ため息は深呼吸ですね。アクビもこれと共通します。
東洋医学的に、ため息を分析してみましょう。
基本病理
基本病理は気機不暢です。気のめぐりが悪い。
気のめぐりが悪くなる理由は、
・肝気鬱結 (ストレス)
・陽気不足 (元気のなさ)
の2つが挙げられます。いずれも肺に影響し、肺気不宣 (肺が気を動かせない) を起こします。深呼吸すると、肺気 (宣発・粛降) が一瞬めぐります。だから一瞬楽になるのですね。
だからため息をつきたくなる。
肝気鬱結と陽気不足について、詳しく説明します。
肝気鬱結
【症状】
・ため息がよく出る。
・胸中憋悶。「憋ヘツ」…閉じ込める
・左右の脇が張る。
・悶々として楽しまず、急に落ち着かなくなったり、些細なことで怒ったりする。
【解説】
イライラしている人は、よくため息をつきますね。ストレスから肝気が伸びず、気が胸中 (肺) に閉じ込められ発散できません。つまり肺気不宣を起こした。肝気が昇発 (上に伸びる) ならば、肺気は粛降 (下に降りる) です。昇っては降りるグルグル回るサイクルがどこかで詰まると、めぐらなくなります。
肝鬱とは肝で詰まることですね。すると肺もめぐらなくなるのです。
稲が上に上に尖った葉っぱを伸ばすのは肝気の力です。やがて穂が出て重みで垂れていくのが肺気の力です。上に行く力と下に行く力が協力しあって、円を描くようにグルグルめぐる。これが気のめぐりであり、気機とも言います。気機とは気の昇降 (出入) のことです。
肺は「感じ取れる呼吸」を主 (つかさど) ります。ため息をついて意識的に肺を大きく動かす。宣発させる。すると粛降が起こります。気が粛々 (しゅくしゅく) と降る。だから深呼吸すると落ち着くのですね。
陽気不足
【症状】
・常にため息をつく。
・乏力気短。
・語声低弱。
・胸悶し動けばさらにひどくなる。
【解説】
気虚によって気がめぐらない。川にたとえれば、水の量が少なすぎて流れない。結果として気が滞ります。肺の宣発する力も衰えている (肺気不宣) ので、ため息をつくことによって宣発する力を補おうとするのです。ため息を付いた一瞬は快く感じるので、なんどもため息を繰り返します。
肺気不宣とは
「肺気不宣」「宣発」「粛降」「昇発」など、専門用語が出てきました。これらは実はかなり理解しにくい概念です。
稲穂の成長にたとえると理解しやすくなります。グルグル循環しているのがわかりますね。これを人体における循環と重ね合わせます。循環とは、肺臓 (呼吸) による気の循環、心臓による血の循環のことです。
上記の肝気鬱結や陽気不足は、結果として肺気不宣を起こします。肺気を無理に伸ばそうと深呼吸するのがため息です。
- 宣発とは、上 (表面) に気や体液を発散することです。たとえば息を吐き出したり体液を汗として出したりするのも宣発の一側面です。これができないことを肺気不宣といいます。
- 粛降とは、下 (コア) に気や体液を沈降することです。たとえば息を吸い込んだり体液を膀胱に下ろしたりするのも粛降の一側面です。
この2つを肺は同時に行います。肺の宣発と、肝の昇発は、違いが分かりづらいですが異なるものです。しかし、稲の成長で考えると分かりやすいですね。
肝は成長で、上に上に尖った葉が伸びていく様子です。…昇発
肺は出穂で、いちばん高いところで開花する様子です。…宣発
肺は結実で、金色の稲穂が垂れ下がっていく様子です。…粛降
肺は一番高いところにあります。それが稲の一番高いところで穂が出ることと相似します。
やがてその穂は充実し重みを増して、下に下にと垂れ下がります。一番下にある腎に向かい、肺から腎へ (金から水へ) と気や津液が下っていきます。
そしてまた肝の力によって上に昇る。
これら一連の循環を、真ん中で牛耳ってグルグルまわしているのは、脾です。時計の針の中心部分の力が脾です。
出穂したいのに (宣発したいのに) できない状態が肺気不宣です。出穂できなければ (宣発できなければ) 穂が垂れる (粛降する) こともありません。つまり、肺気不宣は宣発も粛降もできない状態です。宣発できなければ気は下に下がらず、イライラも収まらないし、臍下丹田が充実することもありません。
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「昇発」「宣発」「粛降」の一連の流れ (五行のサイクル) が理解できると、ため息がなぜ起こりどこを改善すればいいのかが見えてきます。
参考文献;中医诊断学 刘鉄涛 人民卫生出版社