脳性麻痺 (1歳9カ月)

1歳9か月の男の子。
31週 (8か月) で早産。出生時1800g 。
2か月検診の時に脳室周囲白質軟化症 (PVEL) と診断される。
現在80㎝・10㎏。体格は正常の範囲内。

発育障害が認められる所見

〇おすわりができない。ずり這いは少しするが、ゆっくりしたもの。リハビリに週2回通っている。体幹の筋肉が弱い、と専門医から言われている。…肝腎不足
〇しゃべらない。あーあー言うのみ。…心気不足
〇顔をはじめ、全体の皮膚が黄色い。くすんだ黄色。…血虚
〇顔が痩せている。ために目の表情にとがった感じがある。…脾気虚
〇前歯が黒く変色している。発育障害によく見られる。…肝腎不足
〇口が開いたままで、舌が無力な感じで出ている。…脾気虚
〇よだれが多い。よだれかけを3回変える。…脾気虚
〇よく軟便になる。現在も軟便。…脾気虚
〇目が少しうつろ。

他の所見はすべて正常。食欲・睡眠とも良好。よく体を動かす。握力も強い。首がすわったのは生後6か月 (もし早産でなければ4か月) で、正常。

診察

お母さん、財布の開け閉めで子供をあやしながら、問診に答えてくださっている。
「ほう、すごいな、財布開けられるんや。器用やな。かちこいねんな。上手にできるんやな。」
そろそろ慣れてきたようなので、そう声をかけると、こっちを見て満面の笑み。
「そうか、言うてること分かるんやな、賢いねんな。ここが賢いのか。ヨシヨシ。お母さん、頭いいですね。」
「ハイ、言ってることは分かってるみたいで…。」
「お母さんも、どんどん、ほめてあげてくださいね。笑うってことはとても大切なんです。」

体をよく動かすので診にくいが、触診を敢行。
腹診…臍に手を当てる。左下に空間診の反応。同時に虚の反応。
脈診…不能。嫌がって診せてくれない。赤ちゃんにはよくあること。
背候診…左腎兪に生きた反応。手を触れると波のように力が浮き上がってくる。

診たて・治療方針

腎精不足。腎を補うことで脾も同時に補われているか確認しつつ。また、肝気鬱結が腎を圧迫していないか、その都度診ていく。

総じて先天性の疾患は、先天の原気に関わる腎臓に問題がある。 この症例の場合、症状的には脾臓に関係するものが目立つが、ツボの反応はやはり腎臓に関係する処が中心だった。脾臓 (消化・吸収・栄養・活動機能) は、腎臓 (すべての機能の元締め) が土台になっていることを考えれば、脾臓を治療するよりも、腎臓を治療したほうが良いと理解できる。

治療

治療…左腎兪に金製古代鍼をかざす。
効果…臍の反応が浮き、空間的な気の偏在がなくなる。
「軟便だということは、消化器が十分ではないからです。消化器がしっかりしたら体幹部も強くなるはずです。お菓子は悪い習慣なのでやめるようにしてください。食事はごはんかおかゆ中心で。おかずの量はご飯の量をこえない程度にしてください。食事時以外でお腹が空いたら、オッパイをあげてください。」

経過

以後、
①左腎兪に金製古代鍼
②左腎兪に金製古代鍼。その後、中脘に金製古代鍼
③左腎兪に金製古代鍼。その後、百会に銀製古代鍼
④百会に銀製古代鍼。その後、左腎兪に金製古代鍼
以上の4パターンを臨機応変に使用。

治療は週に3回。他府県からではあるが、遠方をいとわず連れてこられる。
お母さんの熱意に敬服。こういう気持ちは、山をも動かす。

2診目…よだれかけを変えるのが、1日3回から2回に減る。

3診目…軟便が出ていたのが止まり、大便が出ていない。

4診目…通常の大便が出るようになる。

6診目…すこし顔に生気のある赤み。

7診目…
顔色が明るくなってきた。もともとの黄色さの上に、赤みが増し、白さも混じってきた。
顔の肉付きが良くなり、赤ちゃんらしいふっくらした顔つきになってきた。
そのため、目にやさしい表情ができてきている。
「分かりますか?お母さん。男前やな! 栄養の吸収が良くなっているんですよ。だから初診と顔色が全然違うでしょ? もともとよく動く子なので、これからドンドン筋肉が強くなってくると思います。」

8診目 (治療開始から20日後) …
顔色がほぼ正常となる。
目のうつろな感じが大幅に減少。
口をすぼめる様な表情をする。聞いてみると「最近よくするようになった」とのこと。初診時は口元に締まりがなく、無力に開いていた。こうした変化は脾気虚が改善しつつあることを示す。そのためか表情にも締まりが出てきた。ますます男前に。
治療後、座らせると、10秒近くおすわりができる。
「すごい、すごい、すごい!…わあ、すごい!」
「すごいやん!お座り上手にできたな。おかあさん、これって長いほうですよね?」
「ハイ、こんなの初めてです! いつもはすぐに嫌がって止めるんですけど…。わー、すごかったねえ!」

その後、週に2回の間隔で治療を続ける。
8診目から2か月後現在の変化は…

  • 「パパ」と言えるようになった。
  • 支えてやると足を突っ張って立つ。立たせるように、よくせがんでくる。
  • 手を合わせて頭を下げる「ありがとう」のポーズ、「バイバイ」のゼスチャーができるようになる。
  • ハイハイは極めてスピーディー。急ぐときはお腹が浮く。目の動きも機敏。
  • 軟便はずっと出ていない。

本来、赤ちゃんは、1週間もあれば、新しい成長が認められるものである。本来の姿に戻す。それだけである。

早産とは腎の求心力 (封蔵) の不足によって起こる。母体 (あるいは父親) の腎が弱かった分が、子供の腎の弱さにつながり、それが先天性の病気の原因になる。

早く生まれてしまい求心力を十分に取り込んでいない分、生まれてからとはなったが、いま鍼で求心力を補っている。求心力を得るのが遅くなってしまった。ただそれだけのことだ。それ以上の矛盾はない。

東洋医学の「腎臓」って何だろう
東洋医学で言う腎臓は「水臓」とも呼ばれ、気化による水分代謝に関わり、現代医学の腎臓と共通する部分はあります。しかし異なる部分も多く、精・火・水を蔵するとされ、生命の根本という位置づけがされています。


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