皮膚炎… ホテル宿泊、短期集中で期待にこたえよ

遠方からの患者さんから、予約の電話である。
皮膚がすごいことになっているので診てほしい。
前回は2月だったので、久しぶりの来院である。

予約は、8月5日の16時と18時、その夜はホテルに泊まって翌6日の9時と、3回一度に取られた。

さあ、短期集中。いつでも来い。

皮膚の炎症

一昨年からたまに診ているが、もともと皮膚に問題のない方である。なにか異変があったことは間違いないが、それは追々 (おいおい) でいい。

とにかく、これを何とかする。

・夜が特にかゆい。 >> 営血蘊熱。
・夜のうちでも、明け方が特にかゆい。 >> 表証 (表寒) 。

このように「証」を簡単に言い切るのは、切経の技術を磨いてきたからである。

表証 (表寒)

天突に反応がある。カゼではないので「隠れ表証」である。

最低限言えることは、生命力が弱っているのである。そこに付け込んで、 “弱みに付け込む風邪の神” と言われるように、風寒の外邪が生命を取り囲んでいるのである。すると、表面が冷えた状態となり、中に熱がこもりやすくなる。これは魔法瓶と同じ状態である。 >> 魔法瓶状態

この状態を解除しなければ、邪熱は外に逃げていかない。この皮膚炎の赤さ、かゆさは邪熱が原因である。

営血蘊熱

三陰交に実熱の反応がある。これは営血分に邪熱 (営血蘊熱) があることを示す。

営血蘊熱は、深夜 (子の刻:23時〜1時) に邪熱が激しくなるという特徴がある。営血蘊熱証は出血がなければならないと勘違いしている人がいるが、臨床をご存じないと言わざるを得ず、本症例のように短期間での効果を挙げることは難しいだろう。机上の空論に陥るのは、臨床から理論を学ばないからである。

生命は陽気と陰気とからなり、陽気は浅く陰気は深い。生命を球形として、浅層を陽気 (陽の領域) 、深層 (コア) を陰気 (陰の領域) と考えればいい。ふつう邪熱は陽の領域に存在するが、営血蘊熱の邪熱はそこにはなく陰の領域に存在するのである。よって陽の領域に属する日中は、邪熱はふかく深層にかくれて出てこず、症状も出ない。夜になるに従って生命における陽気は減少し (正しくは陰気に入り込んで結合し) 、コアの陰気が露出してくる。その露出は、子の正刻 (深夜0時) に極まる。 >> 重陰・合陰 

陰の領域に邪熱は存在するのであるから、陰が露出すれば邪熱が露出する。だから深夜に熱証が出る。それが営血蘊熱の立体的構図である。熱証があれば出血することもあるし、しないこともある。当該患者の場合、その熱証は痒みであった。

こんなことは教科書のどこにも書いてない。臨床とは「生きもの」であることを忘れてはならない。教科書丸覚えでできるほど臨床は甘くない。切経を行わない漢方家は、とくにこの弊に陥りやすいので注意が必要である。切経を行わない鍼灸家は、そもそも皮膚炎など手出しすらできないだろう。

ツボの診察…正しい弁証のために切経を
ツボは鍼を打ったりお灸をしたりするためだけのものではありません。 弁証 (東洋医学の診断) につかうものです。 ツボの診察のことを切経といいます。つまり、手や足やお腹や背中をなで回し、それぞれりツボの虚実を診て、気血や五臓の異変を察するのです。

患部の位置から割り出す病因

患部は太陽小腸経である。心・小腸の関係から、心火が非常に疑わしい。肝火 (ストレスが熱化したもの) が隣の心に燃え移ったのである。しかも心という建物は、表面上の火事よりも、内側の燃え方が激しいのである。

夫婦仲が険悪、とのこと。

これが病因だろう。

大量の浸出液

初診は、患部から浸出液が大量に出ており、ベッドに寝ている間にシーツに付いてはいけないので、キッチンペーパーを5枚ほど敷いた。が、それでも治療を終えて起きてもらうと、シーツにまで多量の浸出液が染み込んでいた。

かゆさもつらいだろうが、このジュクジュクもつらいだろう。

これを、今日と明日の一両日でなんとかしなくてはならない。実は、1年前に息子さん (高1) のアトピーを、やはりホテル宿泊の集中治療で治したことがある。

さあ、二匹目のドジョウも首尾よく捕まえられるか。

8月5日

午後4時30分

短期邪熱スコア…異常域 (左巨髎)
短期痰湿スコア…異常域 (風市)

2つとも異常域で出るのは、初めての経験である。

・豊隆 (両側) …実  >> ここ2ヶ月用事が多くいそがしい。 >> 熱と水… 1分間でも横 (陰) になる
・足三里 (右) …虚  >> 脾虚。間食が原因。

・三陰交 (両側) …実
・天突…特殊反応

まず、表証 (天突の反応) を取る。表証の養生を指導すると、その場で天突の反応が消えた。

次に、短期邪熱スコアを安全域に戻す必要がある。一分間でも横になることを指導すると、その場で安全域となった。これはかゆさと関係する。

さらに、短期痰湿スコアを安全域に戻す必要がある。間食に気をつけることを指導すると、その場で安全域となった。これは浸出液と関係する。

残るは三陰交。これは鍼で取る。

右滑肉門に3番鍼、5分間置鍼。三陰交の反応が消えるのを確認して治療を終える。

午後6時

・短期邪熱スコア…安全域 (左歩廊)
・短期痰湿スコア…安全域 (足三里)
・豊隆 (両側) …反応なし
・足三里 (右) …反応なし
・三陰交 (両側) …反応なし
・天突…反応なし

百会に5番鍼。5分間置鍼。

8月6日

昨日からだいぶ楽。
かゆさがマシになった。
夜のかゆさが落ち着いたので、よく眠れた。

前日に診た穴処は、すべて反応なし。

百会に5番鍼。5分間置鍼。
右少沢に銀製古代鍼をかざして瀉法を行う。

治療後、起きてもらったが浸出液は付いていなかった。
キッチンペーパーにこりて、ビニールシートとタオルを敷いて完全防備したのだが(笑)。

8月12日

1週間後の来院である。
もう、キッチンペーパーを敷く必要も、シーツを洗う必要もなし。

一気に乾いて、だいぶ楽。
かゆさとヒリヒリがちょっと残っている。
疲れが取れず体がだるかったが、無くなった。

初診に診た穴処は、すべて反応なし。

百会に5番鍼。5分間置鍼。

まとめにかえて

実質、1日の治療 (2回) で落ち着かせた。なぜこんなことができたかというと、多くのmatterを一度に解決できたからである。天突・三陰交・足三里・豊隆・巨髎・風市、6個もある。これだけ異常がいっぺんに出ることは稀、出てもせいぜい1個である。

そして一気に消し去る。…この力技が診断力である。どのツボを使うか、どの漢方薬を使うかよりも、はるかに重要。

1ヶ月後 (9月13日) の画像を添えた。かゆさなし。完治である。

ただし。

患部は完治であるが、中医学的には完治とは言えない。なぜなら、病因がまだ解決していないからである。

上段でも触れたが、夫との仲がうまくいっていない。
ここ (病因) に切り込むのは至難の業でもあり、ぼくが臨床に励む最大の目的でもある。

本当にそうである。
許すのは難しい。どうすればそれが叶うのか。
他人に一歩を譲るのは難しい。そしてその他人代表が、夫なのだ。

その難しいことが、どれだけ大切なことか。
それを知る。まずは知る。そこから成長が始まる。

幸せになってほしい。だから患者さんに向き合うのである。

 

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました