内出血の症例

「どこかでぶつけた覚えはありますか?」

皮膚に内出血がある患者さんを診るたびにこのような問診を行う。たいがいは「そうなんです、✕✕でぶつけちゃって」という反応である。

が、たまに「覚えがないです…」という返事が返ってくることがある。そんなときは、かならずツボを確認する。血海・三陰交・隠白・大敦である。多くは反応がない。反応がなければ、病的な内出血ではないという診断を下す。

そんな中、まれに血海・三陰交・隠白・大敦のいずれかが反応していることがある。本症例はそんなまれなケースの中の一つである。

ツボの反応から異常を見抜く

内出血がある。
でもぶつけた覚えがない。
しかも出血に関わるツボが反応している。

この3つが揃ったときは、出血に関わる病気を発症している可能性がある。とくに、初期状態でこれを見つけ、的確な治療や養生指導をして、内出血やツボの反応を消しておくことは重要である。重病の予防につながるからだ。

この手の重病には、どんなものが挙げられるだろう。

  • 紫斑病
    ・アレルギー性紫斑病… アレルギー性の血管炎から出血を起こす。
    ・特発性血小板減少性紫斑病… 指定難病63。原因不明。自己免疫による血小板破壊が有力。
  • 再生不良性貧血… 指定難病60。自己免疫による骨髄破壊。
  • 急性白血病… https://sinsindoo.com/archives/leukemia-case.html
  • 骨髄異形成症候群… 骨髄におけるガンの一種。
  • 多発性骨髄腫
  • 血友病… 遺伝子異常 (X染色体) のために凝固因子が働かない。X染色体を1つしか持たない男性に多い。まれに後天性 (自己免疫で遺伝子を破壊) もあり、これは男女比なし。
  • フォン・ヴィレブランド病…遺伝子異常のために、凝固因子を働かせる役割を持つフォン・ヴィレブランド因子の生成が不全となる。男女比なし。
  • 播種性血管内凝固症候群 (DIC)… 血管内皮細胞の損傷の結果、凝固因子作動過剰となり、凝固因子を使い果たすことによって出血する。感染・手術・出産などがきっかけとなる。

遺伝子異常の疾患でも、鍼灸が奏功する例がある。出血… 指定難病227;オスラー病の症例 をご参考に。

初期の段階で異常を見抜き、それを素早く改善する。すると、上記のような病気を未然に防ぐことになっているのではないか。そのように考えている。

症例

46歳、女性。

3年前から通院している。強迫性障害による何十ものルーティン (手を洗うなど) があったが、鍼治療によって一つ一つなくすことができつつある。

そんなある日、2024年9月16日のこと。
いつものように腹診したあと、上肢と下肢を診察。あれ? 内出血がひどいな。

「これは…ぶつけたとかいう問題ではないですね?」
「そうなんです…。急にこんなふうになって…大丈夫でしょうか。」

9月16日

診察すると、左右の隠白に実の反応が出ている。
背中をみると、脊中・左右脾兪にも実の反応が出ている。

専門家の方へ。画像から、隠白に左右とも反応が出ているのが見て取れるだろうか。画像とはすごいもので、実際に行う望診を記録できる。

まちがいない。脾不統血である。
脾 (消化器) が弱って血を受けきれず、スキマからこぼれてしまっている。

「体ってね、土とおんなじなんです。土って、植物 (命) を養うために、水や栄養分を保持しているでしょ。植物はそれを少しずつ吸って命を繋いでいるんです。人間もそうですね。ふわふわの土ならそうやって保持できるんですが、砂土ならどうでしょう。植木鉢の底からみんな流れ出てしまいますね。この手の出血は、そういう病理で起こっています。ふわふわの良い土にする必要があります。食べること、当院での指導どおりに、今日はたまたまできなかったということのないように、今くらいの感じでいいですから、気をつけておいてください。あとは治療でふわふわの土に戻します。」

脾とは「気血生化の源」である。これと西洋医学的な肝臓の「各種タンパク質の生成」は、全く符合する。脾 (機能) とは、肝臓 (物質) のもつ機能のことなのだ。肝臓が血液凝固因子というタンパク質を生成して止血に関わることは、偶然の一致ではない。中医学で最も重視される脾を良くすることは、西洋医学的な肝臓をよくすることと一致しなければならない。

“肝臓” を考える…東洋医学とのコラボ
肝臓には500以上の働きがあると言われ、様々な病気と関わる “主役級の臓器” です。と同時に寡黙で “沈黙の臓器” とも呼ばれます。これを往年の名優、高倉健に例えつつ、東洋医学ともコラボしながら、肝臓とは何か、病気の原因とは何かを考えます。

こう話をすると、ツボの反応がすべて消えた。腑に落ちたのである。

百会に一本鍼。

次回来院時、9月28日の画像である。

9月28日

この画像と、さきほどの画像を見比べてほしい。隠白の反応があざやかに消失しているのが見て取れるだろうか。読み取れない人は、読み取るためのトレーニング方法を提示するのでリンクを参考にしていただきたい。証候とは…「天突」の望診にいたる病態把握への挑戦 に、僕なりの方法を詳しく説明した。

前回見られたツボの反応はもうない。

もう問題ない。

考察

ありふれた日常の一コマではある。しかし、その一コマが未来を分ける。

こういうものを「分水嶺」(ぶんすいれい) という。高い山に水源から湧き出でる水、チョロチョロと流れるその水が、ほんの石ころ一つで少し方向を変える。その向かう先は太平洋、支流を集め大河となって流れ入るのである。その石ころがもしなければ、日本海に注いでいたのである。

臨床とは、その一コマ一コマが分水嶺である。患者さんの未来に向かう流れが変わる。
ほんの一言、ほんの一鍼が、未来を変える。

だれも気づかぬままに、いい方向に流れを変える。

それができているかどうか。
責任を果たせているかどうか。
僕自身が納得できるかどうか。

それが自信である。

だから今日も懸命に生きよう。

自信をもって患者さんに向き合うために。

 

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