統医学の臓腑経絡学に基づき、治癒機序について考察する。

この日は、昼食も夕食も、朝食と同じ。温度で痛みは全く出ない。
歯がが当たった時だけ、食べ始めは少し痛いが食べ終わる頃には痛みは無くなっている。

合谷の反応は暇あるごとに注意して見ている。
この日一日、合谷の邪が復活することはなかった。

あと、この日の午前中、すごーく大量のオナラが出た。今まで経験したことのない長さと量だった。4〜5秒鳴り続けただろうか。別にお腹が張っていたとか一切なかっただけに不思議なくらい出た。ただし、出たのは1回のみ、まとめて大量に出たのだ。数名の患者さんを治療中で、一応トイレに入ったのだが、受付曰く、院内のすみずみまで爆音が響き渡ったという。皆さんごめんなさい。理由は下記のとおりとご理解ください。

気滞による腹満は放屁によって消失することがある。
それと同じように、下歯にまとわりついた気滞 (痛み) が、合谷の鍼によって取れ、ガス (気) として排出された可能性が高い。合谷も下歯も大腸も、大腸経の中にある。下歯と大腸はつながっているのだ。

大腸手陽明之脉.…出合谷兩骨之間.…屬大腸.…入下齒中.《霊枢・経脈10》

9月23日 (土)

朝食。昨日と同じく大丈夫だ。改善もしていないが悪化もしていない。
つまり、温度での痛みは全くない。
歯が当たったときのみ少し痛く、食べ終わる頃には痛みは無くなっている。

食べるのはまだ、こわごわである。

治療所に着いて、少し時間があったので合谷を診る。
あ、邪が復活している。もう1回取れということだな。

現在8時30分、患者さんが来るまで10分くらいある。よし、治療だ。

【3診目】9月23日 (土) 午前8時30分

診立ては初診と同じ。
左後渓に2番鍼で瀉法、5分置鍼の後、抜鍼。
抜鍼後、右に空間が移動、右合谷を診るが、反応していない。
探してみると、右商陽に生きた反応がある。
右商陽に刺絡。空間が整うまで血を絞る。この処置は、大腸経にこもっていた熱を取り去ることになる。合谷から商陽に移ったということは、陽明大腸経の邪熱をさらに浅い所に追い込んだということであろう。

その後、しばらく休憩…と行きたいところだが、患者さんが来られた。昼過ぎまで休みなく診療。
その後すぐに初診の予約の方が来られるので、持参した弁当を食べる。

わあ、ぜんぜん痛くない。

歯が当たっても、温度でも、ぜんぜん。
思っいっきり噛める!

でも、なんか左の鼻がズキズキする。鼻の中に吹き出物ができているぞ。朝はなかったはずだ。午前の診療中から痛くなり始めた気がする。

初診の患者さんを診てからカルテを整理して、夕方6時30分に帰宅。

夕食。全然痛くない。
熱いものを噛んでも、強く噛んでも、思いっきり頬張っても、痛くない!

治った ! ?

考察

もしかしたら、この鼻孔の吹き出物が関係あるのか? 強い熱証は、その熱におかされた経絡と関わりの強い場所に、吹き出物が現れることによって終息することがよくある。

たしかに、右下歯に流注する大腸経は、反対側の左迎香に行って鼻孔を挟む (上図参照) 。「挟む」とは、万力のような力で支配するということである。右下歯の強い炎症は、左鼻孔に移動して吹き出物となってここから熱を漏らしてくれているのだ。じっさい、吹き出物は鼻孔をふさぎかねないくらいの大きさで、少しうずきがあり触れるとすごく痛い。そして、これが気になり始めてから、歯の痛みが完全に消えたのである。

大腸手陽明之脉.…入下齒中.還出挾口.交人中.左之右.右之左.上挾鼻孔.《霊枢・経脈10》

経絡は、ふつうは左は左のみを行き、右は右のみを行く。反対側に行くのは胆経とそしてこの大腸経のみである。

古人も、このような経験の集積から、左下歯は右鼻孔に、右は左に、という流注にまとめたのかもしれない。その一部を垣間見るような貴重な経験だった。

9月24日 (日)

オナラが出て (金曜日) 、吹き出物が出た (土曜日) ことと、
それぞれの日 (金と土) に飛躍的な改善が得られたこととは、ただの偶然ではないと思う。
右合谷で気滞を取った結果、放屁として気滞が排邪されたのである。
右商陽で邪熱を取った結果、腫物として邪熱が排邪されたのである。

ちなみに、この腫れ物は吹き出物で、出たがっているものである。出たがっているものを封じ込めるのは、出たがっているオナラを封じ込めるのと変わらない。この腫れ物を何らかの方法で「その場しのぎに」封じ込めて消してしまうならば、下歯の炎症・化膿が賦活してしまう可能性が高い。腫れ物に触るように(笑)、大切にしておかなければならない。自然に消失するのを見守るのである。

「その場しのぎ」が分かれ道?… 〇〇と入れ替わるように✕✕が起こる
中医臨床からの視点。悪化とは何か。改善とは何か。病因を改善することの大切さを考える。

9月24日 (日) も、鼻孔の吹き出物は、同じように痛かった。右下歯は全く痛まなかった。

9月25日 (月) は、吹き出物はかなり小さくなり、もう触っても痛くない。赤さはもうない。
右下歯の痛みの再発なし。

9月26日 (火) 、もう、ご飯を食べるときの恐怖心はなくなり、痛かったことを忘れて食べている。完治と見ていい。以前から冷たいもので少し違和感があったが、それすら無い。

爆音を放つオナラはあれ以来一度もない。 (通院の皆様方にはご安心ください笑)

鼻孔の吹き出物はまだ少しだけ残っているが、痛みはない。

土曜日の治療以来、合谷の邪が復活することはなかった。

体調は以前に増して良好である。体が軽い。

その後11月19日、記事を見直しする。この日まで一度も痛みの再発なし。わずかの痛みも出ていない。

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